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PCRの偽陽性計算については、忽那賢志や尾身茂や佐々木淳が説明した計算方法が間違っていたことはもう既に周知であると思いますが、今回はもう少し数学的な部分の解説をしてみたいと思います。
PCRの偽陽性計算の前に、まずは正しい計算方法の練習問題。
・公正な6面ダイスを600回振ったとき、1の目が出る回数の期待値は何回ですか?

答え:600×1/6=100回
(問題)
サイコロの時は600×1/6で期待値が計算できますが、PCRの偽陽性も同じ計算方法が成り立つでしょうか?多くの人が気付いていないかもしれないですが、忽那や尾身の計算の中には上記期待値計算と同じ計算が組み込まれています。
9900人の非感染者に特異度99%の検査をすると偽陽性が99人に発生するというのは、9900×(1-99%)を計算しているので、上記サイコロの期待値計算と同じ計算です。
つまり、端的に言うと、PCRの偽陽性計算はサイコロの期待値計算と同じでよいの?ということになります。
当然のことながら、上記サイコロの期待値計算も常に成り立つような計算方法ではありません。上記サイコロの期待値計算はベルヌーイ試行という性質の良い試行であるから期待値計算が簡単になるのです。
・確率pのベルヌーイ試行をn回行ってk回成功する期待値は以下の通り。
ベルヌーイ試行の性質については、Wikipediaでも見て頂くとして、上記計算から解るように、期待値の定義に従って計算すると2項定理を使って簡潔に記載できるというところがポイントです。
PCRの偽陽性計算がサイコロの期待値計算と同じ方法でできるなら、PCRの偽陽性もベルヌーイ試行になっている必要があります。でも、PCRの偽陽性はベルヌーイ試行にならないのです。
ベルヌーイ試行の定義等を知らない人が多いかもしれませんが、PCRの偽陽性とサイコロで1の目が出る試行が本質的に異なることは直感的にも理解されているのではないでしょうか。
PCRの偽陽性が発生した場合、検体の取り扱いなどの作業手順を見直して、偽陽性が起きないように努力をするでしょうが、サイコロで1の目が出た時に、手首のスナップを見直して1の目が出ないように努力するなんてしないですよね。
それは、サイコロで1の目が出るのは、サイコロ自体に組み込まれている確率的事象なので、手首のスナップの工夫なんかでは変動することはないからです。一方、PCRの偽陽性は作業上の不備があってコンタミが起きているのが原因なので、作業手順の見直しで偽陽性の確率を減らすことができるのです。
PCRの偽陽性とサイコロで1の目が出るのは、本質的に性質が異なる現象なのですから、サイコロの期待値計算と同じ方法でPCRの偽陽性計算ができるわけがありません。
もちろん、ベルヌーイ試行になる検査もあるわけで、そういう検査であれば、例の計算方法も正しくなります。これも以前指摘した例になりますが、検査結果がこんな分布になる場合はベルヌーイ試行になるので、例の計算方法も正しくなります。
例えば体温を測って37.5度以上を陽性とする検査は、感度も特異度もあまり高くないでしょうが、ベルヌーイ試行になるはずです。
忽那や尾身の偽陽性計算については、間違っていることを既に何度も指摘してきたのですが、結局のところ、彼らは格好つけて高度な計算方法を知っているかのように振る舞っていたものの、期待値計算の基本でさえ身に付いてなかったのではないでしょうか。
どのような症状にも適用可能な便利な治療法なんて存在しないのだから、治療の前に適用可能な症状なのかを必ず確認しなければならないとの同じで、どのような検査にも適用可能な便利な計算方法なんて存在しないのです。そんなの医者が指摘されるようなことではないはずなのですけどね。

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Jan 2, 2022
ここの88%という数字だけで、3回目接種(ブースター接種)の入院防止効果が凄い!とか言ってる人がいるみたいなので、少しだけ解説します。この入院防止効果VEってどうやって計算しているのかというと、ちゃんと資料には書いてあってそれは以下の通りです。
assets.publishing.service.gov.uk/government/upl…
"To estimate vaccine effectiveness against hospitalisation the odds ratios (OR) for symptomatic disease were multiplied by the hazard ratios (HR) for hospitalisation among symptomatic cases:"

VEhospitalisation = 1-(ORsymptomatic disease x HRhospitalisation)
ワクチンの入院防止効果VEは、発症予防オッズ比ORと入院防止ハザード比HRの積から計算されるのだけど、先程の表を見返すと、入院防止ハザード比HRには有意差なしなのですよ。つまり、ワクチンの入院防止効果VEは実質的に発症予防オッズ比ORで決まっているということ。
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assets.publishing.service.gov.uk/government/upl…
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Dec 23, 2021
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bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/…
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thelancet.com/journals/lance…
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biorxiv.org/content/10.110…
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ところで、ADEが起こる可能性の根拠として、Omicron ≒ Delta 4+というRBDの類似性が指摘されていますが、論文を読むと、問題はNTD側なのかなという印象を持ちました。
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