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Aug 5 20 tweets 1 min read
エネルギー問題を考える際、どうやら3つの視点が大切。
①エネルギー密度
②貯蔵
③EROI
とはいえ、これだけではなんのこっちゃらなので、一つずつ解説を試みる。
エネルギー密度というのは、1Lあたり(あるいは1kgあたり)どのくらいのエネルギーを貯め込めるか、というもの。石油は特に優秀で、エネルギー密度が大変高い。だから飛行機だって飛ばせる。少量の石油で大量のエネルギーを引き出せるから。
しかし石油以外のエネルギーはエネルギー密度が低かったり、扱いにくがったりする。電気を貯める電池は、エネルギー密度が低い。これは、石油が強い結合である「共有結合」でエネルギーを貯めるのに対し、電池は弱い「イオン結合」だから、原理的にエネルギー密度を高められないらしい。
水素ガスや天然ガスは貯蔵が難しい。ガスのままだとエネルギー密度が低すぎる。液化すればエネルギー密度が高くなるけど、水素も天然ガスも超低温にするか非常に高い圧力をかけないと液化しない。エネルギー密度を高めた貯蔵が面倒くさい。
エネルギー密度が高くて貯蔵するのも楽なものに、バイオエタノールなどのバイオ燃料がある。しかしバイオエタノールの場合、EROIが低い。EROIは、そのエネルギーを作り出すのにどのくらいのエネルギーを消費するか、というもの。
石油文明が始まったばかりの頃は、油田から石油が噴水のように吹き出していたので、EROIは200以上あったといわれる。つまり1のエネルギーを費やしてその200倍の石油エネルギーが取れたことになる。
シェールオイルは、EROIが10を切ることがある。かなりエネルギー的な黒字が減ってきていることがわかる。EROIが3.7を切ると、ガソリンを作るために石油を精製したり、遠方に運んだりするエネルギー的なメリットが失われる。EROIが3.7を切ると、エネルギーとしては魅力がないことになる。
で、バイオエタノールだけど。ブラジルでサトウキビから製造しているバイオエタノールなら、EROIが7を超える。これなら、エネルギー的に黒字。けれど、ブラジルのバイオエタノール以外は、EROIが1を切っていたりする。
アメリカはトウモロコシからバイオエタノールを生産しているけれど、「幻想のバイオ燃料」(久保田 宏)によると、EROIが1を切っている。廃棄したお弁当などの食品ロスから作る場合も同様。食品油から作るバイオディーゼルも同様。エネルギー的に赤字。
木材もそんなにエネルギー密度が高くない。それに固形物だから石油と違って扱いにくい。エンジン動かせない。そんなこんなを考えると、①高いエネルギー密度、②軽量コンパクトに貯蔵可能、③EROIが高く、得られるエネルギーが大きい、という点で、石油になかなか勝てるエネルギーがいまだにない。
太陽電池で作った電気で、石油を製造できたら素晴らしいし、そんな技術が生まれたらノーベル賞者かもしれない。しかし、そんな技術はない。植物は太陽光エネルギーをデンプンや油などの高分子有機物に変換するのに非常に優れているけれど、人間はまだそれをマネすることさえできていない。
科学技術が発達したかのように見えて、実は人類は、石油の使い方が上手になっただけなのかもしれない。石油がなければ、かなりの技術が使い物にならなくなる。
石油は、まだまだたくさんある。しかし、その多くが使い物にならない。取り出すのに使用するエネルギーが多すぎて、エネルギー的に赤字になってしまうからだ。EROIが3.7を切ったら、エネルギーとしては役に立たない。そうなったら、石油はエネルギー資源としては枯渇したことになる。
シェールオイルは、いわば地面から絞り出す技術。絞り出すのにエネルギーが必要。だからEROIがどんどん小さくなってしまう。現在はEROIが10を切ることも多く、7台だったりすることもあるらしい。いずれ、3.7の限界値に近づいていくだろう。石油はエネルギー資源として使えないものに近づいていく。
石油はプラスチックや衣料品などの原材料として優れているため、EROIが3.7を切っても、加工用材料として将来も掘り続けられることになると思う。しかし安価なエネルギーとしては、やがて使い物にならなくなる時代がやってくる。そのとき、石油に代わるエネルギーを見つけておく必要がある。
しかしどれもこれも、EROIの数値がそんなによくないエネルギーばかり。あるいは、エネルギー密度が低かったり、コンパクト軽量に貯蔵することが難しかったり。石油が果たしてきた役割を果たせるエネルギーは、今のところ見つかっていない。今後、試行錯誤、暗中模索が続くことになるだろう。
そうしたエネルギーのゴタゴタの中で、果たして食糧生産にどれだけ意識を回してもらえるか。食料生産には当面、かなりの量の化学肥料と、トラクターなどの農業機械を動かすエネルギー、そして食料を都市に運ぶ物流用のエネルギーが必要。それを確保できるのか否か。
国が相当補助を出すか、食糧をそれなりの価格で売るような経済システムに変えるかしないと、農業にそれだけのエネルギーを集中させることが難しいかもしれない。国が変わるか、経済システムを改変するか。どちらも難しい。食料安全保障は、石油が安価に手に入るかどうかと直結する問題。
まとめました。

エネルギーを考える三つの視点|shinshinohara #note note.com/shinshinohara/…
石油が思うように採れず、自然エネルギーへのシフトが叫ばれる時代、本当にエネルギーは足りるのか?問題なくエネルギーシフトは実行できるのか?そのとき、食糧生産は?エネルギー、政治、経済など、様々な側面から食料安全保障について追究。
8月19日発刊。
amazon.co.jp/%E3%81%9D%E3%8…

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Aug 5
日本は火山国なので、地熱発電への期待が強い。しかし調べてみると、地熱発電は伸びるどころか縮小している。2020年度でわずか0.3%。太陽光発電などが伸びる中、どうして地熱が伸びないのだろう?
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Aug 3
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