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BCGとCOVID-19に関する我々のプレプリントの改訂版をmedRxivで公開しました。湿度肥満人口、喫煙率、入国者数、検査数と陽性率、ロックダウンの効果、都市人口率などの各種の混交要因(=交絡因子)を検討しています。説明したいと思いますが、その前に、注意点を何点か。
medrxiv.org/content/10.110…
研究のタイプは、地域相関研究or生態学的研究という疫学研究の一手法で、あくまでも相関を見ているだけであり、交絡因子の影響を受けやすく因果関係の「証明」のようなことはできません。しかしオープンデータを用いて安価で迅速に研究を行うことができ、仮説の生成には有効な手法と考えられています。
交絡因子はどれだけ調整してもキャンセルできない可能性は常に残ります。従って、このBCG/結核感染仮説はRCTのような研究で支持されるまでは、それを実際に用いるようなことは避けるべきと考えられます。定期接種用のBCGが不足の可能性もあり、定期接種外の接種は行われるべきではないと考えられます。
冒頭から脱線で恐縮ですが、日本ビーシージーの方より本日、以下のようなご連絡をいただきました。
「確認いたしましたところ、国内の流通の供給に係るコントロールはすべて終了し、供給不足等の状況は既に解消されたとのことです。弊社への問い合わせ等も来なくなっております。ご心配をおかけしましたが、通常の状態に戻っているようです。以上、よろしくお願いいたします。」
現在、不足は解消されているとのことですが、以上の点は、くれぐれもよろしくお願いします。
で、そのあたりを十分におさえていただいて、説明をご覧いただければと思います。
以上のようなことを言いましたが、このプレプリントに掲載した各種データは、BCG仮説に興味をお持ちの方もそうでない方にも、興味深いデータが盛りだくさんだと思いますので、少し長いですが説明させていただきます。
まず、こちらに第一バージョンのプレプリントの説明をしたものを再掲いたします。こちらをまだご覧になっていない場合は、ご参照いただければと思います。基本、この流れで研究を行ってます。
今回、仮説の大きな改訂を行い、論文タイトルも変更しており、"Association of BCG vaccination policy and tuberculosis burden with incidence and mortality of COVID-19"となってます。
混交要因候補を見る中で、結核感染率とCOVID-19の感染者数/死者数にはっきりとした逆相関がありました。
こちらが結核感染率(横軸)と感染者数(a)、死者数(b)の関係の散布図(各点は一つの国)。点線は、年間新規感染者数100人/10万人の線でそれより右側は「結核蔓延国」で右にいくほど結核感染者数が多い)になります。赤がBCG接種国、緑と青がBCG非接種国です。
結核蔓延国ではCOVID-19蔓延国がほとんどないことがおわかりになるかと思います。で、結核蔓延国ではない国(点線の左側の国)だけとってきて、BCG接種の有無で比較したのがcとdのパネルですが、大きな差があります。
BCGは生ワクチンであり、牛の結核菌を弱毒化したものです。つまり結核菌です。
その点を考慮し、仮説をBCG/結核感染仮説、という具合に改訂してしまったということです。データを見ながら、仮説を生成するのがそもそもこのタイプの研究の目的ですし、「君子豹変す」「科学者豹変す」ということで仮説を変えてしまってます。
COVID-19で不思議なのは、東南アジアやアフリカなどの比較的貧しく、かつ衛生状態もよくなさそうな国で、感染爆発がほとんど生じていないところ。結核感染経験者は、いまだに世界の1/4を占めているというWHOの推定もあり、これがプロテクティブに働くと考えると整合性がある、というわけですね。
というわけで、BCG接種有無と結核感染蔓延国か否かというのを独立変数として重回帰分析に使ってます。感染者数・死者数(4月26日時点)でのものを使いますと、各種混交要因をコントロール変数として解析しますと、BCGと結核の効果は有意に見られます。
百万人あたり1感染者/死者が出てから15日間の感染者数/死者数の増え方などについて同様に調べると、BCGの効果は有意ですが、結核の効果は消えました。これにはいろいろ原因がありえますが、百万人あたり1感染者/死者が出るまでの日数で既に差が存在してしまっていることがあります。
また、15日しかみていないので、30日間をみると効果が見えてくる可能性はありそうです。このあたりは今後の課題。
あと興味深いものをかいつまんで、説明。100万人あたりの検査数を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。検査数が多ければ多いほど、患者数、死者数が多いという強い相関があることがわかります。
これは「検査をたくさんすると患者数・死者数が多くなってしまう」という因果関係ではないでしょう。どこの国でも「事前確率」の高い人(症状が強く出ている人とその関係者など)を検査するのが標準であるため、「実際の患者数・死者数が多くなると検査数が多くなるから」と推測するのが合理的。
すみません、ちょっと休憩。
スレッドのつなぎを間違えたようなので、こちらにぶらさげます。
で、人口あたりの平均検査数がBCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジをとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差があります。
こちらは、陽性率(陽性者数/検査数)を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。陽性率が高いと患者数、死者数ともに多くなってますね。これは、感染者が多い国では検査が追いついていないので、適したレンジである5〜10%を越えがち、ということを反映している可能性が高いです。
興味深いのは、多くのアジア・アフリカの途上国では、以外に陽性率は高くないこと(むしろ陽性率はかなり低い傾向にある)。「アジア・アフリカの途上国で検査が追いついていないので感染者数・死者数が低く見積もられているだけ」という説はおそらく正しくないだろうということがわかります。
で、陽性率がBCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジをとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差があります。
これは、年間入国者数(空路・陸路・水路を含む)を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。入国者数が多い国のほうが、患者数・死者数ともに多い、という関係ですが、これは直感的にイメージしやすいですね。たくさん人が外国から流入すると感染も広がる、と。
BCGなし国(欧米の先進国が多い)は、外国からの入国者数も多い傾向にあることがわかります。
しかし、年間入国者数がBCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジ(点線の間)をとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
こちらは、肥満率(BMI25以上の人の割合)を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。肥満率の高い国のほうが、患者数、死者数ともに多い傾向。これは肥満は糖尿病や循環器系疾患等のリスク要因であり、これら疾患がCOVID-19のリスク要因である事実と関係している可能性が高そう。
BCGなし国は、肥満率も多い傾向にあることがわかります。
しかし、肥満率がBCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジ(点線の間)をとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
こちらは、1000人あたりベッド数を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。人口あたりベッド数の高い国のほうが、患者数、死者数ともに多い傾向。人口あたりベッド数は医療水準をある程度示していると考えられますが、これは直感に反するデータ。
たぶん他の混交要因を原因としたいわゆる「疑似相関」でしょうね。で、ともかく、人口あたりベッド数で、BCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジ(点線の右側)をとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
こちらは喫煙率を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。喫煙率と患者数で若干、正の相関がありますが、これはどうですかね。因果関係はあるのかもしれないし、他の混交要因の影響かもしれませんね。なんとも言えません(他のものも皆そうではあるのですが)。
で、ともかく、喫煙率で、BCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジ(点線の間)をとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
こちらは、"Mobility change"(Google Community Mobility Report google.com/covid19/mobili… からデータをダウンロードし、ベースラインからのMobilityの変化[Retail&recreation、Transit station, Workplaces]の平均(3月と4月中旬まで))を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。
これは、ロックダウンの結果の活動変化の良い指標と考えることができると思います。この散布図でも興味深いことに、ロックダウンによる活動抑制が大きければ大きいほど(右端が変化なしのゼロで左端のほうが大きい)、患者数、死者数が多いという直感に反することになってます。
これは「ロックダウンによって感染が増える」という因果関係ではおそらくないでしょう。検査数と同様、「患者数・死者数が多いほど(感染爆発すればするほど)、「これはまずい」ということで、社会活動の抑制が大きくなりがち」ということを意味していると捉えるのが合理的な推測と思われます。
ともかく、Mobility changeについて、BCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジ(点線の間)をとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
こちらは風疹の感染率を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図。風疹の感染率が高いと、COVID-19の感染者数、死者数が少ないというかなり弱い負の相関がみえなくもないです。風疹感染も多少プロテクテブに働くのかもしれないし、他の混交要因による疑似相関かもしれません。
いずれにせよ、風疹感染率がBCGありなしの群間でほぼ同じになるようなレンジ(点線の左)をとって、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
麻疹でもほぼ同様。
ところがマラリア感染率を横軸にとり、縦軸に患者数(a)、死者数(c)をとった散布図を見ると、結構な負の相関がある。しかも、マラリア感染者がいる国では、COVID-19感染爆発国はゼロ。実は、マラリア感染国と結核感染国はかなりかぶるので、この種の研究でこれらを分けるのは残念ながら不可能。
マラリア感染もプロテクティブに効く可能性もないわけではないですね。結構、あるかもしれません。今後の課題。
ともかく、マラリア感染ゼロの国のみ抽出して(図の左端のみとる)、BCGありなしの群間で、BCGありなしで患者数(b)、死者数(d)を比較しても、差が残ります。
と、あまりにもしつこいので、残りは簡単にすませますと、他に、都市人口比率、都市人口、人口密度、国土の面積、平均寿命、65歳以上の人口比率、気温、絶対湿度などで同様なことを行っても同様な結果です。
次、BCGワクチンの株の効果についてです。BCGワクチンは、パスツール研究所で作られたものが各地に分与されていく歴史の中で、ゲノム上の欠失が何回か起きてます。Group3という欠失の中には、28ものT細胞エピトープが含まれてます。で、BCG Tokyoは最も欠失が少ない株。
10.1371/journal.pone.0071243
で、欠失が少ないほうが、元の結核菌に近く、より効果が高いのではないか、という推測がなされており、いくつかの研究によってこの仮説が支持されています。で、このGroup3欠失の有無で分けてCOVID-19の感染者数(c)
、死者数(d)を見たのがこの図。
Group3欠失のない方の株(BCG Tokyoなどのグループ)のほうが、ある方の株と比べてCOVID-19感染者数・死者数ともに少ないことがわかります。しかしながら、実はBCGなし国のほとんどが、Group3欠失のあるほうの株を使用しており、BCGのありなしと、Group3欠失ありなしが強くconfoundしてしまってます。
従って、残念ながら、ここまでの結果が、BCGありなしの効果なのか、Group3欠失のありなしの効果なのか、よくわからない、という状況です。どちらも可能性としてはあり得るのではないかと思ってます。
長くなってすみませんでしたが、だいたいこんな感じです。これだけしつこくやっても、しぶとくBCG/結核感染(
or BCG株)の効果は残るということですね。しかしながら最初にも注意しましたように、まだ隠れた混交要因、真の原因がある可能性は否定できません。
地域相関研究では、原理的にどこまでいっても混交要因の存在を完全否定することはできないんですね。ですので、RCTが必要。ただ、RCTを行うための仮説生成の意義は十分にあるかと。
あと、そういう限界はあるものの、同じ「地域相関研究」でも説得力の高いものと、そうでもないものがあり、いろいろなレベルのものがあるということもご理解いただければと思います。このトピック(BCGとCOVID-19)の地域相関研究のプレプリントは実はもう10以上公表されてます。
(もちろんですが)ここまでしつこく混交要因を調べた研究は自分たちが知る限りではまだありません。研究の質には雲泥の差があると自負しています。これからもう少し改訂などしてから査読誌に投稿する予定。
この前のイスラエルのデータの解析によるBCG仮説に対して否定的なJAMA論文に対してコメントしておきます。JAMAの論文にはコメント欄があり、既に、自分のコメントを公表済み。コメント欄、わかりにくいのですが、右上のほうのCOMMENTSというのをクリックするとでてきます。
jamanetwork.com/journals/jama/…
イスラエルでは、1982年までBCG定期接種が生後すぐに行われてましたが、以後、定期接種が取りやめに。これを利用し、1979-1981年生まれの人(BCGあり;39-41歳;平均40歳)と1983-85年生まれの人(BCGなし; 35-37歳;なぜか平均35歳;単純ミス?!)の人で比較してます。で、差がないという結果。
この論文、いくつか重要な問題があります。
1. このサイトからデータを取得し、その年代の人口あたり患者数を比較してみると、BCG接種を受けていない20-29歳の患者数が、BCG接種を受けている40-49、50-59、60-69、70-79歳のレンジの患者数のどれよりもずっと多くなってます。
science.co.il/medical/corona…
できるだけ条件の近い3歳のレンジでのところをとって比較した、という趣旨であるのは理解できますが、他のレンジの人口あたり患者数のデータも簡単に計算できるわけですので、(差のないところだけピックアップして見せるのではなく)これら数値も出した上で議論していただきたかったところです。
2. BCGの効果がもしあたっとして、集団免疫の効果が見込まれます。また、BCG接種のある国でも「クラスター」で感染は一気に広がります。これらの要因で差が仮にあったとしても見えにくくなることが想定されます。
3. BCGの株により効果が異なる可能性があります。イスラエルでは先程のG3+の「弱い」可能性の高い株が使われているようです。
4. 患者数よりも信頼性の高い死者数で見ることが重要かと思われますが、死者はそれぞれ1名ずつで参考になりません。
5. 患者数はそれぞれの群でわずか299と361名。この程度の数値は、ナイトクラブのクラスター一つで、一気に塗り替わる数値であり、ノイズに左右され信頼性が高いデータとは言えません。
6. BCGのカバー率が90%以上と論文には記載があるのですが、ソースが示されてません(普通はどんな論文でも情報ソースを示す必要があります)。そこで信頼性の高いWHOのサイトを見ますと、1980年と1981年のカバー率は、75%と70%にすぎないことがわかりました。
apps.who.int/gho/data/node.…
さらに、他の研究者のコメントを見ると、イスラエルでは、1983-1985には、最低でも15%の人がBCG接種を受けているはずとのこと(ソ連からの移民など)。
これらのは事実関連の単純(でかつ科学的に深刻な)ミスである可能性がかなりあります。
70%と15%では55%の違いしかないことになりますので、差はさらに同定しにくくなります。
また、イスラエルでは、特定の地域で感染爆発が起きており、そのような特定地域では宗教上の理由などから、ワクチン接種率がまとまって異なる可能性もあります。
france24.com/en/20200422-is…
他の年代ではどうなのか、とか、ソースを示すべき、くらいのことは、きちんとした査読がなされれば、本来指摘されるべきことです。この論文、わずか1ページ半の極めて短い「論文」ですし。査読者は何をみていらしたんですかね。
ともかく、我々の「未査読」の「プレプリント」と、このインパクトファクター51のJAMAの「査読論文」を上のコメントなどにも留意いただきつつ、双方をご覧になってみていただきたいところです。
長いスレッドになりまして申し訳ありませんでしたが、そんな感じです。ともかく、国別・地域別ですごい差があり、その差の背景には何かがあるはずなんですね。それを説明する説得力のある要因は何か、ということを探すことには謎解きの妙味のようなものがあります。
それが、BCG/結核感染ではないか、というのがいまのところの有力な作業仮説ですが、突然、もっとよいのが出てくる可能性もあります。そういうものが出てくれば、さっと乗り換えればよいわけですね。「科学者、豹変す」、ということで。
そこまで述べて、人種差のことを述べるのを忘れていたことに気づきました。
こちらに引用した理由で、「人種差仮説」で説明できる可能性はたいへん低そうだ、と思ってます。
ともかく、この論文では、BCGと結核以外のこともたくさんディスカッションしてますので、ご興味のある方はぜひ論文本体をご覧いただければと思います。
ここでもスレッドの繋ぎがわるかったようなので、続きをこちらにぶら下げておきます。
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