確かに合衆国や西欧でピンクウォッシュは大きな問題ですし、日本においても商業主義との関係でその片鱗はもちろん見出せますが、なぜ「声を上げる女性たち」の文脈で、しかも日本において、殊更に「LGBTの権利擁護をそれ以外の暴力を隠蔽するために使うこと」への注意喚起が必要とされるのでしょうか…
→「差別は許されない」と言う記載を理由としてそもそも非常に不十分なものだったLGBT新法がそれでも成立しないと言うレベルでLGBTの権利が蔑ろにされている日本で、具体的な事例批判の文脈でもなく単に漠然と「この国のピンクウォッシングに注意」と言われると、え、まずそこなの?と言う驚きがある。
→ ピンクウォッシュ、元々は、国をあげた「ゲイフレンドリー」アピールでパレスチナ占領という国家暴力隠蔽を目論んでイスラエルの外交戦略を指しますよね。そこから同様な企業戦略の批判にも援用されはするけれど、「日本社会」の話をするなら、そもそもウォッシュできるほどピンクじゃない気が。
この件、研究者とかジャーナリストとかの方たちから出てきているので、性的少数者の権利擁護についての理解がものすごく食い違っているのではないかと、割とリアルに驚愕し懸念している。

それとももしかして日本語だと「ピンクウォッシュ」の意味がかなり違ってきている?
(あと、ピンクウォッシュという外交戦略自体はなくなったわけではなく欧米でも問題は山積だけれど、同時にこの動きが大きく問題にされ2000〜2010年代に比べると、現在は欧米各地でそもそもLGBTの権利自体が反ジェンダー運動に押し戻されつつあるという側面もあるので、なおさら「なぜ今」感はある)
はじめまして。突然に失礼いたしました。「ピンクウォッシュ」自体はセクシュアリティの政治がご専門でなければご存知なくてもと思いますし「ジェンダー格差後進国である日本社会を変えるには「ピンクウォッシュ」をやめる必要がある」との理解だけご再考頂ければ幸いです。

三牧さんや元記事を書かれた治部さんに絡むつもりではありませんが、すでにはっきりとした文脈と用法のある語を説明なく別の意味で流通させる(しかも研究者が)ことになると問題も多いので、あらためて。
ピンクウォッシュとは、LGBTの権利擁護を煙幕にしてそれ以外の暴力を隠蔽する戦略です。
→「ジェンダー格差後進国である日本社会を変えるには「ピンクウォッシュ」をやめる必要がある」という主張が成立しないのではと私が考える理由は、まず、日本ではピンクウォッシュが成立するほど(LGBTの権利擁護を煙幕として利用できるほど)LGBTの権利擁護が推進されていないこと。→
→ そして、そもそもジェンダー平等がLGBTの権利擁護を口実に阻害されたりはしていないこと。むしろ世界的に見ても、LGBTの権利剥奪は、リプロダクティブ・ライツの縮小などジェンダー平等へのバックラッシュと同時に(あるいはそれに先行して)起きている。→
→「日本のジェンダー格差解消のためにはピンクウォッシュをやめなくてはならない」という表現は、日本で性的少数者の権利擁護が性差別維持の口実として使われている、という意味になりますし、それは二重の意味で事実に反します。→
→ それからもう一つ、「ジェンダー格差解消のためにはピンクウォッシュをやめるべき」というこの一節は、元記事では、一文を挟んで「人種とジェンダー問題の「交差」を理解」し「BLMへの認識」を持つ必要を説く文につながる。でもBLMはまさしく性的マイノリティの権利を明示的に謳っていますよね。
→ 上のスクショはBlackLivesMatterのサイトから。
『私たちが声を上げるとき』にもBLMの設立メンバーが「クィア・ブラックフェミニスト」だとはっきり書かれていて、ここから「ジェンダー格差解消のためにはピンクウォッシュをやめるべき」は出てこないと思うのです。

blacklivesmatter.com/about/
→それでは日本ではピンクウォッシング的なことは一切ないかといえば、その試みは何度かされていると私は思っています(成功したかどうかは微妙)。ただそれはジェンダー格差を隠蔽するためではなく、オリンピック周辺の諸々の暴力(野宿者排除とかジェントリフィケーションとか)と関わっている。

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Jun 17
「フェミ系の授業では学生が教員に反論したくても(成績に響くので)反論できない」的なこと死ぬほど言われるので、シラバスに教員に反論しても成績関係ないですと書いたり初回授業でわざわざ時間取ってその話したりするんだけど、むしろフェミ系ってそういうエクストラコーションを強いられがちでは。
→ 私の上のツイートのことかなと思うのですが、わたし自身過去20年間それやってきてますし、「説明するのうぜー」ではなく、フェミ系は最初から「反論させないに違いない」的な思い込みで受講されがちなだけにそこは気をつけざるを得ないよね、という話をしていたのですが。
→ あ、でも「担当教員の政策選好と異なる立場の論述の扱い」と仰っているので私の話ではないかも。そういう分野ではないので。
私のツイートについてのことでないのであれば、失礼いたしました。
Read 4 tweets
Jun 17
小川公代さん、土地和代さんからそれぞれご恵投いただきました。
ありがとうございます。 Image
→ *土屋* 和代さんです。すみません自動変換が変な形で機能してしまって…
→ありがとうございます!ご論考の本筋から外れた自分のことで恐縮なのですが、小川さんが「ダロウェイ夫人」論にパンデミックを読み込んでいかれるところを拝読しながら、私がバトラーやセジウィックを読み返しながらしてきた作業の一つはこれだったのだな、と思いました。

Read 6 tweets
Jun 17
というか、大学生のための100人100冊ってやつですよねこれ。ざっとみてうっわ見事に男ばっかりリストだなとだけ思って閉じたのですけど、そもそもこのセレクション偏ってるよねという指摘に対して女性がほぼほぼいなくても全然問題ない!という意見が返ってくるわけね…(疲
(というか今もういちどちゃんと検索してみたら、これ大学生協が出してるリストなのか…画面閉じて深呼吸して忘れてしまおう、で済ませてよい話ではなかった…)
Read 5 tweets
Oct 18, 2021
サセックス大学キャスリーン・ストックのトランス排除的団体との繋がりに対する学生からの批判と抗議をめぐる一連の出来事について、UCバークレーのGrace Laveryのスレッド簡訳。「女性のセックスに基づく権利の宣言(WDSR)」への署名の意味を説明していて日本語圏でも参考になる。
→ 以下スレッド。ほぼツイートごとに対応。
必要に応じて元スレッドの画像を借りています。
以下ザクっと訳:

現在もっとも議論になっているのはキャスリーン・ストックの(WDSR)」への署名について。特に問題となるのはWDSRの1c条項が「根絶主義」、つまりトランス女性を法律上根絶することを目的としているかどうか、という点。

Read 23 tweets
Jan 3, 2020
SNS上でのトランス排除言説に言及するもしないも、当然各人の自由です。ただ、研究者としてそこに「マイノリティ同士が対立させられる構造」を見ると言うのであれば、少なくとも「対立」を作り出し煽ってきた言説への批判的姿勢は表明して頂きたかったと、同業者としては思います。
千田さんとのやりとりを経て、私がなぜこのように感じたのかを、簡単にメモしておきます。→
→ ご存知のように日本語圏SNS上のトランス排除はこの1年半くらい目立ってきているのですが、個別のツイートやエントリではなく排除言説全体がどのような効果をどのように作り出してきたかを考える時、そのひとつの特徴として次の三つのタイプの言説の組み合わせに注目できるように思います。→
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Dec 20, 2019
J.K.ローリングのトランス嫌悪ツイートの件、ローリングは問題の裁判が「セックスは現実だと主張する」ことは職を失うに値すると裁定したかのように述べているが、これは非常に不正確。実際は、他者の尊厳と安全を直接的に毀損する信念は、信念の自由で守られる範疇にはない、という裁定。→
→裁定本文はこちら:drive.google.com/file/d/12P9zf8…
→90段落目が分かりやすい。
「原告はセックスの理解において絶対主義者であり、それが相手の尊厳を侵害する、そして/或いは威圧的、敵対的、侮辱的、屈辱的、または攻撃的な環境を作り出すことになったとしても、彼女が適切とみなした性別で他人を呼ぶことは、彼女の信念の核となる要素である。→
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