「白馬の王子様」
其は多くの女性にとっての永遠なる"理想"だ。
イメージする形は人其々であり、特に意識をしなければ使い古されたコトバで終わってしまう。
しかし、その存在と概念は実に面白いテーマともなる。

今回は、白馬の王子様像の源流となった作品から現代までの様式の流れを追って行こう。 ImageImage
「白馬の王子様」とは理想の男性像を挙げる際に用いられる比喩表現だ。

その条件は様々であり、若くて容姿端麗な風貌に高潔さや高貴な印象を纏ったビジュアルイメージも挙げられる

芸能人の場合だとアーティスト部門ランキングでは、一位に堂本光一、二位に及川光博、三位はGACKTといった面々が並ぶ ImageImageImageImage
イギリス王室等の実際の王族も、イメージや条件にピッタリと合致する典型例だ。
理想の王子様の前提として、西洋的な様式という先入観は多くの人にもあるだろう。

特に若い頃のウィリアム王子は正真正銘の"白馬の王子様"だった。 ImageImageImage
徳川将軍家8代目の上様こと徳川吉宗も、立派な日本の和製"白馬の王子様"キャラクターだ。

シリーズ初期の松平健は、なんともまぁ嘘の様に輪郭がシュッとしててイケメンだった。 ImageImageImage
北の暴れん坊将軍様も、身分の条件だけでいえば"白馬の王子様"だろう

王子様像とは、あくまで個人の主観で判断するモノなので明確な定義付けは無い
だが、そのイメージ元となる源泉はちゃんと存在している。

歴史上の人物に遡る見方もあるが、ロマンスを絡めた王子様の紀元は、創作物の分野になる。 Image
美男な王子様像のルーツを映像に求めるならば、サイレント期のハリウッド映画で活躍した俳優"ダグラス・フェアバンクス"がそのイメージに近い
ゾロやロビン・フッドなど剣術を得意としたヒーローを演じ、ヒロインとのロマンスを大きな売り物とした

活劇の中のヒーローは自然と王子様像とも似かよる。 ImageImageImage
フェアバンクスの少し後にブレイクしたサイレント期の美男スターには、イタリア出身の俳優"ルドルフ・ヴァレンティノ"がいる
フェアバンクスには無かった艶やかな色気を魅せた事から、映画において初のセックス・シンボル男優とも謂われる。
31歳の若さでこの世を去り、美人薄命の象徴的スターだった。 ImageImageImage
次代のフェアバンクス的立ち位置で30年代から活躍したのが、色男俳優"エロール・フリン"だ。
トーキーが支流となった時期の映画『海賊ブラッド』や『ロビン・フッドの冒険』等で爽やかなロマンスを演じて魅せたフリンのスタイルは、包容力と同時にチャーミングな面も見せる王子様像のルーツだろう。 ImageImageImage
『風と共に去りぬ』で、クラーク・ゲーブルが演じた"レット・バトラー"が持つ魅力も、ある種の王子様的な血脈の一つと言えるかもしれない。
ヒロイン・スカーレットへの試すような不敵さを見せながら情熱的な一途さを秘める性格付けは、後の少女漫画の男性キャラクター造型にも影響を与えたであろう。 ImageImageImage
「白馬の王子様」という形容には、メルヘンなイメージも重要だ。
そういった意味でファンタジー世界に住む本当の意味での"白馬の王子様"第1号は、1937年公開のディズニー長編アニメ映画『白雪姫』に登場した王子様だろう。
作中では固有の名は無く、あくまで役割としての意味合いが強い。 ImageImageImage
どこからともなく現れて白雪姫を見初め、終りにはプリンセスを救い城へと連れ帰る。
その情報量の少ない描写は、神秘的な印象を際立たせる。
蜃気楼の様な城も印象的であり、まるでこの世の物では無い異界か何かだ

そして『白雪姫』の王子は男性の顔を端正に描く二次元キャラクター表現の元祖だろう。 ImageImageImageImage
劇中、白雪姫が小人達に聴かせて唄う挿入歌「いつか王子様が」には夢見るお姫様の心象がよく表れている。

「いつか王子様が私を見つけ出して、
お城へ連れていってくれる」

信じて待てば王子様が現れるという、受動的ヒロイン像を象徴する歌であり、"白馬の王子様"への幻想思考のルーツでもある。 ImageImage
続くディズニーのプリンセス・ストーリーは1950年公開の『シンデレラ』だ。
登場する王子には、まだ固有名が無く『白雪姫』の王子と同じくプリンス・チャーミング(魅惑の王子)の通称で呼ばれる。
こちらも見初めるのは王子側だが、シンデレラはアプローチしてきた男性を王子とは知らずに惹かれていく。 ImageImage
目の前の男性が誰であれ、シンデレラにとっては王子様以上の"王子様"だった。
この"身分"の価値観に囚われないシンデレラの内面性が重要だ。
白雪姫とは違い、自らの意思と選択で王子様に会いに行く。
その純真性と能動的ヒロイン像、そしてサクセス・ストーリーぶりは多くの女性の憧れとなった。 ImageImageImage
1959年公開の『眠れる森の美女』に登場したフィリップ王子は王子様像の転換期の中に誕生した。
原作とも呼べる民話やグリム童話では、プリンセスのオーロラ共々固有名が与えられていないキャラクターだったが、アニメ化に伴いフィリップ王子は様々な活躍と性格付けがなされた個性ある王子様の第1号だ。 ImageImage
馬から落ちてズブ濡れになり腐れる表情を見せるフィリップ王子だが、その身近に感じさせる描写は今までのディズニープリンスには無い性質だ。
プリンセスの為に剣を取って敵と戦うというヒロイックな活躍も、原作や今までの王子達には無かった要素であり、"人間味のある戦う王子様像"の原型だろう。 ImageImageImage
『白雪姫』と『シンデレラ』に『眠れる森の美女』は、元を辿ればグリム兄弟やシャルル・ペローが編纂した民話に基づく童話だ
だが作中に登場する王子達の描写はどれも簡素なものであり、ヒロインとのロマンスがメインではない
童話の中の王子様とは、あくまでお姫様の存在を際立たせる引き立て役なのだ ImageImageImage
神秘的な存在であった『白雪姫』の王子様に、シンデレラとのロマンス描写に大きく貢献したチャーミング王子や、お姫様の為に勇猛果敢に戦ったフィリップ王子等、現代にまで至る"白馬の王子様"のイメージ構成の起点はディズニーアニメから始まったと見ていい

古典という意味でも、この三作に区切られる ImageImageImage
『シンデレラ』の王子の固有名の様に使われる「プリンス・チャーミング」だが、これは白馬の王子様の英訳の意味合いで使われる総称だ
その発祥はシャルル・ペローの『眠れる森の美女』での、"王女の言葉に魅せられた王子"という描写から来ていると謂われている
この時点では、魅せられるのは王子側だ。 Image
オスカー・ワイルド作『ドリアン・グレイの肖像』で主人公ドリアンは、自身に恋慕する女性から魅力的な男性の意味として「プリンス・チャーミング」と呼ばれる。

ドリアン・グレイは悪漢主人公としての性質を持つキャラクターであり、女性を惑わす色悪的な存在に"王子様"の呼称が使われた最初の例だ。 ImageImageImage
1925年には『Le Prince charmant』という題のフランス映画が存在しており、内容は奴隷のヒロインが王子と結ばれ妃となるロマンスだ
ディズニー映画以前にも王子=魅惑の美男子というイメージは既に根付いていたが、その時代の王子様像とは庶民による"上流階級への憧れ"という側面が強い存在でもある。 ImageImageImage
そんな西洋文化発祥とディズニー映画から発展した"白馬の王子様"だが、そのイメージの更なる発展を促したのは日本の「少女漫画」になる
1953年に連載を開始した手塚治虫の『リボンの騎士』は多くの後続少女漫画に影響を与えた
初期からディズニーの影響が強い手塚のスタイルは、今作にも強く見てとれる ImageImageImage
戦うヒロインの元祖サファイアの相手役は、隣国の王子であるフランツ・チャーミングだ。
デザインからも分かる美青年の設定と尚且つ精神も高潔であるフランツは、スタンダードな王子様像を見せる。

古典ディズニー映画の王子様では見られなかった、ヒロインに対する"甘い言葉"を囁くのも特徴だろう。 ImageImage
1967年のアニメ版『リボンの騎士』でのフランツ王子は、スターシステムの要領で見た目をロック・ホームへと変更し別人と言えるキャラクターになった。
前年から連載開始した『バンパイヤ』で悪役のイメージが強くなったロックだが、ほぼ同時期に王子役と悪役を兼任している関係性が面白い。 ImageImageImage
『リボンの騎士』以降では、1960年代に多数の少女漫画誌で表紙を飾った少女絵の巨匠"高橋真琴"の画風が古典少女漫画イメージのルーツだ。
瞳の中にお星様という、その煌びやかなデザインとメルヘンな世界観が少女漫画に与えた影響は、70年代後期まで続く事になる。 ImageImageImage
60年代から70年代までの少女漫画で、王子様と呼べる存在の数はとても多く枚挙に暇がない。
顕著な例では、1966年の水野英子の漫画『ハニー・ハニーのすてきな冒険』に登場する怪盗フェニックスが、ヒロインにとって等身以上の存在=神秘的な王子様とも言えるイメージで描かれていた。 ImageImage
60年代から活躍した西谷祥子の代表作『マリイ・ルウ』等では、ヒロインの初恋の相手は歳上で憧れの対象でもある男性だ。
だが失恋の経験を通して、身近な同年代の男性に本当の愛を見出だし共に成長しながら育んで行くという帰結は、少女漫画の恋愛観での一つの方向性、新たなフォーマットとなる。 ImageImageImageImage
その後の少女漫画には、タイトルに"王子さま"が入った作品が幾つか登場している。
70年代の少女漫画の作風は特に西洋文化に対する憧れが強く表れており、話の舞台はヨーロッパのどこか、相手役の男性は神聖味を帯びた"類型的な王子さま"というパターンが、まだこの時点では多く見受けられた。 ImageImage
1975年には古典少女漫画の集大成とも言える作品が登場する
いがらしゆみこ画、水木杏子原作の『キャンディ・キャンディ』は、西谷祥子の時代から試みられた児童文学の要素を取り入れた少女漫画だ
『赤毛のアン』を思わせる設定と牧歌的な世界観、そしてその絵柄はあらゆる意味で既存作品の発展系だった Image
『キャンディ・キャンディ』には、ヒロイン・キャンディにとって特別な男性が3人登場する。
タイプは違うが、皆其々王子様と呼べる存在である。

まず其の1人目が物語の序盤、幼少期のキャンディの前に現れた謎の少年「丘の上の王子様」だ。 ImageImage
この"丘の上の王子様"とキャンディの出逢いは実に神々しく劇的だ。
親友との別れによって悲しみに暮れるキャンディに笑顔を与え「わらった顔のほうがかわいいよ」と言葉を残して、どこかへと去る
辛い事があっても挫けないキャンディの精神面に影響を与えた人物であり、それは神秘的な初恋でもあった。 ImageImageImageImage
身分や階級ではなく、そのヒロインにとっての"特別な男性"という意味で王子さまの呼称が与えられた「丘の上の王子様」は、とても象徴的な存在だ。

そんな丘の上の王子様と瓜二つな容姿を持った少年アンソニーは、キャンディにとって2人目の特別な男性であり、最も深い爪痕を残した"白馬の王子様"だ。 Image
アンソニー・ブラウンは、今までの王子様像にはなかった儚い性質を見せたキャラクターだ。
キャンディの王子さまとソックリな外見ながらも、キャンディの言葉についカッとなり手をあげる意外な激情さも持つ。
キャンディの初恋は丘の上の王子様だが、恋人として愛したのはアンソニーが最初だ。 ImageImageImage
キャンディとの結婚も夢見るアンソニーだったが、その幸せの絶頂の最中にアンソニーは落馬によって命を落としてしまう
白馬から落ちて死んでしまう"白馬の王子様"という構図もまた象徴的だ
王子さまというキャラクターに"死の匂い"を付与させた最初の例であり、後の作品群にも共通するイメージである。 ImageImage
そしてテリュース・G・グランチェスターこと、テリィはキャンディの前に現れた3人目の特別な男性だ
最初にアンソニーとも似た儚い面影をテリィに見出だしたキャンディだが、その激しい気性からなる性質はアンソニーとは対照的だ

このテリィの性格付けが少女漫画の男性ヒーロー像に与えた影響は大きい ImageImage
テリィの特徴は紳士的で基本柔和な性格だったアンソニーとは違い、荒い気性と時たま見せる優しさでキャンディを魅了していく事だ。
キャンディをからかいながらも、他の女の子とは違う魅力によって徐々に心を開いていくテリィの性質と描写は、少女漫画における「おもしれー女」系男子の元祖と言える。 ImageImageImageImage
テリィが持つワイルドな包容力とアンニュイな表情が見せる魅力は、恐らく3人の王子様の中でも一番人気が高い。
相手役とのリアクションの中でも、テリィを前にしたキャンディは最も可愛く描かれる

そして最愛の恋人との結末はお互いに辛いものとなり、テリィもまた儚い王子様としての役割を果たすのだ ImageImageImageImage
キャンディにとって最もかけがえのない存在と言えるのが、物語の早い段階から登場したキャンディの恩人アルバートだ。
偶然にもキャンディを助けた事をキッカケに、行く先々でキャンディと再会するアルバートは歳の離れた兄の様な存在であり、守護天使の様でもある。 ImageImageImage
キャンディに自律的な成長を促す言葉を掛けるアルバートは、アンソニーやテリィでは及ばなかった善き"大人"の男の体現者だ。
謎の放浪者としてキャンディを見守ってきたアルバートの正体は、ウェブスターの『あしながおじさん』と似た様な役所であり、更にはもう一つの役割を隠し持つ。 ImageImageImageImage
物語後半は正しく理想的な王子様像となったアルバートだが、キャンディとの描写は男女のロマンス=恋愛感情に発展する様な素振りは殆ど見せない
二人の間に構築されていくのは恋人以上の信頼感だ
その後の関係性は読者の想像に委ねる形だが、キャンディにとっての真の王子様は最初から1人であった訳だ ImageImageImage
『キャンディ・キャンディ』のスタンダードと変化球を交えた王子様像は、少女漫画の時代の節目とも言えた

同時期に連載していた『はいからさんが通る』の伊集院忍もまた古典王子様像の再現だ。
金髪ハーフという容姿は大正時代の和の世界では尚際立ち、西洋観の多かった当時の潮流を上手く反転させた ImageImageImage
70年代には24年組による美少年を主役にした異色の漫画が既に登場しており、少女漫画は表現の幅を様々な方向へと広げていく
佐々木倫子作の『動物のお医者さん』は男女によるロマンスを必要としないという新たな方向性の支流であり、80年代ではスタンダードな王子様像は"ステレオタイプ"と化していった ImageImageImageImage
だが、1992年には"白馬の王子様"のイメージの復権を象徴するかの様なキャラクターが現れる

武内直子の漫画原作及びアニメ『美少女戦士セーラームーン』に登場した「タキシード仮面」は、過去の作品の王子様達が持つ性質の殆どを有していた
神秘的でありヒロイック、そして憧れの対象でもある存在だ。 ImageImage
タキシード仮面の本来の姿であり、後にヒロイン月野うさぎと恋人関係になる地場衛は、タキシード仮面の状態である時のヒーロー像とは別の側面を表す。

ヒロインをからかい怒らせるパターンは心の距離感を縮める為の前段階であり、伊集院忍やテリィも持っていた、仮初めの憎まれ役としての性質だ。 ImageImageImage
タキシード仮面自体の元ネタは『まじっく快斗』の主人公・怪盗キッドだが、その他にも様々なキャラクターの要素を組み合わせていると窺わせる
原作漫画版でセーラームーンは、初めてタキシード仮面を目にした時に「まるで怪盗ルパン」と形容するが"怪盗"というモチーフはダーティーな一面も持つ要素だ ImageImageImage
セーラームーンの前身作品『コードネームはセーラーV』でヒロイン美奈子は王子様イメージの例えとして、スーパーマンや月光仮面等のヒーロー達の名を挙げる。
義賊怪盗アルセーヌ・ルパン然り、武内直子が意図したコンセプトはスーパーヒーローの様な存在、"戦う男性"としての王子様像だろう。 ImageImage
『セーラームーン』の設定で特徴的であるのが、ヒロインとヒーローの前世からの関係性だ
うさぎは月の王国の王女プリンセス・セレニティであり、衛は地球国の王子プリンス・エンディミオンという約束された運命の繋がりを持つ。
お姫様と王子様という立ち位置は、ディズニーからある古典物への回帰だ。 ImageImageImage
敵国同士の禁じられた恋という設定や、エンディミオンが自身を庇い死んだ事で自害する漫画版のセレニティ等『ロミオとジュリエット』の要素も見られる
シルバー・ミレニアムとゴールデン・キングダムという国の名称は、なかよし版『リボンの騎士』のシルバーランドとゴールドランドからの派生だろう。 ImageImageImage
神格化された王子様とも言えるタキシード仮面の存在だが、あくまでメインは美少女戦士のセーラームーンであり、前に出過ぎない立ち位置のバランスが上手く取れているのも特徴だ。
ヒロインの支えとなり、ここぞという時にはピンチを救う。

キスで目覚めさせるクライマックスも王道ロマンスの見本だ。 ImageImageImageImage
タキシード仮面のもう一つの特性は、敵によって洗脳されプリンセスと敵対するという守護者から敵役へのポジションの反転だ。
最愛の男性が自らを殺しにかかって来るという状況は、悲劇としか言いようのない絶望的窮地だ
だが、この敵対する王子様というシチュエーションには作者のフェチズムも感じる。 ImageImageImageImage
ブラック・ムーン一族の長、プリンス・デマンドはプリンス・エンディミオンと対になる存在として登場した
未来のネオ・クイーン・セレニティに恋焦がれ無理矢理にでも手籠めにしようと企むが、最期はセーラームーンの為に命を散らす
少女漫画における初の"悪の王子様"として設計されたキャラクターだ。 ImageImageImage
漫画版でのデマンドは、非情でよりエゴの強い悪役として描かれる
年齢も若く激情型の性格だ
略奪愛という独占欲からセーラームーンを亡き者にしようとするが、最期はタキシード仮面とセーラームーンの力による愛の技を目の当たりにした瞬間に消滅する

この王子様像の変化は一つのターニングポイントだ ImageImageImage
魅力的な男性がヒロインに対して敵意を抱いて来るという展開は『コードネームはセーラーV』の頃からある
愛野美奈子の"初恋"相手である憧れの東先輩は、洗脳された訳でもない敵組織の尖兵だ
已む無く消滅させた美奈子だが、先輩から勧められて着けた赤いリボンは外さず、以降はトレードマークとなる。 ImageImage
後半ではタキシード仮面と似たポジションの怪盗Aが登場するが、正体は敵組織の幹部だ
美奈子の方がAに恋焦がれている様に見えた二人の関係性だが、Aは美奈子が恋路よりも前世からの使命を優先する事を知っており、その記憶を思い出させる為に敵対し消滅する

王子役をその手にかける展開は実にシビアだ ImageImageImage
敵組織の幹部、ダーク・キングダム四天王はセレニティに対するエンディミオンと同じく、セーラー戦士達とは恋仲にあったという裏設定がある
アニメ版原作共に其の経緯は語られずに敵として打ち倒される訳だが、前世の記憶を知らぬままかつての想い人を殺害する死生観は『セーラームーン』ならではだ。 ImageImageImageImage
アニメ版の方は洗脳されたエンディミオンの元配下達という設定はカットされていたが、代わりに原作ではアッサリ退場したネフライトが最も大きな存在感を見せる
悪人だった男が、少女との出逢いで愛に目覚めてヒロイックに活躍する
悪役の改心という帰結だが、この傾向もまた"悪の王子様"像の範疇だろう ImageImageImageImage
ネフライトの役割の特徴は、自己犠牲による尊い死に様だ
自身にとってのプリンセスを庇い命を落とす点ではアニメ版プリンス・デマンドと同様だが、其の活躍ぶりはデマンド以上に"正統派"の王子様の面も有していた
数ある『セーラームーン』の美形悪役の中でもネフライトが最も印象深い理由はソコにある ImageImageImageImage
古今東西、優れた容姿と雰囲気を纏う"悪の貴公子"と呼べる存在は人気を博していた
『超電磁マシーン ボルテスⅤ』に登場した悪役プリンス・ハイネルは、その美麗な外見だけではなく異性とのロマンスも用意された悪の王子様キャラクターの走りだ
美形悪役の歴史は、王子様表現の派生と見ることも出来る ImageImageImage
1997年放送の『少女革命ウテナ』の主題は、プリンセスと王子様の関係性を突き詰めたものだ
主人公ウテナとヒロイン・アンシーは良い意味でも悪い意味でも、其々の王子様のイメージに囚われている

『少女革命ウテナ』で描かれた王子様とは加護を与える存在であり、同時にヒロインの行く手を阻む悪役だ ImageImageImage
『少女革命ウテナ』は『キャンディ・キャンディ』とワンセットで語られてもいい程の関連性を持つ作品だろう

ウテナが子供の頃に"王子様と出会った"という過去が起点になっており、ソコから王子様になりたいという憧れが始まる
ウテナの記憶の中の王子様は抽象的であり、実際の出来事は違う意味をもつ ImageImageImage
ウテナの過去に関わった王子ディオスは魔女に封印されて眠ったままという例えもされるが、その存在は既に死んだも同然と言っていい。
OPでは重要な舞台の決闘場が崩壊すると同時にディオスが目覚めるシーンが挿入されるが、王子様の復活が叶う事は無い。
王子ディオスとは、尊ぶべき故人の象徴である。 ImageImageImage
物語の黒幕である鳳暁生は、王子ディオスが大人になった成れの果ての姿だ。
再会時のウテナはかつての王子様と知る由もないが、暁生は知らぬ風を装い内心ではほくそ笑む。

メインの相手役である王子様が、悪役でもあるという今まで前例が無かったその立ち位置は、正に"悪のアルバートさん"と呼べる。 ImageImage
鳳暁生のキャラクター造型には様々なモデルが採用されている。
まずその大元が、歴史上の人物であるイタリアの悪名高き毒殺君主"チェーザレ・ボルジア"だ。

そして『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』での"シャア・アズナブル"による、ピークを過ぎた大人が醸し出すアンニュイな一面の影響も強い。 ImageImageImage
他だとあくまで個人の推測だが、『風と木の詩』に登場するオーギュスト・ボウが暁生に近い役回りをしていた
鳳学園の理事長である暁生と同じく、オーギュストは主人公達が通う学院の影の支配者であり、肉親である人間との情事を主人公にわざと見せつける

主人公の操を奪う等の行為も共通する卑劣さだ ImageImageImage
様々な悪漢キャラクターの性質を持つ暁生だが、その立回りは正真正銘の王子様としての振舞いを見せる。
暁生が罪作りである理由は、多くの女性にとって"私だけの王子様"である事だ。
多様な形で女性を縛り思いのままにする

そんな王子様の負の側面を表したのが、鳳暁生の異名である「世界の果て」だ。 ImageImageImage
王子ディオスは、世界中の女の子達の望みを叶える為に傷付き疲弊して「世界の果て」になったという背景があるが、その王子様としての役割自体はどちらも変わらない。
人生の行き詰まりを意味する「世界の果て」とは、女性が男性と結ばれて"本当に幸せになれるのか?"という問題提起を孕んでいる。
「世界の果て」は様々なメタファーとしての意味を持つ
決闘場の天空に聳える蜃気楼の様な城はハッピーエンド(終着点)を夢見させる舞台装置だ
白雪姫の城であり届きそうで届かないシンデレラの城でもあり、セーラームーンRでのクリスタル・トーキョーに聳え立つクリスタル・パレスの無機質さを思わせる ImageImageImageImage
つまりは「二人はいつまでも幸せに暮らしました」の先が存在しない"終末観"こそ「世界の果て」が抱える問題の本質だ

ヒロイン・アンシーは「薔薇の花嫁」と呼ばれるが、ソレは永遠の城と王子様に従属し縛られている事を意味する。
だがやはり王子様との結婚は、多くの女性にとって憧れでもあるのだ。 ImageImageImage
暁生の妹であるアンシーは、かつてディオスと出逢い妹として育てられた女の子だ。
傷付いた王子様を守る為にディオスを封印した過去があり、ソレは同時に一番のお姫様でありたいが故の独占欲からなる魔女の所業でもあった

そして現実の厳しさを知り挫折したディオスは、高潔な王子様では無くなる。 ImageImage
劇中、暁生の名はルシファーを意味する「明けの明星」から付けられたという説明がある

要は悪堕ちした元ヒーローであり、物語のラスボスだ
王子様を目指す天上ウテナは"勇者"であり、鳳暁生こと「世界の果て」は"魔王"という分かり易い構図でもある
さいとうちほによる漫画版でもソコは強調されていた ImageImageImage
だが主役と悪役という立場でありながら、男女のラブロマンスを展開するのが『少女革命ウテナ』の大きな特殊性だ
魔王と深い仲になったウテナは処女性を失い、王子様を目指す少女から恋する乙女、そして一人の女になってしまう

ココから"王子様の庇護下からの脱却"という主題が、本格的に動き出すのだ ImageImageImage
暁生は洗脳された訳でもなくヒロインの為の裏がある訳でもない、利己的な目的の為にプリンセスを騙す"悪い"大人だ
王子様である自身と結ばれる事が最良のハッピーエンドだと嘯き「幸せになるのさ」と甘く囁く

その勧誘を撥ね除け剣を向ける事によって、プリンセスと王子様との対立図式が明確となる。 ImageImageImage
だが王子様の本来の役割は敵を打ち倒すのではなく、お姫様を助ける事にある
だからこそウテナは、アンシーを薔薇の花嫁という呪縛から解放する事しか眼中に無い

傷付いたウテナに手を差し伸べ体面を保とうとする暁生だが、最早ウテナにとっては愛する王子様や敵対者でもない、只の邪魔な部外者と化す
やる事が無くなった王子様は自分語りを始める訳だが、暁生の目的はかつての全盛期の頃の力を取り戻す事だ。
「世界の果て」とは、行き止まりという現実を知り諦めて妥協する観念でもある
"汚い大人"になり理想や高潔さを無くしたままでは目的が叶う筈もなく、傍らのディオスの幻影が口を開く事は無い。 ImageImage
相互依存が強い暁生とアンシーの関係性だったが、アンシーの方から見切りをつけられた暁生はなんともちっぽけにな存在に見える

後に暁生はアンシーが居なくなった事により自殺したと、後日談を描いた新作漫画で語られるのだが、いざという時に露呈するメンタルの脆さが"理想"の王子様像とは対照的だ。 ImageImageImage
『少女革命ウテナ』には様々なサブキャラクター達が登場し其々の恋模様を見せるが、それを恋愛として成就させる者は誰もいない
少女漫画の様式を採用しているにも関わらず、その内容は恋愛物を主体としてはいないのだ

お姫様と王子様の関係を主題にしながらも、目指したのは従来の作品からの脱構築だ ImageImageImage
劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』ではお姫様と王子様の関係は分かりやすく、そして幾らか前向きに再構築された
今作ではウテナと『世界の果て』の因縁は存在せず、アンシーが如何に王子様から脱却するかを中核としている

物語冒頭、現在のアンシーは過去のディオスの影に従属したままだ ImageImageImage
『ウテナ』のセカイでは「本当の意味での王子様は、お姫様の為に死ななければなれない」という既成概念がある

TV版ではサブキャラであった桐生冬芽は今作では違う役所であり、実は過去に亡くなっていた死人である。
ウテナの志を解放させる為に別れを告げるその姿は、ディオスに近い"真の王子様"だ。 ImageImage
今作での王子ディオスは、妹アンシーの魔法(献身)によって形作られたハリボテの王子様という背景がある。
その魔法が切れた王子様の姿が「世界の果て」である鳳暁生の訳だが、その変更点にはTV版の造型からより"白馬の王子様像"を矮小化するというコンセプトが見られる。 ImageImageImage
暁生の声は及川光博に変更されているが、その意図は"偶像"としてのアイドルイメージの付与だ
周囲に対して優雅な王子様を演じるが、自慢の高級車は鍵を無くして動かない
鍵が無い事に焦り「鍵の無い車は動けないまま錆びていく」と口走るその意味は、"理想の王子様"である事へのプレッシャーと焦燥感だ ImageImageImageImage
最早アンシーの献身も効果は持たず、その虚栄心と自らの在り方に耐えきれずに暁生は自殺するのだが「世界の果て」としての役割はまだ終わらない。

「世界の果て」は王子様とお城でワンセットと言える概念だ。
幸せの象徴である王子の城はより強引さを増し、走る障害物として追い付き塞がってくる。 ImageImageImage
終盤に登場する「世界の果て」は暁生本人というよりは、アンシーのエゴによって神格化された"王子様の幻想"とも言える存在だ。

その降臨の仕方の神々しさは、白雪姫の王子様に、キャンディの「丘の上の王子様」や、セーラームーンのタキシード仮面の総体イメージが"敵"として立ち塞がる様なものだ。 ImageImageImageImage
偶像である王子様を突き破り、ウテナとアンシーは「世界の果て」の向こう側にある外の世界へ目指して走る

ラストでは道中に立つお城は消え失せて青空が現れるが、コレは『白雪姫』から始まるディズニープリンセス物へのアンチテーゼであり『少女革命ウテナ』という作品の主題が明確に表れた終わり方だ ImageImageImageImage
漫画版ではディオスと暁生のデザインは微妙に異なり、さいとうちほの代表作『円舞曲は白いドレスで』に登場するサジットに酷似している
この作品のウテナへの影響は強く、サジットは「世界の果て」にならなかったディオスだろう
革命への理想を失わず、ヒロインにとって気高き王子であり続けた存在だ。 ImageImageImageImage
ヒロインにとっての"特別な男性"である王子様とお姫様という関係は、ジャンルを越えて色んな場合にも当て嵌まる面白い題材である
アメコミ映画の金字塔『スーパーマン』(1978)のヒロイン・ロイスとのロマン溢れる夜空の飛行は、映画『アラジン』の「A Whole New World」挿入シーンにも匹敵する名場面だ ImageImageImageImage
変化球な見方では、1978年公開のホラー映画『ハロウィン』を当て嵌めるのも面白い
思春期のヒロイン・ローリーに付きまとうのは、王子様ならぬブギーマンである殺人鬼だ。
幽霊の様に立回り、二階の窓からその姿を発見する様子は『ロミオとジュリエット』の様とも形容される、神秘的でダークな寓話だ。 ImageImageImageImage
一作目から40年後を舞台にした『ハロウィン』(2018)では、精神病院に収容されている殺人鬼マイケル・マイヤーズをこの手で殺す為に特訓に勤しみ、運命の相手をひたすら待ち続けるローリーの姿が描かれる。

かつて畏怖した男性像に立ち向かい克服するという構図は、どこかロマンスにも近い性質がある。 ImageImageImageImage
女の子向けアニメの始祖であった「東映魔女っ子シリーズ」だが、ヒロインに対するメインの相手役がいる作品は数が少ない。
対象年齢を引き上げ、最初に異性とのロマンス要素を取り入れたのは第3作の『魔法のマコちゃん』だ。
相手役の茂野アキラは優男イメージではなく、キリリとしたソース顔だろう。 ImageImage
『キャンディ・キャンディ』の後番組であり、その人気の影響下で制作された第8作目の『花の子ルンルン』に登場するセルジュはオーソドックスな王子様キャラクターだ。
ルンルンを見守る謎の青年だが、実際その正体は異星の王子様である。
魔女っ子物と古典少女漫画の間の子とも言える二人だ。 ImageImageImage
90年代の少女漫画でエポックだったのが、神尾葉子の『花より男子』のキャラ造型だろう
メインの相手役は「おもしれー女」系男子の金字塔・道明寺司だが、一番人気が高かったのは2番手の花沢類だ
ハーフの様な見た目の印象と、何を考えているか分からない神秘性は「ビー玉の瞳の王子様」とも渾名される ImageImageImageImage
『花より男子』と言えばニチアサのアニメ版世代なのだが、当時は商業的に失敗したらしく対象年齢を下げて制作された後番組が『夢のクレヨン王国』だ。
相手役の金髪美少年クラウドは、戦う騎士要素をプラスした"王子様"としての属性を印象付けている。
ロマンス描写は控え目であり、ソフトで初々しい。 ImageImageImage
『明日のナージャ』は、70年代少女漫画の様式をニチアサ枠に持ち込んだ野心作だ。
双子の兄弟フランシスとキースは、正統派の王子様ポジションと怪盗黒バラというミステリアスな役所を其々で担う。
当時の潮流にはそぐわなかったのか業績は不振であったが、一部のニーズには物凄く刺さる題材である。 ImageImageImage
『ふたりはプリキュア』は直接的な恋愛描写を売りとはしていないが、ロマンスの名残は強い
美墨なぎさの片想い相手である藤村省吾こと藤P先輩の存在と、憧れの先輩への淡い恋心という描写は初代の大きな特徴だ

雪城ほのかに対するキリヤは、敵対しながらも心の繋がりを見せる異性の存在の儚さを見せた ImageImageImageImage
『Yes!プリキュア5』で夢原のぞみの相手役になるのは、パルミエ王国の王子でありマスコットキャラでもあるココだ
歳上の男性として魅力は充分だが、人間体が"仮の姿"でありマスコットキャラとガチで恋仲になるヒロインは今観ても斬新だ
シリーズの中でも最も関係が進んだベストカップルと言われている ImageImage
プリキュアはシリーズ全体を通して見ると、主役に相当する異性の相手役の存在が極めて少ない。
対象年齢との兼ね合いもあってか、本格的な恋愛模様を見せると非常にリスクが高いというのも大きな要因だろう

『花より男子』から顕著になったニチアサの「トレンディ路線」低迷時期とも関連した論題だ。 Image
『Go!プリンセスプリキュア』は『ウテナ』からの影響を強く感じる作品だ
春野はるかの相手役のカナタはホープキングダムの王子様であり、その名前からは「世界の果て」とは正反対な"未来への希望"の意味が見てとれる

お姫様と王子様の"対等性"を描いたプラトニックな関係は、ちょっとした新機軸だった ImageImageImageImage
裏のニチアサとも言える『プリンセスチュチュ』は王子様とお姫様の関係性が主体だが、登場する王子"みゅうと"はヒロインあひるにとってどんなに想い焦がれても届かない立ち位置にいる
この過酷な状況設定は王子様の存在をより神格的なものとし、尚且つヒロインに対する"真の想い人"の存在も印象付けた ImageImageImageImage
『カードキャプターさくら』のロマンスもある種の過酷さがある
さくらの憧れであり初恋相手の月城雪兎の正体は、さくらの力を戦いで試す審判者のユエである
全3期の中でも最も精神的に追い詰められた回であり、別人格とはいえ想い焦がれていた存在が敵意を抱いて挑んでくるシチュエーションは絶望的だ ImageImageImageImage
『CCさくら』の後番組である『コレクター・ユイ』に登場するユイの憧れ瞬兄さんは、出番は多くないが終盤では洗脳されて敵対関係となる。
悪役グロッサーに体を乗っ取られ瞬の口調のまま喋る姿は、最愛の人がラスボスとなった形とも言える。
その状態での相手を救済に導く、悪役との"対話"が印象的だ。 ImageImageImageImage
『コレクター・ユイ』と同時期のアニメでは、種村有菜原作の『神風怪盗ジャンヌ』がある。
古くから王子様とは表裏一体とも言える"怪盗"のモチーフを、ヒロインにも適用させたのが売りの作品である。
相手役の名古屋稚空も裏の顔を持つ怪盗シンドバッドであり、もう一人の主人公と言える重要な役所だ。 ImageImageImage
宮崎駿監督に最も影響を与えた作品で『雪の女王』というソ連時代のアニメがある
脱ディズニーを志したこの作品の特徴はヒロイン・ゲルダとカイの関係性だ
雪の女王に拐われたカイを助ける為にゲルダは能動的に旅路を行き、女王の元に辿り着く

『雪の女王』とは自身にとっての"王子様"を奪還する物語だ ImageImageImage
宮崎監督のキャリアの集大成は、やはり『千と千尋の神隠し』だろう
冒頭から登場するハクは千尋の窮地を救い指針を示してくれる頼りになる"王子様"だ
後半ではその立場は逆転し、千尋がハクを救う事になる
コレは宮崎監督が最もやりたかった能動的ヒロイン像であり『雪の女王』の現代的なオマージュだ ImageImageImageImage
『ハウルの動く城』のハウルも王子様像のちょっとした脱構築例だ。
金髪碧眼という王子様としては定番のビジュアルだが、ソレは染めてるだけのファッションでしかない見せ掛けの姿である
最初の印象とは違う手の掛かるヘタレ男の姿が実体ではあるが、メンタルの脆さ諸々を含めても魅力的なのがハウルだ ImageImageImageImage
押井守監督の『うる星やつら オンリー・ユー』はヒロインのラムが主人公の諸星あたるを恋敵の手から奪い返す話だ
美人を見ればホイホイ付いていくダメ男のあたるだが、ラムからすれば"唯一無二"の王子様である
宮崎駿と押井監督自身は酷評したと言われる本作だが、プリンセス反転物としてみれば面白い ImageImageImageImage
続く『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』ではラムが見る夢の中の世界を舞台にして、あたるが如何にラムの想いに応えるかが主軸となっている
眠るヒロインを目覚めさせるという点では現代版『眠れる森の美女』と言えなくもない。
終盤の展開は王子様としてのあたるの面目躍如といったところだ ImageImageImageImage
ここで少し、近年の米国式王子様造型に目を向けてみよう。

『シュレック』シリーズに登場したチャーミング王子は悪役であり、本家ディズニーの『魔法にかけられて』のエドワード王子は、どこか抜けた脳筋キャラだ。
『マレフィセント』のフィリップ王子は、大して役に立たない存在に改変されている。 ImageImageImage
これらの王子様達はヒロインに対するメインの相手役ではなく、あくまでサブキャラクターでしかない
その意図はステレオタイプの王子様像を"風刺化" する事であり、脱構築とは少々趣向が違うものである
そんな風刺型の王子様造型の中で面白い試みであったのが『アナと雪の女王』に登場するハンス王子だ ImageImage
ハンスのモチーフはアンデルセンの『雪の女王』に出てくる「鏡」だそうだ
相手の心情を"反射"しソレに合わせて動く
悪人としての本性を現したとされるアナとの会話も、自身がエルサに"裏切られた"と勘違いしたアナの失望心を反映したに過ぎない
エルサへの凶刃も、彼女が持つ加害者という立場の反映だ ImageImageImageImage
アナの制裁を受けて牢に入れられる時が、本編で唯一ハンスが一人きりになる所だが、反射する相手を持たないハンスは機械人形の様に機能が停止した状態となる
王子様が持つ"舞台装置"の役割を無機質的に表現した例だが、感情の有無が不明確なその様は「哲学的ゾンビ」の概念に近い不気味さを感じさせた
こうして比較してみると、近年のハリウッドによる"白馬の王子様"のイメージコンセプトは、日本のものとは大分趣が異なる。

「丘の上の王子様」や、タキシード仮面と王子ディオスにあった神秘性や儚く消えてしまいそうな性質は、長い歴史による発展で獲得した日本独自のイメージと言ってもいい。 ImageImageImage
そんな中で1997年に公開されたハリウッド大作『タイタニック』は日本式の王子様が持つ、死の匂いからなる儚さを的確に表現した例だ。
役柄は王子様では無いが、線の細い当時の眉目秀麗なレオナルド・ディカプリオの外見は美人薄命のイメージとも上手く結び付き、少女漫画的な王子様像との合致を見せた ImageImageImageImage
ロマンス描写の王道である大衆恋愛小説レーベル、「ハーレクイン」も対象年齢を上げた王子様表現の派生の一つだ。

とても息の長いコンテンツなだけあって現代ものや歴史もの、その種別や登場する男性ヒーロー像のパターンは様々である。
日本でのコミカライズ展開等、少女漫画家との親和性も高い。 ImageImageImageImage
ここらで総括として"白馬の王子様"の歴史は、どこから来てどこへ行くのか?の〆に入ろう

その起源は中世ヨーロッパに興隆を極めた「騎士道物語」のジャンルにも繋がるだろう
貴女崇拝という"男性視点"の物語なので、日本での派生はヒロイック・ファンタジーなゲーム作品に多く受け継がれている印象だ ImageImageImageImage
数多の男性の中から自分の好みのタイプを選び獲得する「乙女ゲーム」のジャンルは、『アンジェリーク』から始まったとされる。

主人公とライバルキャラのデザインは『キャンディ・キャンディ』を参考にしており、少女漫画の世界観の中で"あのお気に入りのキャラと結ばれたら"を実現したのが画期的だ。 ImageImageImageImage
バーチャルとはいえど理想の男性を選ぶというのは、"自分にとっての王子様像"をその中に見出だすという事だ。
会話選択からなるシミュレーションによって、ルートは様々に変化する。
"運命的な恋愛"を演出するゲームシステムは、日本のコンテンツの中でも最も特徴強い近年の王子様表現と言えるだろう。 ImageImageImageImage
ディズニーヴィランを題材にしたスマホ向けアプリ『ツイステッドワンダーランド』は、「乙女ゲーム」の様に理想の男性を獲得する内容ではない。
だが、数多くの美麗な男性キャラクター達との交流や学園内での共同生活というシチュエーションなど、そのルーツは間違いなく乙女ゲームからの発祥だろう。 ImageImageImage
元来イケメンキャラと悪役造型の組合せは相性が良いものだ
なによりフェチズムへの訴求力が強い。
枢やなの作風と美男表現の元祖ディズニーの合流は、原点回帰でもあり"王子様表現の最先端"と言っても過言ではない

しかし緑川光声のショタジジイキャラ・リリアは色んな要素が相まって、実にエッチだ。 ImageImageImageImage
映画やアニメ、少女漫画や小説など様々な分野で発展を遂げていった"白馬の王子様"だが、今現在ではゲーム分野が最も新しい形だろう。
プレイヤーによるキャラクターの取捨選択やレベル上げによる育成など、理想の異性を其々の望む形に"作り上げていく"というのが面白い派生の在り方だ。
偉大なる少女漫画絵師"高橋真琴"の言葉に「女の子は皆、お姫様」というのがある

「男の子は心がけ次第で、誰でも王子様になれる」というのも高橋真琴の持論だ
ソレは身分や階級、ましてや"ルックス"ではない精神性への観点だろう

これを機に"白馬の王子様"への見方の幅が広がって貰えたら幸いである ImageImageImageImage

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28 Jan
今期の深夜アニメラインナップの一つ『ワンダーエッグ・プライオリティ』

大御所脚本家の野島伸司が初めてアニメでシナリオを手掛けたオリジナル作品だが、今の所はなかなか面白いと思わせる高品質な内容のアニメだ。 ImageImage
その内容は思春期の少女達が各々の親友を取り戻し救う為に異世界で戦う話……と書くと、なんだか激しい既視感に襲われる。本作での親友の意味とは、互いに自己を補い合う"分身"の様なモノだ。

そう、『ワンダーエッグ・プライオリティ』とは『『少女革命ウテナ』』なのだ。 ImageImageImageImage
ちょっとした事にでも関連性を見出だし、なんでも『少女革命ウテナ』に結び付ける習慣と思考回路を持つウテナファンは通称「ウテナ・ゾンビ」とも呼ばれる。
実際、世の中の殆どがウテナに通じる事ばかりだ。

自分もワンピースの名シーンが、ウテナとディオスの邂逅場面と重なって見えて仕方ない。 ImageImageImage
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