地理に関心がある皆さんへ。
国から系統地理を見ると、地理の要素や要因をより鮮明に理解できます。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#スーダン」。かつてはアフリカ最大の面積を誇った、大河ナイルがサヘルと砂漠を貫流する大平原の国です。
では、参りましょう。
スーダン共和国は、アフリカ大陸北東部に位置し、国土面積が広い(185万㎢、現在はアフリカ大陸3位)こともあり、エジプト、リビア、チャド、南スーダン、エチオピア、エリトリアと国境を接し、北東部は紅海に面しています。
南スーダン分離前は、250.6万㎢の面積を誇るアフリカ大陸最大の国でした。
ちなみに現在の1位はアルジェリアです。
国名の由来はアラビア語の「ビリャド・エス・スーダン(Bilad as-Sudan=黒い人の国)」という言葉です。
この言葉からもわかる通り、この地域は古くからアラブと黒人文化圏の結節点となっていました。
同地における人間活動の歴史は、紀元前8,000年以前に
遡り、ナイル川を中心とした狩猟・漁労・採集生活を営んでいたと考えられています。
紀元前5,000年ごろにはサハラ砂漠の乾燥化により(それ以前は比較的湿潤だったと考えられている)北部から人々が移住、農耕文化が根付き、その後は北に勢力を持つエジプトの古代王朝の影響を度々受けました。
紀元前2,000年頃、南部から移住した人々がクシュ王国を建国、メロエ王国時代を経て、5世紀頃にはエチオピアの影響を受けてキリスト教化、16世紀にはイスラム教化が進みました。
19世紀末にはイギリスとエジプトの共同統治下に置かれ、1956年に現在の南スーダンを含む地域が独立しました。
この辺りの話からも、この地域が各文化圏の結節点であったことが伺えます。
地形はおおむね広大な平野…と言えるのですが、幾つかの特徴で分類できます。
北部ですが、広大な砂漠地帯。ナイルの東岸はヌビア砂漠、西岸はリビア砂漠。しかも非常に乾燥しており、有力なオアシスもないため集落は
ナイル川沿いにしかほぼ立地できない地域です。
西部(ダルフール)地域には数少ない山地(火山地形)があり、最高峰のデリバ・カルデラ(3,042m)はここにあり、この周辺は水資源に比較的恵まれるなど周囲とは異なる豊かな様相を呈します。
また、西部の山地から東のエチオピア高原に向かって東西に
粘土質の土壌を持つ高原地帯が広がっており、この地域にも肥沃な農地が広がります。
特にナイル川東岸のゲジラ地帯は大規模な感慨も行われ、綿花の大規模栽培も行われています。
衛星写真が南北の植生の差異をはっきり示しているのでわかりやすいです。
気候は非常にわかりやすく、サハラ砂漠に
近い北部に行くほど乾燥が強まり、国土の多くを砂漠気候(BW)が占めます。南部はステップ(BS)やサバナ(Aw)。南に行くにしたがって降水量が増えると考えて良いでしょう。
1月から3月は乾燥した北東風の影響が強く、4月から9月は湿潤なコンゴ川流域からの南西風、そして9月から再び北東風の影響が
強まり始める。つまり雨季は3か月と短いことになります。雨季が訪れず干ばつに見舞われることもしばしばです。
北部地域は先述の通り世界でも最も晴天が多い地域の一つと言われており、年単位で雨が降らないこともしばしばです。
首都ハルツームは白ナイル・青ナイルの合流点にある町ですが、
1月平均気温は23.2℃、7月は32.7℃、年平均気温は30℃に達し、年降水量は120㎜です。
地図を見ても、北部は都市がほとんど見られないことがわかります。
経済は、独立当時から度々続いた内戦で国土が疲弊したこともあり、苦しい状態が続いていました。1955年からの第一次内戦、1983年からの第二次
内戦は、アラブ系と黒人系勢力が争う構図でした。ダルフール紛争もアラブ系と非アラブ系の対立によるもので、民族浄化などの悲惨な事例も発生、2005年に終結するまでの死者数は200万人以上と言われています。
また、2011年に独立した南スーダンは極めて有力な資源地帯であったため、大きな打撃でした。
しかし現在、新たな油田の開発が進むなど、農業に依存し、戦争と干ばつで疲弊した経済にとっては光となるプロジェクトも進んでいます。
この開発の主体となっているのは中国系企業で、中国のアフリカ進出を如実に示している事例とも言えるでしょう。
一方、油田の油層が南スーダンの領域とかぶって
いること、南スーダン産の原油の輸送路を巡る諍いが、新たな紛争の火種となることが懸念されています。
農業分野のポテンシャルは本来高く、特に白ナイルと青ナイルに挟まれた三角地帯(ゲジラ)の大規模灌漑でひらかれた農地は極めて有力な穀倉・綿花栽培地帯です。
国民一人当たりGNIは820ドル。
民族は4,400万人の人口のうち、黒人系が5割、アラブ系4割、その他少数民族が分布します。
言語はアラビア語と英語が公用語ですが、ヌビア語など100を超える言語が使用されています。
宗教はイスラム教スンナ派が7割、キリスト教2割、伝統信仰1割ほどです。
というわけで、北東アフリカの大平原の国
スーダン。長きにわたる内戦の傷を乗り越え、新たな一歩を踏み出そうとしています。
その背を押しているのは石油であると言えそうですね。元々南部地域での農業生産力も高いため、今後環境整備が進めば大きく発展する可能性を秘めています。
今日はこれくらいで。
途中で、「ナイル川東岸のゲジラ」とありますが、「白ナイル川東岸」という方がわかりやすいかもしれません。
正確には、白ナイルと青ナイルに挟まれた地域(白ナイル川東岸、青ナイル川西岸)というイメージで良いと思います。
失礼しました。

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Feb 28
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Feb 27
地理に関心がある皆さんへ。
国から系統地理を見ると、地理の要素や要因をより鮮明に理解できます。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#カザフスタン」。中央アジアの内陸国で、広大な草原地帯を擁する国。現在は資源大国として名を馳せます。
では、参りましょう。
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また、世界でも有数の
人口密度が低い国であり、人口密度はおよそ7人/㎢。面積272万㎢に対して、人口はおよそ1,900万人です。
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Feb 26
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この地域は1世紀から14世紀頃までランカスカ王国というヒンドゥー教系の王国、その後は Image
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Feb 26
地理に関心がある皆さんへ。
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本日の一国は「#リヒテンシュタイン」。中央ヨーロッパ、アルプスの山中に位置する非武装中立国。世界屈指の富裕国です。
では、参りましょう。 ImageImage
リヒテンシュタイン公国は、中央ヨーロッパ、アルプス山脈の麓、スイスとオーストリアに囲まれた内陸国。面積はおよそ160㎢と、日本の小豆島と同じくらいの面積です。
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