豊穣な体験の持ち主だと、抽象的な法則を聞いただけで「あ、あの体験は、こんな法則が成り立つのか」と、ピンとくるのだけど、多くの人はそうはいかない。抽象化された話は、私もわからないし、何より面白くない。だから私は、なるべく具体的な話を心がけている。それには理由もあって。
人間はどうやら、たった一個の具体的事例から、いろんな教訓や法則を汲み取ることが得意な生き物らしい。これ、研究者からしたら危険に思われる行為。たった一例しか証拠がないのに、普遍的な現象だと思い込むのは、「再現性」(同じ条件がそろったら同じ現象が必ず起きる)がないかもしれないから。
それを戒める故事もある。切り株にけつまづいてウサギが死んだのを見て、またウサギが捕まらないかとジッと切り株を見守るようになった男の話(守株)。ものすごく珍しい偶然がまた起きるのではないかと期待するのは、守株の男と同じになる危険がある。
けれど。再現性のないことでも、起きたことが事実なら、それをよく分析し、仮説を紡いでおくと、普遍的なことが見えてくる。
たとえば大地震は、同じ場所で何度も起きることはない。何百年に一度という頻度の少なさで、一人の人間の人生で同じ地震が再現することはない。しかし。
あっちの大地震とこっちの大地震をそれぞれ調べ尽くし、もしかしたらこんな放送局が成り立つかも、という仮説をいくつも紡ぎ、大地震共通で見られる仮説があったら、それは普遍的な法則である可能性がある。
また、あっちとこっちでは共通しない仮説でも。
そっちの大地震とは共通する、ということがわかった場合、なぜあっちとは共通しなかったのに、こっちとそっちでは共通したのか?新たな仮説を紡いで、「地質が同じだったからではないか」とか「地震の起き方が同じだったからではないか」などが出てくる。すると世界の全然違う地域で。
地質や地形が似てるから同じような被害が起きるかも、と予測できるかもしれない。
なかなか再現してくれない、一回性の強い現象でも、そこからいろんな仮説を紡ぐのは、予測の精度を上げていくのにとても大切な作業。
子育ても同じだと考えていて。
生まれもった性格は様々、家庭環境や地域の特性も様々。だから子どもの個性は非常にバラエティに富んでいて、「再現性」は低かったりする。それでも一人の子どもから、いろんな仮説をともかく紡いでおく。
そして別の一人の子どもからも。すると、「こういう特徴を備える子は、こういう行動をとる確率が高まるのでは?」とか、「こういう家庭環境だと、こういう性質になることがあるのでは?」と、ある種法則めいたものが浮かんでくる。
ともかく一人一人の子どもをよく観察し、仮説をたくさん紡ぐ。そして仮説と仮説を戦わせる。そうして、ある種の特徴を見せる子は、こういう経験をしてることが多いなどの発見ができるようになる。

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Jan 25
オミクロン株はデルタ株と比べれば症状がやや軽く、重症化しにくいということで「ただの風邪だ」という、新型コロナで何度も繰り返されている言説がまたもや強まっている。専門家や政治家からは「正しく恐れよう」とアナウンスされるけれど、今一つわかりにくい。そこで私なりに言語化を試みる。
オミクロン株は「ただの風邪」ではない。次の二つの条件を兼ね備えるものは他に見られないから。
①インフルエンザに匹敵する症状のきつさ
②インフルエンザとは比較にならない、感染力が強かったデルタ株よりもさらに強い感染力
2条件を兼ね備えた風邪は他にない。これが医療システムを破壊する。
医療関係者によると、基礎疾患のある人がインフルエンザにかかると重症化、死ぬことがあるので感染には十分注意しなければならないが、インフルエンザの感染を防止するのは比較的対策しやすいのだという。インフルエンザは新型コロナほど感染力がなく、適切な処置で感染を防ぐことができる。しかし。
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Jan 24
妊娠してYouMeさんは専業主婦の状態に。ある日、私はYouMeさんに否定的なことを言った。その後しばらくしてから、YouMeさんにこう言われた。「あなたから否定されると、世界のすべてから否定されたような気がする」。私はビックリした。YouMeさんは私にわかるように、次のように説明してくれた。
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Jan 24
えー!
お賽銭は現金でないと気分が・・・
デジタルでピッとやったら、お賽銭気分でコインが出てきて、そのまま賽銭箱に流れ込む、みたいなシステムが必要?
でもなあ・・・
news.yahoo.co.jp/pickup/6416092
最大の原因は、金利が低すぎることだと思う。ゼロ金利ないしマイナス金利の状態が続いている。このため、金融機関はお金を貸しても大した利ざやが稼げず、貸しても貸しても雀の涙な利益しか上がらない。これでは銀行や郵貯などの金融機関は稼げない。立ちゆかない。
金融機関が儲けを出すには、公定歩合をせめて1%程度にする必要がある。これ以上の金利になれば、貸したお金の3%くらいを金利として稼げるようになるので、金融機関は息を継げる。金利を正常化しないと、金融機関は持たなくなってしまう。
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Jan 23
ここのところ、ケンカや会議でのもめ事を解決するコツを説明するのに「思枠」と言うキーワードを使って言語化を試みてきたけど。
「思枠」はそうした荒事ばかりでなく、もっと日常的なお困りごとを解決するにも役に立つ。たとえば遊んでばかりの子どもがなかなか食卓につかないとき。
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「もんだーい!さあ、指の数は何本でしょー!」人差し指を一本立ててこう声をかけると、何事かと思って見上げ、「いっぽーん!」
「正解!じゃあこれは?」「さんぼーん!」
「またまた正解!さあ、今度は難しいぞ!これは?」両手を広げると、「じゅっぽーん!」
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Jan 22
私は他人のすごいところ、見習うべきところの言語化には努めているけれど、私自身は別にすごくない。ただ、言語化を心がけ、私自身も少しは近づけないかと試行錯誤を重ねているうち、昔まったくできなかったことができるようにはなってきた。それがみなさんのお役に立てば幸い。
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note.com/shinshinohara/…
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Jan 22
前にも紹介した話だけど。
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挑発に乗ったのに気づいたヤクザはさらにおちょくるように、「わしゃ、朝鮮人は嫌いじゃあ!」と繰り返した。
すると、留学生が私に笑顔で、しきりに目配せする。何か考えがあるのか?手を緩めると。
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