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Dec 23, 2023 12 tweets 4 min read Read on X
この論文のDNA解析については Supplementary Data に詳しく記述されてます。



本研究では、被験者の血液からDNAを抽出してPCRをしてます。
以下、詳しく解説してみます。

(予め言っておきますがスカポン論文です) europeanreview.org/wp/wp-content/…
PCRに用いたプライマーの塩基配列はこれ。
このプライマーはファイザー💉BNT162b2のスパイク遺伝子の一部(400bp)を増幅するように設計されている。
天然のコロナウイルスやモデルナ💉のスパイク遺伝子は、塩基配列が異なるので、増幅されない。 Image
著者らは35サイクルのPCRを、同じプライマーを用いて2回行っている。計70サイクル。

論文にはNested PCRと書かれているが、、
Nested PCRとは、異なるプライマーセットを用いて増幅の特異性を高めるPCR法のこと。同じプライマーでPCRを繰り返しても非特異的増幅が増えるだけ。Nested PCRとは呼べない Image
ゲノムDNAを鋳型として70サイクルもPCRをすれば、非特異的なDNA増幅が起こり、変なDNA断片が増幅されることはよくある。
実際、著者らは440bpのDNAを増幅したと書いている。

(ここで、2つ前のポストをよく読んでください) Image
著者らが用いたプライマーで増幅されるべきDNAは400bpである。。

要するに、、訳のわからんDNA断片が増幅されたということ。

PCRで増幅を繰り返すと、プライマーがよく似た配列に非特異的に結合したり、増幅された断片どうしが繋がったりして、元々存在しなかったDNAが増幅されることが普通にある。 Image
Supplementary Table I に、増幅されたDNAの塩基配列の一部(100bp)が示されている。

上が著者らが得た配列
下はSARS-CoV-2の配列

大文字の配列 GTGTCCTATTCAC(13bp)が、
SARS-CoV-2の配列と一致...

100bpのうち13bpが一致したことに何の意味があるのか、、まったく理解できない。。
しかも、、 Image
しかも、、
この下の配列は、SARS-CoV-2の ORF8遺伝子である。。。
スパイク遺伝子ではない。。

スパイク遺伝子を増幅するはずのプライマーを用いてPCR(70サイクル)したら、謎のDNAが増幅され、その一部(たった13bp)がORF8遺伝子の配列と一致した、という意味不明のデータである。
Image
Image
著者らが増幅したDNAの配列(上の配列)で
BLAST検索をしてみたが、、
(塩基配列の類似性を調べる解析法)

何の遺伝子もヒットしなかった。。
Image
Image
領域を絞って検索すると、いろんな生き物の塩基配列がゆるくヒットする。

例えば、これはハイエナの遺伝子😇
(もちろん偶然似てるというだけ)

要するに、天然に存在しないDNAが増幅されとる。 Image
まとめると、
70サイクルもPCRしたら、予想とは異なるサイズの謎のDNAが増幅され、その一部が目的外の遺伝子(いちおう新型コロナ)に一致した、という謎のデータです。
もちろん何の意味もありません。
誰が査読した??

査読システムが崩壊してると書いた矢先にこれか。。
そうゆうことです。


少なくともDNAの検出については、
予想のはるか上(下?)をゆく超スカポンタン論文でした。

おわり
追記
渡瀬さんの解説の方が私のより早かった。
DNAサイズの指摘はその通りです。お見事。

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Oct 17, 2023
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@mk_nomask その後、実験データに基づいた計算により、細胞由来ゲノムDNAの混入が100 pg/doseであれば癌化の可能性は 100億分の1 と推定されました。
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Feb 3, 2023
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先日「やなチャン」で紹介した2つの論文は、異なるmRNAに関するものでした。
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一般に接種されてきたのはBNT162b2の方です。
リンパ球減少はこの図の通り。
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Walsh et al, NEJM 2020
でも、血中リンパ球減少はみられていますが、
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Jan 29, 2023
リンパ球減少について、まだやりますか?
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