今、トランプ政権下でアメリカの大学院で起きていることについて記録しておきたい。記載しておきたいことは主に二つ。一つは、研究への影響。「多様性」等に関係するあらゆるプログレッシブな物事をトランプ政権は目の敵にし、一掃するまで連邦政府の資金を一時停止するとまで宣言した。その影響で(続
政府から研究費をもらっている組織や個人はすでに、National Science Foundation(アメリカ合衆国国立科学財団)から突然支援金の支給が止まって生活に困ったり、研究の内容を変えることを余儀なくされたり、職を失ったりしている。現に、自分の研究がその対象だ。
npr.org/2025/01/31/nx-…
「もし敵認定されたら困る」ので、さまざまな分野の研究者たちが差別、バイアス、多様性、平等などの文言を研究の概要欄から削除したり、別の言い方へと今まさに変えたりしている。それは生物学や医療系が特に大きな影響を受けていて、CDCではLGBTQ関連のサイト等が消えた
npr.org/sections/shots…
"「ジェンダー」や「多様性」とは関連がないと思われるページも多数削除された。例えば、HIV、ウイルス性肝炎、性感染症、結核に関する監視データを提供するCDCのインタラクティブツールであるAtlasPlus。HIV検査に関する基本情報を掲載したページも消えた。"
"データ消失の顕著な例として、CDCは、高校生を対象とした健康関連の行動に関する全米最大のモニタリングプログラムで収集されたデータを掲載しているサイトを削除した。関係者によると、トランプ大統領の「女性を守る」大統領令に準拠するために、保健に関するさまざまな側面のデータを含むサイトを
閉鎖せざるを得なかったという。この大統領令では、政府機関は「税金を使ってジェンダーイデオロギーを推進または反映するすべての政府機関プログラムを速やかに終了すべき」とされている。また、この大統領令では、政府機関は「ジェンダーイデオロギーを教え込む、または推進する
すべての対外向けメディア(ウェブサイト、ソーシャルメディアアカウントなど)」を停止しなければならないともされている。対応の期限は金曜日の午後5時である。" npr.org/sections/shots…
ホワイトハウスの公式サイトではこう書かれている。

急進的かつ無駄な政府DEIプログラムと優先順位付けの廃止

(i) 法律で認められる最大限の範囲で、すべてのDEI、DEIA、および「環境正義」の部署および役職(「最高多様性責任者」の役職を含むが、これに限定されない)、
whitehouse.gov/presidential-a…
すべての「公平性行動計画」、「公平性」行動、イニシアティブ、またはプログラム、「公平性関連」の助成金または契約、および従業員、請負業者、または助成金受給者に対するすべてのDEIまたはDEIAの業績要件を終了する。"
"省庁の職員に DEI 研修または DEI 研修教材を提供した連邦契約業者の名簿を行政管理予算局に報告する"

この延長で今日発表されたニュースが、「教育省の連邦職員の一部は、過去に多様性研修に参加したことを理由に、管理上の理由による休職処分を受けた」というもの。
politico.com/news/2025/02/0…
このように、ウェブサイトを削除したり、職員を休職処分にしたり、資金を停止したりと、政府職員や「是正」の対象とされているLGBTQ等の当事者だけでなく、そのデータを頼りに研究を行っている人、医療を提供している人、教育を提供している人など、あらゆる人が影響を受けている。そして、
大学院生は研究者でもあるが、労働力でもある。そして非常に不安定なポジションに置かれている。それは雇用の立場でもそうだが、特に学生ビザで滞在している人はなおさらそうだ。批判やそれ以上の措置を恐れて、多くの研究者は表向きの資料の文言の精査や研究内容の変更を余儀なくされている。
二つ目は、上の学生ビザの話。連日回ってきているメールスレッドでは、カリフォルニア大学の労働組合に所属している外国籍の大学院生たちから不安と批判の声が上がっている。去年、カリフォルニア大学の学生労働組合はガザでのジェノサイドに抵抗するストライキを多数決で決行した。しかし、
1月29日には、トランプの大統領令で

「反ユダヤ主義に対抗するため」との名目で「パレスチナ支持の抗議活動に参加した非市民の大学生やその他の人々を国外追放する」と宣言したのだ。つまり、学生ビザを剥奪する、という脅しだ。このことに対して外国籍の大学院生たちは、
reuters.com/world/us/trump…
労働組合に所属している場合、そしてその労働組合がパレスチナに関連する抗議活動を行った場合、自分達にも影響があるのではないか、その場合は労働組合はどうしてくれるのか、具体的にどう守ってくれるのか、という説明の要求が上がっている。組合のリーダーたちは「法律的にはあり得ない」と言うが、
今の所トランプ政権が行なっていることは、法律をガン無視したことばかり。今までの「常識」は通用しないし、心配しなくても大丈夫だよ、と言われても学生たちの不安は収まらなくても仕方がないだろう。
このようにして、何も「悪いこと」をしていなくても、そしてまだ実際に制裁が加えられたわけではなくても、多くの人が恐怖と不安に陥っている。何かあってからでは遅いので、事前に権力に屈することが最も安全な選択肢になってしまっている。この緊迫感と闇雲な不安感は、今記録しておきたい。
「まさか」と思うことばかりが起きているので、自分の身は自分で考えて守るしかない、というムードが確かに強まっている。一方で、本来はこういう時こそ市民の連帯と助け合いが大切なはずだが、不思議と今はそのムードはあまり感じられない。連帯や抵抗よりも、不安と混沌の方が圧倒的に強い。
アメリカ合衆国憲法修正第1条は、政府が言論の自由を制限することを禁止している。しかし、政府に対する批判、そして政府の意向に反するような発言の自由はまるでない。あらゆる発言や発信に気を使い、抵抗運動などはなおさら連帯・団結しづらい。アメリカ国籍がない人たちの不安は特に大きく募る。
"今週、全米科学財団(NSF)が助成金の支出のほとんどを突然凍結したことにより、致命的な地震の可能性を警告するのに役立つ可能性のあるセンサーのグローバルネットワークをはじめとする科学プロジェクトが危機に瀕している。"science.org/content/articl…
"NSFは、ドナルド・トランプ大統領が発令した「wokeなジェンダーイデオロギー」を推進するプログラムへの連邦政府の資金援助を全面禁止する大統領令に、すでに授与した助成金の数十億ドルが準拠しているかどうかを確認するために、凍結を命じた。"
"エッテン氏は今週、突然、生活費の支払いが出来なくなった。ウッズホール海洋研究所の生物学者である彼女は、微生物間のDNA共有がどのように進化に影響を与えるかを研究するために、NSFからポスドク研究助成金を獲得した。この助成金は彼女の研究、そして生活を支えている"npr.org/2025/01/31/nx-…
移民の国でもあり、差別の国でもあるアメリカにおいて、「多様性」というのは「概念」の話じゃない。例えば就職や入試でAIモデルが用いられる場合、その学習に用いられたデータに性別・人種に基づくバイアスが盛り込まれていたら、結果にもバイアスが生まれる。そういう「研究」もターゲットになり得る
他にも、例えば歴史的にレッドライニングなどによる抑圧的な都市開発(ベイエリアで言えばリッチモンドなどが顕著)によって、有色人種が多いエリアは空気汚染や水質汚染の問題が事実上存在する。そのような「環境問題」の研究も、ターゲットとされている。机上のDEI議論ではないことは重要な事実。
医療に関してだって、多様な人種がいれば、多様な医療が必要だ。男性と女性では必要な医療が異なるのと同じなわけだが、そのような「多様性」に考慮した研究だってターゲットになりうる。なんとなく行われる会社のDEI研修等と、そういう「実存する多様性」に関連する事象と区別する必要がある。
最もリアルな感触としては、「何が起きているのかよくわからない」という気持ちの人が(属性問わず)ほとんどだと思う。関心がないわけではないし、ある程度は自分ごとな気もするけど、じゃあどうすればいいのか、次に何が起きるのかまでは分からない。そして大きな声で反対意見を言いづらい雰囲気。
一連の投稿に情報を追加して、noteのマガジンに投稿しました。

これからXを中心ではなく、ニュースレター形式で「何が起きているのか」を記録しようと思います。この機にぜひそちらをフォローしてもらえたら頑張って続けます🙏

note.com/daniel_takeda/…

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Jul 25, 2024
そもそもbratz人形とかあったわけだし、この"brat"という言葉がZ世代に再定義されているわけではない。Cuntとかbitchと似たように、侮辱的に使われた言葉をアイロニックに用いるという文脈で、単にCharliの奇抜なアルバムデザインの一環としてミーム的に"brat summer"というフレーズが話題になった。
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