地理に関心がある皆さんへ。
国から系統地理を見ると、地理の要素や要因をより鮮明に理解できます。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#リヒテンシュタイン」。中央ヨーロッパ、アルプスの山中に位置する非武装中立国。世界屈指の富裕国です。
では、参りましょう。 ImageImage
リヒテンシュタイン公国は、中央ヨーロッパ、アルプス山脈の麓、スイスとオーストリアに囲まれた内陸国。面積はおよそ160㎢と、日本の小豆島と同じくらいの面積です。
国名の由来は、この地を統治するリヒテンシュタイン家の名そのもの。そしてその意味はドイツ語で「リヒト(Licht=光)」、さらに
「シュタイン(Stein=石)」を合わせた言葉です。
この「石」というのは、城砦の建材の石を指していて、転じて城砦や城壁を示しているという見解もあります。
この地の人類活動の痕跡は、山がちな地形にも関わらず意外に古く、最も古い痕跡は紀元前3万年以前(中石器時代)、そして農耕集落は
5,000年頃から谷部に見られるようになります。ギリシャとイタリアの陸路の中間点に位置することから、両文明の影響を受け、その後ローマ帝国の支配下に入りました。
ローマ帝国の崩壊後、ゲルマン人が征服、さらにフランク王国の支配下に入ります。ここで、主要な言語がロマンス語からドイツ語系に
変わったと考えられています。その後同地は神聖ローマ帝国の支配下に。
現在の領主、リヒテンシュタイン家が生まれたのは12世紀。14世紀にはハプスブルク家に仕える大貴族となり、1699年、当主であるヨハン・アダム・アンドレアス公がスイス国境に近い低地のシュレンベルク男爵領、次いで高地部である ImageImage
ファドーツ伯爵領を1712年に購入、1719年に帝国により自治権が付与され、現在の領域が形作られました。
なお、リヒテンシュタイン家は現在でもヨーロッパ各地に私有地を持ち、その面積を合わせるとリヒテンシュタイン公国の面積を大きく上回る、ヨーロッパ屈指の大富豪であり名家です。
なお、1867年に永世中立国を宣言、翌年に軍隊を廃止し、非武装中立を宣言。現在も軍事力は保有していません。
ちなみに同国は非常に珍しい「二重内陸国」。海に出るためには少なくとも2つの国を超えなければならず、他にはウズベキスタンがあるのみです。
確かにスイスもオーストリアも内陸国ですね。 Image
東側がアルプス山脈、そして西側がライン渓谷(ライン川沿いの大峡谷)であり、人口の大半は西側に集住しています。
国土の2/3が山岳地帯ですが、西側に平地があることから比較的スイス側にアクセスがしやすいとも言えます。
そのため、スイスとの経済的なつながりも強く、通貨もスイスフランが Image
導入されており、文化の「スイス化」が指摘されることもあります。
なお、気候は南からの山越えの風を受けることから、山岳国としては比較的温和。ただ、冬はかなり冷え込みます、稀に最低気温が氷点下15℃に達することも。
また、風はライン渓谷を走って山肌を昇ることもあり、比較的降水量も多く、
首都ファドゥーツの1月平均気温は0℃、7月は20℃、年降水量は1,000㎜ほどです。
これらの条件からも、水力発電が盛んであろうことは見当がつきます(総発電量の7割を占める)。
経済を見ると、スイスと似たような傾向があり、精密機械工業、医療、観光、金融業などが盛んです。
スイスとは関税同盟を ImageImage
結んでおり、通貨も同一なことから経済的な結びつきが非常に強くなっています。
また、タックスヘイブン(租税回避地)としても知られ、人口(およそ4万)よりもペーパーカンパニーの数の方が多いと言われています。一方で、その不透明性が度々非難されることもありました。
ただ、現在は透明性ルール
の受け入れ等により、非協力的タックスヘイブンのリストからは除外されるなど、状況は変わりつつあります。
いずれにしても極めて富裕な国で、「スイスから労働者が越境して働きに来る」と言えばそのレベルがわかるでしょうか。
国民一人当たりGNIは驚異の190,000ドル(打ち間違いではありません)
ちなみにスイス(88,000ドル)の倍、日本(42,000ドル)の4倍に達します。
外国人労働者が多い国でもあり、これは中東でも見られる人口が少ない富裕国あるあるですね。
民族構成はリヒテンシュタイン人7割、スイス系1割、オーストリア、ドイツ、イタリア系がそれぞれ5%前後。
公用語はドイツ語です。
ちなみに、フランク王国の支配下に入る前に同地を支配したゲルマン系民族は「アレマン人」といい、彼らが使うドイツ語系の方言は現在も残っています。
宗教は国教であるキリスト教カトリックが8割、プロテスタントが少数派です。
というわけで今回は、マイクロステートにして富裕国の一角、 Image
リヒテンシュタイン公国について取り上げてみました。
現在は経済などの面でスイスと繋がりが強いとはいえ、その成り立ちや文化はかなり異なります。
もし、足を運ぶ機会があれば、これらの事を知っておくと何かの役に立つかもしれません。
今日はこれくらいで。
ついでにですが、シュタイン(石)が城を表すのではないか、という話について、これを見ると何となくああ!となります。
リヒテンシュタイン城の全景です。
ガチガチの城砦かと思いきや、意外に小さくてかわいらしい佇まい。 Image

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Feb 28
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メソポタミアという言葉は、ギリシャ語の「川の間」という意味で Image
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では、参りましょう。 ImageImage
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では、参りましょう。 ImageImage
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