「東京感染症ステートメント2021」から一部紹介

※課題と検証は、ほぼ出尽くされていたので割愛
1. 我が国の COVID-19 対策の検証
【経緯】
臨床試験で有効性や安全性が確認されたワクチンが前代未聞のスピードで実用化し、世界中で接種が進んでいる。
COVID-19 についての理解が進み、治療法の確立も進んだ。
しかし、感染力の強いデルタ株が世界中に蔓延し、ゼロコロナ戦略が難しくなり、各国・地域はウィズコロナ戦略を取らざるを得ない状況になっている。
また、先行してワクチン接種が開射された国・地域では、接種から一定期間が経ち、ワクチンの効果が低下して再び感染が拡大している。
また国内では、2020年8月の第5波で、感染者数が過去最大となり、都市部や沖縄県などで COVID-19 以外の一般医療が制限されるなど、医療に深刻な影響が及んだ。
1-1 検査体制
【求められるアクション】
1) 検査に対する社会全体の理解を得るために、国は検査の方向性や役割について示す。
2) HER-SYS による全数報告サーベイランスのみならず、血清疫学調査や定点サーベイランス、ゲノム解析、下水サーベイランスなど様々なサーベイランスを組み合わせることを検討する。その際、こうした検査の運用上の障害を特定し、解決に努める。
3) 軽症者の早期発見に役立つ健康観察アプリのような取り組みを横展開する。
4) 検査の精度管理について官民を挙げてのルールメイキングが重要である。国際的な精度管理 のハーモナイゼーションも求められる。
5) 様々なステークホルダー(利害関係者)を巻き込みながら検査やサーベイランスのイノベー ションを推進することが求められる。
1-2 ワクチン

1-2-1 日本発のワクチンの実用化の遅れ
※割愛
1-2-2 接種について?
【求められるアクション】
1) 現状、12歳以下の小児については承認されたワクチンがない。また、小児はワクチン接種時の副反応が出やすい可能性がある。ただ、小児の間で感染リスクが高まっていることから、国内でも小児のワクチン接種を進めるべきかどうか、検討する必要がある
2) 副作用を危惧して接種を受けない人がいること、また追加接種向けについても安全性の高いワクチンの実用化が求められることなどから、安全性を重視した日本発ワクチンの開発および実 用化を迅速に進める。
1-2-3 ワクチン忌避も含めた接種率向上

【求められるアクション】
1) ワクチン接種率が70%を超えた今、国内では接種者の割合ではなく、未接種者の割合に目を向け、未接種率を広報すべきである。
ワクチンを接種していないことが、肥満や糖尿病と同じように重症化リスクファクターの1つであることを未接種者に積極的に伝え、接種率を高める努力を進める。
2)「受けようと思っている(が受けていない)」「まだ決めていない」人に重点を置き、そうし た人の価値観に寄り添う形で、有用なアプローチを講じつつ、接種を後押しする。
3) ワクチンについてはネットなどを通じて、フェイクニュースや不安をあおるデマなど誤った情報も含めて大量の情報が拡散され、いわゆるインフォデミックの状態にある。情報提供に際しては、上から目線ではなく、相手の価値観を踏まえた上でキメの細かい対応を行うべきである。
1-3 医療提供体制

1-3-1 日本特有の医療提供体制
そもそも、中等症や重症の患者は、空き病床があるだけでは治療できない。治療実施できる専門性を持った医師や看護師が病床とセットで必要になる。また、慢性期の高齢者の医療などに比べて、
COVID-19の中等症や重症の治療には、1.5倍以上の人手を要する。そのため、病床数が多くとも、医師や看護師が足りなければ、病床を活用できず、病床を100%稼働させることはできない。
【求められるアクション】
1) 第6波に向けては、病院完結型ではなく、地域の医療資源を最大限活用し、地域完結型で患者を受け入れることが不可欠である。具体的には、あらゆる病院が役割分担を進め、重症者は大規模病院に、比較的症状の軽い患者は中小規模の病院にと、
病院の機能に応じて早期から患者が入院できる体制を構築する。早期から治療介入することで、重症化する患者を少しでも減らす。
2) 第6波に備え、自治体が本部機能を発揮し、患者の重症度に応じて、病院の役割に合った患者を入院させるようにする。そのために、病床の空き状況や医療従事者の状況などのデータを共有できるようにする。
3) 第6波に備え、病院間だけでなく、診療所や介護施設などの連携を進める。急性期を過ぎた患者は後方支援病院に転院させたり、軽症者や回復した患者を在宅で治療したりできるようにする。こうした取り組みは地域医療のあるべき形にもつながる。
4) 中長期的には、感染症や救急などの専門性を持つ医師が看護師だけでなく、あらゆる医師や看護師を対象に、平時から個人用防護具(PPE)の脱着、人工呼吸器やECMOの運用などの訓練を受け、有事に備える。
5) 中長期的には、高度な治療を行える専門性を持った医師や看護師が集中治療の現場に対して、遠隔で支援を行う遠隔集中支援システム(tele-ICU/eIUC) を活用し、医療資源が限られる地方などにおいても、重症者の集中治療に対応できる体制を作る。
1-3-2 有事における命の選択に関する議論

【求められるアクション】
1) DNARなど終末期の心肺蘇生措置などについては、意思表示ができることを一般の市民に知ってもらうとともに、家族を交えて患者本人の意思を確認しておくなど、平時から理解の促進を図る。
2) 有事の際の患者のトリアージ、心肺蘇生措置の不開始などについては、診療に当たる病院や医療従事者など医療現場に任せるのではなく、そのあり方について政府が主導して議論を喚起し、一定の見解を示してもらえるよう働きかける。
(※コメント)
この点については会議終了間際に記載内容の変更となった。これまで国内での策定が長年先送りとなっており、今回のコロナ禍では現場の医療機関側から、早期のガイドライン等の提示について強い要請が出ている。
ただし政府や医師会などが中心となり、ガイドラインを決定できる代物でもなく、倫理学会などが中心となって時間(年単位)をかける必要があると結論付けられた。
1-4 治療薬
【求められるアクション】
1) 低分子薬や中和抗体薬を効率的に活用するためには、感染者を迅速に同定し、早期に治療介入するためのしくみの構築が重要だ。
2) 重症化リスクを予測できる血中マーカーの検査を手軽に実施して、結果が迅速に分かる仕組みを構築する。
1-5 データ活用

※割愛
1-6 水際対策、
1-6-1 水際対策の近況と今後

【経緯と課題】
世界的にワクチン接種が進み、日本での感染が下火になってきた今、国際的な往来やビジネスの再開に向けて水際対策をどう緩和していくかも課題になっている。
<変異株で慎重論も>
ゲノム解析の専門家によれば、COVID-19 は今後も変異を続ける。多様な変異を積み上げているノロウイルスやインフルエンザと比べれば、COVID-19 は流行からまだ2年にすぎず、全体のまだ40カ所くらいしか変異していない。
変異株が発生する可能性と流行については今なお見通しがつかない。現行のPCR検査をすり抜ける新たな変異株も出てくる。世界は今後さらにCOVID-19の新たな変異株の脅威にさらされる可能性が高いと考えておくべきだ。
新たな変異株の感染を食い止めるために水際対策を安易に緩めるわけにはいかない。実際、緩和措置で先行している英国では感染者数が再び高水準になっている。
<ワクチン接種証明・検査仕様の互換性〉
ワクチン接種証明の仕様の国際的互換性については、国外から要望も出始めている。
1-6-2 五輪・パラリンピックの水際対策

<感染公表をめぐる問題>
ラムダ株についてペルーから入国した五輪関係者から日本で初めて確認されたケース。「VOC」(懸念される変異株)に該当しないため発表が見送られた。
日本の水際対策に課題を残した。
【求められるアクション】
1) 水際対策で特例措置を講じる場合、その理由を国民に十分説明し、運用と管理を徹底する。
2) 世界保健機関(WHO)の変異株リストなどを参考にしながら、感染の公表についての基準を明確にする。
(※コメント)
会議中、アルファ株・デルタ株においても、従来株のスクリーニングを通り抜けていて、"陰性の検体"をかき集めてゲノム解析を行い、初めて見つけられた経緯があったと報告された。
1-7 国の意思決定
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界定期流行)時における国の意思決定では、専門家の意見を聞いた上で、それを最終的に採用するかどうかの判断の理由、実行のプロセスが必ずしも明示されたとはいえない。
国と地方自治体の関係も明確でなく、決断が遅れた面もあった。国民へのリスクコミュニケーションも、政策の意思決定プロセスが不明確だったために、一体感を醸成するメッセージとして有効に伝わらなかった。
【経緯と課題】
政府が進めた観光支援策「GoToトラベル」、外食需要喚起策「GoToイート」をめぐっては、 専門家の意見が必ずしも反映されたとはいえない。経済優先の政策の下で感染対策が後手に回った面がある。
東京五輪・パラリンピックでも、なぜパンデミック下で五輪を開催しなければならないか、政府が十分な説明責任を果たしたとは言い難い。
国と専門家の意見が食い違うのは当然として、専門家の意見を全部採用するか、部分採用か、それとも不採用かの決定プロセスについて、国民に説明責任を果たす課題が浮上した。
【求められるアクション】
1) COVID-19 のパンデミック時における国の政策意思決定についてなるべく早い時期に総括し、教訓として次の有事に備える。
2) 有事には国や地方自治体などの責任あるリーダーたちが問題解決への共通目標を持ち、ワンボイスでメッセージを伝え、国民の分断を少なくするようリスク・コミュニケーションを強化する。
3) 新たなパンデミックに対処できる国の有事の備え(preparedness)を強化する。例えば、アクティブ・ロースターのような登録制でコア人材を即時に招集し活動を始められる体制をつくる。
1-8 東京五輪・パラリンピック

※割愛
2 市民の参画

いきなりメッセージや政策を打ち出すのではなく、年齢や職業などといった外形的な基準ではなくて、それぞれのグループの価値観や意識に基づいたメッセージを発信することが重要だ。「統治者目線」ではなく、市民の不安や意見を聞き、政策を市民と共に創り、共に実行する。
そうすることで市民が当事者意識を持ち主体的にコミットできるようになる。
感染のステージが変わるにつれて新たな施策に協力してもらう必要が出てくる。政策やシステムを導入する際には、人間にとって新しいことをするのは負担(コスト)だと感じるということを認識し、
市民の不安を減らし、それに上回るベネフィットを提示することも重要となる。
【求められるアクション】。
年齢や職業などといった外形的な基準ではなく、それぞれのグループが持つ価値観や意識に基づいたメッセージを発信する。その際、「統治者目線」ではなく、市民の不安や考えを十分に理解した上で、政策を市民と共に創り、共に実行する。
いわば対話型のソーシャルマーケティングのような手法も用いるべきではないか。特に新しい政策やシステムを導入する際は、市民の不安を減らすと同時に、それに上回るベネフィットが感じられるようなことに留意すべきである。
3.結語
COVID-19の制圧にはなお道遠しである。しかし、ワクチン、中和抗体薬、経口治療薬と昨年に比べ、我が国を含め全世界は COVID-19 の流行を食い止める強力な武器を手に入れつつある。 したがって感染をコントロールし、社会経済活動を徐々に再開することが可能になってきた。
今回のステートメントはそれを実現するための提案である。

(了)
※補足
「速報」が10月30日に、日本経済新聞の朝刊に掲載予定。最終版は11月下旬となるが、公式サイトに掲載予定。こちらの内容と一部異なると思います。
Program
Archive (72時間後に公開?)
adweb.nikkei.co.jp/kansensho2021/…

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