Thread by @okadaic

男性作家が自己を投影したかのような物語を少女二人で描くのはジェンダーの横奪ではないか、みたいな話が見えたけど、「脇目もふらず好きなものに打ち込む」人物像に今や少年よりも少女のほうがしっくり来るというのは、これは20世紀の女性たちが表現しながら戦って勝ち取った世界線だよな、とも思う。

続）かつて『バクマン。』に求めて最後まで得られなかったものが『ルックバック』では描かれており、それを描いた作者や描けなかった作者の性別はどうでもいいけど、我々は美人声優と結婚するために漫画を描くわけじゃないし、男二人が何でもやおいではないように女二人は何でも百合ってわけでもない。

続）世間の風潮に対して「そういうんじゃない」関係性を描くために、かつて女性作家が「少年たち」を使って少女向け媒体に革命を起こそうとしたのと似た意味で、今は「少女たち」を使いたくなる気持ちもわかるし、空手を習えば女でも悪漢を倒せるのだが、それでも人は独りで漫画を描き続けるのだろう。

続）本編の本題に対する感想ではないが。これがもし少年二人だったら『まんが道』より『バクマン。』ルートに乗ってしまうのが今の少年のリアリティとされているのだろうし、現実とリンクした現代物のフィクションで「そうじゃない」を描こうとしたら、少年向け媒体でも架空の女二人になるのは頷ける。

続）本誌だけでなくウェブ媒体を得たジャンプブランドが、少年漫画でも少女漫画でも青年漫画でもない良質の「女主人公もの」を出すの、「女のくせにジャンプ読んで、男じゃないのに男しか主人公になれない世界に自己を投影してやがる」と言われて育って何とか死なずに生きてる私は、支持しますけどね。

続）長きにわたる「女の子は男の子ではないから剣士にはなれないんだ」の時代を今どうにかこうにか終わらせつつあるところで、それで次に「男の子たちは社会から何かと生きづらさを押しつけられて、女の子のようには自由に夢を追えないんだ」みたいな苦しみが表出したら、それはそれで救えばええやん。

続）ていうか「自由に動けない苦しみを抱える男の子の代わりに失うもののないおてんばな女の子が奮闘する」話も、20世紀いっぱい描かれてますよね、『秘密の花園』とかさ……。

続）そしてたとえば同じ作中で悪漢の性別として女性ではなく男性が選ばれたのはそれは犯罪統計などを反映した結果に過ぎないのだろうし、「なぜ女なのか」「なぜ男なのか」は大きな意味を持つ場合もあればそうでもない場合もあって、毎回毎回どっちが優れてる劣ってると論じる話でもないと思うのよな。

続）『我は、おばさん』書くとき『若草物語』と『秘密の花園』どっち取り上げようか悩んで夫に相談したら「男はどっちも読んでないと思うよ」と言われて「マジで？ 男たち少女時代にちゃんとだめんず教育を受けないからだめんずになるのでは？」と思ったのを思い出しました。
hanmoto.com/bd/isbn/978408…

続）結局「死んでる知らないおばさんよりは、生きてて死ぬおばさんのほうがいいか」と思って『若草物語』にしたんですけど、今後「おじさま（と少女）（と少年）」の話を書くなら断然『秘密の花園』ですよね。色恋なき世界のジェーン・エア、この世はダメな男ばかりだと児童文学が教えてくれたよ……。

続）「こんな漫画は生まれて初めて読んだ」という人はそりゃあ驚き戸惑い「文学だ」「映画だ」「ジャンプなのに女の子が主人公だなんて」とか言うのだろうが、何度でも言うようにこれこそが「漫画」の面白さであって、私は「同時代を生きて公開と同時に読める喜びを噛みしめますなぁ」と思いましたね。

続）「脇目もふらず好きなものに打ち込む」人物像には今までもいろんな名前が付いてきた。それこそ「虫めづる姫君」とかさ。そして時代がやっと追いついて、少年漫画誌の編集者が女子中学生と打ち合わせブースで対峙して「あなたたちはすごい」と言うシーンが自然に描かれている。いい漫画と思います。

続）あの漫画の本題はそんなところじゃない、というのは私だってわかっている。だけど、本題について何も汲み取れなかったのであろう人が、それでも何かしら難癖つけようと「ていうか、なんで女二人なわけ？」みたいなこと書いているのがたまたま目に留まったので、それについて、書いてるだけですよ。

続）（「ならば男は『バクマン。』か『ろりともだち』になるしかないというのか、俺たち救われないじゃないか！」と言われても、そうではない出口を探して高い評価を得ている「男二人」漫画も世の中にたくさん発表されてますよね。なぜか女性が描いてることが多いが、読んで救われてきなよ、としか。）

続）本件とは関係ないけど連想したので書いておく。昔ある王道少年漫画について、男性名で活動する作者の性別がどうやら女性らしいと噂が流れ始めた頃、根拠として「女の子、かわいくないもんねw」が挙がってたのが忘れられない。かわいくない女の子が魅力的に描かれる少年漫画を、私は待望していた。

続）女の子が「かわいくない」というのは、全員が不美人に描かれるという意味ではない。かわいい顔して戦闘要員として大出世してるとか、容姿に言及されない（作品世界では美人扱いでない）のに名場面の後で読者には美しく見えてくるとか、職場恋愛はあってもセクハラは描かれないとか、そんなことだ。

続）「こんな『男っぽい』物語を描くのは男にしか無理だろ」との反論もあっが、私は「女の子、かわいくないもんね」で納得し、女なんだろうなと確信した。でもそこから更に歳月が過ぎ、作者の性別なんて、もうどうでもいいんだよ。「かわいくない女の子が魅力的に描かれる」作品の作者が、男でもいい。

続）大事なのは「少年漫画には、男が作って男が描く（女には共感しづらい）かわいさの型をなぞる女しか出てこない」時代が終わったことだ。実際その後、少年漫画における女性描写が広がっていった感覚はある。同性の私がかわいいと感じる女の子キャラを、現代の少年読者もかわいいと思って読むだろう。

続）その流れは、あるたった一人の女性作家だけの功績ではないのだけど、でも「時代の転換期に男性名で作品発表した女性作家がいて、旧来のかわいさの典型から外れた女性を上手に描いてみせた」とは言えるだろう。私が言うのはそうした小さな戦いのことで、女でも、男だって、性別に関係なく起こせる。

続）何度も書いてることだけど、私は今まで長らく、自分の女子校体験を「傍目には『マリア様がみてる』でも内実は『笑う大天使』だった」と説明していた。今は「『映像研には手を出すな！』みたいなノリ」と言ったほうが早い。それを描いた作者は女子校出身ではない。そんなことはどうでもいいでしょ。

続）それでしつこいですけど、私は『ルックバック』読んだ直後は「よさに痺れて不甲斐ない己に刺さりすぎて何も言えなくなってしまった」人間で、唯一書けた感想は、以下のものなんですよ。このスレッドは後日たまたま見かけた批評への批評、つまり蛇足も蛇足で、それは書いた私が一番よくわかってる。

https://twitter.com/okadaic/status/1416835684032303108