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Mar 11, 2022
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山口創『人は皮膚から癒される』(草思社)
開かれた対人関係は、心身の不調を癒す効果があることは、さまざまな調査、研究から明らかになっている。
それでは、「開かれた対人関係」とは何かと言えば、端的に、触れ合うことのできる関係、触覚的な関係てはないか。
触れ合うことは、触れる/触れられるという能動/受動の境界を曖昧にする。人に触れているとき、人は同時に触れられてもいる。
こうしたことが、なぜ心身の不調を癒す効果があるのだろうか。
心身の不調とは、心身を他者に閉ざして、自他の境界が凝り固まったところに生じる。どういうことか?
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Feb 24, 2022
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伊藤比呂美と町田康の対談集、『ふたつの波紋』(文藝春秋)を読んでいて、町田康がともあれ重要なのは「語彙をどれだけ持っているか」である、ただし、その語彙は体験に結びついた、本当に心の底から納得している語彙でなければいけない、と語っていて、とても興味深かった。
「僕たちは同じ世界に住んでいるように見えるけれど、個々の主観的な世界観と価値観の中で生きているから、実は世界を生きているとも言える。いずれにせよ、その世界観が浅くて狭いものだと、自分の外側というものはなくなってしまいます。」
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Feb 24, 2022
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ほんの数分でも、私とその人とのあいだで完全な対称性が実現できたとき、その人の悲しみはそのまま私の悲しみになり、私の喜びはそのままその人の喜びになる。 人間関係は、いつも個別の「問い」としてつきつけられ、対称性という解を導くことが試されている。
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Feb 24, 2022
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助けを必要とする人が自ら助けを求められないのは、自分が援助に値する人間だとは思えないこと、そんな人間には誰もまともに向き合ってはくれないだろうという人間関係への不信にある。特に自分が陥っている窮境について、自分が悪いと思っている人にとっては、人に助けを求めることのハードルが高い。 アルコール・薬物中毒、ホームレス、DV被害者、性被害者等など、支援活動をしている人のレポートを読むと、彼/女は「自分が悪い、自分には価値がない→だから人に援助を求めてもまともにとりあってはもらえない、或はどんな『援助』がされるか分かったもんじゃない」というループにはまりこんでいる。
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Feb 23, 2022
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夢を見ているととき、夢の世界は自分の想像力で作られているにもかかわらず、自分の自由にはならない。
対話が深くなると、夢を見ているような状態になる。相手の視点を想像しながら話しているうちに、自分の視点が相対化されて、いつのまにか自分が話しているのか相手が話しているのかも曖昧になる。 つまり、「ふたりで同じ夢を見ている」。そんなふうに交わることが、対話の愉楽である。
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Feb 22, 2022
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ピエール・アド『生き方としての哲学』(小黒和子訳 法政大学出版局)
日常生活において、私たちの決意や反応は、個人的人間性の根底から出るものではなくて、世間一般が持ちうるステレオタイプな反応によるものに過ぎない。
私たちは哲学の実践によって、より自覚的な生を生きることができる。
ピエール・アドは、ギリシア哲学、特にプロティノスに関する文献学的研究に20年を費やし、その後フーコーによってコレージュ・ド・フランスに推薦された古典学者。モンテーニュやニーチェのような平易な文体で、古典時代の哲学が、体系構築ではなく生き方の問題を中心に置いていたことを論じる。
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Jan 17, 2022
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梅原猛・五木寛之『仏の発見』(学研)
宗教や文学は、酷い体験、暗い怨念、闇のパトス、人の悪の側面を原動力にして創られている。
一般的な道徳や法、秩序を反転させたところに、人が本来的に持つ原悲を超える救いがもたらされる。
仏教の勉強というより、対話に通底する悲しさの響きに耳を澄ます。
五木は敗戦を平壌で迎えたという。「それまでの植民者の、権力者側の子弟としての生活が一挙に、パスポートを持たない難民の生活に変わる。それから引き揚げてくると祖国では引揚者。その当時、引揚者というのは一種の差別語だったんですよ。」P50
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Jan 15, 2022
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八馬智『日常の絶景 知ってる街の知らない見方』(学芸出版社)
スケールを変え、着眼点を変え、図と地を反転させて、さまざまに見方を変えると見えてくる街の異貌=絶景の脳内観光ガイド。
例えば街中の高低差を意識して歩くだけでも、そこに見えなかった地形のレイヤーが浮き上がってくる。
おれは散歩が趣味だ。自然のなかを逍遥するのも好きだが、街を歩くのも好きだ。繁華街よりも、街中の人通りのあまりない場所を好んで歩く。そうすると、自ずとここで紹介されているような、都市機能の楽屋裏のような空間に親しんでいく。
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Jan 15, 2022
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松村圭一郎+コクヨ野外学習センター編『働くことの人類学』(黒鳥社)
松村圭一郎と若林恵がホスト役となり、6人の人類学者ー深田淳太郎、丸山淳子、佐川徹、小川さやか、中川理、久保明教ーをゲストに迎え、「働く」をテーマに議論されたポッドキャストの書籍化。
冒頭に柴崎友香との対話も収録。
民族社会にはそれぞれの背景がある。働くことの意味や働くことを媒介にした人間関係のありようは、もちろんその背景の条件があってのことだ。
それは踏まえたうえで、そこには、私たち近代以降の社会に住む人間にとっても、自分たちの働き方を考えなおすヒントがたくさんつまっている。
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Nov 4, 2021
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デール・S・ライト『エッセンシャル仏教 教理・歴史・多様化』(佐々木閑監修 関根光宏・杉田真訳 みすず書房)
目次を見てもらうと分かるが、40年にわたり仏教を研究してきた著者が、釈迦像、その後の仏教多様化の歴史、仏教に通底する教理の核、修行、現代的な展開について概説する。
今は、日本の家制度と密接に結びついた伝統的な仏教のみならず、禅や瞑想など「今ここ」へ超脱するという思想的実践を通して、実存的に仏教の一端に触れている人も多いだろう。
それらの思想や実践の背景となっている智慧の領野をマッピングしておくことは無駄にはなるまい。
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Nov 4, 2021
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ジョン・グレイ『猫に学ぶ』(鈴木晶訳 みすず書房)
ー人間生活の大半は幸福の追求だが、猫の世界では、幸福とは、彼らの幸福を現実に脅かすものが取り除かれたときに、自動的に戻る状態のことだ(…)
人間がなかなか手に入れられない幸福が、猫には生まれつき与えられているのだ。P6
著者は、モンテーニュとウィトゲンシュタインの哲学は「人間を哲学から癒す」ための哲学だったと説く。
人が何かを考えるとき、その言語には過去の形而上学体系の残滓が散乱している。それらを発掘し、自分たちが現実だと考えていたことがじつは虚妄であると知ることこそが彼らの「哲学」だった。
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Nov 2, 2021
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18 tweets
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ジョナサン・シルバータウン『なぜあの人のジョークは面白いのか?』(水谷淳訳 東洋経済新聞社)
笑うとき、脳ではどんなプロセスが起こっているのか。
笑いの起源は?進化的な獲得の経緯は?人間にとって笑うことの持つ意味とは何か?
笑いとは何か。笑いにもいろいろな種があるが、そこに共通する最も一般的な定義はなんだろう?
よく、笑いは「緊張と弛緩」によって起こると言われるが、それでは緊張とはどういうことだろうか。
著者は緊張とは、「不調和の検知」であるとする。
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Oct 16, 2021
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23 tweets
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森田真生『僕たちはどう生きるか』(集英社)
ーこれまで反復していた自然がかつてのようには反復しなくなり、当たり前にいたはずの生き物たちが次々と滅びていく世界で、心を壊さず、しかも感じることをやめないで生きていくためには、大胆にこれまでの生き方を編み直していく必要がある。P3-4
本書は2020年3月30日(月)から書き始められる日記形式の連載をもとにしている。
コロナウィルスのパンデミックが広がっていき、「危機を阻止しようとする取り組みが、既存のシステムの順調な作動の急激な停止」をもたらした、その時間の中で、アクチュアル且つラディカルな思考が展開されている。
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Oct 15, 2021
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若林理砂『東洋医学式凹んだココロをカラダから整える46の養生訓』(原書房)
人のココロは自分が思っている以上にカラダの状態に影響を受ける。
凹んでるなぁと思ったら、まず空腹、手足の冷え、寝不足、凝り、痛みや痒みといった、カラダの状態に意識を向けてみるといい。
多くの人は、自分のカラダについて、ぼんやりとしか認識していない。
カラダには個性、型がある。
また、カラダは睡眠、飲食、運動を通して、カラダをとりまく環境との、絶え間ない代謝、交換、共鳴の中にある。
ココロは、そのカラダのダイナミズムに伴う現象だ。まず、そのことをしっかり自覚する。
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Oct 14, 2021
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太田啓子『これからの男の子たちへ』(大月書店)
男らしさ、男性性は、これまで社会的にポジティブな評価を受けてきた資質、能力だった。
もちろん、物事を遂行する上で、それはポジティブな側面も持つ。だが、光があれば闇もある。男性性のネガティブな側面は、これまであまりにも無視されてきた。
問題は、男性性そのものというより、男性のホモソーシャルな社会性のなかで、男性性が唯一絶対の価値として共有され、人間のそれ以外のさまざま美質が抑圧されてしまうことにある。
男性性の優位を競うホモソーシャルな社会の中では、”男らしくない”ゲイや女性は嫌悪され、嘲笑の対象となる。
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Oct 13, 2021
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『堀内誠一 旅と絵本とデザインと』(平凡社)
コロナ・ブックスで堀内誠一があったので購入。何となくは知っていたが、すごく広大な仕事をした人だったんだなぁと改めて。
特にエディトリアル・デザインの仕事。この人の手がける雑誌はただの情報媒体じゃなくて、雑めく芸術だ。本当に愉しい。
ー雑誌は音楽の組曲のように、いやもっと食事のコースに似ているかも知れません。アペリチフがあり、前菜、アントレがあり、メイン・ディッシュがあり、デザートや食後酒のツマミがあるという形を先ず想像します。↓
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Oct 13, 2021
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若林理砂『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』(ミシマ社)
東洋医学の知見をもとに、これだけやっておけば年相応に健康になります、という方法を指南してくれる。
とてもシンプルな原理原則を外さないだけで、老いて寿命をまっとうするその過程を、普通に清々しく過ごるみたい。
健康というと、年齢に関わらず、完全なパフォーマンスをイメージする人が多い。
著者はまず人は必ず老いて死にますという当たり前のことを指摘する。まず、自分の平均余命を意識して、その間、バランスよく生きていければそれが健康ということにしましょう、と。
ちなみに、私はあと28年くらい。
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Oct 12, 2021
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高橋弘樹『都会の異界』(SHC)
ーいちばん幸せな暮らしとは何か?それは、「市中の山居」だと思う。都会の中で、田舎のような住まいをすることだ。P10
佃島ほか、東京23区内にある「島」には、「島」であるがゆえの別世界(人の雰囲気も、家賃相場も)がある!
この著者、もともとはテレビ制作会社のディレクターだったということだが、歴史的な物やそこいらをぶらぶらしている人への視点がじつにおもしろい。おもしろ物や人は、おもしろい人のおもしろい視点や好奇心に映るもんなんだよな、と改めて思う。
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Sep 22, 2021
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マイケル・S・ガザニガ『脳の中の倫理』(梶山あゆみ訳 紀伊国屋書店)
脳死やドーピング、法律が根拠とする自由意志といったトピックに即して、人間の倫理や道徳が、文化相対的、文脈依存的な条件を越えて、ある程度普遍的な反応であるということが論じられる。
特に興味を惹かれたのが9章「信じたがる脳」。
ー脳は電光石火のスピードで信念を生み出すことができる。ほとんど反射的に、と言ってもいい。
今では、信念を生み出すのは左脳だとわかっている。左脳は、世界から受け取った情報に何らかの物語を付与する仕事をしている。(…)↓
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Sep 21, 2021
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小塩真司編著『非認知能力』(北王子書房)
認知能力は、IQなどの「賢さ」の指標によって測られる。
だがじつは、人生における成功は、賢さ以上の要素に左右される。
その「賢さ以上の要素」をまとめて「非認知能力」と言う。
ここでは、非認知能力を、誠実性、グリッド、自己制御・自己コントロール、好奇心、批判的思考、楽観性、時間的展望、情動知能、感情調整、共感性、自尊感情、セルフ・コンパッション、マインドフルネス、レジリエンス、エゴ・レジリエンスの切り口でまとめ、それぞれ項目を専門の研究者が論じている。
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Sep 21, 2021
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人間関係のなかで、素のままの自分でいたいと思ったら、「素のままの自分というスタイル」を、つくりあげることですね。
このスタイルがチャーミングなら受け入れられる。鬱陶しいと感じられれば避けられる。 みなさん、周りの人に気遣いしながら生活してると思うんですけど、気遣い、怠い、って気分になることも多いですよね。それは、自分のスタイルをつくろうとしてないからです。
自分のスタイルをつくっていくと、気遣いも楽しくなりますよ。気遣いが、義務ではなく、贈与の意味を帯びてくるんです。