これまでジェノサイド認定には慎重な姿勢を取ってきたが、🇺🇦ウクライナの #ブチャの虐殺 については「ジェノサイドそのものだ」と言い切った🇺🇸米ジョン・ホプキンス大のユージーン・フィンケル准教授。様々な取材を受け、遂に自ら米紙ワシントンポストに論考を寄稿した。
washingtonpost.com/opinions/2022/…
以下は、その論考を全訳した拙noteから、ツイッター連投用に文字数や英語併記などの表記を調整したものである。

【英日対訳】オピニオン:ウクライナで起きていることはジェノサイド以外の何物でもない |米紙ワシントンポスト(2022.4.5)完全版|戦いのノート note.com/tkatsumi06j/n/…
ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日、最近解放されたキエフ近郊でのロシア軍によるウクライナ市民に対する残虐行為を示す証拠に明らかに動揺し、この虐殺行為を「ジェノサイド」と非難した。1/27
washingtonpost.com/national-secur…
バイデン政権はより慎重だった。

4日、国家安全保障担当補佐官のジェイク・サリバンは、「我々は未だ、ウクライナの人々の生命を組織的に奪うという、ジェノサイドの段階に至るような証拠を見ていない」と述べ、状況を「注視し続ける」と約束した。2/27
whitehouse.gov/briefing-room/…
しかし、ジェノサイドは私たちの目の前で繰り広げられている。しばしば「犯罪の中の犯罪」(the crime of crimes) と呼ばれるジェノサイドは、人間の行いとしての「最も極悪なもの」(absolute nadir)と考えられている。3/27
活動家や政治家は、自分たちが嫌悪するものには何にでもこのレッテルを貼る傾向がある。新型コロナウイルスに対する子供たちへのワクチン接種にでさえもだ。それは犯罪を軽んじ、罪を安っぽくする行為だ。4/27
walesonline.co.uk/news/uk-news/a…
ホロコーストの研究者として、またホロコーストの生存者の子孫として、私は注意が必要であることを十分承知している。過去には、私が生まれたウクライナを含む多くの旧ソビエト領の国々の政府がこの言葉を誤って使用していることを批判してきた。だが今は違う。5/27
tandfonline.com/doi/abs/10.108…
ホロコーストやルワンダで形成された一般的な認識とは異なり、ジェノサイドを行うには[必ずしも]多くの犠牲者を必要としない。「標的化の意図と論理性」(the intent and logic of targeting) が重要なのである。6/27
1948年の国連「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」[いわゆる「ジェノサイド条約」]では、ジェノサイド [=集団殺害] を 「国家、民族、人種又は宗教的集団の全部又は一部を破壊する意図を持って行われる行為 」と定義している。7/27
un.org/en/genocidepre…
この定義に欠点がないわけではない。これをより最新化したものでは、保護対象となる集団を性別、年齢、性的アイデンティティによって定義されるものまで拡大するかもしれない。8/27
また、この文書では、どのような場合に殺害がジェノサイドの一線を越えるのか、絶対数や割合で定義していない (does not define, in absolute numbers or percentages, when killings cross the line into genocide)。「全部又は一部を…」の文言には解釈の余地がある。9/27
また、口頭での指示や官僚的な専門用語でカモフラージュされた指示 (camouflaged by bureaucratic jargon) の場合、「意図」を証明することは困難である。10/27
ウクライナでの暴力には、こうした[解決すべき]課題が一切ない。キエフ近郊のブチャは一つの町に過ぎないが、そこで起きた恐ろしい殺戮は、より広範なパターンの一部を成している。11/27
これまでロシアが占領してきたウクライナの他の地域でも、ウクライナ人、特にウクライナ人を自認する人たちが、爆撃、殺人、拉致などの意図的な標的とされていたことが記録されている。12/27
nyti.ms/37cNeub
キエフ近郊での虐殺は、ウクライナ当局によれば「氷山の一角」(“just the tip of the iceberg,”) であり、今後、解放される地域が増えるにつれ、同様におぞましい残虐行為の証拠が出てくると思われる。13/27
reuters.com/world/europe/u…
局地的な一個の虐殺行為は「戦争犯罪」と捉えられるかもしれないが、一連の虐殺行為は、[ジェノサイド条約にいう] 「全部」("whole")とは言わないまでも、確実に「一部の」("in part")ウクライナ人を民族集団として破壊することを目的とした一つの作戦 (a campaign) を反映している。14/27
しかし、虐殺だけではジェノサイドの基準を満たすには不十分であり、「保護集団を破壊する意図」 が必要である。ロシアのプロパガンダによる扇動的なレトリックや、プーチン大統領自身がウクライナの国家的地位を否定することは、それらのみでは「国家集団を破壊する意図」 の証拠とはならない。15/27
キエフを政権転覆させたりウクライナを西側寄りからロシア寄りに転換することを図ったとしても、それはジェノサイドを構成しない。ロシアの侵攻が、もともとこのような目的をもっていたことはほぼ間違いない。16/27
wilsoncenter.org/blog-post/why-…
しかし、ロシアの軍人や指導者らが、ウクライナの市民が西洋のくびきから解放されることを望まず、むしろ猛烈に反撃しているという[彼らにとって] 驚くべき事実を知るとともに、ロシアの思考は植民地支配からジェノサイドへと変化していった。17/27
この思考の転換の証拠は十分にみられているが、ロシア国営メディア「RIA Novosti」が4月3日に掲載した「ロシアはウクライナをどうすべきか」 (“What should Russia do with Ukraine,”) という記事は、最も明確な例の一つである。18/27
medium.com/@kravchenko_mm…
プーチンをはじめとするロシアの指導者たちが以前から主張してきたことと同じように、この記事では、ウクライナ人とウクライナそのものを破壊する明確な計画 (clear plan to destroy Ukrainians and Ukraine itself) が概説されていた。19/27
記事は、ロシアが勝利した後、ウクライナは「国民国家として存続するのは不可能」 (“is impossible as a nation state,”) であり、その名も「維持できなくなる可能性が高い」 (“likely cannot be retained.”) と主張。20/27
またウクライナの民族主義的なエリートを「浄化する必要があり、その再教育は不可能である」。しかし、「民衆の相当部分」 も「有罪」であり、「再教育)と「イデオロギー的抑圧」が「少なくとも一世代は続く必要」があり、「必然的に非ウクライナ化を意味する」だろうとも述べる。21/27
国家的な集団を壊滅させるのに、これほど実行性のあるひな形 (template) はない。この文章を主要な国営メディアに掲載することは、国家上層の明確な承認がなければ不可能 (impossible without explicit approval from above) であっただろう。22/27
ウクライナとウクライナ人の生存権を否定する公式なコメントと、ウクライナ市民が意図的に、大規模に、標的にされている証拠が積み重ねられていることには、ほとんど疑う余地がない。

「戦争犯罪」から「ジェノサイド」へと、その閾値を超えたのだ。23/27
「ジェノサイド」の名を付すことの実務的な影響とは何か。長期的には、旧ユーゴスラビアとルワンダのために設立された国際刑事裁判所のように、証拠を集め、加害者に責任を取らせるためのより包括的なアプローチを促すことだろう。24/27
しかし、短期的には、「ジェノサイド」が進行中であることを認めることで、西側諸国の認識を変え、ロシアに対する制裁をより厳しくし、ウクライナへの最新兵器の提供を促すことができるかもしれない。25/27
ウクライナの人々は、日に日に増える悲惨な証拠が「注視」("monitoring") されることをただ待つわけにいかないのである。26/27
ユージーン・フィンケル(Eugene Finkel )氏は、ジョンズホプキンス大学准教授(国際関係論)で、「Ordinary Jews: Choice and Survival during the Holocaust」の著者。ウクライナ、ロシア、東欧、イスラエル、集団暴力を専門としている。27/27終
sais.jhu.edu/users/efinkel4
訳者あとがき

ユージーン・フィンケル氏の投稿に初めて接したのは、2022年4月5日のことでした。この投稿を見て、プロフィールを確認し、ジェノサイドを大学で教える立場の人間であることを知り、関心を持ってその意見を抄訳しました。
そもそもなぜフィンケル氏は突然こういう質問を浴びせられるうようになったのか、きっかけとなったツイートがこちらで、これも抄訳しました。(※ツイート時のものから訳を修正しています)
この抄訳ツイートがまたたくまに拡散され、世の関心が「何がジェノサイドたらしめるか」という「ジェノサイドとは実際は何であるか」という命題に向いていることを実感として得ました。その後、フィンケル氏は各紙インタビューで取り上げられ、国際的に注目を集めます。
私が最も関心を持ったのはここで、普段「ジェノサイド」という言葉があまりにも軽く扱われていることに憤慨している人が、ウクライナの事案を「ジェノサイドだ」と言わしめたのは何だったのか、非常に興味を持ちました。
国際刑事裁判所の黎明期からその設立運動に関わってきた者としては、現代の事案で、しかも大国(西欧)が関わる事案で、「ジェノサイド」がどう実際に認定され得るのか、というのは重大な関心事項だったのです。
jnicc-org-tk05.hatenablog.com
ジェノサイドを含むいわゆる国際法上の中核犯罪(コアクライム)といわれる三つの犯罪「戦争犯罪」「人道に対する罪」「ジェノサイド」については、確かな解説に定評のある立命館大学の越智萌准教授をはじめとし、様々な専門家がその平易な説明に努めています。
越智准教授が設置した「ロシア・ウクライナ紛争下での中核犯罪」Core Crimes under Russia-Ukraine War(2022/4/2現在の分析メモ)─立命館大准教授(国際関係学)でウクライナ危機を巡る国際法の解説のためメディアにも登場中の同氏が国際法の意義や最新の分析等について解説
ochmgm.wixsite.com/megumiochi/abo…
そうしたさなか、4月7日にフィンケル氏がツイッターを更新し、「ワシントン・ポスト紙への寄稿で私の主張を拡充しました」(※ツイート時のものから訳を修正しています)と述べられていたのです。これは読まなければ!と思い、精読した結果、今回、私個人の仮訳としてお届けすることになりました。
この記事を書くにあたり、フィンケル氏はこう述べていました。
そして後日談として、記事が掲載された後のコメントも抄訳しました。
私はこの最後の決意と覚悟の表れに感銘を受け、やはりこの研究者の言葉を広く世に知らしめなければならないと思いました。実際、記事は、その覚悟が表れた文面だっただろうと思います。またそれが伝わるような訳になっていることを願います。
学者は、「ジェノサイド」という国際犯罪を認定することを躊躇しますが、私たちも軽々しく「これはジェノサイドだ」「あれもジェノサイドだ」と言葉を発するべきではありません。
また国際法上の定義もない「民族浄化」という言葉をその代わりとして乱用するのも、かつてその言葉が使われた時の戦争(民族浄化を防ぐ名目で大規模な空爆を実施し多くの市民が犠牲に)を暗に肯定することになり、やはり戦時だからこそ、言葉の重みというものを噛み締めなければならないと思います。
言葉には人を生かす力も、殺す力もあるのですから。

しかし、時代とともに言葉の「意味」(「定義」は変わらなくとも)は変容していきます。「民族浄化」も、厳格な定義を運用してはいるものの、今や国際的な人権団体までが援用するほどの市民権を獲得しています。
こうした言葉の意味の変化に敏感であるとともに、国際社会でその言葉がどういう意味を持つようになっているか、そういったことを理解し消化して上で言葉を発したい。今回のフィンケル氏の覚悟ある発信を行う姿を見て、私は言葉を操る仕事を担うものとして、身の引き締まる思いがしました。
今回の翻訳作業がそうした精神の発露になっていることを願います。
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私がこれまで抄訳した🇺🇸ディン博士のツイートは:

from:tkatsumi06j ディン博士

で検索してみてください。

初期は「博士」としていなかったので

from:tkatsumi06j ディン

だと一番ヒットするかもです。
ディン博士に最初に言及したツイートはこれでしたかね。 #ゼロコロナ で正しい道をひたすら突き進んでいた🇳🇿NZ。かつては世界の羨望の的でした。国境を開いてしまってからの今は、見る影もなく昨年12月頃から感染拡大しっぱなし。最近少し持ち直しましたが、感染対策の責任者は昨日、引責辞任。
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勿論です。ICC国際刑事裁判所は既に戦争犯罪と人道に対する罪の2つの犯罪について捜査を付託されています。今回,ブチャその他各地での被害の実態を知り各国はそれぞれの判断でICCに3つめの犯罪としてジェノサイドの容疑での捜査も求め始めているのです。
ICCの管轄権行使に限界があるのは周知の通りですが,軍事法廷の設置は更にハードルが高いと思います。というのも,戦勝国が敗戦国に裁判を強制するような旧時代の形は非現実的であり,唯一特別法廷の設置を行える権限は国連安保理に所在するからです。
tokyo-np.co.jp/article/169215
ウクライナが単独で国内に軍事法廷を設置したとしても,ロシアにはその管轄権を認める義務はありませんし,ウクライナ側はそれを強制する警察力を持たないでしょう。仮にICPO国際刑事警察機構が国際逮捕状を発行したとしても,容疑者らがロシア国内に潜伏すれば実質的にアンタッチャブルです。
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Apr 6
ジェノサイドは人の意思が介在する「行為」が人道的危機をもたらすため,この「行為」を抑止・制止・処罰するため「行動すること」が求められる。自然災害は人の意思が介在しない「事象」であるため,これに「対応すること」(防災・減災・救助・復興)が求められる。こう整理されるのではないか。
ジェノサイドに対する「行動」は人為的に引き起こされる人道的危機の「状況」を打開するために必要とされる。自然災害への対応は,自然が引き起こす「事象」に何らかの対策を講じる必要から生じる。端的に言えば人災と天災の違いであるが,人の意思が作り出す「状況」は前提からして異なる。
その定義上,ジェノサイドは①実体としての行為,②組織性③意図がなければ成立しない。この「意図」が政策から現場での指示にまで落とし込まれている場合,「意図あっての組織的な集団殺害行為」すなわち国際法上の「集団殺害罪」が成立する。しかしいずれの要件も証明するのは困難だ。
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英紙インディペンデントにその記事が掲載されている。
記事によると、この専門家はウクライナ生まれで現在はイスラエルに暮らすユージーン・フィンケル (@eugene_finkel )氏。フィンケル氏はナチホロコーストに関する書籍も出版しており、これまでは「ジェノサイド」のような言葉を軽々に使うべきではないと警鐘を鳴らしてきた。
independent.co.uk/news/world/eur…
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