「なぜ日本が新規感染者数が突出して多いのか」ということを真剣に考えてみます。

まず人口100万人あたりの新規感染者数を見てみましょう。

確かに日本は英米よりもかなり多く、フランスも抜いてしまいました。

一方、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールあたりは日本よりも多いです。
さてこの理由なんですけど、非常に複雑な問題なので、単純に「これが原因です」とはなりません。

そういう答えを期待している人は、最後まで読んでも納得感は得られないと思います。

求めているタイプの情報でなければ、ここでやめることをおすすめします。
まず前提として、パンデミック始まって以来全数に近い把握ができていた国は、初期のオセアニアや台湾等を除きほぼありません。

どこの国にも無症候性感染はいて、報告精度にも大きなバラつきがありました。

これに加えて、多くの国で自己検査の陽性結果を報告しない人が増えているのも事実でしょう。
では「日本が欧米を逆転したことは過小報告のみで説明できるか」という話になると、私はかなり否定的です。

というか、そんなデータがありません。

外国に住んでいると熱が出ても検査しなかった人ぐらい何人か知っていると思いますが、それが3倍以上の陽性報告者の原因かどうかは全く別問題です。
「死者数を見ていればわかる」というのもかなり怪しくて、例えば🇬🇧ではこれぐらいダイナミックに死亡率が経時的に変わっています。

これは主に
・ワクチン
・変異
・過去感染
によるものです。

assets.publishing.service.gov.uk/government/upl…
それ以外にも、コロナは年齢によって死亡率が何十倍も違うことがわかっているわけですから、国家間比較をしたければ感染者の年齢構造も考慮に入れる必要があります。

死者数から感染者数を推定するためには、「死亡率が一定である」というとんでもなく強い仮定が必要で、これは成り立たないでしょう。
ここまでまとめると、

・他国は過小報告が多い
→おそらく○

・過小報告が日本より圧倒的に多い
→そうだとして一体何倍という想定なのか?

・死者数が少ないのは感染者数が少ない証拠
→死亡率に影響を強く与える因子を分析せずにそんなことは言えない

ということです。
では他の方法で感染者数を推定できないかという話になります。

これはマサチューセッツ州の新規感染者数(←)と下水のコロナRNA(→)を比較したものですが、長期的にかなりよく相関していることがわかります。

今年5月の波はデルタの時とほぼ同様で、大量の過小報告を支持するデータはありません。
ということで、正確な新規感染者数の把握は不可能ですが、やはり日本は多いのだと考えるのが自然です。

ではなぜ多いのかという話になりますが、ここで注意すべきは「マスクは意味がない」とか「ワクチンは無意味」とかそういう話には絶対ならないということです。
根本的に、マスクが感染予防に役立つかどうかを調べたければ「マスクをつけている人とつけていない人でどちらが感染が多いか」を調べる必要があります。

「マスクをつけている人が多い国」と「少ない国」ではありません。

感染に影響を与える要素が全く揃ってないので、その比較は無意味です。
実際にマスクをつけた人とつけていない人の比較はどうだったのか。

ノーマスクの人に比べて、サージカルマスクをつけた人はリスクが66%減少するという報告があります。

でも「じゃあ日本で増えるのはおかしい」とはなりません。

理由は他にいくらでも考えられるからです。
cdc.gov/mmwr/volumes/7…
例えば、過去感染の少なさはその1つです。

もう一度最初のグラフに立ち返ると、欧米はどの国も今年1-2月に今の日本よりも大きな波を経験しています。

つまり、オミクロンBA.1に対する抗体を持っている人がかなり多いです。

これは当然BA.5に対する感染防御に有利に働きます。
こう書くと、「じゃあやっぱり感染した方が良い」っていう人が必ず出てくるのですが、出発点が違うとしか言いようがないです。

そもそも感染したら重症化したり命を落とすリスクがあるので、これをどうすれば回避できるかという話です。

「感染しても大丈夫なら感染した方が良い」みたいなロジック。
まとめると、現状日本の非常に多い新規感染者数は、

・これまでに感染した人が他国に比べて非常に少ないこと
・その中で行動制限なしで生活していること

が主要な要因だと考えられます。

何がどの程度効いているかはわかりませんが、「これまでの感染対策は無意味」という話ではありません。
付け加えておくと、死者数は遅れて上がってくる、というのも当然あります。

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More from @mph_for_doctors

Jun 27
@TJO_datasci ありがとうございます。1点目、当初予定していたご説明の1つなんですが、特に医学研究とか高い倫理的ハードルが存在する領域のRCTって、往々にして厳しいinclusion/exclusion criteriaが存在して、真に効果を推定したい集団になっていないことがあります。疫学用語のgeneralizabilityの問題になります
@TJO_datasci つまり、本当はXX病の人全てに治療効果を推定したいのに、診断後何日以内とか、予後が何ヶ月見込まれるとか、そういう条件をつけて試験をするので、得られた結論を外挿していいのか?という問題です。それなら、最初からできるだけデータを集めて、「対象集団」の効果を推定した方が良くない?と。
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Jun 27
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これはデザインだけで決まるものではないです(デザインが関係ないとは言ってない
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一方で、loss to follow-upによるselection bias(と疫学では呼びます)などは個別に調整が必要ですよね。
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Jun 26
三原じゅん子さんが「元女優」だから議員には不適切みたいな言説を見ました。

三原さんがHPVワクチンの積極的接種勧奨再開に向けて、どれだけ努力されてきたかを知ってる身としては、正直浅い考えだと思います。

私たちの声を真剣に聞いて、やれることを全部やってくれたのは三原さんだけですよ。
昨年夏の時点でも、ほとんどの議員が「まあHPVワクチンのこともやらないといけないよね」ぐらいのレベルでした。

そんな中、菅さんや加藤さんに何度も話をしにいき、「今やらないとダメなんです」って言いに行った人いますか?

三原さんがいなかったら、今もどうなっていたかわからないと思います。
もちろんそれは三原さんが厚労副大臣という立場だったからでもあります。

ただ、そのポジションを得るためにやってきたこと自体が本気度の表れなんです。

そもそも三原さんは、2009年の導入の時期からこの問題に取り組んでいます。

去年の積極的勧奨の再開は、三原さんにとって10年越しの悲願です。
Read 4 tweets
Jun 26
元ツイートはこれですね。

日本で中絶の際に必要なのは「配偶者同意」であって、未婚のパートナーの同意は関係ありません。

病院で父親の意思を尋ねられることはあるかも知れませんが、法的拘束力はありません。

中絶できないと勘違いして、出産後に子供を遺棄した女性もいます。

正しい知識を。
当時のニュースのソースが見つかりました。

2件のクリニックで相談し、「パートナー同意」を求められたとのことですが、本来これは同意があれば望ましいぐらいのレベルで、なくても中絶できるはずです。

なので、このクリニックの対応はひどいです。本当に。
yomiuri.co.jp/national/20210…
「配偶者に事実婚のパートナーも含む」は確かにその通りですが、事実婚とは婚姻届を提出していない状態で、夫婦と同様の関係を有し共同生活を送ることを指します。ただの同棲よりもハードルが高く(親族に紹介したとか結婚式を挙げたとか)、学生同士の交際のイメージではないと思います。
Read 5 tweets
Jun 25
憶測で盛り上がられても困りますので、ストレートに否定しておきます。

こびナビのこれまでの活動に厚労省の予算は一切使用されていません。

この外資系広告代理店の名前を聞いたこともないし、そもそも昨年1月時点で現こびナビメンバーが医師インフルエンサーとして選定されるとは思えないですね。
その当時メディア露出があったのって、辛うじて峰先生がスッキリに出てたぐらいじゃないでしょうか。

こびナビは千葉大学メンバーが運営の中心ですけど、広告代理店がそこに着目する理由がサッパリわからないです。

普通に考えて、どっかの教授とか忽那先生とかに頼むでしょう。
「立ち上げと共にPR Timesにリリースを出しているのは代理店が入ってる証拠」みたいな書き振りもあるようですが、別に代理店を通さなくてもリリースは書けますよ。

というか、ぶっちゃけ基本的に私が全部書いています。

これは今までのヘルスプロモーションの経験の積み重ねですね。
Read 5 tweets
Jun 16
救急医なので、そもそもAEDを使う状況について説明しますね。

AEDは、病院の外で心臓が止まった人の中で、なんかの拍子に脈がバグった人に使います。

実は若くても致死的な不整脈の素因がある人がいて、いきなり心臓が止まることがあります。

学校のプールでの突然死とかは年5例ぐらい起きてます。
院外心停止(病院の外で起きた心停止)って普通はまず助からないんですよね。

この論文によると生存確率6%未満で、日本はもうちょっと高いかも知れませんが、良くても10%ぐらいでしょう。

生き残った人も大半は脳にダメージが残って、いわゆる植物状態になるのが普通です。

ahajournals.org/doi/10.1161/ja…
救命センターには毎日毎日お年寄りの院外心停止が運ばれてきて、亡くなるか、意識が戻らず転院されます。

そんな中、ごく稀に現場でAEDを使われた若い人が、脈が戻った状態で運ばれてきます。

脈が戻るまでの時間が短いと、普通に病院から歩いて退院できる人もいます。

私も何例か経験あります。
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