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Dec 12 7 tweets 1 min read Read on X
「何言ってんの?
もう⋯イヤだよ、ボクは」
少年は、キッズスマホで
何やら激しく話しながら
コンビニの店内を
ぐるぐる回っていた。

いつも家族のための買い物に
来る少年は
おそらくママと会話。
ただ、珍しく
イライラした声を出していた。

( 今日は
何か、あったのかしら? )
店員の私は
いつになくイライラしている
少年の様子に
なんだか、不安な気持ちで
見守っていた。

「 いつだって、そうなんだ。
そんなの、知らないよ! 」
口調がきつくなってきて、
私の方が驚いた。

声が大きくなる少年に
「シー」と口元に指を当てて
合図してみた。
( 店内では大きな声を
出さないでね )

少年は私からの合図に
「ハイ」というように
首をすくめて
電話の声を小さくし
「もう切るね」と
耳元のスマホを降ろした。

少年は、そこからは
いつになく無言で
いつものペットボトルの
コーラ 2 本とサイダーを買い、
他のものは買わなかった。

確か、ずいぶん前に聞いたとき
「コーラはママと妹が
好きなんです」
というので
「じゃあサイダーは?」
「あ、それはボクが飲みます」
そんな会話をしたな、
今日に限って、ふと
そんなことを思い出した。

そして、店を出る時
少年は立ち止まらず
チラッとふりかえるだけで
スッと出て行った。

薄い水色の
ラルフ・ローレンのシャツの
後ろ姿がずっと
印象に残っている。

それは、あっけなく
訪れた別れだった。

その日からしばらく
彼の姿を見ることは
なかった。

私だけではなく
他の店員たちも口々に
「あの子、
どうしたでしょうね」

「なんで、あの子だけ
あんなに買い物させられてたんでしょうね」

「ヤバいですよね、あの子。
あのまま、大丈夫ですかね?」

なんだ、他の皆もすごく
気にしていたんだな。
そして
しばらく少年のことを
話題にしたけど
彼が来ることはなかった。

そうして、何年かたって
そこのお店を閉めることになり

私が最後の
勤務をしていた日に

「こんにちは」と
1人の中学生が
お店に入ってきた。

その中学生は
にこにこしている。
ほんのり赤い頬が
私に少年を思い出させた。

「えっ!?」
「あ、お姉さん
お久しぶりです」
ハスキーボイスになってた。

「わわ、声変わり」
言うなり
私は涙が溢れてしまった。

「お店、閉まるんですか?」
「そうなんです。長いこと
ここでやってきたから
寂しいし、残念です」
「そう、僕も寂しいです」
少年だった中学生は
少し遠い目をした。

「来なくなってたので
遠くに越したのかと
思っていましたよ」

( 君のことを心配してました )
とは言えなかったけれど
すっかり大人っぽく
たくましい雰囲気になって
現れた少年に
なんだか
とてもホッとした。

「行ってないですよ。
遠くになんて、でも
受験勉強とか忙しくなって
あんまり家のことの手伝いも
出来なかったんです」
「そうよね、よく手伝いを
してましたよね」
ずいぶんお兄さんになって
しっかりした話し方に
なっている。

その時、少年のスマホが
バッグで振動して、
少年はハッとした顔をする。

(また、ママ?
今でも
ママの指示は
少年にだけ
厳しいのだろうか?

見守っていると、少年は
スマホに出て
「何?このお店の最後だから
コーラとサイダー?
うん、買っていくよ。
大丈夫、他にある?欲しいものだよ。わかった、じゃあ」

やっぱり、お使いするパパ
みたいなところは
変わってなかった。
だ け ど、
だけどよ。
今日は態度に余裕がある。

すっかり大人びた
少年は
もう、ママに指示されて
買い物されられてる雰囲気は
どこにもなかった。

今は、ママに頼られる
かっこいいお兄さんみたい。

何年も心配してきたけど
曲がらず、真っ直ぐに
育っているのが
よくわかった。

( とうとう
こんな風に
対等な感じになってるんだ。
いまだに名前も知らないけれど
本当に、おばちゃん
君の成長が嬉しいわ )
そう思いながら
コーラ 2本とサイダーと。
心を込めて
少年の最後の会計をした。

店を出る間際、
少年はいったん、ゆっくり
立ち止まり
こっちを見て目が合った。

もう私を見あげず、
見下ろすほどに
大きくなっていた。

そしてにこっとして
店を後にした。

ガラス越しの夕暮れの町に、
もう大きくなった少年の姿が
マンションに入るまで
見送った。

親孝行な買い物の少年、
コンビニ小公子。

ここまで
お読みくださって
ありがとうございました。
長年読まれて
皆さんに愛されて来た
買い物をする少年。

たくましくなった姿を
最後に見届けることが出来て
私も感無量でした。

みなさんも
応援ありがとうございました。

このアカウントでは
私の長い間のコンビニ経験から
印象的なお話を
いくつかご紹介しています。

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@maimai0049

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Aug 16
「誰の名前だろう?」
銀行口座に見しらぬ名前で
ふり込みがあった。
しかも割と大きな額。

副業の振り込みの会社がいくつか思い当たった。
その中の担当者の名前だったかしら?あとで聞いてみよう。

そう思っていたら、その人からショートメールがきた。

『申し訳ありません。
こちらの手ちがいで振り込みの額が 2 万のところを
20万にしてしまいました。
つきましては差額の18万円なのですが、お手数ではございますが返金をお願いいたします』

やはり、おかしいと思った。
なので
「わかりました。では18万円の返金ですが、どのようにしたらよいですか?」
返信すると

『お手間をとらせてすみません。今どこですか?』
どこって⋯。
そんなこと聞くものかしら?

「〇〇区の〇〇町ですけど」
『そちら様にあまり
お手数かけては申し訳ないので、近くにいるうちの者に
取りに行かせます。
その者に
現金を渡してください』

( あれ、これって・・)
ここでピン!ときた。
これは、
( お金を渡してはいけない )
そう思った。

だからメールには
「そうですか。それじゃ
お金を用意したら連絡します」
と返信。

そして銀行ではなく警察へ
連絡した。
「銀行に不信なお金が振り込まれてて、相手からそれを返金する話をされました。これって
詐欺ではないでしょうか?」

警察から
「相手とはどんな話を
しましたか?
お金はもう動かしましたか?」
など聞かれたので
これから
相手の指定した人物が
こちらに来ることを伝えた。

警察への手はずをつけてから
メールの相手に
「18万円を用意しました。
〇〇銀行の前にいます」
と連絡し、〇〇銀行の前で
お金を取りに来る人を待った。

10 分もしないうちに
黒っぽい服に黒いマスクをした30歳くらいの男が現れて

「あ、すみません。
振り込みの件の方ですか?

会社の者から頼まれたので
自分がお金を
受け取りに来ました」
と、声をかけてきた

「あなた、誰に頼まれてここに来ましたか」と、
Read 5 tweets
Jul 12
「あの、これはどこにありますか?ママに頼まれてるので⋯」コンビニ店員の私に
眉を下げた
困った顔をして
聞いてきたのは、先日の
” 買い物をする少年 ”だった。

「何をお探しですか?」
「あのホットケーキミックスってありますか?ママが、
それがないと困るって」
「大丈夫。ありますよ」
「やった。良かった」
少年はホッとしたのか
すごくいい笑顔をした。

小学3年生くらいに見える
少年はラルフローレンの
水色のシャツを着て、
コストコの大きなバッグを
肩にかけている。

そして、反対の肩には
クリーニング店で受けとった
洋服が入った袋も
かけていた。
大人の服が少年の体より大きくて重そう。

家のお使いでの買い物なら
小学生なら
それだけでも充分に見えた。

ママは
この子に
こんな笑顔をさせて、
家では一体何を言って
送り出すのだろう?

ホットケーキミックスがあるとわかると、少年は
キッズスマホでママに
電話をする。
「あるってママ。大丈夫だよ。今買って帰るね」

そう言ってスマホを切ると
再び店内へもどり
ペットボトルを3本持ってレジへきた。

( また、重いものだわ )
ホットケーキミックスも飲み物も重い。
今日も、真っ赤なほっぺで
重いバッグを両肩にかけて
レジを離れる。

そして店の出口で1度、
立ち止まり
こっちをふりかえる。
黒い瞳と目が合う。
何を言いたい瞳なのだろう。

私はレジから小さく手をふり
( ガンバレ!)
と心の中でエールした。
普段はコンビニ店員です。
@maimai0049
お店に来るお客さんとの
やり取りで気になることや
心に残ったことをドラマのように書いています。

この”買い物をする少年”が
店に来るようになってから
ずっと気になっていて
そのことを時々
つぶやいていたら

読んだ方からも「気になる」とのお声をいただきました。
そこで今回、
連続してお届けすることに
しました。

少年はキラキラした
真っ直ぐな表情の子で
人気アニメ『ちいかわ』の
ハチワレくんを思い出すような
雰囲気です。

まだまだ続くので
一緒に追いかけてください。
Read 5 tweets
Jul 11
「それじゃ頼んだよ」
コンビニに買い物に来た
パパと少年。
パパはスーツ姿で、
少年に声をかけて
店を出ていく。

少年は肩に大きなバッグを
かけて目でパパを見送る。
店員の私もつい、
パパさんの姿を追ってしまう。

パパさんは、待たせていた
ママらしい女の人と
低学年そうな少女と
黒塗りのタクシーに
乗り込んで行ってしまった。

少年は1人、店内で
買い物をしだした。
カゴに飲み物を
何本も入れて行く。
お砂糖もパスタも入れる。
けっこうな重さになっている。

私はなんだか気になり
彼がレジにきた時、声をかけた「ずいぶん重くて大変ですね。大丈夫ですか」

少年はりんごのような
赤いほっぺをして
「ありがとうございます。
でも、ボク大丈夫です」
と、けな気に答えてくれた。

(だけど、これ 1人で持って帰るの大変よね )
そう思った私は
「パパは
お出かけなのかしら?」と
少年に聞いて
みた。

「はい。
今日は妹の発表会なんで」
「…そう、そうなんですね。
この荷物は重いから、
気をつけてくださいね」

少年はこっちをふり返りながら店をあとにした。
まだ小さな体に
大きすぎるバッグが
似合わないと思えた。

この日が
”家族の買い物をする少年”を
初めて意識した日。
彼はまた
1人だけで買い物にくるようになるのだった。
ここまで読んでくれて
ありがとうございます。

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