shinshinohara Profile picture
May 5 17 tweets 1 min read Twitter logo Read on Twitter
Facebookのオススメ漫画には、異世界に転生して?すごい能力で周囲を驚かすというものが多い様子。また、平凡と思われていたオッサンが実は周囲を驚かす実力の持ち主で…というストーリーのものも勧められる。こういうの見てると、人間はいくつになっても「驚かす」のが好きなのだなあ、と思う。
「ねえ、見て見て!」と幼児は言う。昨日できなかったパフォーマンスを今日できたことを大人に示す。すると大人は驚いてくれる。また新たな能力を得て、大人を驚かそうと企む。幼児はそうした毎日を過ごす。でも実は、大人になっても、高齢者でも、自分のパフォーマンスで周囲を驚かせたいのかも。
他方、「異世界で大活躍」漫画の一連見てると、一つの「呪い」を感じずにはいない。「すごい能力やパフォーマンスを見せないと周囲を驚かすことはできない」という呪い。
漫画だからいくらでも能力を高められる。中年になって才能を開花させたというストーリーも好きなように作れる。でも現実は。
私達は魔法も使えないし、すごい能力もないし、傑出したパフォーマンスを見せることもできない。漫画の中のカタルシスでしかない。まあ、漫画なんだからそれで構わないのだけど、そんな漫画ばかりだと、例の呪いに知らず知らずかかってしまう。人を驚かすには、すごい能力がなければならない、と。
しかし劉邦や劉備には、すごい能力はなかった。樊噲や張飛、関羽といった豪傑たちのような武力も持たない。張良や孔明のような知力もない。能力的には、人を驚かすものが全然ないと言ってよい人たちだった。なのに部下たちが敬い、負けても負けても付き従った。なぜなのか。
「驚く」人だったから。劉邦も劉備も、部下の能力やパフォーマンスに驚く人だった。だから部下たちは、驚いてくれる劉邦や劉備と一緒にいたがって、自分の力を相手のために振るおうとした。そう、劉邦と劉備に卓越して存在した力は、「人の能力やパフォーマンスに驚く」力だった。
孟嘗君も「驚く」人であったらしい。何かしら一芸に秀でたものがあれば食客として迎え入れ、その数は数千に及んだという。食客の中にはコソ泥を働いていたような者や、動物の鳴き真似が上手なだけの者もいた。なんでこんなヤツを、と食客同士でも思うような人間まで抱えていた。
しかしそれこそが孟嘗君の力の源泉でもあった。自分の能力に驚き、自分を温かく迎え入れてくれた孟嘗君に何とか報いたい、という意思が何千にもなり、中国全土の情報が孟嘗君に届けられ、的確なアドバイスを得た。これにより、孟嘗君は数カ国の宰相をつとめることになる。
劉邦は、孟嘗君のこうした姿勢を見習ったらしい。自分が人を驚かすのではなく、自分が人の能力やパフォーマンスに驚く。そうすれば英傑たちが集まることを劉邦は学んだようだ。
ならば、転生漫画とやらも、人を驚かすのではなく、人の能力やパフォーマンスに驚くことで天下をとっていくストーリーのものが現れたらよいのに、と思う。そしてこの「驚く」能力は、現実社会でもとても有効だと思う。人間関係を良好なものに変えることができるから。
人より優れた能力がなければ人を驚かすことはできない、という思い込みは「呪い」だ。そして転生漫画はその呪いを強化するのに一役買っているように思う。
けれど、人より能力があるわけではない凡百の私達には、そうしたルートは用意されていない。別の道を探る必要がある。
人に驚くこと。驚くと不思議なもので、相手は自分のことも認めてくれるようになる。驚いてくれる人というのは、大人になると貴重な存在となる。自分の能力やパフォーマンスに驚いてくれる人を大切にしたくなるらしい。何なら偉くなってほしいと願うようになるらしい。
その人が偉くなれば、その人に驚かれる自分も高みに上がることになるから。
こうした心理が働くのを知っていて、劉邦や劉備は「驚く」側になることに徹したのだろう。だから豪傑や知略の人たちの上に立つこともできたのだろう。みんなの様子に驚くからこそ、担がれた。
「驚かす」は、幼児から続く本能的な欲求。そういう意味では、転生漫画も幼児的欲求を刺激するものなのだろう。しかし能力がなければ現実化できない話。「漫画だから」で終わってしまう。
それよりは「驚く」知恵を。「驚く」には大人になる必要がある。他者の能力やパフォーマンスに驚くのだから。
でも結果的に、「なぜこの人はこんなにも自分の能力を、驚くというかたちで認めてくれるのか?」と不思議に思わせ、それが敬意に転化する。驚くから、驚いてくれる。こうした人間心理を知り尽くした形での振る舞いを、漫画で見てみたいもの。
周囲はものすごい能力の持ち主なのに自分には何の能力もない。ただひたすら人の能力に驚いていたら人から尊重されるようになった、ってストーリーを、劇的に描く漫画家、出ないかな?それは現実社会に面白い波及効果を生むのではないかと期待している。
まとめました。

「周囲を驚かす主人公」ではなく「周囲に驚く主人公」|shinshinohara #note note.com/shinshinohara/…

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with shinshinohara

shinshinohara Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

More from @ShinShinohara

May 5
辻󠄀由起子さんに講演依頼する自治体、交通費込みで一万円以下で依頼するの、やめて上げてほしい。これまで辻さんは、母子の環境が少しでも変わるならと手弁当で走り回ってきたけど、コロナ禍で命の危険のある事例が頻発し、SOSに応じているうち、過労で体を壊しておられる。
事態が急迫していることが多く、自腹でお金を出して支援しておられる。辻さん、貯金全然ない。
そんな方に講演依頼するのに、赤字決定の講演料を依頼する自治体、どうかしてる。辻さんを壊したらつらい立場にいる母子を破壊することになる。講演の依頼内容が母子のためなのに、矛盾してる。
辻さんに講演依頼する自治体は、辻さんが決して赤字にならないように、厚めの講演料を支払ってほしい。そしたらその分、辻さんは動きやすくなり、急場を救われる母子も増える。講演依頼の内容である母子のためになる。それが生きたお金の使い方でしょう。
Read 4 tweets
May 5
子どもイベントで高齢男性が「うるさい」「子どもをだまらせろ」「保護者を全員呼べ」「活動できなくしてやる」「責任者出てこい」と怒鳴り込んできたという話を聞いた。どうやら常習犯で警察も名前を聞いて「ああ」という反応だったらしいけど。
私の父なら、相手がチビるくらい怒鳴り返していただろうな。「貴様、いま何を抜かした?!」相手が大声出したらそれに負けない大声で圧倒し、相手より先手打って即座に「貴様!表に出ろ!」と全身殺気みなぎらして睨み返したろうな。そしたら「いや、ワシはそういうつもりじゃなくて」と腰引けて。
「ほんならどういうつもりやねん!子どものためのイベントにいま何を抜かした!」と迫って、相手が腰砕けになったところで一応話を聞く姿勢をとって、相手が控えめなことを怯えながら言ったら「あんたも子どもの頃があったやろ、無茶言うなや」と怒りの炎を目にたたえつつも静かに諭して。
Read 8 tweets
May 4
年配男性に比較的よく見られるように思う「呪い」。他人と向き合う際、「へりくだる」と「なめられるまい」のニ種類しかないように思い込んでる人を見かけることがある。だいたいそういう方は、仕事人間で来たご様子。
会社で営業していれば、お客さんに気持ちよく過ごしてもらうために「へりくだる」必要があるのはご存知の様子。これを続けていればお客さんとは良好な関係を続けられる。ただしこの関係は、相手を上位に置き、自分を下位に置く関係だから、そんな人間関係ばかりだとつらくなるらしい。
で、「なめられるまい」という気持ちがもたげて、「オレはこんなビッグな仕事をしてきたんだ」と自慢を続けるようになってしまう。こんな態度をされた側は、「へりくだる」か、うっとうしい人だと敬遠するかを余儀なくされる。このため、人が遠ざかりがち。
Read 23 tweets
Apr 28
竹中平蔵氏はひどく賢い人だと思う。「頑張る人間には報い、そうでない人は淘汰される、それが競争社会、これからそれがますます加速する」と主張。この論理は実に巧み。高給をもらっている人は「自分が頑張っているからだ」と自信を深める。貧困にあえぐ人は自分に力がないからだと自らを責める。
しかし有能だとされて高給をつかむのはごく一部。そうでない人は派遣社員や契約社員などになるしかなく、正社員でも給与水準を下げられ。こうすると、高給取りと正社員と派遣・契約社員とが互いにいがみ合う。労働者同士で反目し合う。「協働」が難しくなってしまう。
「これから競争社会になる」と言えば竹中氏に非はなく、世の中が勝手にそうなるのだと、世界のせいにできる。
こうした構造を作った上で、派遣会社の会長におさまり、派遣社員から上前をはねて自分の収入にする。実に賢い。
Read 32 tweets
Apr 27
日本は「より安く」を長らく追求してきた。そのために、まっとうな価格で食品を買う購買力を失い、世界から食料を調達する力を失いつつあるのではないか。 bookplus.nikkei.com/atcl/column/02…
「日本のコメは国際的に見て高すぎる、国際価格でも戦える競争力を持つべきだ」「コメの価格を高く維持することで消費者を損させている、消費者が農家に補助金を出してるようなものだ、価格を引き下げれば消費者の財布にゆとりが出て、消費者に優しい」とか批判がある。とても説得力がある。
コメは高すぎる、もっと安くすべき、という主張は、農業に関するシンポジウム講演でよく聞く。しかし私は、最近この意見に疑問を持っている。
もしコメのような基礎食料が安くなったら、どうなるだろう?短期間には、テイチンギンの人もたっぷりコメを食べられてよいかもしれない。しかし恐いのは。
Read 18 tweets
Apr 22
江戸時代は資源リサイクルも行われた、安定した定常状態だったと思われがちだけれど、解像度を上げてみるとかなりの流転がある。
江戸時代に入る前の安土桃山時代から、吉宗の活躍した享保時代までは、耕地面積の拡大と人口増大が続いた。なぜかというと。
戦国時代には、平らな土地である平野での耕作は難しかった。雨が降ったらいつまでも水が引かず、水浸し。稲もそのままでは水没してしまう沼地。疫病も発生しやすく、人の住む場所ではなかった。
このため、日本の農業は長らく、緩やかな傾斜のある、水位を制御しやすい中山間地で行われていた。
しかし戦国大名の中から、平野部を広大な耕地に作り変える技術を備えるものが現れた。甲府や静岡あたりで、平野部での水抜きと水やりを可能にする水利工事が行われた。広大な沼地は、適度に水位をコントロールできる田んぼに変わり、飛躍的に生産が伸びた。武田信玄や今川義元らが強くなった理由。
Read 39 tweets

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Don't want to be a Premium member but still want to support us?

Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal

Or Donate anonymously using crypto!

Ethereum

0xfe58350B80634f60Fa6Dc149a72b4DFbc17D341E copy

Bitcoin

3ATGMxNzCUFzxpMCHL5sWSt4DVtS8UqXpi copy

Thank you for your support!

Follow Us on Twitter!

:(