地理に関心がある皆さんへ。
国から系統地理を見ると、地理の要素や要因をより鮮明に理解できます。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#カザフスタン」。中央アジアの内陸国で、広大な草原地帯を擁する国。現在は資源大国として名を馳せます。
では、参りましょう。
カザフスタン共和国は中央アジアに位置し、領域の一部は東ヨーロッパに分類されます。トルコやロシアと同じくアジア州とヨーロッパ州にまたがり、世界最大の内陸国です。
ロシア、中国、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタンに囲まれ、南西部はカスピ海に接しています。
また、世界でも有数の
人口密度が低い国であり、人口密度はおよそ7人/㎢。面積272万㎢に対して、人口はおよそ1,900万人です。
国名は同地の民族名カザフ族に由来。テュルク語系の言葉で「さまよう」を意味するqazが元になっているという説があります。
後ろにつく「スタン」は、ペルシア語の「土地・国」という意味とされ、
合わせて「カザフ人の国」です。
この地域は遊牧民の歴史が非常に有名ですが、紀元前3,500年頃には人が住んでいました。ちなみに当時の人々と同じグループは、東はアメリカ大陸先住民、西はスカンディナビア半島まで達した痕跡があります。
その後、大草原地帯には牧畜文化が栄え、人類史上最初に
馬を家畜化したのはこの地域だと言われています。
この大草原地帯は、東西を結ぶシルクロードのルートも通っています。
現在支配的であるテュルク系民族が移住してきたのは5世紀以降で比較的新しく、15世紀までの間に支配的民族はペルシア系からテュルク系となりました。
その後モンゴル帝国の一部、
カザフ・ハン国を経て、19世紀にロシア帝国の支配下に。その後ソ連邦内の共和国となり、1991年、ソ連解体と共に独立しました。
地形は、西から東に向かって徐々に高くなっており、西側はカスピ海沿岸から広がる低地、そして広大な中央部のカザフステップ、東にはやや標高が高い台地が広がり、東部
国境付近にはテンシャン山脈やアルタイ山脈の急峻な山岳地帯が広がります。
カザフステップの一部からカスピ海沿岸の低地は先述の通り東ヨーロッパに分類される地域で、国土面積の15%ほどを占めています。
最高峰はテンシャン山脈にあり、標高はおよそ7,000mに達しますが、国土の大半は標高300mに
届かない程度。
また、東部の山地群は同国における主要な水源地帯となっていますが、それらの河川はカスピ海、アラル海、バルハシ湖などに流入するか、砂漠やステップに末無川として消えていきます。
気候は大陸性気候が顕著。南部は砂漠地帯で中央部がステップ気候(BS)、北部には冷帯(D)気候が
東西に細長く分布し、南東部にはDsa(冷帯で夏乾燥冬湿潤、気温差が大きい)という面白い気候帯も見られます。地中海性気候で大陸性の特徴(冬の冷え込み)を持ったタイプですね。
経済は、古くは遊牧、旧ソ連時代は穀倉地帯や綿花地帯(この時代に、過灌漑によるアラル海の縮小など環境問題が発生)
でしたが、現在は産業構造が大きく変化しています。何と言っても鉱産資源の豊富さが際立っており、カスピ海沿岸の油田の発見と生産開始は同国経済を飛躍的に発展させました。生産された原油は、パイプラインを通じて輸出されています(内陸国なので)。
パイプラインも欧州向けだけではなく、
中国向けも整備されています。
それ以外にも石炭、銅、ウラン、クロムなど豊富な資源が埋蔵されており、未発見・未開発の資源も多く眠っていると考えられています。
国民一人当たりGNIは8,800ドルほど。旧ソ連時代の経済状態を知る方が聞くと驚きの数字ではないでしょうか。
一方で環境破壊も深刻で、
アラル海の縮小はその典型例でしょう。
また、大規模な畑作が導入されたことによる土壌侵食、農薬の過剰使用や都市部での工場排水による地下水汚染なども問題になっています。
さらに北東部でかつて行われた核実験により、放射性物質による汚染がある地域も。
これらの解決には長い期間がかかると
思われます。
民族はカザフ人が6割、ロシア人が3割ほど、他にウズベク、ウクライナ、ウイグルの人々が少数派です。
ロシア系の人々が旧ソ連時代、農耕民として移住してきたため、ロシア系の人口が多いことが際立ちます。
言語はカザフ語とロシア語が公用語。
宗教はイスラム教スンナ派7割、キリスト教
正教会が3割ほどと、およそ人口の比率に沿っています。
ちなみにカザフスタンの首都アスタナは、最大都市アルマトイから1997年に遷都された街。
南東部のアルマトイはシルクロードのオアシス都市としても栄えた古き交易都市ですが、地震が多い等の理由から中央部に近いアスタナに遷都されました。
というわけで、中央アジアの内陸に広大な国土を持つカザフスタン。
資源大国としてますます存在感を増しており、日本にとっても重要なパートナーとなりつつあります。
今や、古代の遊牧民の国とは全く異なる光景が広がるというのも面白いですね。
今日はこれくらいで。
1点訂正を。
ロシア系移民は、農耕民ではなく旧ソ連時代の鉄道建設や工場労働者が中心です。
灌漑などの農業政策と移民の話が混ざってしまっていました。大変失礼しました。

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