1870年フランス
馬車の運転手が着た「コーチマンズ・オーバーコート」を紹介します
未使用の状態で150年間眠っていたものを買い取りました
私はこれまで「男性使用人」のさまざまな衣服を紹介してきました
花形使用人であるフットマンと比べながら、その差異を見ていきましょう
雨風に晒される御者(コーチマン)は使用人のなかでも重労働の仕事でした
彼らは馬の管理も任されており、他の使用人と違って馬小屋に寝室がありました
また昇進を期待できるポジションでもありません
そんなコーチマンの身体を守るコートは、驚くべき生地と製法で仕立てられています
写真では絶対に伝わらないのが心苦しいです
私がこれまで触れてきた生地とは明らかに一線画す手触りです
まるで、古びたダムのコンクリートに触れているような無機質で圧倒的な質量が、指先から伝わってくるのです
重さも半端じゃありません
抱きかかえるように持たないと支えられない重量です
フットマンの派手なコートと比べれば、同じ使用人でも求められるものが如何に異なるか一目瞭然です
装飾は一切なく、ただ背景に徹し、馬を操る
上司にあたるフットマンと共に黙々と主に仕えました
雨風から身を守るために、コーチマンの服だけには「裏地」に大きな特徴がありました
裏地には「ウールのボア」が縫い付けられています
コンクリートのようなメルトンウールの表地では雨をはじくことは出来ても、寒さから身を守ることができなかったのでしょう
腰から膝下、そして背中全面をボアで覆い尽くし防寒性を高めています
衿の仕立てに、心から感動しました
技術者は生で見てください
大量生産社会では想像すらつかない仕立てです
この重厚な生地を、いかに人体で最も丸みを帯びている「首」に沿わすか
と同時に、衿をロールさせて身頃に馴染ませる技術、耐久性を考えた細部の始末
これは、最も激しい静寂です
裏地には増し芯を留める芯押さえステッチが確認でき、アームホールにはゆとりを解放するクンニョが2つあります
袖口のステッチワークも秀逸で、当時の製図書を読んでみるとコーチマンズコートには連続するステッチ規則が示されています
では、19世紀の本にどのように書かれていたか紹介します
1890年イギリス「使用人の案内書」には、現代にも通じる悲しい現実が書かれています
”自動車の急速な普及により、コーチマンズはシーファー(お抱え運転手)に代替えされる
コーチマンズコートは仕立てるよりも既製品で良い、シーファーの短い上着(3枚目)を仕立てましょう”
時代は繰り返します
馬車は1910年ごろまでは生き延びます
鉄道も充分に発達した時代に、馬車文化を盛り上げた「女性コーチマンズ」がいました
自由な働き方をする女性たちの姿は、当時のマスコミの恰好の的となり多くの写真が残されています
むしろ目立たなかった男性コーチマンより写真が見つかります
【半・分解展】では、貴族・使用人・軍人・労働者それぞれの文化を「衣服」を介して体験できます
実際に触れて袖を通すことで、より鮮明に当時の人々の生き様が感じとれるでしょう
半・分解展 大阪展(10.24~11.1)にぜひお越しください
↓
sites.google.com/view/demi-deco…
この2枚は、馬車の衰退を示す有名な写真です
1900年と1913年
ニューヨーク五番街の様子です
シティでは約10年で馬車が淘汰されました
そして、衣服の構造
特に「傾きの構造」も消えてなくなリます
半・分解展では、現代衣服との決定的な違いを体感することが可能です
きっと、驚きますよ
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