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プラスミドゲート事件はmRNA型生物製剤にmRNAの製造過程で使用されたプラスミドDNAが残存していたというKevinさんのツイッターおよびブログでの発信に端を発しています。Kevinさんは実験の目的、方法、結果についてご自身のブログの中で詳細に説明しています。それをわかりやすく荒川先生が説明。
荒川先生のブログを紹介しているのがこのツイートです。mRNA型生物製剤へのDNAの混入について考察するために知っておかなければならないのはDNAとRNAの違いです。DNAとRNAの物性の違いについて、基本的なことを以下で説明します。
最初にDNAとRNAのそれぞれの構成要素について説明します。ヌクレオシドという言葉とヌクレオチドという言葉についてまず説明します。DNA・RNAを構成する要素はヌクレオチドです。図で示したヌクレオチドがリン酸基を介して次々に結合してできあがるのがDNAやRNAです。 Image
この基本構造はDNAでもRNAでも同じです。この図で緑の部分が糖で、紫が塩基でそれに黄色のリン酸基が結合するとヌクレオチドと呼ばれ、リン酸基がないものはヌクレオシドと呼ばれます。DNAとRNAの違いですが、安定性に関して大きく関係しているのが糖の部分(五角形のもの、緑の部分)です。
DNAではデオキシリボースというものですが、RNAではリボースというものです。両者の違いはごくわずかです。糖は五角形の部分ですが、リボースでは水酸基(OH)が二つありますが、デオキシリボースでは水酸基が一つです。この違いはDNAとRNAの安定性に大きな違いを生み出します。
水酸基が二つあるリボースから構成されるRNAの方が不安定です。不安定といってもRNAが全ての条件で不安定化というとそうではなくアルカリ性の水溶液中ではRNAは不安定ですが、逆に酸性の水溶液中ではDNAは壊れやすくなります。プラスミドDNA水溶液は酸性にならないように注意して凍結保存します。
RNAが不安定だという印象を受けるのは、体内の至る所にRNA分解酵素があるためです。これは生物がRNA型のウイルスの侵入を防ぐために身につけたものと考えられています。細胞内で産生されたmRNAは不安定ですが、これはRNAを分解する酵素によって速やかに壊されるためです。
細胞内のRNAはmRNA、tRNA、rRNAの三種類がメジャー。このうちのtRNAはウリジンの一部がシュードウリジンに置き換えられていて安定化。またrRNAはリボソームという巨大なタンパク質RNA複合体を形成していおりタンパク質に覆われているので壊れにくくなっており、こちらもmRNAよりも安定です。
ここまでがDNAとRNAの構造について基本的な説明。このようなことから考察すると、もしもmRNA型生物製剤にDNAが混じっていたとしても、それは保存条件によって大きく影響を受けると考えるべきです。どこかで余ったワクチンのバイアルがあったとしても、その保存条件が重要です。
それが未開封で-70℃のフリーザーで凍結保存されていれば、まだいいのですが、開封後、冷蔵庫に保存されていたり、あるいは室温で保存されていたりすると、溶液のpH(酸性化アルカリ性か)によって、DNAとRNAのどちらが壊れやすいかが変化します。
ワクチン接種の余りのワクチンのバイアルをもらって実験したとしても、その結果はバイアルの保存条件に大きく影響を受ける。もしもDNAが検出されれば、それはDNAが混じっていることを意味する。しかし混入を否定することは極めて困難です。かなりの数を調べないといけない。保存条件も重要です。
これは保存期間中にDNAが分解されている可能性があるからです。我々は培養細胞に薬物を投与する実験を行う場合には、PBSというものに溶かして投与することが多いのですが、PBSというのはリン酸緩衝液でpHを安定化した生理食塩水のこと。mRNAワクチンはただの生理食塩水に溶解して注射します。
ただの生理食塩水にはpHを一定に維持する機能はありません。ワクチンの成分に緩衝作用のあるものが含まれているのかもしれませんが、その濃度が低いとpHは簡単に変動します。アルカリ性になればRNAが壊れて酸性側に変化すればDNAが壊れやすくなる。このように結果は保存条件に左右されるわけです。
ここで考えなければならないことは、少なくともKevinさんが入手できたワクチンバイアルには全てDNAが含まれていたという点です。それもファイザーとモデルナの両方でDNAが見つかっています。ということは、この問題は二つのメーカーで共通して存在しているわけです。
これは市販されている食品から異物が見つかったと言う問題によく似たことです。ある食品に異物が混入していたらメーカーはどのように対応するでしょうか、少なくとも販売を中止しどのロットに問題があるかを至急調べるはず。今回さらに深刻なのはこの問題が両方のメーカーでおきていることです。
例えば、ボストンで販売されていた食品と同じものが東京で販売されていたとして、ボストンで異物の混入が見つかったら同じものを東京で継続販売できるでしょうか。全て販売を中止して全ロットについて調べるのがまともなメーカーのとるべき行動です。例の両社はどのような行動をとるのでしょうか?
それもKevinさんのように、バイアルに含まれているDNAやRNAの配列を網羅的に決定して結論を得るような方法(これはディープシークエンシングと呼ばれます)であれば、まだいいのですが、単なるPCRで実験して検出できるかどうかで判断しようとする研究者が、もしいるとするならば、その方は残念ながら最… twitter.com/i/web/status/1…
最後にDNAとRNAを構成するヌクレオチドの模式図を貼り付けておきます。 ImageImage

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Mar 31
今回は少しマクロな視点で考えてみたいと思います。
今回のSARS-CoV-2パンデミックですが、ワクチン接種を行わなかった国では実質的にパンデミックは収束しています。日本は感染対策を何もしないことが最良の方策だったとずっと思っています。日本人の免疫状態、交差免疫にもっと注目すべきでした。
東アジアでは4種類のヒト型コロナウイルスの感染拡大が何度もおきていて、多くの人はコロナウイルスに対する細胞性免疫を保持。日本も接種を行わなければこの図のアフリカやハイチのように(グラフの下にはり付いています)どこにグラフがあるのかわからないという状態になっていたと思います。 Image
抗体によるウイルス中和という防御機構が有効なのはスパイクタンパク質に対してだけです。ところが細胞性免疫は全ての主要タンパク質に対して有効です。スパイク遺伝子は変異が多くアミノ酸配列の類似度がコロナウイルス間で低いためスパイクの交差免疫が生じる可能性はかなり低いのです。
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Mar 17
Plasmidgateについてですが、今朝、早朝の4時からKevinさん登場のRumbleライブが開催されました。セネフさんのプレゼンから始まり、最後はKevinさんのプレゼンで終わるというものでした。KevinさんはmRNA型生物製剤へのDNAの大量残存をどのような経緯で見つけたかを説明していました。リンクは次に。
セネフさんのプレゼンはプリオンに関するものでした。これもスライドを使用して説明していて参考になりました。今回はこのRumble動画で聞いたことを中心に発信します。Kevinさんは誠実な研究者という印象でした。
rumble.com/v2dgaf6-scienc…
KevinさんはmRNA型生物製剤へのDNAの大量残存をどのような経緯で見つけたかを説明していました。mRNA型生物製剤に、転写が途中で完了した短いRNAが含まれているかもしれないと考えてRNAを逆転写してDNAに変換して配列決定をしてみたら予想していなかったベクター配列が見つかったというのが出発点。
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Mar 12
mRNA型生物製剤への製造時に使用した発現ベクターが、最終製品にかなりの量(mRNAの20%から35%)残存していることがある研究者から示され、アメリカでは最近問題に。plasmidgateというキーワードで検索すると関連する情報がたくさん見つかります。プラスミドゲート事件。大きな問題になるのか?
この図は発現ベクターの遺伝子マップ。赤い部分がスパイク遺伝子、oriと書かれた黄色い部分は大腸菌でDNAを複製させて増やすための複製開始点。赤で示されたのがスパイク遺伝子ですが、その上流部、矢印の起点付近にT7 promoter配列があります。この配列がmRNA合成では重要なはたらきをします。
T7 promoter配列ですがT7というのは大腸菌に感染するウイルスの1種のこと。この配列があるとそこにT7由来のRNA合成酵素が結合して大量にmRNAを合成することができます。さらに、このDNAにはSV40プロモーター配列も存在していますのでその下流の遺伝子はヒト細胞でも発現。薬剤耐性遺伝子も存在します
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Mar 11
少し前の長いスレッドを再度紹介しましたが、そのスレッドの根拠となる論文が多数収載されているレビューが発表されました。マッカロー博士らの論文ですが福島先生も著者に加わっています。スパイク発現細胞が免疫システムに攻撃されることが広く認識されてきました。ここから論文にアクセスできます。
論文はあまり長くないのですが、スパイクタンパク質が細胞膜に局在することや、細胞内で産生されたタンパク質がMHCクラス1分子に結合して抗原提示され、それで免疫システムの攻撃を受けることが書かれています。またスパイク発現細胞が免疫系システムの攻撃を受けたという実例の論文も示されています
接種後どのくらいまでスパイクが検出できたかという論文も集めていますし、エクソソームという細胞から放出される顆粒状のものについて、その役割を議論しています。ファイザーの研究者がmRNAワクチンで免疫が誘導される仕組みを理解しないまま緊急承認に進んだことも示唆されています。
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Feb 24
いろいろコメント・質問をいただき、どうもありがとうございます。まとめて質問に回答します。まずは、IgG4がどのくらいの期間で減少していくのかということですが、私の周辺の研究者で二回接種後経時的に抗体価の変化を自分で採血して解析している方がいます。回答方々、そのデータを紹介します。
一人はモデルナ二回接種でもう一人はファイザー二回接種です。接種は2021年の夏でしたので、1年半以上経過したことになります。抗体の測定系は内部標準を使用して定量的な解析ができるようにしたものです。測定レンジは下限が0.01AU(AUというのは便宜上設定した単位です)で最大は2000AUです。
このように、ダイナミックレンジはかなり広くなっています。二回接種後の最大値は400AUとか200AUです。モデルの方がmRNAの量が多いためか初期値も高く、減衰も遅いようです。と言っても現在はそのレベルはピークの100分の1程度です。ファイザーはさらに低下しておりピークの数百分の1程度まで減衰。
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Feb 20
以前、このスレッドでIgG4に関して説明しましたが今回はこの続編です。今回はmRNA型生物製剤で誘導される抗体がIgG4化されることの生物学的インパクトについて、さらに説明します。
この前のスレッドで紹介した抗体の機能活性一覧表を再度貼っておきます。今回のものは日本語化したものです。この表の下の部分には各抗体の分布が書かれています。抗体の血清中の濃度を見ていると桁違いに濃度が低いのはIgE。IgE抗体が増えるとアレルギー反応が誘導されるので濃度が低いのは合理的です
IgG4はIgGのサブクラスの中では一番濃度が低い。IgG4は同一の抗原で繰り返して免疫しないと誘導されないので濃度が低いということは理解可能。同じ抗原で繰り返して免疫されることは通常ではまれ。IgG4がmRNA型生物製剤の接種の二回目以降で誘導され接種の繰り返しで増えていくことは既に紹介済みです
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