junitiro じゅんいちろう Profile picture
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私が経験した
悪質な訪問販売の物語

扉の向こうにいるのは、
本当に信頼できる人ですか?

〜〜〜

携帯が鳴った時、
私は施主との打合せの最中だった。
妻からの着信。

普段なら仕事中は出ないのだが、
何か胸騒ぎがして電話に出た。

「潤一郎さん...」

受話器から聞こえてきたのは、
いつもの明るい妻の声ではなかった。
震える、か細い声に、背筋が凍る。

「どうした?」

「今ね...水質調査の人が来てるの...」

妻の声が途切れた。
受話器越しに、二歳の息子の
不安げな泣き声が響いてくる。

「怖いの...あの人、
すごく怖くて...
私の態度が失礼だって...」

妻の声は次第に小さくなっていく。
私の頭の中で警報が鳴り響いた。

「落ち着いて聞いてくれ。
その人は今どこにいる?」

「廊下...廊下で待ってるの。
断ったのに帰ってくれなくて...」

「ドアは絶対に開けるな。
今すぐ帰るから」

「うん...でも...早く来て...お願い...」

妻の震える声に、
私の不安は頂点に達していた。
「申し訳ありません。
家に緊急事態が...」

私は即座に現場を後にした。
普段は空いているはずの環状線が、
この日に限って異常な渋滞だった。

そんな中、また携帯が鳴った。
ハンドルを握りながら受話器を取る。

「まだ?...早く来て...お願い...」

前回よりさらに
震えの強くなった妻の声。
背後では息子が泣き続けている。

「今向かっている、あと10分くらい」

「うん...でも怖いの...
相手がまだ廊下にいて...」

赤信号に引っかかるたび、
ハンドルを強く握り締める。

現場を抜け出してきた私の頭の中は、
家族のことでいっぱいだった。

やっとの思いでマンションに到着。
三階まで一気に駆け上がる。

廊下の突き当たりに人影が見えた。

見知らぬ男の隣で、
妻が身を縮めるように立ち、
息子が母親の足にしがみついている。

「何があったんだ?」
私の声に、男が振り向いた。
私は咄嗟に妻と息子を
室内に押し込んだ。

二十代後半だろうか。
整った身なりの若い男。
しかし、どこか危うい空気が漂う。

「この地域の水質調査を
任されているものですが」

「任された?誰に?」
建築士として培った経験が、
即座に違和感を察知していた。

行政がこんな形で
調査を依頼するはずがない。

「名刺をいただけますか?」
しかし男は、
首から下げたネームプレートを
チラつかせるだけ。

「水質調査の資格は
お持ちなんですか?」
私の質問に、
男の表情が一瞬こわばった。

私はさらに言葉を重ねた。
「私は建築士をしておりまして、
行政関係の知人も多いものですから、
確認させていただいても?」

その瞬間、
男の瞳に明らかな動揺が走った。
やはりという思いが胸をよぎる。
「いえ、営業担当でして...」
「会社の方針で...」

男の声のトーンが明らかに変わり、
顔色も青ざめていく。

「では、御社の技術者の方と
直接お話させていただけますか?」

「あ、いえ、グループで
回っているものですから...」

言い訳じみた言葉が続く。
「他のメンバーが改めて...」

「他のメンバーとは?」
私は言葉を遮った。

「念のため言っておくけど、
また別の誰かが来たら、
即座に警察に通報しますから」

冷静な口調に、
威圧的な内容を織り込む。

「すぐに警察に通報します」
という私の言葉に、
男の態度が一変した。

「いや、その...」
焦りからか、声が裏返る。
両手を慌ただしく振りながら、
後ずさりを始めた。
その瞬間、私は心に決めた。
このまま追い詰めたところで、
新たな問題を引き起こすだけかもしれない。

「ここに二度と来ないと
約束してくれますか」
毅然とした声で告げる。

しかし、その口調には
わずかな妥協の余地を残した。

男は一瞬、
驚いたような表情を浮かべる。
そして、何かを計算するように
考え込む素振りを見せた。
廊下に重い沈黙が流れる。

「...分かりました」
男の声が、やや落ち着きを取り戻す。

「このアパートは対応済み、
ということで会社に
報告しておきます」

そう告げると、 
男はゆっくりと後退り、
階段の方へと向かっていった。

階段を降りる足音が
遠ざかるのを確認してから、
ドアを開けた。
妻と息子が抱き合って泣いていた。

「何かあったら
警察に通報しようと思って...」
妻は震える声で言う。

「でも、怖くて...あの人、
最初は普通だったの」
「水質検査をさせてほしいって..
断ったら豹変して」

息子の頭を優しく撫でながら、
妻の話を聞いた。
まだ体が震えている。
その日から我が家には、
新しいルールができた。
知らない人にはドアを開けない。
大切な約束だ。

それは不便なことかもしれない。
でも、平穏な日常は
ちょっとした油断で
崩れ去ってしまうのだと知った。

インターホン越しの声が
どんなに親切そうでも、
どんなに切実そうでも。

昨今のニュースを見ていると、
胸が痛む。
闇バイトに手を染める若者たち。

彼らもまた、
あの男のように
誰かの心に、
消えない不安を植え付けているのか。

この経験を書き記したのは、
あなたの日常が
私たちのように揺らぐことのないように。

玄関チャイムが鳴る度に
震える子供がいないように。

だから、よく考えてほしい。
見知らぬ人が訪ねてきた時、
あなたは何を守るべきなのかを。

扉の向こうにいるのは、
本当に信頼できる人なのかを。

〜〜〜
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

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