窓際三等兵 Profile picture
sometimes party gal.
Aug 15, 2024 13 tweets 1 min read
「お盆は帰って来るの?」。老眼鏡をかけ、息子の悟に送ったLINEを改めて読み返す。1週間経つが、画面には「既読」という小さな文字だけが表示されている。冷蔵庫の中では、もしかしたらと買っておいたスイカやビールが虚しく冷える。甲子園の実況の声だけが響く一軒家は、1人で過ごすには広すぎる。 「やっぱり悟くんは出来が違うわね」「本当に将来が楽しみね」。群大卒の教師と群女卒の専業主婦という平凡な遺伝子から生まれたとは思えぬほど、できた息子だった。ママ友に褒められるたび、鼻が高かった。前橋高校を卒業し、現役で東大へ。敷かれたレールを苦もなく進む悟の背中が誇らしかった。
Feb 11, 2023 13 tweets 1 min read
「ボーナス貰いすぎだろ、総合商社は良いよな」。三井住友海上に勤める友人の羨む声。「駐在で金貯まるのも羨ましいわ」と電通マン。嫉妬と羨望の感情で高まった自尊心は、瞬時に霧散する。「でもあいつ、三菱商事辞めるなんてすごいよな」。この場にいない、あいつ。クラフトビールの苦味が増す。 東京銀行で働く父の駐在について行き、幼少期はNYで過ごした。実家は綱島駅徒歩8分の一軒家、高校から塾高。遊びも勉強もほどほどで要領よく、法学部政治学科に進学。慶應内に掃いて捨てるほどいる、「中の上」の人生だったと思う。丸紅の内定を得たことで、「上の下」くらいにはなったかもしれない。
Feb 10, 2023 12 tweets 1 min read
「成人式がディズニーとか、超羨ましいんだけど!」。亜由美のキンキンした声が反響する。ディズニーという単語でワンオクターブ高くなるその声も、20歳になってミッキーのスマホケースを使うその感性も苦手だ。アメリカから帰国して8年。日本という国に、浦安という街に、私はまだ馴染めていない。 パパの駐在でカリフォルニアに引っ越した小1の春。ママの運転するカムリの後部座席で私は「学校に行きたくない」と毎朝泣いていたらしい。紫色のネイルをした金髪の先生は何を話しているのか分からず、魔女のようだった。起きたら全部夢で、日本に帰っているようにと祈りながら毎晩枕を涙で濡らした。
Feb 4, 2023 11 tweets 1 min read
「4月から毎日電車で通うんだぞ」と誇らしげなお父さん、「普通部に合格して本当に良かった」と嬉しそうなお母さん。日吉駅の銀玉前で盛り上がる家族の姿が、8年前の自分と重なる。慶應に入れば薔薇色の未来が待ってると信じていた。そして今。かつての2月の勝者を待ち受けるのは、留年という現実だ。 「もう、勉強しなくて良いんだ…」。普通部の合格掲示を見た時の解放感は今でも鮮明に覚えている。明日から朝6時から早稲アカの予習シリーズに追われることも、月例テストの点数で母さんに怒鳴られることもない。漫画とニンテンドー3DSが封印された段ボールを開くと、灰色の世界が色彩を帯びて輝いた。