2年以上書くかどうか迷っていて書かずにいたことがあります。
何故書かなかったかというと、性被害に遭った方が被害届を出しにくくなる懸念をしたからです。
しかし現実であり、絶対に改善が必要で、法曹界と医学会の連携が必要であり、議論の場が公的に必要なので書きます。
ボツボツ行きます。
あくまで一般論として書いています。実症例っぽいっぽい表現が出てきますが、あくまで架空事例として考えてください。よろしくお願いします。
強姦に遭った後発症する精神疾患として急性ストレス症と心的外傷後ストレス症がある。前者は強姦の後19~50%に、後者は30%50%以上に発症するとされる(DSM-5-TR)両者に特徴的な症状として「回避」という症状がある。
「回避」とは苦痛な記憶や思考・感情や、記憶を想起させる、行為・場所・身体的に思い出させるもの・会話・対人関係の回避である。(DSM-5-TRを改変)
つまり、被害届を出して事情聴取を受け、身体検査を受け、弁護士を依頼し、弁護士に説明をし、検察の事情聴取をうけ、裁判で証言台に立ち、これらの法的手続きは全て、被害に遭い発症した患者は必死で回避を試みられて当然の行動である。これを患者自らが行うことは到底考えられない。
実際、私の患者で性暴力被害の経験から発症した患者さんはたくさんいるが、ほとんど全員は被害届を出していない。
ただ、中には、発症前に被害届を出しその後発症した患者さんがいる。今回はそういった患者さんに関する考察である。
ここからは司法での取り扱いの話なので、間違っていたらリプライしてもらえると嬉しいです。
性暴力被害に遭ったら、警察が捜査し、検察に送検し、検察が起訴し、裁判所が判決をする、という4段階のステップをクリアしなくてはいけない。控訴上告があれば検察以降のステップがさらに増える。
問題のなのは、裁判で適切な判断を得るために「必ず本人の陳述が必要」であることである。しかも、検察はほぼ間違いなく勝訴を勝ち取ることができない限り、起訴しない。つまり検察はそれの確認も含めて本人から事情聴取を必ずする。だから本人は事情聴取を最低でも3回受けなくてはならない。
発症前に被害届を出し、警察の事情聴取、身体診察による証拠採取を受け、その後発症した場合。まず検察による事情聴取が行われる。これが警察の事情聴取は全く考慮されず、1からやり直しをさせられるのだ。しかもめちゃめちゃ細かく。発症して入院が必要な状況でも、病院まで来てやる。
回避が余りに強くて答えられなかったら「じゃ、不起訴ですね」と言われる。警察の事情聴取と食い違ったら「信憑性がないので不起訴ですね」と言われる。更には「こんな状況では証言台には立てないですね。不起訴ですね」と言われる。当然納得がいかないので、検察審査会に出すわけだが
この状況で起訴相当にはならないので、不起訴不当を狙うのだが、そうすると検察にまた戻り、結局同じことが繰り返される。回避が強くて、、以下同文。こんなん、レイプ被害に遭ってPTSDを発症して、軽症ならともかく重症になればなるほど、絶対起訴されへんやん。起訴されてもまだ裁判あんねんで。
しかもびっくりすることに、この期間犯人は野放しである。本人は、いつまたその犯人に襲われるかわからない、という恐怖に打ちのめされながら生活しなくてはいけない。しかもこれは妄想でも空想でもない。実際にありうる不安であり、恐怖である。こんな状況で、PTSDの治療が成立するわけがない。
確かに司法では疑わしきは罰せずが基本だとは思う。しかし、警察の事情聴取には丁寧に応じることができている。証拠も全部そろっている。この状況で、PTSDである本人の陳述が怪しい、特に検察に対する陳述が怪しい。これで不起訴になるのは、絶対に納得がいかない。
治療者としては、何をしても効くわけがないこの状況で、ずっと無力感を味わうことになる。患者さんは何度も諦めかけて、私も何度も諦めさせた方がいいのじゃないかと思う。患者も私も、被害届を出したことを何度も激しく後悔することになる。でも取り下げたら回復するのか?そんなことはなさそうだ →
整理する。被害届を出して、警察の事情聴取、証拠採取を終えた後に発症したら、その後検察の事情聴取があり、それは警察の事情聴取と関係なく1からやり直しで、病状が重くて回避が強いと、「本人のせいで」「陳述に信憑性がなく」不起訴にされる。
検察審査会で起訴相当になったとしても、結局裁判で同じように、「1から」証言しないといけないらしい。できるか!そんなこと!
私の耳にこびりついているのは検察官の「私はPTSDの事例も山ほど経験してきた」という言葉である。PTSDの患者殆どは被害届けすら出せない。何言ってるんだこの検察官。
被害者権利擁護と司法の取扱いはあまりにかけ離れている。レイプ被害に限ったことではないのだろうが、PTSDを発症した被害者が、この司法のルールで、自分の権利を主張するのは、ほぼ不可能である。
これは絶対に是正が必要だし、法曹界と医学会はもっと連携を密にしないといけないと思う。
続くかも
ちなみに私はこういう時、
1:被害届を取り下げても良くなるとは限らないどころか、悪化する可能性が高い。
2:一度取り下げた被害届は二度と戻らない。
と説明します。患者さんは激しく抵抗することがあり、その苛烈さにスタッフが巻き込まれることも多々あり、むしろ私が孤軍奮闘のこともあります。
沢山の方にお読みいただき有難うございます。
この話は患者さんがずっと私に言い続けることであり、一方で外では殆ど言えないことでもあります。つまり患者さんの多くは、どこにもこの辛さを言えていないでしょう。
この2年以上、ずっと医療の立場で代弁するか否かで悩んできました。よかったのかな。
皆さんのコメントを見て、大きな視点が抜けていることがわかりました。
被害届を出して、不起訴になると、犯人は公的にお墨付きのある野放しになり、しかも被害者本人はそこから報復を恐れる毎日を主観的には永遠に続けないといけないことになります。
PTSDの治療には主観的安全確保が不可欠なので、犯人野放し、の方が、犯人が公的お墨付きで野放しより、マシかもしれない、説もあろうかと思います。
私はこれは錯覚だと思っていて、実際後者の方が後々治療者としては対応しやすいのですが、どの患者さんも一旦はここで悩まれます。
重要なのは、被害届を出す意味は加害者を罰するためだけでなく、被害者の安全確保の方が役割として大きい。不起訴と言われた時、被害者は加害者が罰せられないことに落胆するのではなく、むしろより強い危険にさらされる感覚になる。治療者として対応はできるが、これは錯覚とは言い切れないことです。
こちらにツリーを分けました
被害届を出した患者さんに、それを取り下げさせることはもってのほかです。被害がなかったと被害者が公的に認めて犯人を野放しにするなんてありえません。
もし不起訴になっても、それは私にはフォローする用意があることを、このツリーを読んでいる患者さんに宣言しておきます。

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Mar 15, 2024
空亡から今に至る中でいろいろ考えて徐々に整理がついているところを、まとめて行こうと思います。
今回は、精神科医というか医者なら当たり前の心構え
「先生のおかげで」と言わせない
「自分でなければ治せない」と思うな
この二つに対する私の考察です。
まず結論から
そう考えることができる医者人生を歩んできたかった。そう考えることができる境遇だったら、私はこんなに悩まなくて済んだでしょう。

滋賀医大の地域精神医療学講座を任されたのが2010年になります。私の精神科医としての第3期です。
地域精神医療学講座にはミッションがありました。
それは滋賀県に決定的に欠落している(つまり治療者がそもそも0)3分野をどうするかを検討することでした。
1:児童思春期(専門医0)
2:周産期(そもそも産婦人科がある有床精神科が滋賀県には2つしかない)
3:トラウマ(そもそもどうなってるのか未知数)
最初のミッションは
Read 10 tweets
Mar 14, 2024
沢山の閲覧、コメントありがとうございました。皆さんのコメントを拝見し、重要な視点が皆さんにないことに気づいたので、改めて投稿します。
レイプ被害者が被害届を出す意義として、加害者への懲罰を意識されることが多い様ですが、治療者としてはそれよりも本人の主観的な安全確保が重要です。
不起訴になると、犯人は公的にお墨付きのある野放しになり、被害者はそこから報復を恐れる毎日を主観的には永遠に続けないといけないことになります。これは被害者支援として重要な視点じゃないかと思います。
PTSDの治療には主観的安全確保が不可欠なので、犯人野放し、の方が、犯人が公的お墨付きで野放しより、マシかもしれない、説もあろうかと思います。
私はこれは錯覚だと思っていて、実際後者の方が後々治療者としては対応しやすいのですが、どの患者さんも一旦はここで悩まれます。
Read 6 tweets
Mar 8, 2024
ポツポツつぶやきます。

精神科において、患者さんが死なないようにするのは簡単です。例えば、閉じ込めておけば、死ぬことはまぁありません。

もちろんそんなのは治療とはいいません。

同じように、死にたいって訴えていた人が、死にたいと訴えなくなったからって、それは治療の成功とはいいません
続きです

精神科において、治療目標はQOLとか社会参加の回復です。これらは精神症状の回復と今一つ相関しないことがわかっていて、症状が回復した後もう一手間必要なことがわかっています。

例えば、3ヶ月前まで働いていた人が、まだ働けていないのに、症状を訴えないから安定、って絶対おかしい
この一手間が実は結構難しい。

なぜなら、社会参加を促すと死にたくなる可能性が増えるからです。失敗体験のリスクが増えるからそりゃ当然。

精神科医からしたら、社会参加を諦めさせた方が全然楽。症状だけとってしまえば、患者さんに文句言われない限り、治療の失敗とは言われない。
Read 8 tweets

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