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20時になりましたので、「イギリスの文学」4-5回目となる、グローブ座『冬物語』鑑賞会を始めようと思います。
プロダクションの情報はこちらです。
shakespearesglobe.com/watch/the-wint… 2018年に上演されたもので、ブランチ・マッキンタイア演出です。
#イギリスの文学冬物語
簡単に『冬物語』について説明します。これはシェイクスピア劇の中でもロマンス劇などと呼ばれるもので、悲劇か喜劇かトーンがわかりづらい、波乱に満ちた展開の後に大団円という感じの話です。 #イギリスの文学冬物語
#イギリスの文学冬物語 お話としては、前半がシチリア王リオンティーズの異常な嫉妬ゆえに不貞の罪に問われた王妃ハーマイオニの話、後半はその娘パーディタの貴種流離譚です。
#イギリスの文学冬物語 それでは再生を開始します。
#イギリスの文学冬物語 右下のアイコンをクリックすると英語字幕が出ます。
#イギリスの文学冬物語 スーツを来ているほうがボヘミア王ポリクシニーズ、少しオリエント風な衣装を着ているのがシチリア王レオンティーズ、お腹が大きいのはシチリア王妃ハーマイオニです。
#イギリスの文学冬物語 この王ふたりは親友です。レオンティーズの衣装ですが、シチリアはかつてイスラーム圏とキリスト教圏の境で、極めて多様性のある地域だったので、だからこういう衣装なのではないかと思います。
#イギリスの文学冬物語 レオンティーズがポリクシニーズを引き留めてくれるよう妻のハーマイオニに頼んだのですが、頼み方があまりにも熱心すぎるということでレオンティーズが2人の不貞を疑い始めます。これは完全に思考回路としてはおかしい…というか、ハーマイオニは夫の頼みを聞いただけです。
#イギリスの文学冬物語 イアーゴーの策略に引っかかって妻の不倫を疑うようになったオセローと違って、レオンティーズの嫉妬には引き金になるものが一切、ありません。このため、レオンティーズは心の病気なんじゃないかとか、暴君だからだとか、いろいろ分析があります。
#イギリスの文学冬物語 レオンティーズが妻を疑っているのを忠臣カミローは信じられない様子ですが、このように妻や恋人の女性が他の男性と親しくしたり、感じよくしたりすると自分を愛していないからではないかと疑う男、というのはよく芝居のネタになります。
#イギリスの文学冬物語 カミローは主のレオンティーズからポリクシニーズ殺しを依頼されたことを、ポリクシニーズ本人に打ち明けます。主人が間違った命令をする時は、従わないのが忠義の臣だという描き方です。
#イギリスの文学冬物語 マミリアス王子は女優が演じていますが、男の子という設定で、役の性別は変えていませんね、もとの役の設定と性別が違う役者がキャスティングされる場合、役の性別は変更する時としない時があります。
#イギリスの文学冬物語 リオンティーズの嫉妬が、カミローは「パンダー」だったと言ってますが、これは動物のパンダじゃなくpanderです。今の英語でいうpimpみたいな意味だと思ってください。ギリシャの神話に出てくるパンダロスから来た言葉です。
#イギリスの文学冬物語 もちろんカミロは不倫の取り持ち役とかではないので、これはリオンティーズの妄想です。
#イギリスの文学冬物語 リオンティーズはハーマイオニのお腹の子(第二子)の父親がポリクシニーズじゃないかと疑ってます。つまりポリクシニーズは妊娠期間ずっとシチリアに滞在してたっていうことになるんですが、これって一国の王にしては地元をほったらかしすぎですよね。
#イギリスの文学冬物語 終盤でわかりますが、この件では完全に被害者であるポリクシニーズもあとで「それ、大人としてふさわしい振る舞いですかね?」みたいな行動をとることがあり、完璧超人というわけでは全くないです。
#イギリスの文学冬物語 ポーリーナが赤ん坊を抱いてハーマイオニの愛情を訴えてますが、ポーリーナはシェイクスピア劇に出てくる女性キャラクターの中でも突出して強烈です。夫よりも仕事と自分の女主人を大事にしていて、間違ったことはほっておけないタイプです。
#イギリスの文学冬物語 すいませんレオンティーズとリオンティーズの表記がごっちゃでした。表記揺れがあります。
#イギリスの文学冬物語 リオンティーズが赤ん坊を踏もうとしましたが、これを舞台で実際に見るとたぶんもっとショッキングです。
#イギリスの文学冬物語 リオンティーズのハーマイオニ告発は宮廷から支持を得ていません。それでも突っ走るリオンティーズは暴君であると言えます。
#イギリスの文学冬物語 一応、リオンティーズはハーマイオニを裁くために裁判を開きます。
#イギリスの文学冬物語 ここでひとつ留意しておいてほしいのですが、たとえハーマイオニが不倫していたとしても、リオンティーズがハーマイオニを処刑するというような行動は全く正当化されません。
#イギリスの文学冬物語 妻が不倫をしていたとしても、夫が妻を殺したり虐待したりするのが正当化されるわけではありません。逆もそうです。「ハーマイオニは不倫をしていないのにかわいそうだ」じゃなく、そもそも不倫を暴力で解決しようとするのが間違いです。
#イギリスの文学冬物語 近世ロンドンのお芝居は家父長制と女性の貞淑崇拝が強いのでそういう視点がありませんが、現代に生きる我々はそもそもリオンティーズやオセローみたいな私刑的な発想は根本から間違っとるということを念頭に置いて芝居を見たほうがいいと思われます。
#イギリスの文学冬物語 ハーマイオニが、産後の休息すら自分はもらえなかったと言っていますが、出産で亡くなる人が多かった時代には、産後に休めないとかは大変な健康問題につながりかねません。今でも昔よりマシとはいえ、そうなのですが。
#イギリスの文学冬物語 裁判でアポロのご神託が開示されます。これ、ご神託をわざと間を開けて読んで、客席から笑いをとるようにしてますね。リオンティーズの考えと完全に逆の内容が明かされたからです。お客さんはリオンティーズをうざがってますから、ここは可笑しい場面です。
#イギリスの文学冬物語 リオンティーズがご神託を握りつぶします。裁判もご神託も握りつぶして法律を好きなように濫用するリオンティーズは暴君ですが、この法を超えようとする政治家というキャラクターはむしろ極めて現代的です。リオンティーズは世界中にいますね。
#イギリスの文学冬物語 アポロを嘘つき呼ばわりすると神罰が下ります。王子が亡くなりました。父親が母親をあからさまに虐待したせいで、ショックで子供が死んでしまったんですね。家庭内暴力と児童虐待による死亡です。
#イギリスの文学冬物語 ポーリーナが荒れ狂ってます。ハーマイオニの訃報を伝えてますが、これ、ちょっと後でありますのであまり悲しまないでください。
#イギリスの文学冬物語 ポーリーナが「バカな女をお許しください、王妃様が大事すぎて」みたいなことを言ってますが、これ、顔からも台詞回しからも皮肉とわかりますね。ポーリーナは自分をバカとは思ってないし、許してほしいとも思ってません。
#イギリスの文学冬物語 これ、Paulinaを「ポーライナ」って読んでますね。プロダクションによってビミョーに名前の読みが違って「ポーリーナ」の時と「ポーライナ」の時があると思います。
#イギリスの文学冬物語 ちなみにアンティゴナスが今いるあたりは実在しない場所です。ボヘミアに海があって船で来ることになってますが、ボヘミアに海岸はありません。
クマに追われてアンティゴナスが退場するっていう有名なト書きがあるんですが、バナーでやるのはちょっと手抜きですね。クマの着ぐるみを出すのがオススメの演出です。 #イギリスの文学冬物語
#イギリスの文学冬物語 アンティゴナスは死んじゃいますが、別にアンティゴナスはすごい悪党とかではないのですけれども、子供の虐待にかかわったせいで罰が下ったと考えられます。
#イギリスの文学冬物語 赤ちゃんのパーディタは羊飼いに拾われました。パーディタは失われたという意味です。
幕間なので、5分のお手洗い休憩をとります。
#イギリスの文学冬物語 5分たちましたので、そろそろ後半を開始いたします。
#イギリスの文学冬物語 「時」が口上を述べてますが、『冬物語』は前半と後半の間にすごい時間が流れてて、さっきの赤ん坊パーティタはもう若い女性になってますので気をつけてください。
#イギリスの文学冬物語 ポリクシニーズ、息子のフロリゼルがあんまり帰ってこなくて恋でもしてるのではと心配してます。フロリゼルって何歳なんでしょうね。たぶんそんなにパーディタよりすごく年上ってわけでもないと思うんですよ。
#イギリスの文学冬物語 つまりポリクシニーズ、幼い息子を置いて9ヶ月とかシチリアに滞在していたんだと思います。まあ、この頃の王侯貴族は自分で子育てをしないので、育児放棄ってわけじゃないのですが…
#イギリスの文学冬物語 オートリカスが出てきていますが、こいつは全然本筋にかかわらないごろつきです。面白いごろつきですが。
#イギリスの文学冬物語 パーティタの羊飼いの兄貴はclown、つまり道化役で、いい人なんですけどたぶんあんまり賢明ではないです。妹のほうがずっとしっかりしてます。
#イギリスの文学冬物語 パーディタが変な格好していますが、お祭りなんで衣装の準備をしています。フロリゼルはパーディタに夢中ですが、パーディタの出生の秘密はまだ誰も気付いてません。
#イギリスの文学冬物語 これ、もとの戯曲ではパーディタを拾うのは男性の羊飼いで、つまり親父さんになるわけですが、このプロダクションでは女優が演じていてお袋さんですね。この役は役者にあわあせて性別を変えてます。
#イギリスの文学冬物語 あやしい変装をしたポリクシニーズとカミロが村祭りクラッシャーとしてやってきます。
#イギリスの文学冬物語 パーディタ、親切におもてなしするうような素振りで「ミドルサマーのお花だからミドルエイジの殿方にあげましょうねー」とか、ささやかに(たぶんちょっとうざい)お客さんに失礼なこと言ってます。笑うとこですね。
#イギリスの文学冬物語 このパーディタはかなりくだけた感じで親しみやすいですね。パーディタは羊飼いの娘とは思えない近づきがたい美女だったり、すごく優しい感じだったりすることもあるのですが、このパーディタは近所のキレのいいねーちゃん風です。
#イギリスの文学冬物語 このへんのお祭りの描写、たぶん近世の人にはリアルだったのじゃないかと思います。
#イギリスの文学冬物語 音楽と踊りが始まります。ボヘミアなので多少東欧風にしてますね。この場面の音楽はブリテン諸島の民謡にすることもあれば、ロックバンドが出てくるなんていうのもあります。私は最近チーク・バイ・ジョウルの「村祭りでリアリティショーごっこをやる」という演出を見ました。
#イギリスの文学冬物語 ポリクシニーズが正体をあらわして、パーディタと結婚しようとしていたフロリゼルを人前で怒鳴りつけます。これ、正直大人がやる行動じゃないですよね。分別ある大人なら、こっそり息子を脇に呼んで説得するとかなんとかをまず考えると思いますが…
#イギリスの文学冬物語 この当時は階級を超えた恋愛がお芝居で肯定されることは珍しく、シェイクスピア劇で階級を超えた恋愛が成就するのはそんなに多くありません。羊飼いのパーディタと王子のフロリゼルの結婚はあり得ないこととされます。
#イギリスの文学冬物語 カミロがフロリゼルに、お父上はかんしゃくもちだからとか言ってますけど、たぶんポリクシニーズは普段からカッとなるとひどいこと言う人なんだと思います。
#イギリスの文学冬物語 カミロは里帰りしたいのにかこつけて、フロリゼルとパーディタの恋愛を応援しようとします。
#イギリスの文学冬物語 カミロ、けっこうな荒療治で一気に全部解決しようとします。
#イギリスの文学冬物語 羊飼い親子は、パーディタが養女なのをポリクシニーズに伝えて許してもらおうと考えます。自分たちだけ助かればいいのかよ!親子の情愛は…と思いますが…
#イギリスの文学冬物語 舞台がシチリアに戻ってますが、リオンティーズは家族を失ってから元気がなくなっているようです。ポーライナの言うことを聞いて行いを改めて仕事はしてるみたいですが。ポーライナが再婚を止めてるの、これは考えがあるからですね。
#イギリスの文学冬物語 パーディタ、田舎のくだけた礼儀がつい出てしまいますが、お姫様のフリをしているのでもうちょっと格式張った感じにしようと頑張ってます。
今フロリゼルたちがついたところなのにもうポリクシニーズが追ってきてみんな混乱しています。リオンティーズ、いろんなことが一気に起こって混乱してます。 #イギリスの文学冬物語
#イギリスの文学冬物語 これ、パーディタの身元が判明するところを舞台上で見せません。舞台の外で起こって、説明されるだけです。
#イギリスの文学冬物語 ポーライナ、ここで初めて夫がクマに食われて死んだというニュースを聞きます。
#イギリスの文学冬物語 パーディタの養母と兄貴、王女を育てた功績で貴人の列に加えられました。2人とも他の人たちよりはるかに時代がかった服を着てますね。
#イギリスの文学冬物語 ハーマイオニの像があるということでポーライナがお披露目しますが、この今ハーマイオニ像が出てきたところはディスカバリースペースとか言われているところです。奥の入り口ですね。
パーディタが母の像から祝福をと言ってますが、親に祝福してもらうというのは近世の習慣です。 #イギリスの文学冬物語
ハーマイオニ動きます。 #イギリスの文学冬物語
このハーマイオニが生きていたとわかるところ、いくらなんでも強引なのですが、これをライヴの舞台で見せられると毎回感動してしまいます。ズルいですね。 #イギリスの文学冬物語
15年も妻が存命であることを隠されていたリオンティーズ、全然怒らないで、ポーライナとカミロを結婚させようと突然やる気を出します。ポーライナ、さっき先夫がクマに食われたと知ったばかりのはずなんですが… #イギリスの文学冬物語
最後は踊りでしめます。今のロンドングローブの上演ではたいがい最後がダンスです。 #イギリスの文学冬物語
これはつまり、ストレートプレイでシェイクスピアをやる役者でも踊れないといけない(場合によっては歌えないといけない)ってことです。ふだんはストレートプレイが主でもけっこう踊れたり歌えたりする人います。 #イギリスの文学冬物語
#イギリスの文学冬物語 すいませんこれ「16年」ですね。打ち間違った…
『冬物語』で一番引っかかるの、たぶんリオンティーズに16年間も妻が存命だというのを隠していたポーライナはやりすぎじゃないかってことだと思うんですが、息子を死なせるという取り返しのつかない罪を犯して衝撃を受けたリオンティーズの更生にかかる時間と考えましょう。 #イギリスの文学冬物語
本日の補講はこれで終わりです。登録履修者向けにクラスフォーラムを作っておくので、よくわからないところは質問してください。なお、6/19に @PirateUni_MND のほうでグローブ座『夏の夜の夢』を同じような形で解説します。 #イギリスの文学冬物語
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