松里先生が、DLPR、南オセチア、クリミア等の主体性を過剰評価する背景の一つには、ご本人の研究テーマが「非承認国家」であることがあるだろう。(DLPRが政治的主体性を持たないこと(Hosaka 2019)、ウクライナ東部は「内戦」ではなく「二国間戦争」であること(Hosaka 2021)は拙稿で批判済み。)🧵
「非承認国家」研究者が研究対象の傀儡の主体性を強調し、パトロン国家(この場合ロシア)の介入を軽視する傾向があることはフランス等でも指摘されているが、日本ではこれが主流であることは2015年8月幕張で開催されたICCEES(国際中欧・東欧研究協議会世界大会)の実施報告書に明確に表れている。 Image
その土台には「欧米によるロシア悪玉論」(Russophobia)への対抗意識がある。このような認識は研究者をして「オルタナティブ」な視点(逆張り)を追求させる。また、これが、幕張大会にはウクライナからの参加が少なかったにも関わらず、露占領下のクリミアとDPRから「学者」が招待された背景である。 Image
神田外大で行われたウクライナ関連特別パネルには、ウクライナの学者は呼ばれず、なぜかクリミアの政治技術者(世論操作プロ)とDPRのドゥーギン系活動家が招待されて発言権が与えられ、パネルの聴衆に「オルタナティブ」な視点を提供して感化した。


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このパネルは露メディアで「日本の情報封鎖に風穴を開けた」と絶賛された。聴衆の大部分はウクライナのことをほとんど知らないから、「なるほどー、そういうことか」と、このアカデミアを通じたdisinformationをまともに受け止めただろう。中には目の肥えた聴衆もいたこと付言するが。
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この会議後、DPR活動家のチェルカーシン(ドネツクの親ウクライナ系学者への脅迫でも知られる)は「以前からのアカデミック・コネクション」のおかげで日本に招待されたと述べ、「会議において元ウクライナだった地域の代表のプレゼンスを確保」するのに尽力した松里先生に対し、謝意を表明している。 Image
詳しくは、昨年末のウクライナ研究会での発表「大反省会「ウクライナ危機」(Scholars’ ontological,epistemological and methodological approaches to the "Ukraine Crisis")」 (英語)を参照。松里先生もお誘いしたがご参加いただけなかったことは残念。researchgate.net/publication/35…
なお上述のDPRとの「アカデミック・コネクション」を利用して松里先生は、2017年露占領下のドネツクを訪問。DPR関係者の案内の下「ウクライナ軍によって破壊されたがDPRによってすぐに修繕された」学校を視察。論文で「ポロシェンコ大統領による子どもへの爆撃」は「議論の余地ない戦争犯罪」と断定→ Image
また、自らドネツク市民に対し「残酷な軍国主義下の日本ですら第二次大戦終盤では子どもを都会から避難させた」とたびたび語り、ウクライナ軍の残虐性を強調したらしい(自ら論文に書かれている)。DPRの宣伝に加担するのは研究者の立場を越えている気がするが。 Image
私の周りの研究者の間ではなぜこの論文がNationalities Papersの査読を通ったのか疑問視する声がある。 
Matsuzato, Kimitaka. (2018) “The Donbas War and Politics in Cities on the Front: Mariupol and Kramatorsk,” Nationalities Papers 46(6).
松里公孝「ウクライナ動乱の一年に思う」『学士会会報』2015(2)。 Image
「クリミアの内政と政変(二〇〇九-一四年)」『 現代思想』2014.7
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Hosaka, S. (2019). Welcome to Surkov’s theater: Russian political technology in the Donbas war. Nationalities papers, 47(5), 750-773. cambridge.org/core/journals/…
Hosaka, S. (2021). Enough with Donbas “Civil War” Narratives?. Civil War? Interstate War? Hybrid War?, 89. books.google.co.jp/books?hl=ja&lr…
ICCEES2015開催報告書 l.u-tokyo.ac.jp/makuhari2015/i…
ロシア・プロパガンダメディア報道 (昨年、私がこの記事を取り上げてから、参加者の写真が削除された。)crimea.kp.ru/online/news/21…
DPRにおけるチェルカーシンの帰国報告 К. В. Черкашин (к.полит.наук, доцент) Донецкий национальный университет (г. Донецк, ДНР)
cyrilcherkashyn@gmail.com ВИЗИТ ДЕЛЕГАЦИИ УЧЁНЫХ ДНР И КРЫМА В ЯПОНИЮ 
 (アクセスできなくなっているが)kf.sgi.donntu.org/sites/default/…
ウクライナを巡る学者の存在・認識論的立場の違い Image

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Feb 3
Joiこと伊藤穰一氏とエプスタインの関係が取り沙汰されている。メールの"dogs" や"plan B"が何を意味するのか、島で何をしたかは不明だが、(法的に)気になる点がある。それは2015年5月のエプスタイン訪日における女性executive assistant 2名(又は3名)のロシア人等の短期商用査証の申請である。🧵
2名はエプスタインが5千万ドルの遺産を残した「最後の恋人」Karyna Shuliak (ベラルーシ人とされるが露旅券の可能性も)と、FSB出身ベリャコフ経済次官とも関係があるSvetlana (Lana) Pozhidaeva。彼女らについては、(株)ロフトワークが招聘機関となり査証申請が行われた。
その経緯は、エプスタイン秘書が、Karynaらについて商用、観光査証のどちらを申請すべきか Joiに相談。Joi秘書は、旅行会社は知らないので観光査証の支援はできないと返事。アメックスも査証支援はできないとエプスタイン秘書が答えたため、Joiは商用査証の手配支援を約束。 justice.gov/epstein/files/…Image
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Dec 27, 2025
「どんな厳しい状況にあっても、誰かが外交チャンネルを繋ぎ止めておくことは大事」と鈴木宗男氏を擁護する発言に驚く🤦‍♂️ なんでもかんでも「パイプ」があればよいというわけではない。むしろ複数の事例が示すように、モスクワとの「バックチャンネル外交」はハイリスク且つノーリターンである。🧵
典型例は1960年代のキューバ危機。
GRU将校ゲオルギー・ボルシャコフ(ソ連記者として米国勤務、KGB所属説あり)は、ケネディ大統領の弟ロバート司法長官に接近し、フルシチョフとの連絡役を提案した。ケネディ弟は「率直に話せる本音チャンネル」と信じ、この役を引き受けた。
ボルシャコフはケネディ弟を通じ、米大統領に「ソ連はキューバに核ミサイルを配備する意図はない」とフルシチョフの伝言を伝達。しかし、CIAの偵察写真がその欺瞞を暴いた。突き付けられた証拠の前にフルシチョフはミサイル配備を認めた。ケネディ兄弟はこの欺瞞に激怒したと弟は回想録に記している。
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Dec 26, 2025
出発前に高市総理、茂木外相と「すり合わせ」したとの発言にも驚いたが、総理の考えは政府答弁とは異なる、対露制裁は間違いとまで主張。議員外交の範疇を越え、国際社会に日本の立場について誤ったナラティブを拡散する鈴木宗男。政府、自民党としてこのプーチンのお友達を放置しておいてよいのか。→
現役の与党議員であり、本人が総理と「すり合わせ」したとまで言っているので、安倍昭恵とプーチンの会談の時のように「政府は関与してない」では済まされない。
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Aug 8, 2025
ここ数日の噂が現実に。トランプが仲介し、アゼルバイジャンとアルメニアが和平に合意。アリエフ大統領、パシニャン首相ともトランプをべた褒め、ノーベル平和賞に推薦すると約束。シナリオ通り進めば、30年以上に亘る紛争を終結、南コーカサスの地政学の歴史的転換点となるが、いくつか留意点がある🧵
三者会合の場で署名されたのは平和条約ではなく、米🇺🇸🇦🇿🇦🇲の共同宣言(平和条約には外相がイニシャル署名したとの報道)。記者からの質問に対し、(ナゴルノカラバフ奪還後も平和条約署名を引き延ばしていた)アリエフ🇦🇿大統領はホワイトハウスで署名された以上合意から引き下がることはないと強調。
🇦🇿が要求してきた本土と飛び地ナヒチェヴァンを結ぶ「ザンゲズール回廊」は「トランプ・ルート」として米国に独占開発権とともに貸与されるとの報道。🇷🇺は自ら仲介した2020年の合意で、この回廊にFSB国境警備隊の配置を望んだが、トランプルートが🇷🇺の駐留を否定すれば、🇷🇺の影響は大きく低下する。 Image
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Jul 23, 2025
ウクライナ保安庁、検察総局等が、国家汚職対策局(NABU)及び特別汚職対策検察(SAP)の複数の職員に70件の家宅捜索を行い、ロシアのエージェント網を摘発したと発表。ゼレンスキーも反汚職機関をロシアの影響から浄化する必要があると発表。だが、NABU職員に対する疑いは、🧵babel.ua/texts/119918-p…
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従来、政府高官の汚職事案はNABU・SAPが独占的な捜査権を持っていたが、今回の法改正で、(大統領が最高会議の同意を得て任命する)検事総長が高官汚職事案の管轄を判断することになる。つまり、都合の悪い事件について、独立性の高いSAP・NABUを恣意的に捜査から排除できるようになる。
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Jul 7, 2025
ほぼロシアのグルジア大使が、エストニアに対してこれを言う皮肉。エストニアはこのグルジア大使が忠誠を誓い、その長男を個人的にお世話する元ロシア人ボリス・イヴァニシヴィリの反EU独裁政権を認めていない。昨年の似非選挙に反対するジョージア国民のデモは222日目に入った。
19日はトビリシ大学で、選挙やり直しを求めるデモが予定。しかし、デモに参加する学生や先生は数カ月分の給与に相当する罰金を科せられ、野党関係者は次々に逮捕。ほぼロシアである。デモ参加者はイヴァニシヴィリによる国家乗っ取りは「ロシアの工作」だと批判している。
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