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#イギリスの文学第2回 友であり同胞である学生諸君、お目を貸してください。私はあなた方に不可を出すためではなく、知識を身につけてもらうためにここに来たのです。
#イギリスの文学第2回 みなさんこんにちは。「イギリスの文学」の授業を始めます。今の発言を見てこの教員は大丈夫かと思った人も多いと思いますが、この授業が1学期終わるまでに今の発言が何の作品のパロディなのか、たぶんわかるようになっている…はずですので、最後まで授業に出て下さいね。
#イギリスの文学第2回 今日の授業では英文学史の内容に入る前に、英文学を読むのに必要なブリテン諸島の文化や歴史について解説をします。
#イギリスの文学第2回 なぜ文学を知るために歴史や文化の知識が必要なのかよくわからない人もいるかと思うのですが、それは芸術作品というものは全て、作られた時代、社会、政治的環境に根ざしているからです。作られた時と場所から自由な文学はあり得ません。
#イギリスの文学第2回 私たちがふだん読んでいる小説や見ているお芝居は、全て現在私たちが生きている社会から影響を受けて成立しているものです。気付いていない人も多いかと思いますが、このことを押さえておかないと芸術を楽しく理解することはけっこう困難です。
#イギリスの文学第2回 この授業を大学で受講している学生の皆さんはスライドの2番を見てください。それでは始めます。
#イギリスの文学第2回 まずはイギリスとは何かという話から始めます。これはウィキペディアにある図ですが、実は私が作ったやつです。私たちがふだん「イギリス」と読んでいるのはこの図の「UK」というところです。
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#イギリスの文学第2回 イギリスというのはこの図の「イングランド」というのをもとにした言い方なのですが、今の日本語ではUK(連合王国)を指す言葉として使われています。しかしながらイングランドというのは実はUKの一部にすぎません。
#イギリスの文学第2回 連合王国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという4つの国からなっています。ものすごく雑にざっくり理解してもらうための言い方ですが、連合王国というのは4つの国が王と議会を共有しているシステムだと思って下さい。
#イギリスの文学第2回 しかしながらブリテン諸島という時はこの連合王国だけではなく、王室属領と言われる島々とか、またアイルランド共和国が入ります。英文学と言う場合、ほとんどはアイルランドの文学も扱うことが多いので、実質的にブリテン諸島文学を指すのがふつうです。
#イギリスの文学第2回 スライドのほうにはもっと詳しい地図があるので見ていただくといいと思いますが、ブリテン諸島はグレートブリテン島、アイルランド島とその周りの様々な島々からなる地域です。でっかい島はこの2つです。これは覚えておきましょう。
#イギリスの文学第2回 連合王国を構成する各国は議会を持っているのですが、連合王国議会はロンドンのウェストミンスターにあります。テムズ川のそばにあるワッフルにそっくりの建物です。
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#イギリスの文学第2回 連合王国議会は庶民院と貴族院からなっています。庶民院は与党と野党が対面するタイプの議場です。議会はParliamentと呼ばれ、庶民院議員はMP (Member of Parliament)と略します。ニュースでMPというのを見かけたらそれは議員です。
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#イギリスの文学第2回 貴族院はその名のとおり貴族が議員であるわけですが、現在では一代貴族、つまり芸術、ビジネス、学問、スポーツなどで何かの業績をあげて爵位をもらった人が多くなっているので、なんらかの専門的知識を有する人が多くなっています。
#イギリスの文学第2回 連合王国は王国なので王がおり、今の王はエリザベス2世です。連合王国の相続人はウェールズ公(Prince of Wales)と呼ばれます。現在のウェールズ公チャールズをさして「皇太子」と表記することが多いですが、本来であれば「王太子」と書くべきだと私は常々主張しております。
#イギリスの文学第2回 この「王や貴族がいる」というところが英文学を読む際のポイントのひとつなのですが、というのもイギリスには階級があります。上流階級、中流階級、労働者階級などとざっくり分けますが(最近の統計などではもっと細かく分けますが)、これが文学作品でも重要になってきます。
#イギリスの文学第2回 イギリスの階級というのはわかりづらいのですが、大部分が生まれ育ちで決まります。つまり自分で変えるのは困難です。アメリカ文学はともかく、イギリス文学を読んでいる際は、貧しい生まれだけど今はお金持ちだから上流階級、みたいな考えは通用しないと考えたほうがいいです。
#イギリスの文学第2回 連合王国というのはわりと新しいものです。ウェールズとイングランドは昔から連合してますが、イングランドとスコットランドが連合したのは1707年、アイルランドと連合したのは1800年で、今の国名になったのは1927年です。
#イギリスの文学第2回 それでは連合王国を構成する4つの国の説明に入ります。まずイングランドですが、リンク先の写真の濃い赤のとこ、グレートブリテン島の南東大部分を占めています。首都はロンドン。国旗は白地に赤十字のセントジョージクロス。
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#イギリスの文学第2回 続いてスコットランド。リンク先の写真の青い部分で、グレートブリテン島の北側です。夏でも寒いです。首都はエディンバラ、国旗は青と白の斜め十字、セントアンドルークロス。
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#イギリスの文学第2回 なお、私の個人的意見ですが、首都の綺麗さではロンドンはエディンバラに負けます。ひどいこと言うようですが、ロンドンは商業の中心地だった期間が長くてわりと開発されまくっているのと、17世紀に大火で燃えて古い建物がなくなったせいで、中心部に整った古い町並みが少なく…
#イギリスの文学第2回 ヨーロッパの都市は栄えすぎて開発された場所のほうが町並みに統一感がなくて綺麗じゃない傾向が強いのですが、エディンバラとかアイルランドのダブリンはそうではなく、とくにエディンバラは町の真ん中にウォルター・スコットのばかでかいモニュメントがあったり、綺麗です。
#イギリスの文学第2回 脱線はこれくらいにしてウェールズに。リンク先の地図の緑の地域です。グレートブリテン島の西側で、けっこう小さいです。国旗はドラゴンです。
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#イギリスの文学第2回 ウェールズの首都はカーディフです。カーディフはBBCの人気テレビドラマ『トーチウッド』の舞台になったところで、一部のSFオタクからは聖地のように扱われています。
#イギリスの文学第2回 北アイルランドはアイルランド島の北側、リンク先の地図の黄色のところです。首都はベルファストです。日本にも国旗問題がありますが、北アイルランドは民族対立の結果深刻な国旗問題を抱えており、唯一の国旗と言えるものが確定していません。
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#イギリスの文学第2回 次にアイルランド共和国にいきます。アイルランドは長いことイングランドの植民地で、この地域に多いカトリックはプロテスタントが多いイングランドから深刻な差別を受けてきました。 リンク先の地図にあるように、東に首都ダブリンがあります。
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#イギリスの文学第2回 長い紛争の末にアイルランド島の南側はイングランドから独立して共和国となったのですが、アイルランド共和国をイギリスと混同すると、アイルランド人に対して大変失礼にあたりますので絶対にやめましょう。別の国です。
#イギリスの文学第2回 この他、王室属領というものがあります。チャンネル諸島やマン島などはUKに入らず、王室の属領扱いです。マン島は足が回ってるみたいな旗(ドラマ『いだてん』のロゴってこれが元ネタですかね?)とオートバイレースで有名ですね。
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#イギリスの文学第2回 王室属領とかなんかちょっともうよくわからない世界ですが、チャンネル諸島のサーク島なんかはごく最近まで封建領主が支配していました。星が綺麗な自然の多い島だそうです。
#イギリスの文学第2回 それから「コモンウェルス」あるいは「イギリス連邦」などと呼ばれるゆるやかな国家連合があり、かつて大英帝国に属していて英語が使える植民地からなるお友達連合みたいなやつがあります。コモンウェルスゲームズというこの連合でやる小型オリンピックみたいなのもあります。
#イギリスの文学第2回 先程カトリックとプロテスタントの対立の話をしましたが、イングランド国教会についてちょっとお話しておきます。イングランド国教会は16世紀にイングランド王ヘンリー8世が離婚問題その他でローマのカトリック教会と対立したことがきっかけでできたものです。
#イギリスの文学第2回 「それカトリックとどう違うの」みたいなところもあったのですが、その後プロテスタントの一宗派としてイングランド国教会が発展しました。トップはカンタベリ大主教ですが、形式的なトップは国王なのでエリザベス2世ということになります。
#イギリスの文学第2回 イングランド国教会は、まあイングランドでしか使えない名称なので、日本ではこの系統の宗派は聖公会と言うことが多いと思います。あと最近あまり見かけませんが監督派という訳語で呼ばれることもあります。
#イギリスの文学第2回 イングランドの国教ということになっていますが、UK全体からすると圧倒的に多いとかいうわけではありません。
#イギリスの文学第2回 それでは次に歴史の話にうつります。このへんは全体的に大変ざっくりした理解でOKなのですが、まず英文学的に重要な話題としては、1066年のノルマン・コンクェストでウィリアム1世が王になり、英語に大きな変化が起こったことはチェックしておいてください。
#イギリスの文学第2回 次回以降詳しく話すので今日は「ふーん」くらいでいいのですが、これは古英語から中英語への移行に関わる英文学上大事なポイントです。
#イギリスの文学第2回 あとは最低、覚えておいてほしい歴史用語だけ簡単に説明します。1215年のマグナ・カルタは高校の世界史で習った人が多いと思いますが、これは王の恣意的な権限行使を法で制限するというもので、英国の法制史上とても重要とされているものです。
#イギリスの文学第2回 大英図書館でマグナ・カルタ展をやった時に作られた説明のビデオと歌がありますので、こちらをごらんください。どういうものかざっくりはわかります。
bl.uk/magna-carta/vi…
#イギリスの文学第2回 15世紀には薔薇戦争が起こります。これは王位継承をめぐるヨーク家(白薔薇の記章)とランカスター家(赤薔薇の記章)の戦いで、1485年にランカスターのヘンリー7世がヨークのエリザベスと結婚して一応内戦が終結し、テューダー朝が始まりました。
#イギリスの文学第2回 ヘンリー7世はヘンリー8世のお父さんで、ヘンリー8世の娘がエリザベス1世です。ウィリアム・シェイクスピアは薔薇戦争サイクルと呼ばれる戯曲を書いており、中世の血みどろの政争は文学作品の主題として人気があります。
#イギリスの文学第2回 シェイクスピアが新進作家として活躍していた1600年前後のイングランド女王がエリザベス1世です。エリザベスは政治力がある王で、治世においては大きな影響力を及ぼし、その後も文学や映画でたびたびといあげられる歴史上の人気キャラクターとなりました。
#イギリスの文学第2回 ここまでだいたい王制だったイングランドですが、チャールズ1世という無能な王様がおりまして、宗教紛争もあり、1642年からイングランド内戦が勃発して一時期イングランドが共和制になります。内戦中はロンドンの劇場が稼働できなくなるなど文学界は大変な打撃を受けました。
#イギリスの文学第2回 議会派(別名円頂党、質実剛健な感じの短くて丸い髪型を好んでいた)と王党派(騎士党、わりかし派手なロングヘアを好んでいた)の激しい対立の後、チャールズ2世が1660年に国王として復帰し、王政復古が起こります。
#イギリスの文学第2回 チャールズ2世は女好きで派手好きで、プロの女優をロンドンの舞台に導入するきっかけを作るなど、イギリスの文学に大きな影響を与えた人です。
#イギリスの文学第2回 17-18世紀のブリテン諸島では、アイザック・ニュートンをはじめとする先進的な学者がたくさん出て、科学が発展し、一般的な識字率もどんどん上昇していきます。このあたりが文学にも影響を及ぼすのですが、それは授業後半で詳しくお話します。
#イギリスの文学第2回 このような科学の発達でイギリスは産業革命をいち早く成し遂げ、「世界の工場」などと呼ばれるようになるのですが、だんだんとこういう工場などで働く労働者が出てくるとか、工場町を舞台にするなどといった文学作品も出てくるようになります。
#イギリスの文学第2回 19世紀の風潮で英文学を学ぶにあたって是非覚えておいてほしい言葉が「ラファエル前派」です。ラファエル前派はダンテ・ゲイブリエル・ロセッティなどを中心とする絵画の一派で、19世紀後半の英国のアヴァンギャルドです。
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#イギリスの文学第2回 今出した絵はジョン・エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』で、シェイクスピアを題材とした絵画です。ラファエル前派は文学を題材にした絵を好んで描き、美の概念の刷新に大きな影響を与えました。
#イギリスの文学第2回
実は武蔵大学図書館にはすてきなラファエル前派コレクションもあります。 musashi.ac.jp/library/collec…
#イギリスの文学第2回 美の概念が刷新される一方、19世紀の初めから第一次世界大戦勃発までパクス・ブリタニカ(イギリスの平和)などと呼ばれる時代があり、ヴィクトリア朝の大英帝国は覇権国家としてえらそうな顔をしていました。
#イギリスの文学第2回 植民地支配により富を収奪してえらそうにしていたわけですが、こうした帝国主義の様子は当時の文学からも読み取ることができます。
#イギリスの文学第2回 19世紀末から第一次世界大戦くらいまでの時期には女性参政権運動が盛り上がります。さらにアイルランドの独立運動なども起こって、イギリス国内ではさまざまな政治論争が発生します。
#イギリスの文学第2回 アイルランドの独立運動については、共和国成立後もThe Troublesと呼ばれる紛争問題が北アイルランドを侵食します。北アイルランドではプロテスタント系の勢力が強かったのですが、60年代頃から差別を受けていたカトリック系住民による抵抗が強まります。
#イギリスの文学第2回 対立する民兵組織同士の衝突が発生する一方、1972年の血の日曜日事件では英兵が市民と衝突し、民間人の死傷者が出るなど極めて悲惨な暴力が発生します。この事件を歌ったのがU2の「ブラディ・サンデー」です。
#イギリスの文学第2回 これだけ悲惨な暴力が発生すると当然、文学にも影響を及ぼすわけで、北アイルランド紛争を扱った作品はたくさんあります。
#イギリスの文学第2回 暴力の話で今日の授業を終わるのはちょっと暗いので、最後にスウィンギング・ロンドンの話で終わります。1960年代にはイギリスで若者文化が興隆し、ビートルズをはじめとするイギリスのロックバンドが世界を席巻します。
#イギリスの文学第2回 今張ったビデオではビートルズは"I'll tell you something, I think you'll understand"と言ってますが、今日の授業の内容についてはこの歌詞とは逆に皆さん???だと思います。なぜかというと、これはこれから話すことの予告だからです。
#イギリスの文学第2回 ということは本当の意味で"I'll tell you something, I think you'll understand"なんですよ…というか、来週以降の授業を聞くと今日のことを思い出して「あーあれか」と分かるのではないかと思います。
#イギリスの文学第2回 今日の話を全部理解しようとしなくていいので、次回以降への布石として頭の片隅に置いておいてください。
#イギリスの文学第2回 授業についてはクラスページの資料や掲示で指示を出しますので、登録している学生のみなさんはちゃんと読んでおいてください。
#イギリスの文学第2回 それでは、本日の授業を終わります。
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