「ちょっと、あんたそんなに
沢山もやしばっかり買って…
一体どうするんだい?」

「え?
あーこれですか?
一週間分のご飯ですよ。」

「まさか…食べ盛りの若い子が
もやししか食べないわけじゃ
ないだろうね!?」

「…そうですけど?
まぁ、貧乏なんで仕方ないですね。」

仕事帰りに家の近くのスーパーで
買い物をしていると、
見知らぬ女性Iさんが
話しかけてきた。↓
「お金がないって…
あんた働いてるんだろ?
一体何に使ってるんだい…」

「いや、
ちょっと色々あって
自暴自棄になっちゃってた
時期がありまして…
その時に趣味に費やしすぎて
気付いたら多額の
借金を背負っちゃって…笑」

「そうなのかい…
詳しくは聞かないけど、
色々大変だったんだね…」

お互い話しながら買ったものを
エコバッグに詰めていると
Iさんから思わぬ事を言われた。

「あっ!そうだ!
ウチに食べに来なよ!」

「…はい?」

Iさんは旦那さんと2人で
小さな食堂屋を営んでいて
旦那さんが仕込みをしている間に
買い出しに来ていた。

「いやいや!
さすがにそれは…
僕本当にお金なくて…」

「いいんだよそんなの!
あ、何なら今から来るかい?
丁度これから旦那が
お店開けるからさ!」

僕はスーパーまで
徒歩で来ていて、
Iさんは車で来ていた。

(本当に行っていいもの
なのだろうか…)

そんな事を考えつつも
僕はIさんの車でお店まで
乗せていってもらった。

お店の場所は
買い物をしていたスーパーから
さほど離れておらず、

何なら僕の済んでいる
マンションから
徒歩10分圏内だった。↓
(こんな場所に
食堂屋さんなんてあったんだ。)

お店の外観は昔からある
何とも言えない老舗感が
漂っていて、店内も
こじんまりとしていたが
不思議と落ち着く空間だった。

「ちょっとあんた~!
この子に何か腹いっぱい
食わせてやってくれ!」

「お~う。お帰り~
なんだ、どうした??」

Iさんが店内で声を張り上げると
お店の奥からIさんの
旦那さんであるDさんが出てきた。

Iさんが一通り僕の代わりに
スーパーでの出来事をDさんに
説明してくれると、

「そうかぁ…あ、兄ちゃん。
何か食いたいものあるか?
遠慮せず言ってみな。」

「えーっと、そうですねぇ…
強いて言えば贅沢ですけど、
お肉が食べたい…ですかね。笑」

「肉かぁ~よし!わかった!
なら今日はかつ丼作ってやるから
それ食ってけ!!」

「え!?いいんですか!?
ありがとうございます!!」

きっと偶然なんだろうけど、
Dさんはまるで僕の心の中を
覗いたかのように僕の大好物を
一発で当ててきた。

「ほら!
出来たぞ!沢山食べな!」

Dさんが厨房から
僕の座っているカウンターに
かつ丼を運んできてくれた。

フタを空けた瞬間、
何とも言えない
いい香りが漂ってきて、
我慢が出来なくなった僕は
すぐさま食べ始めた。

「はは!笑
そんなに勢いよく食べると
詰まるぞ~笑」

そんなDさんの言葉を
無視するかのように
ただひたすらに、無言で
食べ続けたら自然と
あまりの美味しさに
涙が出てきた。↓
「おい、兄ちゃん。
どうした??
まさか美味しくなかったか?」

「いえ…逆です…
めっちゃ美味しいんです…
こんな美味しいモノ
久しぶりに食べました…」

「なんだ…
ビックリしたじゃねーかよ…
でも泣くほど美味しいなんて
言ってくれるとは
嬉しいねぇ~!
お代わりもあるから
ゆっくり食べるんだぞ~」

自分の過ちで逼迫した
生活になったとはいえ、
ここ数か月ずっともやししか
食べてなかった僕には

Dさんの作ってくれたかつ丼が
神様に思えた。

その出会いから始まり
気付いたら僕は週末になると
その食堂に毎週の如く
足を運ぶようになっていた。

もちろん
毎回頼むのはかつ丼。

「あ、今日はちゃんと
お金払います!」

「いいのいいの!
そんなの気にしなくて
大丈夫だから!」

僕が食べ終わり
レジでお金を払おうとしても
IさんとDさんは一切
受け取ろうとしてくれなかった。

「よし、
今日も食べに行くか~」

いつものように週末に
食堂に足を運ぶと
何故かその日に限って
お店が空いてなかった。

(あれ?
定休日は毎週月曜のはずだけど…
何か用事でもあったのかな?
まぁ、また明日にでも来るか~)

ところが次の日に行っても
お店が開いてなかった。

(何で開いてないんだろ…)

不思議に思った僕はふと
お店に電話をかけてみた。

「あ、もしもし。
昨日と今日お休みですか?」

「あ~あんたか…
来てくれたんだね。
ちょっと待っててね。
今入口開けるから。」

(ん??
何かIさんの声が
いつもより元気ないような気が…)

そんな事を考えていると
Iさんがすぐお店の入り口を
開けてくれた。

「土日とお店
お休みだったんですね。
何か忙しかったんですか?」

「いや…実は今週から
もうずっと店閉めてるの。」

「一体どうしたんですか??」

「旦那がね…
3日前に亡くなったの。」

「…え?」↓
「もうあんたと出会った時から
末期の膵臓がんだったのよ。
半年前位に病院で検診受けた時に
引っかかてね。
そのまま検査を受けた時にはもう…」

「そんな事って…でも…」

「本当は入院だったんだけど、
どうせ助からないなら、俺は
最後までこの店を続けるって
聞かなくてね…
自宅療養しながら今まで
お店やってきてたの。」

淡々と話すIさんに対し僕は
ただ、ひたすら
話を聞く事しか出来なかった。

「でもね、
あんたがいつもお店に
来てくれるようになって
旦那、いつもあんたの話ばかり
してたんだよ。」

「何でですか…?」

「あの兄ちゃん、いつも
俺の作った飯を美味いって
食べてくれるんだぜ?
最初はお世辞かと思ったけど
ホントに美味そうに食べてるから
俺、めっちゃ嬉しいなぁ~
今まで店やってきて良かった~!
って毎日言ってたさ。」

「いえいえ。僕は…
本当に美味しかったんです…」

「そう言ってくれて
ありがとね。
旦那もきっと喜んでるわ。」

「お店はどうするんですか?」

「私ひとりじゃ
もう出来ないからねぇ…
このまま店仕舞いになるかねぇ~」

「そうですか…
寂しいですけど…
仕方ないですよね…」

「あ!そうそう!
実は旦那から預かってるものが
あって…ちょっと待ってね。」

Iさんが立ち上がり
そのまま厨房の方へ
歩いていくと、

一枚のメモ用紙を持ってきた。

「これ、
旦那から渡してくれって。」

そのメモ用紙には
僕が毎回食べていた
かつ丼のレシピが
詳しく書いてあった。↓
それを見た瞬間、
僕はそれまで必死に
堪えていた涙が一気に
溢れてきた。

「これ…貰っていいんですか?」

「むしろ貰ってやって欲しいな。」

「分かりました。
ちゃんと作れるようになるまで
練習しますね。」

そう言って店を出た僕は
そのかつ丼のレシピが書かれた
メモ用紙を見てマンションまで
帰って来た。

幸いなことにまだスーパーが
開いてる時間だったから
そのまま早速食材を買いに走り
レシピ通りに作ってみた。

(あー…Dさんの
作ってくれてたかつ丼と
全く一緒の味がする。)

でも、僕を盛大に笑顔で
迎え入れてくれてたDさんは
もうこの世にはいない。

泣きながら自分で作った
かつ丼を食べていたのを
今でもよく覚えている。
=============
些細な出来事から始まる
人との出会いで、
自分の人生は大きく変わる。

(これが本当のギバー精神の
持ち主なんだな。)

僕自身も究極これを目指して
日々頑張っていきたい。
そう思えた。

目の前の、大事な人に
少しでも笑顔で
居てもらえるように。

最後まで読んでいただき
ありがとうございました。

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with つむぎ | 自由気ままな音楽家

つむぎ | 自由気ままな音楽家 Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Don't want to be a Premium member but still want to support us?

Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal

Or Donate anonymously using crypto!

Ethereum

0xfe58350B80634f60Fa6Dc149a72b4DFbc17D341E copy

Bitcoin

3ATGMxNzCUFzxpMCHL5sWSt4DVtS8UqXpi copy

Thank you for your support!

Follow Us!

:(