最近、ジビエの生肉喰って寄生虫って話、
本当によく見るようになったな。

せっかくだから、今日は少し方向性を変えよう。
有名な話だけど
「100日以上、冷凍していたのに
『寄生虫は死なず』集団感染したクマ肉の例」

でもお話しましょうか。
ジビエは「加熱」が正義。

冷凍でもやつらは簡単に死なないんですよ。

(続く1Image
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事件の発端:サウスダコタ州の家族会合と熊肉

まずは、2022年7月に起きた出来事について
簡単にお話しします。

アメリカのサウスダコタ州という、
中西部にある州で、ある大家族が集まる
大きなパーティーが開かれました。

家族といっても、
親戚のなかにはアリゾナ州から来る人、
ミネソタ州から来る人など、
まさに全米各地から親族が大集合したのです。

そこで
「普段食べられない珍しい料理を楽しもう」
と話題になり、

家族の誰かが持参したのが「熊の肉」です。

それも、なんとカナダの
サスカチュワン州という北のほうで
狩猟された熊でした。

皆さんは、熊肉って食べたことがありますか?

日本でも、山奥の地域では
熊肉を食べる文化がありますが、
アメリカでも狩猟をする人にとっては
珍しくはない食材の1つです。

ところが、この熊肉を食べたあと、
パーティーに参加した9人のうち、
少なくとも6人が体調不良を起こし、

「旋毛虫(トリヒネラ)」という
寄生虫に感染したと診断されました。

年齢層は12歳から60代まで幅広く、
症状も下痢や吐き気といった軽いものから、
筋肉痛や顔面痛、視野が欠けるような症状まで
実に多彩だったと言われています。

その後の詳しい調査でわかったことが、
さらにショッキングでした。
なんとその熊肉は
「15週間以上も冷凍してあった」にもかかわらず、
中に潜んでいた旋毛虫は生きていたのです。

通常、寄生虫は冷凍処理をすると死
滅すると思われがちですが、
この「旋毛虫」のなかには
冷凍に耐性を持つものがあるとされています。

「冷凍耐性」というやつで、
言うなら冬眠に近い形で
動かなくタイプもいるわけです。

つまり、凍らせただけでは
安全を確保できなかったわけですね。

さらに驚くことに、
「熊肉を直接食べなかった」2人までもが
感染した可能性があるというのです。

怖い怖いですね。

これは、熊肉を調理する過程で
使ったトングやまな板、
あるいは一緒に焼かれた野菜への
“二次汚染”が疑われています。

要するに、ほんの少し触れただけでも、
体内で生き延びる幼虫が
食材に移動してしまうことがあるというわけです。

では一体、この「旋毛虫(トリヒナ)」とは
何者なのでしょうか?少し解説していきましょう。

興味深い事例だと思いませんか?

(続く2
1.旋毛虫(トリヒナ)とは?:基本と学名のお話

1.1. 旋毛虫の生活史(ライフサイクル)
旋毛虫は、学名を“Trichinella”と書き、
カタカナで「トリキネラ」「トリヒネラ」と
発音することがあります。

日本語では「せんもうちゅう」とも呼ばれます。

これは線虫(せんちゅう)という、
ミミズを極限まで小さくしたような
仲間に属する寄生虫の一種です。

この虫のライフサイクルは少し不思議です。
イメージしやすいよう、
以下のステップで説明してみましょう。

1,ある動物(豚や熊など)の筋肉の中に
“旋毛虫の幼虫”が嚢胞(のうほう)という
カプセルのような形で潜んでいる。

2,その肉を別の動物(ヒトを含む)が
加熱不十分のまま食べると、
嚢胞が胃酸や消化酵素で破れて
幼虫が体内に出てくる。

3,幼虫は小腸の壁に入り込み、そこで成虫になる。

4,成虫は小腸内で交尾をし、
メスは新たな幼虫をたくさん放出する。

5,放出された幼虫は血液やリンパ液の流れに乗っ
て全身を巡り、最終的に筋肉に
入り込んで嚢胞を作る。

6,この筋肉にいる幼虫を、
また別の動物が食べることで、次の感染が起きる。

このように、ある動物が感染して、
その肉を別の動物が食べることで
ライフサイクルが回っていくのです。

これが、熊や豚、ネズミやキツネなど、
さまざまな肉食・雑食動物を通して続きます。

ヒトは本来、旋毛虫にとって
「終末宿主(これ以上感染を広げない宿主)」
と言われることがありますが、

人が食べ残しを豚にあげたり、
あるいは犬や猫が食べて
さらに他の動物がその犬や猫を…という形で、

複雑なサイクルが生まれる場合もあります。

1.2. なぜ「熊肉」から感染した?
旋毛虫は、古くから「豚肉」による
感染が多かったことで知られています。

しかし、現代では豚の飼育環境の改善や
衛生検査の徹底によって、
豚肉由来の旋毛虫感染は劇的に減っています。

その代わりに注目されるようになったのが、
今回のような「野生動物の肉」なのです。

野生動物、特に熊は雑食です。

植物を多く食べますが、
小動物や腐肉(すでに死んでしまった動物の死骸)を
漁ることもあります。

そのため、ほかの動物から受け継いだ
旋毛虫の幼虫が筋肉中に
潜んでいる可能性があります。

さらに「北方系(寒い地域)の熊」には、
冷凍に強いタイプの旋毛虫が
寄生していることが多いという
研究報告もあるのです。

寄生虫も北になればなるほど寒さに強く
耐性も付いて進化しているわけです。

(続く3
2.物語形式で理解する:感染から発症までの流れ

ここで、旋毛虫がヒトに感染してから
どのように症状を引き起こすのかを、
物語風に説明してみます。

イメージしやすいように、
時間経過を追いながら書いた
“仮のシナリオ”です。

なお、あくまで一般的なケースなので、
人によって症状や時期は異なります。

1,食べて数日後:腸管期(ちょうかんき)の始まり

ある日、大人のAさんが野生の熊肉を食べました。
まだ内部まで十分に加熱されていませんでした。

すると、その中に潜んでいた無数の
「トリヒネラ(旋毛虫)幼虫」が
胃や腸の中に入り込みます。

すぐに体調がおかしくなるかといえば、
1~2日くらいは症状があまり出ないことが多いです。

しかしやがて、腸の中で幼虫が小腸壁に侵入し、
成虫へと成長しはじめると、

Aさんは「なんだかお腹が痛い…」
「ちょっと下痢気味だ」という
軽い胃腸症状を感じるようになります。

これが腸管期と呼ばれる段階です。

2.さらに数日後:非腸管期(ひちょうかんき)への移行

小腸壁で成虫となった旋毛虫が
大量の幼虫を生み出すと、
その幼虫は血液やリンパを通じて
Aさんの全身を巡りはじめます。

Aさんの体は「これは危険な侵入者だ!」と気づき、
免疫反応が強く起こります。

すると発熱、顔やまぶたの周りがむくむ
「眼窩周囲浮腫(がんかしゅういふしゅ)」、
筋肉痛、関節痛など、
インフルエンザのような症状が出てきます。

意外とこういう症状があるため、
インフルエンザ系の風邪だと思われ、
寄生虫という可能性は考えられず
治療が遅れることも可能性は無きにもあらずです。

ジビエを生に近い状態で食べて、
体調が悪くなったらお医者様には
「ちゃんと報告しましょう。」

実際、ひどいときは心臓や神経に影響して、
まぶたが開きにくくなったり、
視力に問題が起きたりすることもあります。

これが非腸管期の症状で、
感染後おおむね1~2週間たった頃に
あらわれるとされています。

3,やがて落ち着くか、重症化するか

免疫システムが頑張って旋毛虫を攻撃すると、
ある程度の幼虫は死滅しますが、
一部は筋肉にしっかりと“嚢胞”を作って隠れ、
長く生き延びる場合があります。

軽症で済む人は、1か月ほどすれば
症状が和らいで回復していくパターンがあります。

しかし、もし大量の幼虫を取り込んでしまったり、
体力がない状態だったりすると、

心臓や脳、神経などに
重い症状が及んでしまう危険もあります。

そうすると治療薬を使っても難しく、
長期の治療ということになります。
またどんどん寄生虫の数が増え、
数年後に身体中、寄生虫まみれになり、
重い症状が一気に出ることもあります。

何にしても早期治療が必要な寄生虫症です。

(続く4
3. 熊肉アウトブレイクの詳細:何が起こったのか

3.1. 調理の段階での問題点:二次汚染の可能性

今回の事件で特筆すべきは、
「熊肉を食べなかったはずの
家族2人までが感染した可能性がある」

という点です。

これは、熊肉に触れたトングや包丁、
まな板などを介して、

別の食材(たとえば一緒に焼かれていた
野菜やサイドメニュー)に
幼虫が移動してしまった、
いわゆる“二次汚染”の疑いが高いと考えられています。

二次汚染の恐ろしさは、
ほんのわずかでも幼虫が食材に付着してしまえば、
それを口にしてしまう危険があること。

日本だと刺身や寿司での
「包丁やまな板の使い回し」が問題などが起き、
食中毒など話題になりますが、

同じように、バーベキューなど肉の場合も、
しっかり洗浄や加熱をしないまま
調理器具を使い回すと、
寄生虫や細菌が意図せず広がってしまいます。

3.2. 症状の多彩さ:軽症から重症まで
実際に感染した6人の症状は、
人によってばらつきがありました。

下痢や軽度の腹痛、吐き気だけで
すぐ回復した人もいれば、

強烈な筋肉痛や発熱、さらには顔面痛、
唾液腺の腫れ、光過敏症
(明るい光がまぶしく感じる)など、

普通の食中毒では
あまり見られない症状を起こす人もいました。

最終的に3人が入院し、
抗寄生虫薬のアルベンダゾール(Albendazole)という薬で治療を受けたといいます。

これは旋毛虫の成虫を殺して、
筋肉に侵入する前の段階の
幼虫を減らす効果があります。

残りの3人は入院しなくても回復に向かいましたが、
決して軽視できる病気ではないことが伝わりますね。

3.3. 冷凍耐性のある旋毛虫とは?

先ほども触れましたが、
熊肉は「15週間以上も冷凍庫で保存してあった」
のに、幼虫が生きていたことが分かりました。

先述したように、北方地域に生息する
「T. nativa(ティー・ナティバ、
あるいはトリキネラ・ナティバ)」などの旋毛虫は、

マイナス数十度になる地域で
生き抜いてきた歴史をもち、
一般的な冷凍庫の温度(約-18℃前後)では
死滅しない可能性が指摘されています。

この事例は「冷凍すれば安全」という
一般的な認識を覆し、

あらためて「加熱による完全な死滅」が
必要であることを強調しています。

よく寄生虫もそうですが
食中毒でも東北や北海道でもありますが、

「常温が冷蔵庫・冷凍庫並みだから
この時期は食中毒は起きない。」

と秋冬に食中毒起こすパターンもありますから、
こういう「思い込みが一番危ない」とも言えます。

4. 例え話:冷凍庫に潜む“冬眠”寄生虫をイメージする

ここで、「冷凍耐性」をイメージしやすいように、
少し例え話をしてみましょう。

たとえば、家の庭にある
水たまりが冬になって凍っても、
そこに生息していた小さな虫や微生物の一部は
氷のなかで生き延びることがあります。

顕微鏡で見ると、彼らは“休眠状態”になりながらも
体の中の成分を変化させ、
細胞が壊れないように工夫しているのです。

旋毛虫も似たような現象で、

たとえば体内に
不凍タンパク質(抗凍結タンパク質)や
特別な物質を持つことで、
凍結のダメージをやわらげる能力を
持っている可能性があります。

私たちヒトにはない特殊能力ですね。

こうした小さな生き物たちの
“冬眠術”を甘く見てはいけないのだ、
ということをこの事例は教えてくれます。

(続く5
5. 旋毛虫による病気(トリヒナ症):予防と治療

5.1. 古くは「豚肉」由来が主役だった
実は、旋毛虫による病気(トリヒナ症)と言えば、
かつては「豚肉を食べると感染する」
というイメージがとても強かったのです。

たとえば1930年代のアメリカでは、
なんと検査を受けた人の
6人に1人が筋肉に旋毛虫を持っていたという
衝撃的な報告もあるほどです。

どうして豚肉だったのか?
当時は、豚が飼育場で雑多な食べ物を与えられたり、
生ゴミやネズミを食べてしまったりすることも
珍しくありませんでした。

衛生管理が不十分な環境では、
豚に旋毛虫が寄生する機会が
格段に高くなっていたのです。

あとは人間と似たような
人体構造をしていると言われ、
今でも医療実験など人のモデルとして
ブタを利用することも多いくらい
似ている要素が多い動物です。

そうなれば豚にかかる病気や寄生虫も
他の動物よりも人にかかりやすい仮説もあります。

いくつかの宗教で他の肉は良くても、
「豚肉は食べない」という文化がありますが、

あれは宗教上というより地域的に
「病気になりやすい肉を食べないように」
という意味合いで宗教に組み込んだ
成り立ち説もあったりもするくらいです。

5.2. なぜ減った?豚の衛生管理の進歩
しかし、現代の先進国を中心に、
ブタの飼育環境や飼料が大きく改善され、
さらに屠畜場(とちくじょう)での
衛生検査体制が整備されました。

・ブタに残飯や生肉を直接与えないようにする。
・生ゴミは加熱処理する。
・ネズミや野生動物の侵入を防ぐ設備を整える。
・とちく場で筋肉検査を行い、
旋毛虫が検出された個体を流通させない。

こうした努力の結果、今では市販の豚肉を食べて
旋毛虫に感染するリスクは、
極めて低い水準にまで下がっています。

5.3. 代わりに増えた「ジビエ由来」
豚由来の感染が減った一方で、近年増えているのが
「野生動物の肉」を食べたことによる感染です。

特に、アメリカでは熊肉やイノシシ肉、
日本ではシカやイノシシ肉、
時にはクマ肉が原因となるケースがあります。

こうした「ジビエ」については、
家畜のような厳格な検査が
義務づけられていない場合も多く
(地域や国によって規定が異なる)、

狩猟で得られた肉を個人で消費する場合も多いです。

そのため、どうしても
“隠れたリスク”が残ってしまいがちなのです。

5.4. 予防策は「しっかり加熱」そして「器具の洗浄」

では、どうすればこの寄生虫から
身を守れるのでしょうか?

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、
豚肉やジビエをはじめとする肉全般を、
中心部まで最低でも71℃(160°F)以上で
加熱することを推奨しています。

これは、内部にいる寄生虫を
確実に殺すために必要な温度です。

中心部まで十分に加熱する:
見た目だけではなく、
温度計(料理用のデジタル温度計など)で
確認するのが理想的です。

二次汚染を防ぐ:
肉を扱った包丁やまな板、トングは、
次の調理に使う前にしっかり洗う。
可能なら熱湯消毒すると安心です。

生肉や生魚を扱った道具を、
そのまま別の食材に使わない:
包丁やまな板を分けるのがベスト。

冷凍は、ある程度まで有効ですが、
「T. nativa(トリヒネラ・ナティバ)」のように
冷凍に強い種類には意味が薄いです。

特に家庭用冷凍庫では絶対に安心とは言えません。

“冷凍なら寄生虫は死ぬ”という
昔からの通説が必ずしも正しいわけではない、
ということですね。知識の更新は重要です。

5.5. もし感染したら:治療薬と経過

感染が疑われる場合は病院へ行き、
血液検査(特に好酸球増加や抗体検査)や
筋肉生検などで診断します。

治療薬としては、
メベンダゾール(Mebendazole)や
アルベンダゾール(Albendazole)という
駆虫薬が使われます。

これらの薬は、腸内の成虫を殺したり、
幼虫が増殖するのを抑えたりする効果があります。

筋肉内にすでに入り込んでしまった幼虫にも
ある程度効果が期待されますが、
症状が重くなってからの治療では
回復に時間がかかることが多いです。

当然、後遺症なども残りやすい形のため
何度でも繰り返しますが、早期治療が肝心なのです。

(続く6
6. 日本や世界各地のジビエ文化と寄生虫リスク

6.1. 日本のジビエ:シカ、イノシシ、クマの歴史

日本でも、現代は猟師が減ったとはいえ、
古来より山間部を中心にシカや
イノシシの狩猟文化があり、
熊肉を食べる地域も存在していました。

江戸時代には「肉食禁止」の風潮があったものの、
「イノシシは“山鯨(やまくじら)”」
「鹿は“もみじ”」といった隠語で呼び、
食していた歴史もあります。

明治維新以降、西洋文化が入ってくると
牛肉や豚肉が普及しましたが、

近年では「ジビエ料理」として、
狩猟や自然とのふれあいを
見直そうという動きもあり、
シカやイノシシの肉を
レストランで出すところが増えてきましたよね。

熊肉はまだまだ珍しいですが、
山岳地帯の地域では冬に食べる
「熊鍋」などもあります。

うちの会社事務所近くにもありますね。

一方で、イノシシやシカ、
クマにはさまざまな寄生虫や
細菌が潜んでいる可能性が当然あります。

加えて、日本各地でシカやイノシシの個体数が増え、
農作物被害が深刻化していることから、
捕獲数を増やして食肉利用を
促進しようとする動きもあります。

これにともない、衛生管理のノウハウが
行き届いていないケースだと、
食中毒や寄生虫感染のリスクが懸念されています。

実際、残念ながら、SNS上で炎上したり、
ちょこちょこニュースになりますので
なんていうか考えが甘いというか、
こういうところはもっと対策が必要ですよね。

6.2. ヨーロッパやアメリカの狩猟文化

ヨーロッパではフランスやイタリアなどで、
ジビエ料理は“高級料理”として扱われます。

シカやイノシシ、野鳥などを狩猟し、
その肉を専門の処理施設で処理し、
レストランで提供するシステムが
整っている地域も多いです。

こうした場所では、検査体制もかなり整っており、
素人が勝手にさばいて出すわけではありません。

ただドイツとかは豚肉を生で食べる文化があり、
「イノシシも大丈夫だろう」と
生で喰ってたり、加熱不十分のウインナーにして、
いろいろ寄生虫症が増えているようです。

ヨーロッパの他の国でも
加熱不十分なジビエ加工肉での、
症状は少数ですがいろいろ出ているようです。

アメリカでも州ごとに規定が異なりますが、
狩猟にはライセンスが必要であり、
捕獲した肉を商業用に販売するには、
衛生検査をパスしなければなりません。

ただし、今回のサウスダコタ州のように
「家族や友人で分け合う」「自家消費」となると、
公的な検査は通さないことが多いです。

だからこそ、今回のような
寄生虫感染が起こるリスクが
完全には排除できない形ですね。

(続く7
エピローグ:ジビエを楽しむために必要なこと

ここまで長々と、熊肉による
旋毛虫(トリヒナ)感染事件をきっかけに、
寄生虫や狩猟文化、衛生管理などを見てきました。

最後に、ポイントを簡単にまとめます。

・旋毛虫(トリヒネラ)とは何か?

線虫の一種で、小さな幼虫が肉の中に潜む。
ヒトが食べると、小腸で成虫になり、
再び幼虫を放出して筋肉に入り込む。

熊や豚、イノシシなど、
肉食・雑食動物の筋肉に潜みやすい。

・2022年のサウスダコタ州の事例:
熊肉を食べて6人感染

15週間以上冷凍していたのに、旋毛虫は生きていた。

熊肉を食べなかった人も二次汚染で感染した疑い。

症状は軽い下痢から重篤な神経症状まで幅広い。
冷凍では安全にならない可能性

特に「T. nativa」という冷凍耐性種が問題。
しっかりと「加熱」することが唯一確実な殺虫法。

・ジビエブームと寄生虫リスク

豚肉由来は減ったが、
野生動物からの感染が相対的に増えてきている。

狩猟肉は公的検査が
行き届かないケースが多いため、自衛が必要。

・予防策

肉の内部まで十分に火を通す。
調理器具を分ける・洗浄するなど、二次汚染を防ぐ。

怪しい肉は食べない(重要!)
衛生管理が整ったルートから入手する。
ペットにも生肉を与えないなど、
周囲への感染ルートを防ぐ。

こうして見てくると、私たちは
「寄生虫はいやだ」「できれば避けたい」などと
簡単に言ってしまいがちですが、

一方で寄生虫の存在は自然界の食物連鎖や
共生の一端を担っている事実があります。

私たち人間は、知恵と技術を使って
“食の安全”を確保しつつ、
自然の恵みをいただく
生活を続けていかなければなりません。

ジビエ料理は、
地域特有の文化や伝統に根ざしており、
また“天然の肉”としての魅力も大きいです。

だからこそ、その美味しさや
楽しさを十分に味わうためにも、
寄生虫リスクや衛生上の注意を
しっかり理解しておくことが大切なのですね。

自然と人間が共存していくうえで、
食文化や寄生虫の存在は
避けて通れないテーマです。

今後もぜひ、「なぜそうなるの?」
「どうしたらリスクを減らせる?」
という疑問を大事にしながら、
学びを深めていってください。

以上、熊肉による旋毛虫(トリヒナ)感染から
広がるお話でした。

安全でおいしい食生活を楽しむために、
ちょっとしたリスクを知り、
上手にコントロールできるようになりたいですね。

引用元・参考文献一覧

1,Family Members Infected With Parasitic Worms After Eating Undercooked Bear Meat at Reunion
smithsonianmag.com/smart-news/fam…

2,Outbreak of Trichinellosis in 3 states linked to bear meat consumption | Food Safety News
foodsafetynews.com/2024/06/outbre…

3,Parasitic worms infect 6 after bear meat served at family reunion | Live Science
livescience.com/health/viruses…

4,Outbreak of Human Trichinellosis — Arizona, Minnesota, and South Dakota, 2022 | MMWR (CDC)
cdc.gov/mmwr/volumes/7…

5,Trichinellosis Surveillance --- United States, 2002--2007 - CDC
cdc.gov/mmwr/preview/m…

6,Trichinellosis - WOAH (World Organisation for Animal Health)
woah.org/en/disease/tri…

7,From wildlife to humans: The global distribution of Trichinella species and genotypes in wildlife and wildlife-associated human trichinellosis - PubMed Central
pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11…

8,Taste of the Wild! - Japan National Tourism Organization
japan.travel/en/gastronomy/…

9,Japan's Wild Game Consumption on the Rise - nippon.com
nippon.com/en/japan-data/…

10,Epidemiology, Diagnosis, Treatment, and Control of Trichinellosis - PMC - PubMed Central
pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC26…

11,How to Prevent Trichinellosis | Trichinellosis (Trichinosis) | CDC
cdc.gov/trichinellosis…

12,Trichinosis - StatPearls - NCBI Bookshelf
ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK53694…

13,International Commission on Trichinellosis: Recommendations on post-harvest control of Trichinella in food animals - PMC
pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC70…

14,Wild Game Meat Inspection Some Surprising Requirements! - Broken Arrow Ranch
brokenarrowranch.com/blogs/wild-and…

15,The Pros and Cons of Hunting: Environmental Impact, Conservation, and Caring for Hunting Dogs - TiCK MiTT
tickmitt.com/blogs/news/the…

16,Trichinosis (Trichinellosis): Background, Pathophysiology, Epidemiology - Medscape Reference
emedicine.medscape.com/article/230490…
(追記1)
相変わらず、寄生虫の話すると、
なんか伸びるよな。

適当に最近の寄生虫や毒性学話でも
置いておきますわ。

寄生虫×ウイルスのかけ合わせの話。

(続く1

あとは日本でも過去に流行っていた
住血吸虫症の薬剤プラジカンテルと新薬の話とか。

(続く2

それから、みんながなぜか大好きイベルメクチンが
まったく効かないと噂される未知の寄生虫話とか。

(続く3

他にも書いたものと言えば、
コロナとトキソプラズマ症の誤診話も、
これも寄生虫関係か。

(続く4

アメリカがかつて根絶した、
「生きたまま人間の肉を食う」と言われる
ラセンウジバエの再北上化話もあったな。

(続く5

あとは同じくアメリカで、
ワンコにかかる特殊な住血吸虫症があって
それが拡大しているから警戒しているって
話も書いたな。こんなところですかね。

気分が向いたら、ひび仕事の合間に、
適当に書いている形ですね。

(追記2)
そういや、寄生虫関係じゃないけど。
「牛肉は何でレアでも食べられるの?」

って解説話も面白かったな。
あれ書いたのもう1年以上前か懐かしいな。
もう少し、これに関しては文献漁りたい。

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Jul 16, 2023
商品企画中に
「なんで日本の工場で商品作らないんですか?」
って言われることあるけど。

例えば中国との比較だと

【中国】
中小規模の工場でもECサイトなどで
何作ってて規模・問い合わせ先全部書いてある。

サイトではカテゴリの工場が集まっているので
片っ端から問い合わせ可能。

(続く1
【日本】
中小規模の工場でホームページすらない。
何作っているのか全くわからん。

問い合わせ方法も別々。こういうのザラ。
あと見積もり遅い、サンプル作るの遅い
なのにロット数異様に多い。

金型代とか地獄。
各スピードと問い合わせ難度もそうだが
そもそも「見つけられない。」

(続く2
この辺、ちゃんと整備しないと
特に町工場とか終わるだろうなって思う。

いい腕しているのに
「何作っててどう問い合わせるかもわからんし。」

見つけられないと
存在していないのと一緒よ。

そういう点、中国もそうだけど
東南アジアの各国力入れているわな。

(続く3
Read 11 tweets
Jun 10, 2023
今日は毒の話とか
全然してないので代わりに

「ニコン・スモールワールド
顕微鏡写真コンテスト2022」

の写真作品でも。
これアリの拡大写真な。

海外だと去年の大会で
これノミネートされなかったけど
スゲーSNSで反響あった写真。

アリさんこっわ。

(続く1 Image
かのNikonさんが毎年やっているコンテストで
世界各地から毎年1000枚以上応募ある
名誉ある生物写真コンテスト。

応募者は写真家はもちろん
科学者、アーティスト、生物学者など
多くの方から賛同されるコンテストです。

で毎年独創性、情報量、技術力、
インパクトの観点で

(続く2
選んでいるはずですが、、、
このアリさんの絵はトップ20枚にも
選ばれなかったわけですね。

インパクトだと他にも
こういう虫さんの写真ありますけどね。

反対に言えばそれだけハイレベルってことです。
気になる方はあとで入賞者トップ20の
ページを引用元として置いておきますね。

(続く3 ImageImage
Read 6 tweets
Jun 10, 2023
不動産の話してて思い出したが。
例えば賃貸住みで夏近く暑いからエアコンつけて
「なんか壊れていた」ってしましょう。

今までは直るまで我慢だったけどさ。

実は民法改正されて改正民法611条で
大家側は「補填しないといけない」って
ルールに変わったのよ。

覚えておくとええかもね

(続く1 Image
最近は半導体不足とか工事の人足りないとかで
エアコン修理や取り付け遅れる傾向あるやん。

でその間は我慢するのが普通だけど。
改正された民法だと補填が必要だから
例えば直るまで2週間あったとしたら。

「大家さんその間ホテル代出してください。」
とか交渉できる。

(続く2
もしくは

「大家さんその間実家に泊まるので
2週間分減額してください。」

とかも交渉できる。
改正前も出来ましたけど。
改正後はより法律が味方してくれるので
やっぱり法律は知っている方のミカタですな。
特に不動産は。

別にエアコン以外でも給湯器とか水道とか
何でも使えますね。

(続く3
Read 9 tweets
Jun 10, 2023
みんなが大好き寄生のお話だけど。
「フクロムシ」さんのお話ですな。

イラスト通りカニなどに規制することが多く
世界で300種類ほどいてシャコやエビにも
寄生されることが確認されている。

でメス化するのですが具体的には
「寄生去勢」の部類。精巣ぶっ壊します。

オスとして終わり

(続く1
脱皮するごとにメス化が進むのですけど。

この場合メス化というより
「オスとしての機能を徹底的に壊して
ホルモンなど出させない」などを行うので
メスかというよりオス去勢が強いそうで。

機能を停止させ男性不能。
この場合雄不能ですかね。

実は別段オスだけに寄生するのじゃなくて

(続く2
メスにも寄生するのがフクロムシですな。

寄生したら生殖器官と
栄養を吸収する器官以外何もないので
ホント本体から栄養吸い取るだけですな。

ただカニもバカじゃない。
実は「規制確率は低い」と言われており
カニは猫のようにグルーミングを
得意な種が多いです。

(続く3
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Jun 10, 2023
みんな大好きエッシャーさんの三角形。
リアルで見るやつは「だまし絵」みたいなもんで
こういうように作っているという好例の動画。

ちなみにこういうの広めたのは
確かに芸術家マウリッツ=エッシャー氏だけど、
考案者は別で「ペンローズの三角形」って
呼ばれている別ものなのよ。

(続く1
1934年にスウェーデンの芸術家
オスカー=ロイテルスバルト氏が生み出した
「不可能な図形」

これを「不可能図形」とそのまんまの呼び方だけど。
世の中にに広めたのは
ライオネル=ペンローズ氏と
その息子のロジャー=ペンローズ氏。

図の階段もこれもペンローズの階段と言って

(続く2 Image
広めたのは彼ら。有名な階段ですよね。

特に息子のロジャー=ペンローズ氏は
2020年にブラックホール形成研究で
ノーベル物理学賞取ったから有名な天才研究者よね。

エッシャー氏は彼らのアイディアを元に
作品を作ってアイディアそのものは
彼らに原点があるって言われていますね。

(続く3
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Jun 9, 2023
現代アートで思い出したけど。
「現代アートわからない!」って言う方のために
とっておきの舞台作品を紹介しましょう。

2008年にあった舞台で
ほぼ全裸男性が観客を見た後
そそり立つ股間の鉄の棒を鉄の棒に打ち付ける、、

え?何言っているかわからんって?
ほら動画。そのままだよ

(続く1
カナダのダンサーで振付師、
舞台ディレクターしても長年活動している
マリー=シュイナール氏の2008年舞台。

深くは言わねえけど。
ダンサーの方々の肉体美は良いが
正直私も何あらわしているのか難度が、、、

(続く2

参考:Marie Chouinard - Wikipedia
en.wikipedia.org/wiki/Marie_Cho… ImageImageImage
あとフルバージョンあるから
気になる方は引用元のYouTubeからどーぞ。
いや最初から見てもよくわからんねえけど
私には理解難しいかもしれん。

みんなはきっと理解できるはず!

引用元:Body Remix Goldberg Variationen arte 2008 - YouTube
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