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Jul 10, 2022 18 tweets 5 min read Read on X
松里先生が、DLPR、南オセチア、クリミア等の主体性を過剰評価する背景の一つには、ご本人の研究テーマが「非承認国家」であることがあるだろう。(DLPRが政治的主体性を持たないこと(Hosaka 2019)、ウクライナ東部は「内戦」ではなく「二国間戦争」であること(Hosaka 2021)は拙稿で批判済み。)🧵
「非承認国家」研究者が研究対象の傀儡の主体性を強調し、パトロン国家(この場合ロシア)の介入を軽視する傾向があることはフランス等でも指摘されているが、日本ではこれが主流であることは2015年8月幕張で開催されたICCEES(国際中欧・東欧研究協議会世界大会)の実施報告書に明確に表れている。 Image
その土台には「欧米によるロシア悪玉論」(Russophobia)への対抗意識がある。このような認識は研究者をして「オルタナティブ」な視点(逆張り)を追求させる。また、これが、幕張大会にはウクライナからの参加が少なかったにも関わらず、露占領下のクリミアとDPRから「学者」が招待された背景である。 Image
神田外大で行われたウクライナ関連特別パネルには、ウクライナの学者は呼ばれず、なぜかクリミアの政治技術者(世論操作プロ)とDPRのドゥーギン系活動家が招待されて発言権が与えられ、パネルの聴衆に「オルタナティブ」な視点を提供して感化した。


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このパネルは露メディアで「日本の情報封鎖に風穴を開けた」と絶賛された。聴衆の大部分はウクライナのことをほとんど知らないから、「なるほどー、そういうことか」と、このアカデミアを通じたdisinformationをまともに受け止めただろう。中には目の肥えた聴衆もいたこと付言するが。
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この会議後、DPR活動家のチェルカーシン(ドネツクの親ウクライナ系学者への脅迫でも知られる)は「以前からのアカデミック・コネクション」のおかげで日本に招待されたと述べ、「会議において元ウクライナだった地域の代表のプレゼンスを確保」するのに尽力した松里先生に対し、謝意を表明している。 Image
詳しくは、昨年末のウクライナ研究会での発表「大反省会「ウクライナ危機」(Scholars’ ontological,epistemological and methodological approaches to the "Ukraine Crisis")」 (英語)を参照。松里先生もお誘いしたがご参加いただけなかったことは残念。researchgate.net/publication/35…
なお上述のDPRとの「アカデミック・コネクション」を利用して松里先生は、2017年露占領下のドネツクを訪問。DPR関係者の案内の下「ウクライナ軍によって破壊されたがDPRによってすぐに修繕された」学校を視察。論文で「ポロシェンコ大統領による子どもへの爆撃」は「議論の余地ない戦争犯罪」と断定→ Image
また、自らドネツク市民に対し「残酷な軍国主義下の日本ですら第二次大戦終盤では子どもを都会から避難させた」とたびたび語り、ウクライナ軍の残虐性を強調したらしい(自ら論文に書かれている)。DPRの宣伝に加担するのは研究者の立場を越えている気がするが。 Image
私の周りの研究者の間ではなぜこの論文がNationalities Papersの査読を通ったのか疑問視する声がある。 
Matsuzato, Kimitaka. (2018) “The Donbas War and Politics in Cities on the Front: Mariupol and Kramatorsk,” Nationalities Papers 46(6).
松里公孝「ウクライナ動乱の一年に思う」『学士会会報』2015(2)。 Image
「クリミアの内政と政変(二〇〇九-一四年)」『 現代思想』2014.7
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Hosaka, S. (2019). Welcome to Surkov’s theater: Russian political technology in the Donbas war. Nationalities papers, 47(5), 750-773. cambridge.org/core/journals/…
Hosaka, S. (2021). Enough with Donbas “Civil War” Narratives?. Civil War? Interstate War? Hybrid War?, 89. books.google.co.jp/books?hl=ja&lr…
ICCEES2015開催報告書 l.u-tokyo.ac.jp/makuhari2015/i…
ロシア・プロパガンダメディア報道 (昨年、私がこの記事を取り上げてから、参加者の写真が削除された。)crimea.kp.ru/online/news/21…
DPRにおけるチェルカーシンの帰国報告 К. В. Черкашин (к.полит.наук, доцент) Донецкий национальный университет (г. Донецк, ДНР)
cyrilcherkashyn@gmail.com ВИЗИТ ДЕЛЕГАЦИИ УЧЁНЫХ ДНР И КРЫМА В ЯПОНИЮ 
 (アクセスできなくなっているが)kf.sgi.donntu.org/sites/default/…
ウクライナを巡る学者の存在・認識論的立場の違い Image

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Aug 1
米国やドイツとの被拘束者の交換で、ロシアに帰国したFSB・GRU将校やイリーガル、エージェント(殺し屋等)を自らタラップで迎えるプーチン。遅刻常習犯もこの時だけは遅れない。エージェントを家族と同じように大事にするプーチンの哲学がよく分かる(宗男氏のいう「プーチンは人情家」の意味)。
米独は、犯罪者8名を引き渡す代わりに、ロシアでスパイ罪で有罪判決を受けたWSJ記者Gershkovichや元海兵隊員(二人は米国籍)、ドイツ人(露との二重国籍含む)、プーチン体制に反対して逮捕されたカラムルザやナワリヌイ支持者のロシア人計16名を解放したという。
theins.press/en/news/273542
被拘束者交換は2022年にナワリヌイ(今年2月監獄で死亡)を解放するためにThe InsiderのC.Grozevが米独政府に働きかけたという。ロシアはベルリンで亡命チェチェン人を暗殺して当局に逮捕されたKrasikovを取り戻したかった。少し驚きなのは、ロシア側の交渉担当はFSB第五局(Beseda将軍)。
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Jul 27
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theins.press/en/politics/27…
②完璧なカバーにも関わらず、酒に酔ってブルガリアで赤の他人に自らのミッションを暴露、自らのFSBのIDまで見せて自慢する。これが当局の関心を引く。
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Jul 18
第二次世界大戦歴史博物館の別館。以前はアフガニスタンなど局地紛争を展示していた。それが変わったのが2022年春。 Image
ロシアによる全面侵攻開始からまだ2ヶ月の5月8日、第二次世界大戦犠牲者追悼の日に合わせて、世界でも例のない現在進行形の戦争の展示を開始。


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なかでも衝撃を受けたのは、空襲警報時の「Укриття」(シェルター)標識の先にある地下室である。ここは、プロスクリウカ通り13番地の地下室を忠実に再現する。


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Jul 18
5年ぶりに訪れたキーウの第二次世界大戦歴史博物館。正面ホールに無造作に置かれた遺物。解説はない。 Image
近づいてやっと祖国の母像の盾から取り外されたソ連の紋章(槌と鎌)と分かった。数百万人のウクライナ人を抹殺したソ連という体制は33年前に終焉したが、1年前、その象徴をようやくドニプロ川のほとりから除去した。


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停電中の博物館を回る。どの展示室の隅にも職員が座っていて、来訪者が入るとスマホのライトで照らして説明してくれる。この5月のヘルソン州ドニプロ川左岸のクリンキ(最近ウクライナ軍が撤退したとの情報あり)での部隊交替時の渡河の写真も展示されていた。


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Jul 6
The Insider報道:ロシア対外諜報庁の中堅将校M.Kolesovのリークメールから分かる最近のロシアの欧州向け偽情報の傾向。ソ連インテリジェンスの理論や政治技術の手法を踏まえており、それほど驚きはない。驚きは別のところ(末尾)。🧵

theins.ru/politika/272852
偽情報のターゲットオーディエンス(#諜報国家ロシア p.171)をいくつかのセグメントに分類。20~30%の理性的なセグメントには事実をもとにして理詰めでアプローチ。70~80%の感情的なセグメントには世界が終末に向かっているという方向に誘導する。 Image
ストレートなプロパガンダ(ロシアの言い分を主張)は効果が低い。ウクライナと西側支援国の亀裂、特にウクライナ難民と地元民の間のトラブルが最も炎上し易い(ので利用価値ある)テーマ。(プロパガンダに慣れてしまったオーディエンスには真実味のある偽情報を #諜報国家ロシア p.111) Image
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10日後に迫ったスイスでの平和サミットが危機にあるというSidorenko記者の指摘。中国は欠席、米国はバイデン欠席(副大統領出席)で、首脳出席は80か国(オンライン含む)程度の見通し。しかし問題は参加国の数ではなく、サミットで採択予定の成果文書の内容。
eurointegration.com.ua/articles/2024/…
そもそも「ゼレンスキーの平和の公式」は2022年のG20サミット以降、中国、インドネシア、アフリカ等から出てきたロシア寄り停戦論を打ち消し、ロシア軍撤退と領土一体性の回復という「正義の平和」、ウクライナが譲れない「勝利の条件」を多国間のコンセンサスにしてロシアへの圧力とするためだった。
現時点でロシアは交渉に参加していない。ジッタの補佐官級交渉で中国の代替案を打ち消したはよいが中国が交渉から外れ、事実上ロシアを支援。グローバルサウスからの参加国を増やすため、成果文書案はウクライナの主張するロシア軍撤退と領土一体性に言及せず、「国連憲章」への言及に留まる。
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