地理に関心がある皆さんへ。
国から系統地理を見ると、地理の要素や要因をより鮮明に理解できます。地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。
本日の一国は「#アルゼンチン」。南アメリカ大陸南東部に位置する「銀の国」。白人比率が高いのですが、その理由とは…?
では、参りましょう。 ImageImage
アルゼンチン共和国は、南アメリカ大陸の南東部を占め、南アメリカ大陸ではブラジルに次ぐ、スペイン語圏の国では最大の国土(279.6万㎢)を持ちます。
チリ、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、ブラジルと国境を接しており、東には大西洋が広がります。
南は、ドレーク海峡を挟んで南極大陸と
向かい合っています。
国名は、ラテン語で「銀」を意味するArgentumに由来します。
これは、1516年、ラプラタ川河口に到達したスペイン人、フアン・ディアス・デ・ソリスが、先住民が銀の装身具を身に着けている様子を見たこと(贈り物として受け取ったという説もあり)、そして遭難した探検隊の一部が
聞いたという内陸深くにある銀の山の話などが「Sierra del Plata」という伝説の銀の山として語られることになります。
実際のこの山は、ボリビアのポトシ銀山である可能性が指摘されています。
また、同国の大河川、ラプラタ川も「銀の川」という意味で、この地の初期の探検が銀の発見を大きな動機と Image
していたことが伺えます。
成り立ちを見ると、ラプラタ川も正確には「ラ・プラタ川」なのがわかります。
現在のアルゼンチンは人口のうち8割以上を白人が占めるため、先住民がいなかったと認識されることがあります。
しかし、先住民の痕跡は古くからあり、紀元前11,000年頃に遡ります。
ただ、先住民はアンデス地域の高地に多く住み、平野部に住む人の数は高地に比べ多くなかったと考えられています。
特に平野部に住む先住民は、スペインによる植民地化に激しく抵抗したため軍事的手段を用いて排除され、その痕跡は破壊されてしまいました。
また、その後、銀を血眼になって探したにも
関わらず、アルゼンチンの領域内には伝説のような銀鉱が見つからず、また、温帯地域であることからサトウキビなどの熱帯性作物が主なプランテーション農場も開けない、用途がない土地として放置されてしまいます。
プランテーション農業が盛んではないことから黒人奴隷の移入も少なかったとされます。
1810年に革命が発生して自治を宣言、その後も国内諸派の対立と内戦が続き、統一が進んだ1853年に憲法を制定。
この憲法では大々的にヨーロッパ移民の誘致がうたわれています。
これは、パンパをはじめとする大平原を「放置」していることがアルゼンチン発展の足かせになっているとして、 Image
野生化した牛を追うガウチョや、少数のインディオが暮らすこの地域を「開拓」することを国策としたためです。
そして、誘致に従って多くのスペインやイタリア系移民が流入。人口構成が一気に白人多数に偏ります。
この際に開拓が進んだ農地が、現在のアルゼンチンの農業を支えていることは確かです。
同国の地形は、かなりの多様性があります。
ざっくり見ると、西にアンデス山脈、東に平野が広がっており、西から東に向かって標高が下がっていくと考えて良いでしょう。
アンデス山脈には、同国及び南アメリカ大陸最高峰のアコンカグア山(6,960m)がそびえています。
また、標高6,000m級の山々の ImageImage
東に標高4,000m級の高原が連なり、東に向かって標高が低下。国土の中央付近にコルドバ山脈がポツンと南北にのびています。
コルドバ山脈から北は熱帯性で半乾燥地域、雨季と乾季が明瞭なグランチャコ。東に行くにしたがって湿潤になります。
そして、アルゼンチンを象徴すると言える大平原パンパ。 ImageImage
国土の1/4を占めるこの巨大な草原地帯は、さらに2つに分かれます。東の湿潤パンパと西の乾燥パンパで、その境界線はおおむね年降水量550㎜。
湿潤パンパではトウモロコシなどの栽培や牧牛、そして牧草のアルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)の栽培、乾燥パンパでは牧羊が中心で、その移行地帯 ImageImage
では小麦の栽培が行われています。
また、パンパを同国最大の河川、ラプラタ川が流れています。
そして、その南を流れるネグロ川の南には、半乾燥の大平原パタゴニアが広がっています。
アンデス山脈の東に広がり、常に偏西風の風下に位置していることから非常に風が強いことで知られます。 ImageImage
その風速は60m/sに達することもあり、強力な台風並み。南部は極寒の砂漠で、農業は主に北部で行われています。
ちなみに、緯度的には温帯域にもかかわらず巨大な氷河が形成される珍しい地域で、観光地として有名なペリト・モレノ氷河もパタゴニアにあります。
気候は今までの話でかなり Image
触れてしまっていますが、図のような分布。
内陸や南部には乾燥地が広がり、北東側に温帯地域が広がる形になっていることがわかります。
また、パタゴニアの西側に違う気候が見られるのは、アンデス山脈の地形の影響です。
さて、同国の産業ですが、何と言っても農業が有名。先述のパンパにおける Image
農産物、特に畜産物は、19世紀の冷凍船の発明以降輸出が急増。ヨーロッパの台所を支えました。
現在も肉類、大豆など穀類が世界屈指の生産量、輸出量を誇ります。
一方で、この農業の発展が産業構造のひずみをもたらしました。
パンパの大農園では、農民の多くが季節限定の仕事しかなく、農閑期には
農園を去り、都市に流入しました。
このような人口移動を繰り返していたため、多くの定住者が必要な工業が立ち遅れ、サービス業が伸びるという状況になったと言われています。
その結果、第一次と第三次産業が突出するという変わった経済構造が生まれました。
現在は製鉄や機械、食品加工業なども
発展。第二次産業の割合は高くなってきてはいます。
また、鉱産資源の開発も進んでおり、遅ればせながら「銀の国」が実現されそうな気配があります。銀だけではなく、原油や天然ガス、マグネシウムやチタンなども産出します。
国民一人当たりGNIは11,000ドルほど。
決して低い数字ではありませんが、
その成長のアップダウンが非常に激しいのが特徴的。
農産物輸出で隆盛を極め、世界でも指折りの富裕国になった20世紀初頭。
世界恐慌で打撃を受け、1930年代以降の工業化で対外債務が急増するなど衰退が続きますが、1960年代までは富裕国の一角でした。
しかし、その後その膨大な対外債務が原因で
デフォルト(債務不履行)を連発。
2020年現在で何と9回ものデフォルト(事実上のデフォルトを含む)を経験しています。

民族は白人が9割近く、メスティーソが7%、先住民が4%ほどです。
宗教はキリスト教カトリックが7割と優勢。公用語はスペイン語です。
ちなみに、首都ブエノスアイレスは
「南米のパリ」と呼ばれ、現代的な街並みも整備される一方、往時の繁栄を偲ばせるヨーロッパ的で美麗な建築物も多く残っています。
忘れていましたが、ラプラタ川河口部、エスチュアリ―の奥に位置するブエノスアイレスの1月平均気温は24.8℃、7月は11℃、年降水量は1,300㎜ほどです。
過ごしやすそう。 ImageImage
というわけで、かつて世界屈指の富裕国だったアルゼンチン。
今もその面影は色濃く残り、新たな産業を手にして再び、有力な新興国として台頭しています。ただ、幾度となくデフォルトををしていることが気になる所。
今度は安定した成長をしてくれたら良いのですが。
今日はこれくらいで。
付け加えですが、人口は4,500万人ほどです。
また、国土の5割が平原、あと5割は高原と山地が半々、という数字も、地形の理解の助けになるでしょうか。
パンパの存在感が大きいものの、それだけではない、という感じですね。

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