『ダイアナ・ザ・ミュージカル』Netflixで観た。私は結構楽しみました。ブロードウェイでどうかはわからんが、皇室があって王宮物が大人気の日本ではウケそう。まだ近すぎる時代ではあるものの、直撃世代の私と違って若いお客さんは初めて聞いて驚く知らん話も多いだろうし。
netflix.com/title/81323667
続)事前に酷評を見たりもしたんですよ。でも、そこまで悪くなくない? と思うのは『エリザベート』と比べるからだろうな。ザベはブロードウェイ進出しておらず、その理由もまぁわからなくはなく、しかしアメリカの人々がザベを横目にザベの米国版作ってみたらこうなるのかなー、と考えて楽しく観た。
続)日本の人が遠くて近いハプスブルク家の嫁姑戦争に我がことのように熱中するのと同じく、米国の人は近くて遠い英国王室に「我が国に来れば自由になれたのに〜」と叶わぬ夢を見たいのかなと。I will proveやtry my bestという本来なら明るいはずの歌詞が悲劇の伏線扱いなのが今っぽくて面白かった。
続)評伝ジュークボックス物から伝記部分を抽出し、シンデレラストーリーから苦味だけ抽出して、早替えでアイコニックなドレスたっぷり見せ、飽きさせない作り。もっとわかりやすく諸悪の根源的なヒールがいてもよかった気がするが、そんなトート閣下みたいな都合のいい実在の人物はおらんしのう……。
続)こんなに脚色していいのか、これが『プリンセスマサコ』だったら総スカンだぞとヒヤヒヤするも、単なる敵役ではなく互角に対決するカミラ役と、あと姑である女王&義祖母かつ俗の極みの「おばさん」バーバラカートランドを一人二役にさせる演出はよかった。脱衣要員のジェームズヒューイットも笑。
続)初公務でウェールズ語の挨拶丸暗記を忘れた彼女がやにわに英語で歌いウェールズの人々と握手を交わして一躍(夫よりも)大人気になるところ、これぞミュージカルというような愉悦があった。内心を歌い上げれば心が通う。エーヤン・ダイアナ! で、この握手が後のエイズ患者慰問の伏線なのもいい。
続)王室に命ぜられた医療用手袋はつけず、素手でゲイの市民と触れ合って一緒に写真に収まってこれをニュースにしよう、と歌うくだり、めちゃくちゃブロードウェイ的ですよね。『エリザベート』の精神病院の場面と挟み方は酷似してるのに意味は165度くらい違うという……なんか全部比べてしまうわ。笑
続)あと、大衆の求めに応じて醜聞をガンガン煽る場面、他ならぬ情報漏洩元のダイアナ本人がめちゃイキイキしてるのがかわいい。Unless…の曲もいい。今の今まであまり歌わない脇役なのかと思ってたおじさんがファックユードレスで出張るナンバー最高。離婚を認める前に女王が歌う「将校の妻」もいい。
続)しかしそこから先、交通事故死するラストがやけにアッサリしすぎてて肩透かし感はあった。嫁姑が普通の幸せを認め合うのはよかったのに、死については気の毒に感じるタメもなく……もっとずっと後味悪い、楽しく観てた客が己のゲスさを深く反省させられるような暗い終わり方を期待していたのだな。
続)そう考えながら反芻すると、時系列がずっと一直線で離婚話が中心なのも単調かもなぁ……回想が入り乱れながら影役がそれぞれの時代のドレスを纏って大集合したり、成長した王子たちがチラとでも出てきたり(ただのエリザベートやんけw)、何かしら見せ方にツイストが欲しかった気はしますかね。
続)舞台映像としてもストレスなく楽しく観て、開幕してから劇場に行く優先順位は下がってしまったけど、でもtkts前で観るかどうか悩んでる人がいたら、評伝物、プリンセス物として悪くない出来ですよとは薦めると思う。まぁオタクには『COME FROM AWAY』とかのほうを薦めるが……。
続)この手法なら誰の人生もミュージカル化できちゃうよねと思いつつ、こんなに露骨にゲスく、かつ親しみやすく面白くできる対象人物もなかなかいない。映画だと『英国王のスピーチ』『ジュディ』よりは『ソーシャルネットワーク』など思い出す感じ。今と地続きの現実だけどフィクション化されている。
続)最初と最後に全員集合して「ダイアナとは何者だったのか」「私は夫だ」「私は義祖母よ」「僕は息子」「私は伝記作家」「みんな本当の彼女を知らない」とめいめい歌い上げて誕生と死を円環にするビッグナンバーは欲しかったですよね、まぁ完全に『エリザベート』と『Hamilton』の観すぎだが……。
続)沿道の見物客もフラッシュを焚くマスコミも彼女を取り巻く一般大衆はさんざん描かれるのに、「私は私の人生を生き抜いた、ただ長生きできなかっただけ」との印象で終わる。私はやはり「人々の野次馬根性が彼女を殺したんだ!」くらい責められたかったんだと思う。自分が。それじゃウケないのかな。
続)「キャサリンand/orメーガン・ザ・ミュージカル」に主人公より存在感ある亡霊として出てきて「私のようにはなるな」と祝福でもあり呪詛でもあるビッグナンバー歌うダイアナも観たいですね、ただの『レディベス』におけるアンブーリンだが……ダブルヒロインにしたら『WICKED』みたいに(ならんよ!

• • •

Missing some Tweet in this thread? You can try to force a refresh
 

Keep Current with 岡田育 / Iku Okada

岡田育 / Iku Okada Profile picture

Stay in touch and get notified when new unrolls are available from this author!

Read all threads

This Thread may be Removed Anytime!

PDF

Twitter may remove this content at anytime! Save it as PDF for later use!

Try unrolling a thread yourself!

how to unroll video
  1. Follow @ThreadReaderApp to mention us!

  2. From a Twitter thread mention us with a keyword "unroll"
@threadreaderapp unroll

Practice here first or read more on our help page!

More from @okadaic

16 Oct
タイムラインに華やかで楽しくて怖い漫画を読みたい人いますか? はるな檸檬『ファッション!!』を読め……なんかもう、何なのこれ怖い……なんちゅうところで一巻終わるんだ、やだよう……もっとやれ……(どっちなんだ)。御恵投感謝!
続)言葉選びが難しいですが、私、30代も半ばになってから美大行ってファッションデザイン学科の年若い学生たちとESLの教室で机並べたりしていたのですよね。その前と後とでは感想が全然違っただろうと思う。拙い観測範囲で恐縮ですが、「いる」とだけ。「いる」よ。こういう人。ファッション業界に。
続)私と同じ留学生で、私と違ってファッションを志しており、実家は太そうだがいつもお金がなく、だがしかし、どこから放たれるのかよくわからない「華」および、よそであんまり見ない謎の狂気と人たらし力でもって、ぐいぐい業界に食い込んでしまう、AくんとかBちゃんとか、完全にジャンくんですよ。
Read 19 tweets
16 Oct
アミューズ作品、別に避けてるわけではないのだが、ホリプロ関連作品を観るのに合わせて日本行くと絶妙に観られないということが結構続いているよなぁ。劇場のせいとは思えないので稽古場の都合なんだろうか。
続)日本の都市部で今どんな演目やってるかをカテゴリごとに全網羅しつつも、危険なものは混ぜずにわかりやすく観やすく一覧できる全体のカレンダーが欲しい、と思うけど、それ『ぴあ』じゃんね……。
続)劇場はたくさんあって公演本数もすごく多いのに「横並びで見比べる」が難しいような。何と比べてるかって美術展とかですが。
Read 5 tweets
16 Oct
今「眼鏡キャラが真面目に物理で強い」というアニメーション映像が流れてきて、大変興味深いなと思ってるうち見失ってしまったのですが、eスポーツトーナメントの広告か何かかな。真面目に強いというの大事ですよね。
続)おそらくこの人たちのアニメ化かな。
続)これだ! 別にメガネだけではなかったが、予備知識の無い私にも(モヤシがダークホースとかそういうドッキリではなくて)「こんなんどう見ても細身で小柄でメガネのほうが勝つわ……と思ったら細身のメガネ同士が戦っとる、熱い……」と思える作りがよかった。
Read 4 tweets
15 Oct
大好物の金髪縦ロール猊下と聞いて飛んできました! 撮影段階ではこのヘアスタイルで行くはずが、演出家が途中で「やっぱ時代考証的におかしい」と言い始めて「今更それ言う!?」みたいなタイミングで急遽変更になったそうですね。初演がストレートおかっぱで再演がくるくる。三つとも似合うよ猊下!
続)資料性高い発言ができず申し訳ないが、記録に残るような場所(プログラムや取材記事など)では演出家について愚痴こぼしたりなどということは滅多にしない人なので、たぶんこの話を聞いたのはアフタートークか何かなんじゃないかな。いつもの口真似しながら笑いながら言ってた記憶がありますね。
続)聞いた私も「『レディ・ベス』に時代考証……!? じゃあバルコニーターザンは……そしてあのクールヘッドとショッキングピンクのふりふりドレスは、いったい何……!?」となったものですが、まぁそんな『レディ・ベス』が何もかもことごとく茶番かわいいので許します、私は大好きですよ……。
Read 5 tweets
15 Oct
そろそろ視聴期間が終わるので感想書いときます。観なくてもいい人たちは別に観なくていいけど、観ようかなと思ってる観てない人たちは観て!!!
続)FANKSには号泣モノの映像だし、少しでも知ってる人はお金出して観ればライブ行くのと同じかそれ以上の満足得られると思う。思うけど、一曲目から「Electric Prophet」だったりするので文脈知らない人が観るとひたすら謎でしかないとも思う。まぁTMのライブがそうでなかったためしなどないが!!!
続)まず襲ってくる感動ポイントは「宇都宮隆が無観客でもアホほどカッコいい」に尽きる。昭和生まれのオタクが考えた宇宙戦艦の隊服みたいな衣装から始まるんですけど、地球年齢60代の三人が着こなしてるの奇跡でしかないし、このヴィジュアルの強さは彼らが20代30代の頃より何億倍も評価されるべき。
Read 19 tweets
15 Oct
拝読しました、面白かったー! 本書の感想は「自分自身がどんなおばさんを見てきたか」に左右されるのですが、まさにそこの分かれ方が興味深い。 #我はおばさん
/【議事録】岡田育『我は、おばさん』読書会(SOCIALDIA×生活の批評誌)|ソーシャルディア:SOCIALDIA @socialdia
note.com/socialdia/n/n0…
続)筆者として、えっそんな解釈されることもあるのか、説明の順番が悪かったか、と反省する点もあったりしたのですが、我ながらぐちゃぐちゃ書いた箇所をきっかけに「このぐちゃぐちゃはわざとだろ」と議論が進むあたり、ニヤニヤしました。引き続きあちこちで感想が語られるとよいなと思っています。
続)善きおばさんになることが今の目標だが、なって以降も人生は続くし、いずれは老年期も来るのでこの道は終わりじゃない、「善さ」とは自分で心がけるべきものであると同時に自分が規定できるものでもなく(「よかれと思って」の害悪よ)、最後は下世代に結論出してもらうしかないという諦念に至る。
Read 6 tweets

Did Thread Reader help you today?

Support us! We are indie developers!


This site is made by just two indie developers on a laptop doing marketing, support and development! Read more about the story.

Become a Premium Member ($3/month or $30/year) and get exclusive features!

Become Premium

Too expensive? Make a small donation by buying us coffee ($5) or help with server cost ($10)

Donate via Paypal Become our Patreon

Thank you for your support!

Follow Us on Twitter!

:(