本日はこちら『& Juliet』。いやー、かわいかったー!! 基本ジュークボックスミュージカルに点が辛いことで知られるわたくしですが、こんなにかわいいんじゃ甘くもなりますわ。話は有って無いようなものだけど、演者が最高で満足度高い。『ロミオ&ジュリエット』に求めて得られなかったものを得た。
続)ジュリエット役のLorna Courtneyはもちろん、アン役Betsy Wolfeも最高! これも #我はおばさん 案件ですね。シェイクスピアの妻が「あなたは強い女の子が描けるくらい強い男かしら?」と夫を焚きつけて「ロミオの死後、もしジュリエットが生き続けたら」を書く。ベタベタのガールエンパワメント。
続)若い子向けかなと思って期待値低かったのだが、音楽は90年代からのマックスマーティンのヒットメドレーなので40代の私も直撃世代、「まだ14歳の女の子には自分の人生を歩んでほしい」と切に切に願う自称親友のアンと乳母がフィーチャーされてて、案外中年向きかもしれない。その辺の作りが上手い。
続)隣は私よりずっと年配の女性客たちだったのだが、二幕ショーストップ、ノリノリでスタオベしながら一緒に踊り狂った。女の子をエンパワーする話は我らおばさんもエンパワーしてくれる。イントロだけでどの曲かわかるので一音目から爆笑が起きたりもして、たまにはジュークボックスもいいもんだな。
続)フランソワとメイ、ランスと乳母のサブプロットもいい。ただしシェイクスピアとロミオおめーらはダメだ、って感じだが、ダメ男がちゃんとダメ男として描かれる、いくらでもイケメン演じられる俳優がダメを演じきるのも、少女小説みがあってよい。アンサンブルのダイバーシティも現代的でかわいい。
続)中でもスキンヘッドのBobby “Pocket” Hornerとベンボーリオ役のTiernan Tunnicliffeが推せるなーと思って観てた。あと乳母アンジェリク役のMelanie La Barrieの癖強い訛りが最高と思ってたが本人はインド系でなくトリニダードトバゴ出身なのか……。フランスいじりはさすがの英国作品という感じ。
続)まぁでも帰宅してセットリスト見返しても、どの場面でどの曲がどんな歌詞で歌われたとかは、びっくりするほど憶えてないなー!笑。先日『Parade』感想で「何も考えずに歌と踊りを楽しむだけがミュージカルじゃない」と書いて、それは本当に本心なんだけど、コレは限りなくそちら側の作品なのでな。
続)ジュリエットが歌うんだと思ってたI’m Not a Girl, Not Yet a Womanを化粧室でメイが歌ったり、I Kissed a Girlが別の意味になるのはよかったな。あとDe BoisバンドのBackstreet’s Backもくだらなすぎてよかった。強引っちゃ強引な選曲なんだけど、改めて曲だけ聴くといい曲だなと思う連続だった。
続)アンハサウェイが夫のウィリアムから鵞ペンを奪ってジュリエットの運命を改変しようとする、それで(早すぎた結婚に悔いが残る)自分の人生まで取り戻そうとする、というところで終わらせず、夫婦の問題に向き合うのもよかった。妻が共同執筆してた説、本当にあるんだな!
ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2…
続)結婚生活に不満があるからって夫の作品を改変する妻、夫が殺したヒロインを生かして自分が親友ポジに収まる妻、無茶苦茶だよ!www と思って観ていくと、例の「二番目にいいベッド」の話も出てくるし、自分は自分で人生と向き合わねばと心情歌ってくれて、ベッツィーウルフの上手さに痺れましたね。
続)衣装もダサカワでよき。超オシャレではないものの時代物コルセットモチーフとカギカッコ付きの「若者ファッション」とをうまく混ぜて、ジュリエットのスカジャンやメイのメイクはかわいいが、ロミオの革ジャンやフランソワの眼鏡は若干イモく、アンが若作りして紛れてもちゃんと浮いてるのが好い。
続)二度目の結婚式を控えて純白ドレスのジュリエットに同じく白い服着たアンと乳母が寄っていくシーンがあるのだが、少女とおばさんの決定的な年齢差が描き出されててよかった。みんな素足にスニーカーなのにアンだけブーツで生脚隠してるのとか。乳母のウエストポーチ(≠若者のボディバッグ)とか。
続)本当に……我々がかつてイケコ版『R&J』に求めて得られなかった「ロミジュリの現代的な解釈」は、コレよ、コレなのよ……となります。『MOULIN ROUGE』と『SIX』を足して二で割って『JAMIE』掛けた感もあり。日本版やるならそのへん押さえられる演出家がいいけど、誰がいいか思い浮かばないなぁ。
続)そういえば『& Juliet』プレビュー直後の幕間にトイレやフォトスポットに並ぶ若い女子たちはめいっぱいオシャレして「ツテを辿って最新輸入アイテムをゲットしに来た」感じ、双子みたいな母娘とかもいた。私は『SIX』も開演直後に行ったけど、あっちは完全に「うちら」だったので、客層の差よ。笑
続)もちろん前述の通り、新作を品定めに来たような結構年配の観劇オタク風の客もいて予想以上にノリノリ、私自身はそちらの部類だが、エスニシティ混合のグループデートみたいな若者客とかいて、それがそのまんま『& Juliet』のパリ行きみたいに見えてかわいかった。いや『SIX』の客もかわいいが!笑
続)私とて、親戚の姪を「一緒に観に行こうよ!」と誘うなら『& Juliet』かもしれない。『SIX』はこう、先にCDだけ貸しといて「世界史の授業があのへんを通った後、生きることに挫けそうになったとき、行ってきな……」と送り出す感じというか。私だったら大人の引率無しで一人で観たいなというか。
続)大人にねだるアイドルコンサートと、友達にも内緒で行くライブハウスの違い、みたいな……? そんなこと考えながら観る中年になったものよ。『& Juliet』劇中で、一行がクラブで門前払い食らいかけたときアンが「失礼ね、あたしら全員20代よ?」と嘘ついて逆に不審がられるシーンそのまんまだ。笑
続)とにかく「年下夫の作品の中に殺さずに救うべき『姪』を見つけて異様に張り切るおばさん」のベッツィーウルフがめちゃかわいいので観て……それが「大いなる力を持った全能のおばさま」像とかでは全然なく、「自分もまた早く来たミッドライフクライシスからの逃避に必死」と見えるのは演技力よね。
続)「アニメ版じゃなくてヘレナボナムカーターが実写版で演じたほうの、助けられる側から見てもちょっと危なっかしいヤバみがある、友達のようで友達でない、『シンデレラ』のフェアリーゴッドマザー」に通じる。登場人物にとってシェイクスピアは「父」だけどアンは「おばさん」で、乳母の側に近い。
続)「家族編成のボーイバンドが嫌いな奴なんかおらんやろ!」と始まるバックストリート……ボーイ、ズ……? も、純烈がパラダイス銀河を歌うようなもんで、中年客のほうが概念を喜んでおり(俺や)、むしろ10代客のほうが置いてきぼりでは。日本版ランスはキーヨで是非。十年後のシュガーでもいい。
続)そんな調子で大人があれこれ出張るのも、結果すべてヒロインが心から「MY LIFE」「MY CHOICE」「I WANT IT THAT WAY」と言えるお膳立てするためで、イイ話……と同時に、あの歯の浮くような歌詞の数々をよくぞこんな再編できたなと思う。ずっと言ってるがミュージカル『小室哲哉!』も早く観たい!
続)だって『& Juliet』日本語直訳すると『華原朋美 without t.komuro』でしょ……? 復活したロミオがピンクのふりふりブラウス着てるヒョロガリなのでマジで既視感あったし……いや、自分が主役のクラブパーティーなのに壁の花になってるピアノの前でだけ元気な眼鏡のボンボンも既視感あったが……。
続)いやこれは真面目な話「じつはヴェローナ中の女と同時並行的に浮名を流していたことが判明したロミオに愛想尽かしてパリまで行って容姿も性格も180度タイプの違う青年と出会ってまた電撃結婚!?」という展開の中で「いや、この二人の男、めちゃくちゃよく似てるよね……」と思ったのは私だけだ。
続)世間的には「対照的な男」に見えるだろうけど私に言わせりゃジュリエットの男の好みは全然変わってないし、その根底は何かってそれがあの現実世界で家庭崩壊寸前な天才クリエイター・ウィリアムなわけでしょ。だからフランソワがあそこ落ち着くオチも私は大歓迎だ。自分が書いた薄い本かと思った。
続)ウィリアムのモテモテでつい妻を顧みなくなっちゃう感じがロミオに、創作に没頭するタイプだが誰より理解者伴走者を欲している感じがフランソワに、それぞれ振り分けられていて、フランソワは妻であるアンが生んだ理想の相手役、だが夫のほうはロミオを蘇らせてジュリエットと結ばせようとする……
続)……と考えると日本版『アリスインワンダーランド』の「ジャックは白のナイトではないが、白のナイトはアリスがジャックとともに作り上げたアリス自身の一つの姿」というあの構造なども思い出す、のですが、こんな深読みするの既婚の中年客だけだろうし、そこの描き込みは浅めで終わった印象かな。
続)でも「クリエイターとしての夫には、自分とは違うが自分とも大親友の関係にある別のクィアなパートナーがいてもいいのではないか」あるいは「作家としての彼を支える『私』の分身は『男でも女でもない』存在だったらよかった」などとも解釈できて、話は有って無いようなものだが、読みは楽しめる。
続)私は中年なのでそっちを詳しく観たい気持ちはあるけど、先の喩えでいうならば「アリスではなくルイスキャロルでもなくクロエが主人公になった『アリスインワンダーランド』」みたいな話でもあり、おばさんの葛藤は他作品に任せてこちらは14歳の少女が爆音で歌い上げるのに拍手喝采でいいんだよな。
続)ロミオ復活までの間に客席が一体化してるので、蘇った瞬間キメキメにカッコよく登場するモテそうな青年に「い、い、要らね〜!」「邪魔!」「話ややこしくするだけ!」「なんで作者本人がこんな愚かな蛇足を!?」と爆笑買うのが面白く、Love Never Diesもこうやって笑いながら観たかったネ……。
続)でもそのロミオがまた、お姫様みたいなピンクのふりふりブラウスに、鋲付きの革ジャン羽織った上から、さらにピンクの花柄のデイパック背負うので、言動すべてが「ファッション」に過ぎない若い青年、彼もまた劣悪な家庭環境で誰かにちゃんと育ててもらう前の子供なのだ、と見えるのは上手かった。
続)この『& Christine』妄想を書いてて思い出しましたけど、「おっ今の名台詞〜、ちなみにコレ書いたの、俺〜」「ノックノック! 俺だよ俺俺、世界で最初にノックノックジョーク書いた男こと、俺〜!」とドヤるウィリアムは相当かわいかったです。ああいうのALWあたりで観たくないといえば嘘になる。

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with 岡田育 / 『我は、おばさん』発売中

岡田育 / 『我は、おばさん』発売中 Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

More from @okadaic

Nov 3
マストドン続かなかったですね、なんでなのか自分でもわからないけど……。レイチェルソーンさんが今回マストドン移行宣言なさっていたので気になってはいるが、私がTwitterを去るときは私がはてなやmixiやFacebookやnoteや他のあらゆるサービスを去ったとき以上の覚悟が要るからな……。
続)あんまり認めたくないことだけど、私はTwitterの「居心地の悪さ」をこそ気に入っているんだよな。2007年からずっと。
続)なので今回も、速報時点で何がどう言われていようが、今すぐ動く気にはならんのだよな……こういう私みたいな人の判断は、他の方はあんまり参考になさらないほうがいいですよ。
Read 9 tweets
Nov 2
なんでもかんでも円盤出せと言うのも違うよなと思う今日この頃ですが、演出家に関してはこの通り。私は次にどのヅカ作品を観るかは演出家で選ぶこと多いし、映像があって選びやすいからだし、他企業主催の作品だと「好きな演出家だと思ってたけどそうでもなかった」に気づくのに何年もかかったりする。
続)海外作品を完全レプリカ日本語上演します、と言われて観たいなと思うのは広く「演出」を観てみたいからだと自分では思っているんだけど、スター俳優が配役されてその人気で当該作品のチケットが取れなくなると「客はスターしか観に来ない、演出家になんか興味無い」と言われる、変な悪循環はある。
続)そして「日本版の独自オリジナル演出です」と言われたときには尚更「何をどう翻訳して潤色するような人たちが作るんだろう」は気になるし、その中で好みは出ると思うんだけど、まぁ数を観てみないとわからない、たしかに。私はオーケストラの巧拙には無頓着だけどそちらにうるさい人たちもいるし。
Read 5 tweets
Nov 2
20221101 ONGOING. #ParadeNYCC Image
続)私やっぱり『パレード』が一番好きです。
続)マイケルアーデン演出、NYCC版『Parade』観劇。初日の晩からネタバレ感想書くので避けたい人は避けてください。私はホリプロ版の森新太郎演出を初見にしてベスト認定してしまったが、観比べればそりゃ、どちらもいい。てか私はジェイソンロバートブラウンが好きなのよ。大好きなのよ。いい作品だ!
Read 185 tweets
Nov 1
これはイヤな罰金制だなぁ。「お金をドブに捨てる」のさらに下の下の下がある、というような。でも、この仕組み「だけ」をモチベーションにランニング続けてたら、ランニング自体は続いても(敵対勢力と対峙し続けなければならない)人生そのものがイヤになってきたりしないのだろうか。そこで瞑想か。
続)そのサービスがサービスとして成り立っているというのも、シャレが効いててイイね、と思う半面、「免罪符」などに近い「利用者がいるからってそんなとこを商売のタネにしてええんかいな?」という引っかかりも無くはないよな。いやサボり防止には当然効果あるとは思うんですけど。
続)チュートリアルが「まずはあなたの『敵』となる組織をお好きに選択しましょう! どれがいいかわからないあなたにはチャート式ステップがぴったりの『敵』を選定します!」から始まるサービス、手放しで迎え入れていいものではないと思う。(実際画面を見たわけではないが概念としてはそうでしょ)
Read 4 tweets
Nov 1
夢日記。推しの生き血を浴びる夢。前にも夢で来たことある温泉街の、前にも夢で滞在したことある増改築を重ねて迷路のようになった老舗旅館。戸外ではこの地域特有の、通常の三倍冷たいとされる小雪が降っている。ダイヤモンドダストみたいなもので綺麗だが肌に触れると電気が走るような痛みがある。
続)老舗旅館には歴史的価値の高い歌舞伎小屋みたいなものが併設されており、そこで推し俳優の出演作がかかるというので、私は誘われて一座に帯同し、前乗りしている。高齢の俳優たちは何度も来ている巡業だがスタッフは初めての者も多く、郷土料理など食べて初日前というのに朝までゆるい宴会が続く。
続)このあたりは将棋出張の記憶から形成されているようだ。出役が夜更かしで遊んでていいのかと心配になるが、よそものは土地のものをたっぷり飲み食いした後でないと神聖な芸能小屋の板を踏めない、とのしきたりらしい。大御所の誰それは二日酔いでフラフラのまま上演した、なんて昔話を幾つも聞く。
Read 9 tweets
Nov 1
いい記事なのでは。
<言ってることは分かる。こうして見ると、読書っていろんなスキルが求められるんだね>
本を読んだことがない32歳が初めて「走れメロス」を読む日 | オモコロブロス! omocoro.jp/bros/kiji/3666…
続)私は逆に読み上げの類が苦手なんだけど、こういう人たちのためには、オーディブルがもっと普及したほうがいいよなぁ。あと「漫画はよく読む」は読解力からよく伝わってきた。
<やっぱ「声に出して読んでいい」って状況が良かったかも。目だけじゃなくて耳からも入ってくるから、すごく楽だった>
続)まぁでも母語ではない英語の複雑な契約書とかは指でなぞりながらめちゃくちゃ音読しますので、「読めなさ」への共感はある。つまり我々の「日本語を黙読するのに慣れた」状態というのもまた、ただの(そうせざるを得ないような読書環境に培われた)訓練の成果に過ぎないんだよな。優劣ではなく。
Read 16 tweets

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Don't want to be a Premium member but still want to support us?

Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal

Or Donate anonymously using crypto!

Ethereum

0xfe58350B80634f60Fa6Dc149a72b4DFbc17D341E copy

Bitcoin

3ATGMxNzCUFzxpMCHL5sWSt4DVtS8UqXpi copy

Thank you for your support!

Follow Us on Twitter!

:(