掛谷先生(@hkakeya)が訳された動画『あなたは歴史の道から外れているか』を書き起こしてみた。2015年8月公開のオバマ批判動画。話者は、著書『リベラル・ファシズム』がベストセラーとなったコラムニストのジョナ・ゴールドバーグです。
「(人類進歩の)歴史の道に外れている」これはバラク・オバマ大統領が好んで使う表現の一つだ。もちろん、彼だけではない。リベラルの政治家や活動家も長年好んで使ってきた。同性婚に反対なら、歴史の道に外れている。大麻の合法化に反対なら、時代遅れになる。
この言葉は外交政策でも多く使用される。例えば、最初の大統領就任演説でオバマ大統領はこう言った。「腐敗、欺瞞、反対意見を黙らせることで権力を維持する人は歴史の道に外れていると自覚すべきだ。」
2011年、エジプトのホスニ・ムバラク政権が崩壊したとき、米国は傍観しただけだった。
2011年、エジプトのホスニ・ムバラク政権が崩壊したとき、米国は傍観しただけだった。
オバマは「いずれ我々が歴史の正しい道にいると記録されるだろう」という甘い考えに逃げ込んだ。リビアの独裁者ムアマル・カダフィの支配が終わったときオバマ大統領は「私はカダフィが歴史の道に外れていると信じていた」と言って米国のリビア政策を正当化した。
当時始まったばかりの「アラブの春」についても、彼は「彼らは我々が歴史の道に外れないか注視している」と言ってはぐらかした。ウラジミール・プーチンがウクライナの侵略を始めたとき、米国は実際に何もしないが、プーチンは人類進歩の道に外れているから心配しなくていいとオバマ大統領は主張した。
オバマの好きなもう一つの言葉「世界の長期的道徳の道筋」が「必ず正義に向かう」と。そうして、ウクライナ人は見捨てられた。お気づきの通り、同じ言葉が国内外で正反対の意味に使われている。
国内で「歴史の道に外れている」と人に言う場合、「あなたはいずれ負けるのだから、今降伏しろ」という意味だ。しかし、外交政策では「私にあなたを止める力がないが、私に責任のある時代が去った後、いつか他の誰かがあなたは間違っていたと言うだろう」という意味だ。
言い換えると、自国で「歴史の道に外れる」と言うのは強さの象徴だ。我々の力は本物だ。物事は我々の思い通りになる。しかし、外国に向けて使われるときは弱さの象徴になる。「あなたの勝ちだ。私はあなたを止める力も意思もない」。両者に共通するのは傲慢さだ。正確には傲慢と臆病だ。
歴史がある方向に必然的に動いているという思想は古くからあるが、現代における主な担い手はカール・マルクスだ。マルクスは彼の科学的原理なるものによると、社会主義になるのは不可避だと言った。故に、その必然の勝利に異議を唱えるのは非道徳的なだけでなく、反知性で、かつ非科学的ですらあると。
共産主義に関する偉大な歴史家ロバート・コンクェストが「歴史の道に外れる」は「マルクス主義者の臭い」がすると言ったのはそのためだ。これは「神は我々の味方だ」という宗教的観念の無神論版だ。その考えのもと社会主義者が未来を思い通りに作ろうとして、結果として何百万人もの人が命を落とした。
この思想にはマルクス主義以外の支持者もいる。有名なケンブリッジの歴史家ハーバート・バターフィールドが「必ずしも社会主義を通じてではないが、民主化は不可避である」という「ホイッグ党の歴史観」と呼んだ思想だ。
確かに、これはもっと良さげな考えだ。しかし良いことは真実であることを意味しない。実際、この思想に殉じて命を落とした人も多い。
社会主義者も民主主義者も、国内外で同じ問題を抱えている。未来は空白のページで何が起こるか分からない。しかし、確かなことが一つある。それは、人々が、歴史の道から外れているので、自分の命運を握っていないと信じると、彼らは自分で未来を決める力を失う可能性が高い。
たとえば、同性婚は残り続けるだろうし、アメリカ人は銃を持つ権利を決して放棄しないだろうし、サッカーがアメリカ人の娯楽になる可能性だってある。しかし、勝利が保証される唯一の方法は、反対者が敗北は不可避だと思って先に降伏する場合に限られる。
だから、「歴史の道に外れる」ことがあるという考えは非民主的なのだ。それは議論を続けたい人に「黙れ」というのと同じだからだ。
運命を決める非人間的な力に対して我々が無力という考えを持ってしまえば、自由というものは存在しないことになる。
運命を決める非人間的な力に対して我々が無力という考えを持ってしまえば、自由というものは存在しないことになる。
人生において、特に民主主義においては、敗者が負けを認めたときに、初めて負けが確定する。何世代にもわたって、奴隷制度に反対してきた人は、歴史の道に外れると言われ続けた。彼らは、それに屈することを拒むことによって、その歴史観の間違いを証明した。
英国の詩人TSエリオットの言葉を使うと「本当の勝因などというものは存在しない。だから、本当の敗因も存在しない」。よって、あなたが正しいと信じるもののために戦い続ける限り、大義名分は存在し続ける。あとは歴史の審判を待つのみだ。
