Benさんからすごい写真が届いた。SNJテキサンのオプションにあるエンジン側機首銃同調装置の中身を取り出したもの。下の歯車がプロペラ軸と同じ速さで回って、上のカムがローラーを押してロッドを前後に動かし、これがボーデン索を前後に動かして機関銃の引金を押したり離したりする仕組み。
SNJの機首銃の実装(右舷1挺)上から見たところ、左が機首側。同調装置から伸びたボーデン索は右上にある「E-3A」トリガーモーターに入り、これがプロペラが安全圏に入るたび横からボルトのシアー・バーを押して撃発させる。
操縦桿の発射ボタンは電気式で、エンジンに付く同調装置(インパルス・ジェネレーター)とボーデン索の接続/切断を電磁石(ソレノイド)で行う。この図面はww2aircraft.net/forum/threads/…から借用。
ブローニング機関銃のシアーはボルト後端に内装されたL型の先端が逆L型のファイヤリングピン後端と噛み合って引っ掛ける構造で、引金を引くと長いレバーがシーソー状に動いて上からシアーを押さえて撃発させる。同調発火の場合、この長いトリガー・レバーは使わない。
同調用のトリガー・モーターは機関部側面に装着され、「シアー・スライド」という先端を斜めに切った金具を横から押し込み、この斜めの先端がシアーを押し下げて撃発させる。
プロペラ同調銃が「プロペラとプロペラの隙間に合わせて弾を発射する仕組み」だと知ってはいても、それが具体的にどんな仕組みで動くのかを完全に理解していたわけではなかった。
"Synchronized Gear"で検索するとWW1時の「フォッカーの災厄」から始まる各国各種の同調方式の試行錯誤の話が出てくるけれど、WW2時の同調装置についての具体的な記述はごく少ない。同調タイミング伝達が油圧なのかロッドなのかワイヤーなのか電線なのかすらもわからない。
Nさんに訊ねられてネットで予習して、リノで同調装置まで復元されたベンのSNJを見て「したり」とばかりに質問してついに現物の写真まで送ってもらって、Nさんからも陸海軍の機関銃の残存部品写真を送ってもらって、具体的な全貌が理解できた!(゜∀゜)
ガンマニア趣味は拳銃・ライフルが主な対象で、重機関銃や機関砲は趣味の対象から遠ざかる。飛行機趣味にとって武装は「何ミリ機関銃が何門」で大抵済んでしまい、機関銃の具体的なメカニズムまでには踏み込まない。まして同調装置なんて。
ブローニング機関銃のショートリコイル・ロッキングとアクセラレーターによるスロー・エキストラクション機構。鋼鉄から削り出した三次元パズルみたいな構造で、すべての角度や曲面が意味を持っている。CADもない時代によくこんなもん思いつくな、さすが天才ブローニング。
リコイル式の機関銃は弾丸の発射に伴う反動を使って動く機械だけど、遊底(ボルト)をバネで支えて反動で後ろに動くようにした「シンプル・ブローバック」は、拳銃弾よりも強い弾薬ではまともに動作しない。反動が強すぎて弾丸が銃口から出る前に後退してしまう。
なのでライフル弾以上の弾薬では、遊底が前進閉鎖したまま銃身と一緒になって反動で後退し、弾丸が銃口から飛び出したあとに閉鎖を解いて遊底だけを後退させる。「一緒になって後退」する距離が弾薬全長に匹敵するものをロング・リコイル、数ミリ~十数ミリにものをショート・リコイルと呼ぶ。
ブローニング機関銃の場合、遊底と銃身の結合は「ブリーチ・ロック」によって行われる。機関部の底に段差が作ってあって、遊底が前進するとブリーチ・ロックが段差に「乗り上げて」遊底下部に刻まれた凹みに嵌って閉鎖する。
弾薬が撃発すると反動によって銃身・遊底は(バネを圧縮しながら)後退を始めるけれど、「段差」に至るまでは結合されたまま後退する。段差を越えるとブリーチ・ブロックが(遊底結合部との斜めカットの圧力で)下降して解放され、そこから先は遊底だけが(空薬莢を咥えたまま)後退する。
遊底解放から後退継続までの間に爪状部品の「アクセラレーター」が介入する。これによって遊底後退の速度は非線形に、「最初はゆっくり、だんだん速く加速」するように制御される。これによって空薬莢にかかる衝撃を制御し、「薬莢切れ」を起こさない工夫になっている(スロー・エキストラクション)
遊底と一緒に数ミリ後退した銃身はいきなり停止して前進に転じるわけではなく、機関部下部に仕込まれたバッファーに当たって衝撃を緩和する。12.7mm版ではこのバッファーにオイル・ショック・アブソーバーが使われている。
ブローニングCal.50のオイル・ショック・アブソーバーはおそらく自動車用の技術を応用したのだろうけれど、ピストンが二重構造になっていて、後退時と前進時で抵抗力が違う(ゆっくり後退・速く前進)する仕組みになっている。
一方、銃身から解放された遊底はバネを圧縮しながら後退を続け、最後退位置で壁にぶつかって前進に転じるのだけれども、その「壁」も緩衝バネになっている。ブローニング機関銃の外見上の特徴、機関部後部に突出した円筒型の構造がその緩衝バネの格納筒。
遊底の後退緩衝バネは油圧でもコイルバネでもなく、凹凸の円盤を重ねた「輪バネ」が使われている。輪バネは蒸気機関車時代の自動連結器にも使われていた。
戦後のF-86セイバーとかに搭載された発射速度向上版AN-M3は、外見はM2そっくりだけどこのバッファー・ハウジングの形状が違い、直径の大きな円筒になっている。たぶん輪バネにかえてコイルバネを内蔵し、衝撃を緩和するのではなく積極的に「蹴り戻して」発射速度を向上させている。
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