世界的なコンテナ不足が問題になっていますが、今日はこの事態にコンテナ製造会社、中国政府、更にそこにコンテナリース会社がどの様に絡んできたかについて書きたいと思います。できる限り分かり易く書きたいと思いますので、長文をご容赦頂ければ幸いです(1/17)
今回のコンテナ不足に直面して、多くの荷主は「そんなにコンテナが不足しているのなら、新しくコンテナを造れば良いではないか」と考えたかもしれません。しかしそう簡単にはいかない事情を海運業界は抱えています。それを最初にご説明したいと思います(2/17)
まず第一に、コンテナの新規製造の世界シェアの内、90%以上を中国が握っています。そしてその内の最大手の中国国際海運集装箱有限公司(CIMC)の一社で、ドライコンテナの世界シェアの何と約60%を握っています。たった一社で、世界のコンテナ製造の半分以上がハンドリングされているのです(3/17)
そしてCIMC社はただの民間企業ではありません。大株主である中国遠洋海運集団有限公司、実質的に経営をハンドリングしている招商局集団有限公司、そしてメインバンクである中国工商銀行、これら全てが中国の国営企業です(4/17)
つまりCIMC社は上場しているとはいえ、中国政府がかなりの程度経営に関与しており、ただの民間企業ではないのです。そして今回のコンテナ不足に際しても、CIMC社は大きな利益を得ています。その利益の源泉が新規コンテナの価格設定です(5/17)
約1年前、新規コンテナの販売価格はUSD1,600/個で推移していましたが、現在はUSD2,500にまで跳ね上がっています。実に50%以上の値上がりです。勿論コロナ禍による人件費の高騰や原料費の高騰も原因ですが、この機会に価格を釣り上げていると指摘している業界関係者も少なくありません(6/17)
確かに中国のコンテナ製造会社はこのコロナ禍で大きな利益を確保しています。しかし彼らやその背後にある中国政府が悪いのかというと、必ずしもそうは言えない事情があります。次にその点を説明します(7/17)
今でこそコンテナ製造はドル箱になっていますが、今から20年ほど前までは、それは非常に儲けの少ない商売でした。実は20年ほど前までは、日本を含めて世界各国でコンテナが作られていました。しかし多くの国がコンテナ製造のビジネスから自ら退いてしまいました(8/17)
その最大の理由は、コンテナ製造自体が何の技術革新も無く、製造コストでしか勝負する要素が無かった事です。単なる大量生産による価格競争に巻き込まれるのを嫌って、多くの国が自らの手で製造するのを辞めたのです。そしてそこでシェアを伸ばしてきたのが中国のコンテナ製造会社でした(9/17)
彼らは中国の高度経済成長を背景に、進んでコンテナ製造を引き受けました。そしてそれを後押ししたのが中国政府でした。その結果、他の国のコンテナ製造のシェアはどんどん下がり、中国のコンテナ製造のシェアはどんどん上がっていったのです(10/17)
そして現在の様に世界の90%以上シェアを中国が持つに至ったのです。ここまで来ると、もう製造量が違い過ぎて、コストでは戦えません。例えば現在のコンテナの価格は高騰してUSD2,500/個と書きましたが、日本で作ったら更に倍近くの価格になってしまうかもしれません(11/17)
そしてこのコンテナ製造を長年にわたりバックアップしてきたのが、大手コンテナリース会社です。コンテナは製造しても不景気になれば売れ残りが生じ、それが不良在庫化する恐れがあります。この点でリース会社は定期的に一定量を製造会社から買い上げて、彼らのビジネスをサポートしてきました(12/17)
例えばコンテナリース最大手のTriton international社は、現段階で2021年中に3億5,000万USDの新規コンテナの注文を入れる事を表明しています。こうなるとコンテナ製造会社は、リース会社が大量かつ安定的に受注してくれる為、新規参入会社に販売する必要も無くなり、その余地も無くなります(13/17)
つまり現時点だけを見るならば、中国のコンテナ製造会社は90%の市場シェアを持っており、それを中国政府が後押ししており、リース会社は暴利を得ています。しかしここに至るまでには、彼らは他国が手放したリスクを20年以上にわたって取ってきており、その結果、現在の状況があるのです(14/17)
コンテナ製造会社やそれを支援してきた中国政府、更にはリース会社からすれば、「我々は20年前からリスクを取って来たんだ。都合の悪い時だけ文句を言わないでくれ」と言うかもしれません。確かにこの20年間、グローバル経済が発展してきた中で、彼らの果たした役割は非常にに大きかったのです(15/17)
それで結論ですが、今回のコンテナ不足はただの輸出入の不均衡という問題だけでなく、ここに至るまでの複雑な国際情勢やグローバル経済が関係しているのです。そしてこれは今に始まった事ではなく、この20年間をかけて醸成されてきた問題が、コロナを機に表面化したのです(16/17)
一方でこの状況が健全であるはずがありません。多くの人が是正すべきであると考えています。ただここに来るまで20年かかった様に、これを是正するにも20年かかるかもしれません。その位根深い問題と思って、腰を据えて対応する必要があるでしょう。長文お付き合い頂きありがとうございました(17/17)

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15 Dec 20
コンテナ不足が原因で、海上運賃の高騰が生じています。ではコンテナはどこに行ったんでしょうか?今日は可能な限り分かり易く説明したいと思います。長文をご容赦下さい。よく「コンテナが中国や北米に滞留しているので足りない」という意見を見ますが、それだけが理由の全てではありません。(1/9)
そもそもコンテナは世界に1億個以上流通しており、その殆どが中国や北米に滞留していたら、置き場不足で大変な事になります。事の真相を知るには、コンテナビジネスの仕組みを知る必要があります。実は世界にあるコンテナの約半数は船会社の所有ではなく、コンテナリースの会社が所有してます。(2/9)
コンテナリースの会社は数億円~数十億円のファンドを組んで投資家(富裕層や大企業)を集めてコンテナを購入し、そのコンテナを船会社にリースします。そしてその収益を投資家に分配します。7年が経過するとリース会社はそのコンテナを船会社に売却し、その収益を同じく投資家に償還します。(3/9)
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