肉抜き話へ戴いたコメントのうち、ミニ四駆と並び最も多かったのがRTと同様の趣旨。しかしサザエは日本・韓国の固有種です。近縁な別種は他国にもいますが、国民の大半が食材として認識してる種は他にない。皆さんご存知ないと思いますが私ゃサザエにはちとうるさいよ。その話は近々、稿を改めて。...
エスカルゴは私が知る限り、力任せに肉をブチ切ってます。食卓では常に前半分しかなく、全体が揃ったものを見た試しがありません。内臓塊はどうせ食わんから要らん、という合理主義でしょうか。日本では内臓を食べない場合でも綺麗に抜くのと対照的です。こういうのをお国柄というのかもしれません。..
要するに、巻貝を食す際にわざわざ完璧に抜こうとするのは日本人ぐらいです。ただし西欧でも、貝人(貝殻蒐集家)だけは昔から肉抜きをしていました。殻の奥に肉が少しでも残るのを嫌うからです。私は肉抜き論文の原稿作成段階ではこれを知らず「肉抜きは日本独自の技法」と書いて投稿したところ、...
何と、当時大英博物館にいた貝類分類学の超大物研究者が査読者となり、「我々も茹でたら抜けることぐらい知っている。西欧の貝人をなめるな」との指摘が届いてしまいました。ただ同時に「最近の、DNAからこの世界に入るような若手は肉抜きを知らない。このことは研究者とアマチュアの交流が減り、...
両者間の溝が深まりつつある反映で、嘆かわしい」とも書き添えてありました。「溝の深まり」は原文では「growing gulf」(英語では溝ではなく湾なのですね)で、かっこいいのでありがたく修正稿で使用させて戴きました。結局、近年の西洋で主に肉抜きをしていたのは、貝類を食材や研究対象と見る人々..
ではなく、貝殻を集めて愛でる人だけだったことになります。ちなみに、上記の辛口査読コメントをくれた人は私も面識があり、対面では常に素晴らしく社交的で親切なことで世界中に知られています。ベルギーでの我々の発表の時もその場にいて、質疑応答の際に「僕の経験では新腹足類(バイ、ツブ等)を..
抜くのは難しいと思うけど、どう?」と質問してくれました。壇上でそれを聞いた私は、ツブはあまり得意でないので困って隣の芳賀君に「どう答える?」と聞いたら(その間も会場からは「あいつら何か相談してるぞ」と笑いが起きてました)、彼は「大丈夫ですよ、抜けますよ」と囁き、私も英語で細かく..
説明するのが面倒だったので、「我々は抜けます!」と言い切ったら、また場内全体に特大の爆笑が起こり、質問者も満面の笑みで、親指を真上に向けた腕をまっすぐ我々の方へ掲げてくれたのを今も鮮明に思い出します。
以上、肉抜き話あとがきでした(短く終わるつもりがまた長くなってしまった)。

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7 Sep
今日はサザエのお話を書こうかと思ってましたが、一昨日のヒミツナメクジを「なにこれかわいい」とお絵描きして下さった方もおられ、マンボウ博士に至っては #ヒミツナメクジチャレンジ なんて妙なタグまで作ってくれて、折角なのでその発見の経緯などご披露します。時は29年前の1992年まで遡ります。
前置きとして、ヒヅメガイ(オカミミガイ科)の話をせねばなりません。当時この種は、死殻がごく稀に南西諸島の浜辺に打ち上げられるだけで、誰も生きた姿を見たことのない幻の種でした。殻1個を拾っただけで報告の価値があるほどだったのです。その頃私は卒研生で、オカミミガイ科の分類の再検討を…
卒論の題材としていました。しかし、ヒヅメガイは最難関で到底出逢えるはずもなく、検討対象とするのは最初から諦めていました。そうした折、親しくしていた貝友から宮古島採集旅行に誘われ、参加を決めました。この島へ行くのは初めてでした。着いた日の晩、同室の2人は夕食後早々に港へ夜間採集に…
Read 15 tweets
6 Sep
ヒミツナメクジ科は俗にいうカタツムリやナメクジ等を含む汎有肺類に属し、いわゆるウミウシとは一線を画すので、「陸ウミウシ」という呼称は不適切で混乱を招くだけです。ヒミツナメクジも私はうるさいよ、だって第一発見者&記載者(共著ですが)だもん。その発見の経緯もいずれここに書こうかな。 Image
とりあえずこちらをどうぞ:
福田 宏 2017 (Mar.). ヒミツナメクジ. In 沖縄県環境部自然保護課 (編), 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版 (動物編) -レッドデータおきなわ-, 45, 512–513. 沖縄県環境部自然保護課, 那覇. Image
補足。この科はスナウミウシ目の一員ですが、スナウミウシ類もウミウシではありません。昔、ウミウシの仲間と考えられていた頃についた古い名前が、定着してしまって今更変えにくいだけです(「スナナメクジ」でもよいのですが噛みそうだし)。「スナウミウシはウミウシではない」と覚えましょう。
Read 4 tweets
6 Sep
軟体動物多様性学会会員各位
2020年度総会(文書にて実施)の審議・採決結果が事務局で集計されましたので、速報いたします。

有権者数:80名
投票数:48票(投票率60%)

<役員改選>
候補者全員信任:48票
よって、全候補者が信任されました。

2021–2022年度役員会(新は新任、氏名のABC順):
会長:石田 惣(新)
副会長:芳賀拓真(新)・多留聖典
事務局:花岡皆子・中野智之
会誌編集(*は英文誌兼任):浅見崇比呂*・福田 宏*(主幹)・芳賀拓真*・花岡皆子・早瀬善正(新)・飯島明子・石田 惣・岩崎敬二・亀田勇一*・柏尾 翔(新)・久保弘文(新)・元陳力昇(新)・中野智之*・
中山 凌(新)・齊藤 匠(新)・佐藤慎一*・多留聖典
理事:花岡皆子・飯島明子・桒原康裕
自然環境保全:安渓遊地

<審議事項1.2021年度予算案>
賛成:48票
反対:0票
白票:0票
よって、可決されました。

<審議事項2.軟体動物多様性学会全体として、ハチの干潟の保全活動に関わることの...
Read 7 tweets
31 Aug
タクミニナの話を発掘して戴いたので、その肉抜き体験談も書いてみます。これまた60年ぶり再発見で1個体だけというナガシマツボ同様の極限状況。しかもやはり室内でずっと元気だった(それどころか殻が少し成長して大きくなった)ので、いつもの通りイメージトレーニングと称して数ヶ月現実逃避。
タクミニナがどれほど稀少かはこちらをご覧ください。岡山県RDB2020動物編の p. 443 から引用。画像の生貝はKSBのニュースに出たものと同じ個体です。
私が生貝を得たのは上記の通り2018年7月13日で、以来約3ヶ月間は水槽中で這い回り、愛嬌を振り撒いていました。しかし10月3日から甑島調査が決まっていて数日間留守にせざるを得ず、その後研究室に帰って来たら死んで腐ってたとなると最悪なので、またしても追い詰められて嫌々踏み出した感じです。
Read 14 tweets
29 Aug
肉抜き話の続き。先にご紹介した通り、我々日本の貝人にとって肉抜きは日常の一齣であり、改めて説明するまでもない当たり前のこととして受け止められてきました(画像は最近私が肉抜きした南三陸産エゾチグサとホソウミニナ)。日本の貝類図鑑の多くも、巻末で肉抜き方法を紹介するのが定番でした。..
ところが、20年ほど前から海外の研究者とコラボする機会を持つうちに気付いたのは、どうやら肉抜きを行うのは日本の貝人だけで、他国の人は、殻と軟体の両方を同時に理想的な状態で得るなんて、不可能なこととして最初から諦めていたのです。だから論文にするには同じ種をとにかく多数得ないと何も...
始まらないと彼らは決め付けていました。私が海外での野外調査で湯沸かし器具を持ち歩き、目の前で肉抜きを披露すると、他国の研究者は例外なく驚嘆しました。そうするうち、2007年にベルギーで世界軟体動物学会 World Congress of Malacology が開かれた際、「微小貝類の研究方法」というシンポが...
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