肉抜き話の続き。先にご紹介した通り、我々日本の貝人にとって肉抜きは日常の一齣であり、改めて説明するまでもない当たり前のこととして受け止められてきました(画像は最近私が肉抜きした南三陸産エゾチグサとホソウミニナ)。日本の貝類図鑑の多くも、巻末で肉抜き方法を紹介するのが定番でした。..
ところが、20年ほど前から海外の研究者とコラボする機会を持つうちに気付いたのは、どうやら肉抜きを行うのは日本の貝人だけで、他国の人は、殻と軟体の両方を同時に理想的な状態で得るなんて、不可能なこととして最初から諦めていたのです。だから論文にするには同じ種をとにかく多数得ないと何も...
始まらないと彼らは決め付けていました。私が海外での野外調査で湯沸かし器具を持ち歩き、目の前で肉抜きを披露すると、他国の研究者は例外なく驚嘆しました。そうするうち、2007年にベルギーで世界軟体動物学会 World Congress of Malacology が開かれた際、「微小貝類の研究方法」というシンポが...
企画され、私も何か喋れと誘われたので、今こそ肉抜きを国外に広める好機と考えて迷わず題材に選びました。昨日のツイートで挙げた英語入りの画像は、その際のプレゼンに用いたものから転用しています。この時の私の最終目標は「niku-nukiを世界共通語にすること」でした。一方、私が発表する直前も...
他国の研究者が「DNAで複数種存在すると判明したが、もはや殻を割ってしまって標本がないので、すぐに論文にできないのが頭が痛い」などとぼやく発表が実際にあり、そのような状況下で、私と共著者の芳賀拓真会員(現、国立科学博物館)は、二人で漫才形式で発表すべく、揃って壇上に上がりました。...
出だしは昨日のツイートに挙げた、鍋で巻貝や二枚貝を煮る画像や、「湯沸かしポットが便利」などと説明し、その辺りまでは世界中から集まった聴衆が爆笑していました。これには「日本人何考えてんだ」「加熱した標本が検討に耐えうるのか?」など冷ややかな目も少なからず混ざっていた気がします。..
しかし、この画像から空気が一変しました。軟体を解剖する上でも加熱した肉抜き標本は、生きたままや、直接固定液に浸けたものよりずっと特徴が把握しやすいのです。ズルズルの粘液が程良く固まって気にならなくなるだけでなく、透明な器官も不透明化し、輪廓が明瞭に見て取れるようになるからです。..
そしてとどめは、芳賀会員がDNAについて挙げたこの画像でした。同じ種(イシダタミ)に対し、A: MgCl₂で麻酔した生貝、B: 肉抜き個体、C: 生きたまま殻を割ったもの、D: 生貝を固定液に直接浸けた標本、E: 死後丸1日放置した生臭り状態、各々の18S rRNA遺伝子がPCRでどの程度増幅できたかを示します。
結果は明瞭で、なんとBの、肉抜き個体しかうまくいっていません。軟体動物の場合、元々DNA分解酵素を多く持っており、活きのいい生貝でも失敗することが多いのですが、熱を通せば分解酵素は失活できます。また海水中に含まれるマグネシウムも分解酵素の触媒となりよくないのですが、肉抜きすれば..
その過程で自然に洗い流され、除去できるのです。この事実はそれまで和文で書かれた簡単な記事はありましたが、国外の研究者の大半はこの時初めて知ったので、壇上の私は聴衆全体が一斉に、文字通りに「息を呑む」光景を目にしました。直前まで大爆笑の渦だった会場が、一瞬で静まり返りました。...
発表終了後は大勢の人から「私の研究対象はこの分類群だが、何度何秒が適当と思いますか」などと質問攻めに遭いました。同様の質問はあれから14年経った今も時々メールで届きます。多くの論文に niku-nuki の語が平然と現れるようになり、私の当初の目標は達成できました。この時の発表内容は下記..
論文にして公表し、巻末には実体験に基づく種ごとの最適温度&茹で時間を、約200種について列挙しました。
Fukuda, H., Haga, T. & Tatara, Y. 2008 (25 Jul.). 𝘕𝘪𝘬𝘶-𝘯𝘶𝘬𝘪: a useful method for anatomical and DNA studies on shell-bearing molluscs. 𝘡𝘰𝘰𝘴𝘺𝘮𝘱𝘰𝘴𝘪𝘢, 1: 15–38.
vetigastropoda.com/micromolluscs/…
または
researchgate.net/publication/27…
(肉抜き話はさらに続きます)
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