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ミネアポリスで起きた抗議デモを発端に全米で騒乱が発生しています。個人的な感想ですが、一応自分なりに解説させてください。あくまでも兼光個人の分析です。
ミネソタ州はリベラル気質が古くからあり、民主党の牙城でした。全米がレーガン大統領へと傾いた時でさえ、50州で唯一民主党のモンデール候補を選んだ州です。まあ、地元候補ということもはあるのですが。
en.wikipedia.org/wiki/1984_Unit…
常に民主党はリベラル気質を代弁していたわけではありません。共和党が企業・大都市寄りである一方で、民主党は労働者&農民・地方寄りだった時代が20世紀初頭から21世紀手前まで続きました。ミネソタの民主党は性格にはDemocratic Farmer-Labor Partyと言って民主農民労働党というくらいです。
人種差別的扱いを受けていた黒人の参政権と隔離政策に対抗した公民権運動が大きく噴き上がった1960年代、当初民主党は懐疑的でした。特に南部の民主党は反対していましたが、都市部の民主党の声が強い北部民主党は公民権運動を支持する方向へと舵取りをします。ケネディ・ジョンソン政権が後押しします
ミネソタは田舎が広いです。林業や鉱業、農業が非常に盛んでしたが、貿易や工業化を伴い相対的に縮小します。一方、ミネアポリスやセント・ポール、ダルースやロチェスターなどの都市化は活発で工業化も進みます。一次産業から二次産業、三次産業へと転換して言ったのです。
例えば皆さんが知っているかもしれない3Mですが、この会社の正式名称はMinnesota Mining and Manufacturing、つまり「ミネソタ鉱業及び製造会社」だったのです。ミネソタは他にもHoneywellやControl Data、SeagateやMedtronicsなどの企業が地元のIT化と経済基盤と教育の高度な発達に関わっています。
北欧系・ドイツ系アメリカ人が圧倒的に多いミネソタですが、都市部では足りない労働力を向かい入れるために多くの黒人やヒスパニックなどの有色系アメリカ人を向かい入れてきました。比較的教育がしっかりしていることと地元製造業やサービス業での雇用口がたくさんあったのです。
市民の大よそ温和な気質と人種差別を禁ずる法整備もあり、他の州からの移住だけに留まらず多くの移民が流入。同時に1960年代から1980年代にわたって裕福な人々(主に白人)は都市部の喧騒を忌避し、より閑静な町並みである郊外へと流出します。この結果、地域によって人種構成に大きな偏りが生じます。
この結果、一部の地域に黒人やヒスパニック、ソマリアやモン族の方々の構成が非常に大きい地域ができました。ミネソタの総人口は500万人強ですが、そのほとんどが都市部に集中しています。人種構成からすると85%くらいが白人なのですが、都市部などの一部の地域となると白人が少数派になりかけます。
90年代になるとIT系や弁護士、会計士などの高度な訓練が必要な職業の方々が長い自動車通勤を嫌がり、都市への逆流入が一部で始まります。これで今まで比較的安価だった住居が高価になり、裕福ではない住民は特定の地域へと集中するのが加速しました。
郊外へと移転していた富裕層が大都市中心部への回帰するのを「都心回帰」といいますが、この結果で発生するのが「ジェントリフィケーション」(gentrification)です。住居や商業設備がより裕福な地域へと変貌する減少ですが、家賃上昇でそれまでの住民が追いやられる結果がミネアポリスでも発生します。
90年代に入ると富裕層を優遇するような共和党の政策、即ち減税を行い、教育や福祉などを抑制して政府の支出を減らす主に共和党の政策がミネソタにも大きな影響を及ぼし始めます。財政的に苦しいので教育費への補助が削減される一方で、より教育が必要になる移民の流入が止まらないのです。
以前のミネソタから比べると福祉・教育政策はかなり骨抜きになったという印象が強いのですが、それでも他の州に比べるとまだマシという具合です。労働力不足の業種、主に製造業とサービス業がまだまだあるので雇用の受け入れ口はあるのですが安価な住居は少なく、まともな教育は大変高価になりました。
製造業が縮小する最中、よりよい生活を目指すならばより良い教育を目指すのが至上命題ですが、都市部の公立学校はかなり疲弊しており、都市部に住む富裕層は良い私立学校や高価な州立大学へと子供を送り出します。社会的地位向上の機会が失われる問題はツィンシティーズの黒人を直撃したのです。
麻薬問題をはじめ、都市部に住むアフリカ系アメリカ人には多くの逆境が待ち受けています。雇用不安と麻薬の浸透、そして貧困層にとって法の運用が不利に働きやすいことがかかわり、家族が不安定であることが多いのです。父親を知らない黒人の子供はめずらしくないといわれています。
警察の活動は地域住民にとって必要不可欠ですが、経済的地位が低く、長年にわたってアフリカ系アメリカ人に対して犯罪者のレッテルや無意識的な差別意識が浸透している米国において、経済的に裕福ではないアメリカ黒人社会は警察によって不当な扱いが発生しやすい現状があります。
黒人にとって警察は安心・安全を可能にする存在ではなく、自らに対して脅威を与えることが珍しくない存在と感じているのです。これは全米で起きている問題なのですが、ミネアポリスとセント・ポールには独自の事情があります。ここ5年以上、警官が軽はずみで発砲する事件が多発しているのです。
詳しいことは割愛しますが、あまりにも多発したために嘘標識盤が話題になったくらいです。
images.app.goo.gl/nK8yYNVa6osw4k…
images.app.goo.gl/cLGQxeeQ4LgLDA…
edition.cnn.com/2017/07/24/us/…
法治社会を維持する組織として暴力を行使する権限が与えられている警察が誤って危害に及んでしまっても、警官が脅威を感じた場合などではかなりの猶予が与えられます。アメリカ社会において白人よりも黒人の方が脅威に見えるというのが浸透しているのがさらに状況を悪化させてしまいます。
今回、ミネアポリス市警の警官四人がジョージ・フロイドを逮捕する際に一人がフロイドの首に膝を押し付けて自重をかけていました。人々が見入る最中、フロイドは「息が出来ない」と訴え続けましたがやがて意識を失います。それ以降も警官ショーヴァンは膝をフロイドの首から離さなかったのです。
周りにいる人々が「助けてあげなさい」「窒息させている」といっているのを無視しているさまや何事も無く振舞っている様子が複数の人々によって撮影され、広く配信されました。黒人に対して白人警官が好き勝手に振り待っているのを誰も抑止できないのを象徴した大変痛ましい映像でした。
フロイドは暴力行為を働いた嫌疑はなく、偽札を使った嫌疑が掛かっているだけでした。暴力的ではない犯罪を行ったのが白人であり、大した抵抗もしていないのだれば同じような扱いを受けなかっただろうと多くの人々は感じました。また多くの警察関係者もあの逮捕・拘留は間違っていると指摘しています。
その後フロイドに対して病院で一時間にわたり蘇生が試みられましたが、取り止められ死亡が確認されます。フロイドが虐待される様はその日の内にネットで拡散していきます。事件の翌日、ミネアポリス市警は当初四人の警官を休職扱いとしました。しかしその日にうちに懲戒免職となります。
多くの人たちからすれば白人警察による黒人被疑者殺人が発生したさまがリアルタイムで配信されたにもかかわらず、処分が解雇に留まったことに地元黒人住民が憤りを感じます。そこでまずは四人が所属しているミネアポリス市警第三分署で抗議はじまりました。
この第三分署前での抗議デモが行われている当初、亡くなったフロイドに同情するミネアポリス市長は強い対決姿勢をしないように警察へ支持を出したと思われます。事件が発生した当日も翌日も暴動へと発展してませんでした。事件が発生した翌々日、27日に急展開します。
27日にミネアポリス第三分署の隣にある自動車パーツ専門店の窓ガラスを破る白人男性が登場します。ガスマスクを被り、全身黒尽くめで雨が降っていないにも関わらず傘を差していました。彼が窓ガラスを破るさまがネットで拡散します。略奪はこの瞬間から始まったといってもおかしくないくらいです。
第三分署への抗議デモは周辺商店街への略奪は破壊へと発展しました。しかしまだ27日の段階ではその規模は限定的だったのです。問題は28日です。玄関先で放火が発生し、第三分署を警護した警察は撤退してしまいます。この28日の夜を発端に略奪と放火の規模が加速しました。
第三分署が焼け落ちた28日深夜・29日未明、警察も州警察も州兵もあまり市内に展開していませんでした。日中になり、治安活動や警戒を行いますが、発令された29日の夜間外出禁止令を無視したデモ隊が大通り沿いの商店街の略奪や放火・破壊を止めるためにはその規模が足りなかったのです。
29日夜間・30日未明の破壊発動と略奪は規模はかなり広く、ミネアポリスの大動脈であるレークストリートの商店街はことごとく被害を被ります。翌日、州知事の発表によれば地元とは関係ない、州外の人間がかなり逮捕を確認。ネオナチや無政府主義者などの複数の過激派が参加したと報道されています。
というのは29日にはフロイドの頚部に膝を当てていたショーヴァンは殺人容疑で逮捕されており、他の3人についても容疑が固まり次第、逮捕するのが発表されていました。抗議デモは一定度合いの成果を挙げた訳ですが、左翼・右翼過激派は今回の抗議デモを隠れ蓑にして騒乱を繰り広げた可能性があります。
しかし積極的に略奪や破壊活動に参加していないにしても依然として多くの都市部住民では警察による黒人への不当な取扱いについて不満が鬱積しており、新型肺炎で長期間自宅軟禁に加えて無職となっているために抗議活動を長引かせる要因になっていると思います。
そもそも公民権運動から60年経過した今も、米国では広く黒人への差別や社会的地位向上への妨げになる要因について触れましたが、トランプ大統領が当選したことで余計に問題が加熱した側面があります。トランプ大統領は南北戦争鎮魂碑や銅像を擁護したり、南軍シンパを正当化するような発言をしています
トランプは奴隷制を守ろうとした南軍のシンパを擁護したり、共和党寄りの保守派が民主党州知事の新型肺炎隔離政策への抗議デモの一環として武装した状態で州議会へと流れ込むのを奨励する一方で、アメフト選手らが警察による黒人殺害・虐待に対して国家詠唱時に抗議デモを行うのをけしからんと批難。
トランプ大統領は自らを人種差別主義者ではなく、ただ単に古き良きアメリカを取り戻したいと主張している、ある意味で非常にわかりやすい反動保守的姿勢ですが、奴隷制の苦い思い出や現在も警察を脅威と感じている黒人社会からすれば良くて二枚舌、悪くて偽善的人種差別主義者に見えるのです。
しかも今回の新型肺炎COVID-19でもっとも影響をうけているのはアフリカ系アメリカ人などのマイノリティです。黒人社会に深刻な影響を及ぼしている新型コロナウィルスの脅威を矮小化し、企業利権を推し進めるために自らの保健当局の助言を無視して経済開放を押し広げようとしていると見えるのです。
双子都市ミネアポリスとセント・ポールのツィンシティーズでの騒乱は30日深夜・31日未明段階でかなり収まってきました。州知事は第二次大戦から始めてミネソタ州陸軍が完全稼働させ、州警察とともに両都市の市警を応援させることで事態はかなり沈静化してきたもようです。
しかし全米の労働人口の25%が無職となっており、もっとも失業率が深刻なのが都市部です。都市部に集中しているのがアフリカ系とヒスパニック系アメリカ人であり、彼らは現大統領政権に失望しています。警察による虐待への不満は各地にあり、それも相まってこの抗議活動は全米へと広がっているのです。
長々となりましたが、今回の騒乱の背景を自分なりに整理して書き綴りました。何かの参考になれば幸いです。ご精読ありがとうございました。[ひとまず終わり]
その後の報道や知事による記者会見によれば逮捕者のうち州外からやってきた人間の数は2割前後ということです。政治的な背景ついては憶測が混じっているのではっきりしませんが、左翼・右翼両方の過激派の関与を示す情報がネットなどから確認されているそうです。
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