Thread by @mokosamurai777

地理に関心がある皆さんへ。
国から系統地理を見ると、地理の要素や要因をより鮮明に理解できます。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#エリトリア」。アフリカ大陸北東部、紅海に面する長大な海岸線を有する国。今や数少ない共産主義国です。
では、参りましょう。

エリトリア国は、アフリカ大陸北東部、「アフリカの角」と呼ばれる地域で、紅海沿岸部に広がる細長い領域を持つ国です。
エチオピア、スーダン、ジブチと国境を接しており、紅海上にもいくつかの島々を領有しています。
国名は、古代ギリシャ語の「赤」を意味するエリュトゥロス (ἐρυθρός) が大元、

1890年、イタリアが植民地支配を行うにあたり、ラテン語で紅海を意味する「Mare Erythraeum」にちなんで「Colonia Eritrea」と名付けたのが元になっています。
この地の人類の痕跡は100万年前に遡ります。
1997年に南部のダナキル砂漠で発見されたマダムプヤの頭骨は、ホモ=エレクトスのもので、

現生人類（ホモ=サピエンス）の祖先にあたると言われています。つまり、この地が人類進化の過程で重要な場所だったことを意味しています。
中～北部沿岸では旧石器時代の遺跡も発見されており、彼らは漁労と牧畜を行っていた痕跡があります。砂漠の洞窟には、いくつもの岩絵が残されています。

紀元前8,000年頃には様々な民族が移住し、多くの集落が立地（現在の9民族もこの頃に定住したと言われる）、紀元前25世紀頃のエジプトの記録には、金や香料、象牙などを産する「プント国」と呼ばれる国が存在したとも言われており、重要な交易相手だったとされます。
その後いくつかの王国の興亡を経て

有名どころでは紀元前1世紀から10世紀まで存在したアクスム王国。交易で栄えると同時に、エジプト、アラビア、インド、中南アフリカの結節点として様々な民族が居住するようになります。
また、4世紀にはキリスト教コプト派が伝来、以降キリスト教が優勢となり、それは周辺地域がイスラム化した後も

変わりませんでした。
1557年からオスマン帝国領、1890年以降はイタリア植民地となり、1936年にイタリアに併合され、1942年にイギリスの保護国になりました。
その後1952年、エチオピアと連邦を組む形で独立したものの1962年にエチオピアに併合され、以降独立闘争を展開。1993年、独立を果たしました。

歴史としては比較的新しい国ですが、その背景にはかなり複雑な経緯がありますね。
さて、同国の地形は大きく３つにわけることができます。
東部は海岸沿いの低地が細長く広がり、沖合には300ほどの島が点在します。
中央部はアフリカ大地溝帯の影響を受けた高地で、標高は2,000～3,000mに達します。

西部には高原地帯が広がります。
この地域は、アフリカ大地溝帯が走るだけではなく、ちょうどインドプレート、アラビアプレート、アフリカプレートの3つのプレートがぶつかる場所。
その象徴的な場所が、先ほども触れたダナキル砂漠で、山に囲まれた盆地状の地形になっています。

その平均標高は海面下70mほどで、強く乾燥しています。
そして、盆地周辺は火山地帯となっており、さらに言えば同国は地震が多発することでも知られています。
こう見ると、同国の地形が大地溝帯の影響を強く受けていることが伺え、プレート境界に位置するかなり複雑な地形であることがわかります。

気候はおおむね乾燥気候が優勢ですが、沿岸部は乾燥が強く、内陸の方が湿潤という面白い構図です。
中央部の高地を境にはっきり東西に気候がわかれていることが特徴的。
また、紅海沿岸は平均気温が夏は35℃（最高気温40℃以上）、冬でも平均気温が20℃近い（最高気温30℃）という酷暑の地域。

乾燥が強い沿岸部より内陸の過ごしやすい高原地帯に人が集まる傾向があり、交易で栄えた港湾都市以外は沿岸部の人口密度は低め。首都のアマスラも内陸の高地にあります。
首都アマスラの1月平均気温は13.6℃、7月は16.5℃。年降水量は550㎜。意外に過ごしやすそうなことがわかります。

西部の高原地帯は沿岸部より降水量は多いものの、気温は高く人口密度は低め。牧畜を営む人々が主に暮らしています。

同国は古くから交易で栄えた歴史が示すように、立地は非常に良いのですが30年に渡る独立戦争を戦い抜いたことから国土が荒廃。
多くのインフラも破壊されており、世界最貧国の一つ

に数えられています。
国民の8割が第一次産業に従事しているにもかかわらず、食糧の7割を輸入に頼る状況。近年の干ばつが状況の悪化に拍車をかけています。
ただ、国土には金や銅などを含め豊富な資源が眠っているとされ、立地を生かした流通サービス業が発展、農業の近代化も行われており

経済成長率は高くなっている状況。
国民一人当たりGNIは560ドルと未だ低いものの、今後が期待されています。

民族はティグリニャ、ティグレ、サホ、クナマ、ラシャイダ、ビレン、アファール、ベニアミル、ネラの9民族。
ティグリニャが5割ほどと最大で、次いでティグレが3割ほどとなっています。

宗教は現在はイスラム教スンナ派とキリスト教が互いに5割ほどと拮抗。
キリスト教はエリトリア正教が多数派で、キリスト教徒の8割を占めます。
言語は最大民族のティグリニャ語が公用語、他にアラビア語と、歴史的な経緯から英語も公用語です。
この辺りからも、この地域が諸民族の結節点だった

ことが伺えます。
というわけで、エチオピアから分離独立した国というイメージが強いエリトリア。
太古から文明の結節点、プレートの集合点として、人文、自然とも複雑な歴史を歩んできた地域です。
日本ではマイナーな国ですが、目を向けてみても面白いのではないでしょうか。
今日はこれくらいで。