地理に関心がある皆さんへ。各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#ウクライナ」。東ヨーロッパ、肥沃な黒土の大平原が広がるヨーロッパの穀倉。そしてT立国の一つです。
では、参りましょう。 ImageImage
ウクライナは、東ヨーロッパの黒海に面する大国。国土面積はロシアに次ぐ2位で、古くは東スラブ系文化の中心地だった地域を含みます。
かつてキエフ公国が栄えた一方で、13世紀のモンゴル帝国の侵略による破壊以降、周辺の大国に繰り返し侵略・分割・破壊される600年に渡る苦難の歴史を歩みました。
15世紀頃からはコサックが活動を活発化。彼らはウクライナやロシアに存在した、騎馬を得意とする自治的な社会集団。「自由」を重んじる彼らは共産主義政権下で弾圧され離散しましたが、ソ連崩壊後復活しつつあります。また、その精神は今も根付いています。

およそ60.4万㎢の国土は、東はロシア、 Image
北はベラルーシ、西はポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバに接しています。

国名は、古スラブ語で「国境」を意味するとされています。また、国旗の半分の黄色は、豊かに実る小麦を、上半分は晴れ渡る空を表しています。

ウクライナの国土は主に東ヨーロッパ平原に含まれます。
国土の中央を南北に貫流するドニエプル川の流域に広がる平野が国土の半分を占めており、首都キーウもその河畔にあります。
東側にはドネツ丘陵、北側は湿地帯、西側はカルパティア山脈の高地があります。南西部、ドナウ川のデルタ地帯はルーマニア国境です。
また、東端にはわずかに大陸部と接続 ImageImage
しているクリミア半島が、黒海に向かって突き出しています。ちなみに、クリミア半島の東側にはケルチ海峡で黒海と繋がっている浅海、アゾフ海があります。
アゾフ海にはドン川などから豊富な水と栄養分が絶えず流れ込んでおり、海底に泥やシルトが堆積する極めて水産資源が豊富な海となっています。 ImageImage
最高峰は西部の見られカルパティア山脈にあるホヴェールラ(2,601m)ですが、よく見るとクリミア半島の東岸にも石灰岩質の山地(1,500m級)があります(クリミア山脈)。
黒土の7割に最も肥沃な土壌と言われる黒土、「チェルノーゼム」が分布しており、土自体が商品として取引されるほどです。 Image
この肥沃な土壌に裏打ちされたウクライナの農業生産力は非常に高く、小麦、とうもろこし、大麦、大豆、ばれいしょ、ひまわり、菜種、てんさいなど、様々な項目で世界の生産量上位を占めています。
特にひまわりはロシアに次ぐ世界2位。正教会ではオリーブオイルが使えないことなどもあり、油脂作物と
しての需要が非常に高くなっています。

気候は、北緯43度から53度付近という比較的高緯度。一方で黒海に面していることから、南北で気候が異なります。
北部と北西部は、西風の影響を受け、比較的雨が多いとはいえ、やはり冬季になると非常に冷え込みが強くなり、冷帯湿潤気候(Df)が中心。 Image
温帯林と冷帯林が交わる混交林が広がっています。
一方で南部や南西部など、黒海に接する地域では水域が近いこともあり比較的温暖。温暖湿潤気候(Cfa)が中心になります。西部ではやや乾燥が強くなり、ステップ気候(BS)が見られる地域もあります。 首都キーウの1月平均気温は-3.2℃、
7月は21.3℃、年降水量は610㎜ほどです。

産業は、やはりドニエプル川流域の農業生産力が際立ちます。
チェルノーゼムはステップ気候からやや湿潤な大陸性気候に属する地域に広がる土壌。降水量が多いと腐植層や有機物が流出、これより冷涼で排水が悪ければポドゾルや泥炭になってしまうという Image
絶妙なバランスの地域に分布します。
先述の通り、小麦などの穀類、ヒマワリなどの油脂作物で大きなシェアを持っています。そのため「ヨーロッパのパンかご」の異名があります。
今回のロシアによるウクライナ侵攻で、農地が荒れたりこれらの作物の輸出が困難になり、世界的に食糧や油脂の供給不安が
発生しています。
さらに、東部の丘陵地帯にはドネツ炭田があり、ウクライナ有数の資源地帯です。これらの資源を生かして旧ソ連時代から東部では製鉄などの重工業が盛んです。
また、旧ソ連時代に研究機関が多く、優れた人材に恵まれていることから、IT産業も盛ん。西ヨーロッパやアメリカ等からの
ソフトウェア開発の請負が盛ん。「東欧のシリコンバレー」の異名を持ちます。
国内でエネルギー資源を産出し(完全自給ではなく、ロシアから輸入していた)、旧ソ連時代の原発も保有することから発電では5割が原子力、火力が4割という独特の構成です。水力も5%と割合は小さいものの、総発電量が
1,500億kWhあるため、絶対量としては多い方です。
国民一人当たりGNIは3,570ドルほどで、ヨーロッパの中では最下位に近く、さらにロシアによる侵攻で農地が破壊され、東部の工業地帯や資源地帯を占領されていることから、戦争が続けば今後さらに数字が落ち込むことが予想されています。
また、戦後の
復興費用も日本円にして500兆円以上に達するという試算もあり、元々豊かとはいえないウクライナにとって頭痛の種です。

人口はおよそ4,300万人。民族構成は7割強がウクライナ人、後の大半はロシア人です。
宗教的にはウクライナ正教がやはりおよそ8割ですが、少数ながらキリスト教の他宗派や
ユダヤ教も。
公用語はウクライナ語ですが、ロシア語も東部を中心に多く使われています。
ウクライナ人とロシア人は兄弟、という話もありますが、一方で両者は度々大きな戦争を経験し、1933年のホロドモール(大虐殺)では数百万人が餓死したと言われるど、深刻な軋轢も多いのも事実です。
過去の被支配の歴史を乗り越え、ソ連崩壊後に再び独自の道を歩もうとしていたウクライナ。世界有数の穀倉地帯と重工業、そしてIT技術の国と様々な面を持ち、経済水準の向上も期待されていましたが、今回の戦争でその実現は当分先になってしまいそうです。
長い歴史を刻んできた街がことごとく
瓦礫の山になっている光景は胸が痛みます(多くの方も亡くなっている)。早くこの国に平和が戻ると良いのですが…。
今日はこれくらいで。
1点訂正です。
国土面積についてですが、2位というのは東ヨーロッパにおいて、という意味です。失礼しました。
スレッド2つ目について訂正です。
国土面積についてですが、2位というのは東ヨーロッパにおいて、という意味です。失礼しました。
新刊のお知らせ
本日、『世界の国々大百科』のアルゼンチン編を刊行しました。アルゼンチンの自然地理や産業、文化、雑学などを網羅した一冊になっています。
全ての国を取り上げていきますので、もしよろしければご覧ください(レビューもいただければ幸いです)。
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また、動画でも各国を紹介したり、地理の雑学を投稿するチャンネルを立ち上げています。
まだできたばかりなので試行錯誤しつつ、コンテンツをこれから充実させていきます。 各国紹介以外にも地理の雑学など、色々企画しているので、よろしければご覧ください。
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では、参りましょう。 ImageImage
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