最近の英国絡み記事面白いね!足元の英金利上昇とGBP下落で英国企業とデリバティブ取引を行う銀行勢は困難に直面している。それは主にXVA(デリバティブ価値調整)に起因するものだ。今日の #こぐまざっくり解説 はこの話題でお届けするくま。はじまりはじまり。 risk.net/derivatives/79…
銀行が直面する損失の大きな部分を占めるのがCVA(Credit Valuation Adjustment:信用価値調整)と呼ばれるもの。CVAは取引相手の与信リスクを定量化し、デリバティブの価値自体を調整するものくま。
デリバティブ取引で時価評価上勝っていても、取引相手がデフォルトすれば勝ち分全てを受け取れず、取りっぱぐれるかもしれない。じゃあ、取りっぱぐれ分の期待値を計算して、その分を評価自体から控除しよう。これがCVAのざっくりしたイメージになる。
この計算は多くの場合、取引先企業のCDSがインプット情報として用いられる。またCVA自体が取引先企業の信用力(すなわちCDSスプレッド)変化によって変動するため、CVAを管理する銀行のXVAデスクはCDSを用いてCVA変動をヘッジする。その結果、何が起こるか。
ビジネス環境悪化から先行きに陰りが見えた英国企業のCDSがワイドニングする→CVAが増加(銀行にとってネガティブ)→XVAデスクがCDS買う→CDS上昇→CVA増加といったネガティブ・ループが形成される。銀行勢がヘッジのプロテクション買いに大挙し、自分で自分の首を絞める格好になるわけだくま。
また、英国企業の多くはドル債を発行して資金調達を行うけど、その際に銀行と通貨スワップ(異なる通貨間で元本および利金を交換するスワップ)を締結する。期初で起債により払い込まれたドルをスワップCPに渡して代わりにポンドを受け取る。期中はポンド建て利息と交換にドル債の利金相当を受け取る。
そして期末(債券償還時)にポンド元本の返済に代えてドル元本を受け取り、それを債券の償還に充てるわけだくま。期中の発行コストは多くの場合、SONIA(ポンドのRFR)+発行スプレッドといった変動だろう。
この起債スワップ、GBPUSDの下落は銀行のNPVにネガティブに作用するが、英金利の上昇はフォワードSONIAの上昇を通じてポジティブに作用する。問題は銀行にとってスワップのNPVが大きく正になる、つまり勝ち分が増える時だくま。勝っているのに問題とはどういうわけだろうか。考えてみようねくま。
デリバティブはCSAという担保契約に基づいて、負けている相手方から負け分相当の担保が取引相手に提供されるのが一般的なんだけど、発行体企業(非金融機関)との取引は無担保で行っているケースが多い。この場合、たとえ時価が銀行にとって正だったとしても担保(変動証拠金)は入ってこないんだくま。
一方、銀行が業者間で行っているヘッジ取引は有担保なので、担保差入の必要があり、この担保の調達コストが追加的に発生する。これはFVA(Funding Valuation Adjustment:調達価値調整)と呼ばれている。銀行は取引当初にFVAに対するチャージも行うがFVA自体も変動するため、足元ネガティブのようくま。
銀行は企業とのデリバティブ取引についてもCSAベースの完全担保を望むものの、非金融機関にとって日次で時価変動をモニターし、担保授受を行うフローは容易ではないため、無担保取引がかなり多くなっているものと思われる。なかでも元本交換がある通貨スワップは銀行にとって悩みの種なんだくまね。
XVAも金融危機以降に、デリバティブリスク管理の精緻化の流れの中で導入が進んだけど、それがゆえにマーケットの動きや不安定性を助長することになってしまうとは、なんとも皮肉なもんくまよね。先日の現金担保の問題と似たような感じを受けてしまうくま。
どうでしたか。XVA導入によりプレーンな金利スワップですら、高次のリスクが発生するエキゾチック・デリバティブになってしまいましたとさ。XVAに興味がある人いたら、また書きますね。まあ、この手の話題おもしろいんだよね。では今日はこの辺で。引き続き御贔屓にくま!

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【Disclaimer】
私こぐまは、金融機関にてデリバティブに関わる業務に従事しています。エクイティデリバティブは管轄外ですが、デリバティブ市場拡大により直接的あるいは間接的に利益を得る立場にいます。本ツイートは特定の金融商品を勧めるものではなく、所属機関と一切関係のない個人的見解です。
【仕組債における手数料】
よく誤解されているポイントですが、これについては金融機関内でもポートフォリオを管理するトレーダーおよび組成担当者の一部しか正しく理解をしていないため、致し方ないと思います。分かりやすくするために手数料を販売手数料と組成手数料の2つに分けて考えましょう。
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Sep 17
今日の #こぐまざっくり解説 では最近話題になっている仕組債、その中でも批判の多いEBについてその商品性を説明したいと思います。この記事が仕組金融商品の正しい理解の一助となることを金融機関に勤める者として願います。珍しく真面目なやつです。(くま少なめ) nikkei.com/article/DGXZQO…
【Disclaimer】
私こぐまは、金融機関にてデリバティブに関わる業務に従事しています。エクイティデリバティブは管轄外ですが、デリバティブ市場拡大により直接的あるいは間接的に利益を得る立場にいます。本ツイートは特定の金融商品を勧めるものではなく、所属機関と一切関係のない個人的見解です。
【EBとは】
EBとはExchangeable Bondの略称で日本語だと他社株転換社債と呼ばれます。現金を払い込んで取得する債券ですが、一定の条件で指定された株式により償還される可能性があるためこう呼ばれます。当該EBの発行体とは異なる会社の株式で償還されるため他社株転換社債と呼ばれるわけです。
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