Thread by @mokosamurai777

地理に関心がある皆さんへ。各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#パナマ」。 南北アメリカ大陸、太平洋と大西洋を結ぶ結節点。パナマ運河を擁する海上交通の要衝です。
では、参りましょう。

パナマ共和国はパナマ地峡部に位置し、南北アメリカ大陸にまたがる領域を有します。
国土の8割が山地や丘陵地に属する山がちな地形で、国土面積はおよそ7.5万㎢。西はコスタリカ、東はコロンビアに国境を接し、北はカリブ海、南は太平洋に面しています。

国名の由来は諸説あり、中南米からカリブ海

にかけて見られ、パナマの国の木でもある通称「パナマの木」と呼ばれるアペタラという樹木に由来するというもの、そして先住民の言葉で「たくさんの蝶」「豊富な魚」を意味する、或いはスペイン人が上陸した所にあった漁村の名前である、など。
いずれにしても、熱帯雨林が繁茂し、沿岸部に

主要な都市が集中する様子をよく表しているとも言えます。

パナマは、国土がS字状に曲がっており、先述の通り8割が山地。そして、その地形はかなり複雑です。
その原因は、この場所が4つのプレートの境界部に位置するからです。パナマ自体がパナマプレートというマイクロプレート上にあり、さらに

パナマプレートはカリブプレート、ナスカプレート、ココスプレート、北アンデスプレートと接しています。日本列島も複雑なプレート境界上にありますが、パナマも負けず劣らずの状況です。
その圧力で隆起したパナマ地峡は南北アメリカ大陸を繋ぎ、同時に太平洋と大西洋を二分しました。

また、複雑なプレート境界に位置するため火山活動が活発で、パナマには最高峰でもある標高3,474mのバル火山が西部のコスタリカ国境付近にあります。
東からのびるオリエンタル山脈はアンデス山脈の一部です。山地のうち、アンデス山脈由来の部分は東側のみで、西側はプレート境界の海底が隆起、

さらに火山などで形成されたもの。いわゆる「背骨」にあたる中央山脈は西側の山脈です。
中央山脈は険しい上に鬱蒼とした熱帯雨林があり、森林保護区でもあります。そのためその内部が違法な活動（麻薬密売や人身売買など）の拠点となっており、長らく問題になっています。
最高峰は中央山脈の

バルカン山（3,474m）で、コスタリカとの国境付近にある火山です。

パナマの気候は、緯度は北緯8～10度と低緯度であるため、基本的には熱帯気候です。
北西部に熱帯雨林気候（Af）その他多くの地域に熱帯モンスーン（Am）が見られ、太平洋沿岸にはサバナ（Aw）が分布します。
標高が高い地域は

気温が下がり、一部に温帯冬季少雨気候（Cw）や西岸海洋性気候（Cfb）等が見られます。
気温は一様に高く、標高およそ900mに位置する首都パナマシティでも1月平均気温26.1℃、7月27.2℃と、気温の年較差はほとんどありません。年降水量は1,770mm。乾季は1～4月と短く、カリブ海から吹き込む

高温多湿な風の影響で、北に行くほど降水量が多くなり、最も多い所では3,000㎜に達します。

経済は、第三次産業の割合が非常に大きいことが特徴。まずは船に関する税金が安いことから世界でも有数の便宜置籍船国として知られており、「パナマ船籍」の船を多く見かけます。
日本からの輸出品の

9割以上が「船舶」になっています。これは、パナマで船籍登録を行うことは「輸出」扱いになるからです。一方で日本の輸入は食料品や銅などで、現状では日本の圧倒的な輸出超過（輸出5,000億円、輸入1,000億円）となっています。
また、観光や金融業も発達。タックスヘイブンとして有名で、

マネーロンダリング（資金洗浄）の拠点として欧米からブラックリスト国と指定されていましたが、2016年に公開された「パナマ文書」でその暗部が明るみに出て以降、透明化に努めています。
また、国を貫き太平洋と大西洋を結ぶ重要な水路、パナマ運河からの通行料も非常に大きな収入源です。

太平洋と大西洋（カリブ海）を結ぶ世界でも最重要の運河の一つで、海運の大動脈です。
1914年に開通した閘門式運河。閘門式運河は多数の水門を用いて船を上げ下げしつつ通過させる方式で、パナマ運河のような水路（水平式）とかなり構造が異なります。
また、建設の難易度も高く、構想は16世紀から

始まっていましたが、工事がスタートしたのは1880年。その工事を主導したのはパナマ運河を建設したフランスのレセップスでした。
しかし、険しい地形や風土病（黄熱病やマラリア）の流行で建設は失敗。彼は名声を失い、失意の中亡くなってしまいます。
その建設を引き継いだのがアメリカで、

莫大な資金と技術者の苦労、医師団による防疫対策の末、ようやく完成にこぎつけます。
また、この運河の建設に関わった日本人技術者としては、後に荒川放水路建設などに携わった青山士（あおやまあきら）氏が挙げられます。
このパナマ運河は1999年にアメリカからパナマに返還され、その後は

パナマ政府が運営しています。
この運河の水路に十分な水を供給するため、パナマ運河周辺の熱帯雨林は保護区に設定されています。
パナマはかつて、ほぼ全土が熱帯雨林に覆われていましたが、伐採が進み、現在残っているのはその5割程しかありません。今後、気候変動の影響によりこの地域で干ばつが

発生し、運河の機能に影響が出ることも懸念されています。
国民一人当たりGNIはおよそ12,500ドルで、地域内屈指の経済水準を誇ります。ただ、国民の3割が貧困層と言われており、貧富差も大きいようです。
国内の500以上の河川が流れ、急峻な地形があることから水力発電が盛んで、総発電量の5割は

水力。周囲に産油国が多く、購買力があることから火力発電も盛んです。
かつては林業が盛んでしたが、森林が9割から5割に減少するなど森林の破壊が進んだこと、パナマ運河への水の供給の必要性などから、現在は国土の2割が自然保護区となっています。

人口440万人のうち、民族構成はメスティーソ6割、

その他はムラート、白人、先住民、他アジア系がそれぞれ1割前後を占めます。
1501年に初めてスペイン人が到達し、1502年にはコロンブスもこの地を探検、1519年にはパナマシティの原型が建設されるなど、早くからスペイン人の進出が進み、それに伴って疫病の流行などで先住民の人口が激減しました。

宗教はやはりスペイン植民地だったこともあり、キリスト教カトリックが75％、プロテスタントが2割程を占めます。
公用語はスペイン語。他に英語や先住民の言語が使われています。

とにかくパナマ運河のイメージが強い国ですが、その地形が非常に特徴的。地理的に見ても非常に興味深い国です。

パナマ運河がスエズ運河のような水平式ではなく、閘門式運河である理由も、この地形を見れば納得、という感じではないでしょうか。しかし、レセップスは運河によって絶頂と絶望の両方を味わった人物ですね…。
今日はこれくらいで。

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訂正です。
水平式運河はパナマではなくスエズ運河ですね。失礼しました…。

すみません、スレッド13番目、水平式はパナマではなくスエズ運河です。書き間違いです。
大変失礼しました。

もう1点訂正です。スレッド6番目、誤：バル火山　正：バルカン山です。
確かに火山ではあるんですが…。大変失礼しました。

あ、また変なところが…。レセップスが建設したのがスエズ運河、そしてその余勢をかってパナマ運河の建設に取り掛かった、という話です。失礼しました。

また変なところが…。
レセップスが建設したのはパナマ運河ではなくスエズ運河です。間違いが多い…。失礼しました。