「日本の一番長い日」と「この世界の片隅に」はともに、狂気のように見える心理状態がある種の合理性をもとに形成されるという状況を描いていると思う。

そもそも、あの戦争について「誰もがまずいと思っていたがなんとなく止められなかった」という言い方がまず疑わしい。
むしろ「無謀な戦争だが、やるほかない」「もしかしたら勝てるかもしれない」「他に可能性がないのだからそこに全力を尽くす」というのが日本の普通の考えだったのではないか。

日露戦争も、日清戦争も、明治以降の日本の戦勝はほぼ「強大すぎる敵に対する無謀な挑戦」から生まれている。
我々はどうしても太平洋戦争の敗戦から考えてしまうが、1930年代までの日本の戦争は連戦連勝である。「今度も何とかなる」と思っていたとして不思議はない。
そこへもってきて総力戦の概念が一般化している。多くの人は壮大なギャンブルに参加している気持ちだったのではないか。
そうであるなら「犠牲が多く、なかなか状況が良くならない。下手をすれば全滅する」という玉音放送の論理を受け入れない人がいるのはむしろ当然である。

我々が考えなくてはならないのは、それをどう覆すかとうことではなかろうか。
そしてもちろん、そのために最も重要なのは「日本の戦争には、正義というような要素は全くなく、夜郎自大な自意識と自己の利益のために他を支配するという臆面もなさだけがあった」という認識である。
太平洋戦争は、日本が植民地帝国としての自らの繁栄を維持するために行った戦争であり、明治維新以降の侵略と支配の論理、つまり西欧列強と何ら変わるところのない帝国主義路線の帰結である。
戦後日本に最も欠けていたのはこの理解だ。
なぜそれが欠けていたのかといえば、1930年代から日本ではその認識が押さえられ、消されていったからだし、自身が植民地帝国である主要な戦勝国にとって不利な話題だったからだし、日本の植民地主義を告発しうる主な存在である中国と北朝鮮が冷戦の敵側に行ってしまったからだ。
韓国による日本の告発はアメリカによって抑え込まれ、台湾は本土中国との関係でことを表沙汰にできなかった。
そのため、戦後の日本では被害者意識と大東亜共栄圏の幻想だけがあの戦争の意味付けとして残り、あとの部分は「理解できない熱狂」として処理された。
戦後の日本では「共産主義は怖い」と「アメリカに挑戦したのはバカ』の二つが神話の軸となった。
だが、共産主義は誰にとって怖いものだったのか。革命が起こったら地位や財産を失うことになりそうだったのは(そしてアメリカの占領下ではそうならなかったのは)誰か。
天皇だけではない。政・財・官にそのような存在は無数にいた。8月15日に総括されなければならないのはそのことではないのか。

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13 Sep
それは神話です。たとえば、この論文の151ページにあるのですが、1881(明治14)年のある村での調査では、全く読めない人が約35%、「自分の名前と村の名前は読める」レベルの人が約41%です。
「手紙が読める」以上のレベルの人は10%くらいにすぎませんでした。
core.ac.uk/download/pdf/2…
これで「庶民でも読書を楽しむ基礎教養が普及していた」というのは無理があります。
また、こちらの論文でも「当時のいくつかの西欧諸国とくらべても,世界一にはとおくおよばなかった」(p23)
opac.tenri-u.ac.jp/opac/repositor…
Read 5 tweets
13 Sep
「戦争に賛成か、反対か」と言ったところで、それがどの戦争であるかによって話はややこしくなる。1944年あたりのフランス人に「ドイツの戦争などやめて平和に占領されていましょう」と言える人は多くないだろうけど、その同じフランスが1950年代にはインドシナの植民地を維持するために戦争を始める。
同じ理屈が日本に対しても言えて、戦争が空襲を意味するなら嫌な人は多いだろうけど、最初の半年の連戦連勝を考える人はそこに痛快さを見出す。
それ以前、1930年代、20年代の戦争が中国、朝鮮の人々にとってどうだったのかということを考えられた人は昔も今も多くはない。
というか、更に言ってしまえば「世論がどの方向を向いているか」ということが自分にとってどうなのか。皆が正しい考えを持つことは望ましいことだが、何が正しいかは多数決で決まるわけではない。
大事なことは、正しさを見出すということ、その者の中にあるのではないのか。
Read 4 tweets
12 Sep
UPF(アメリカの財団で創設者は文鮮明・韓鶴子夫妻)のイベントで挨拶する安倍前首相。ちなみに今日実施。

リンクはこちら。
Image
このようにきっぱり団体名を出していて、何か別の演説を流用されたとかではない。 Image
ちなみにトランプさんも登場。
Read 4 tweets
11 Apr
ちょっとすぎるかもしれないけど、ネタです。

たとえばですね、骨折のことを考えます。うちで脚立から落ちて、どうも足が痛いわけです。医者に行きます。
お医者さん:「うーん、骨折かもしれないなあ。検査しないといけないから、保健所に相談してよ」
保健所:「あ、骨折ですねー。で、診断書ないですよね。痛そうで大変だと思うんですが、確実に骨折だとわからないとレントゲンは取れないんですよ」
仕方がない、接骨院に行きます。
接骨院の先生:「うーん、やっぱり折れてますね。診断書書きますよ。保健所でレントゲン取ってください」

再び保健所:「いやー、外科医の診断がないとねー」

仕方がない、骨折外来のあるクリニックに行きましょう。
Read 6 tweets
10 Apr
ざっくりとした感想ですが…。実際に患者というものになってみて、日本のCOVID-19対策の輪郭が見えてきたような気がします。
医療としては入院加療が基本になっています。危険な感染症ですから、患者を守るためにも、感染を広めないためにも専門の病院に収容して治療します。
入院に至るルートはおそらく二つが想定されています。

1.重篤な症状を呈し、救急搬送された患者→専門病院に
2.無症状、または軽症の感染疑い例の患者→行政検査ののち、陽性ならば病院に
このルート上以外には患者がいない、というのがどうやら制度設計の大前提です。なので、検査や治療に当たる専門医以外はCOVID-19の治療には関わりません。
Read 9 tweets
10 Apr
この点、自分の経験から言えることがあると思うので、すこし。

ここまでの経験では、症状は軽めの風邪です。自分がいつもひく風邪と同じで、まず喉の痛みがあり、次第に鼻つまりに移りました。熱はありません。

つまり、症状からでは判明しようがないのです。
今でも僕の中には「検査はなにかの間違いで、ただの風邪なのではないか」という思いがあります。

厄介なのは、「ただの風邪だったら大げさに騒いで恥ずかしい」という思いがあることです。実は一度かかりつけの医院で風邪薬を処方されていますが、その時点で「これは風邪だ」という結論に半分なりまし
た。

にも関わらず、しつこく民間検査を受けに行ったのは、時分が接触した環境で陽性者が出たという情報をたまたま得たからですが、それがなかったら今も「軽い風邪だけど、しつこいなあ」と思っているとおもいます。
Read 8 tweets

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