『空飛ぶタイヤ』という映画を見ていた。運送会社のトラックの構造不良を抱えたタイヤが突然外れて、若い母親の命を奪ってしまう。その遺族の夫が運送会社の社長らに向かって、激昂してこう言い捨てるシーンがあった。
「よりによって、なんでウチなんだろう。死にたいと思っている連中だって、いっぱいいるだろうに。なんでウチなんだよ！」
最愛の者に起きた理不尽な仕打ちに対する、理不尽な言葉。でも、これが人間の感情というもの。私もいつか、同じ言葉を吐き出すかもしれない。そう思わざるを得なかった。
最愛の者に起きた理不尽な仕打ちに対する、理不尽な言葉。でも、これが人間の感情というもの。私もいつか、同じ言葉を吐き出すかもしれない。そう思わざるを得なかった。
『死にたいと思っている連中』たしかに、この世にはそういう人がいるかもしれない。いや、確実にいる。それは、数としても実際に表れている。生きること、生き続けることよりも、「死にたい」と、死を選び取る人たちは、実存する。そして彼らの「死にたい」と思う意思を否定することはできない。
逆境に接して「生きたい」と思う人を尊重するのと同じように、「死にたい」あるいは「長く生きなくてもいいから人間らしく生き続けたい」と思う人がいれば、その思いは尊重するべきなのだろう。私自身、妻のそういう思いを受け入れた。尊厳を保ったまま逝かせてほしいという母の思いを受け入れた。
母はもう八十歳に届く。心臓が弱く、脳にも爆弾を抱えている。何度も、何度も生と死の境をさまよってきた。そんな母が、いざという時には延命措置を続けないようにと、私たち家族全員に、尊厳死の容認を求めた。受け入れざるを得なかった。母の強い意志と、願いだったから。
今音声でこれを入力しながら、涙が止まらない。けれども今心にある言葉を吐き出したい。一人一人の命の選択には、とてつもなく重い、悲壮の覚悟が込められている。自らそれを選択する人も、その選択を受け入れる人も、とてつもない覚悟をしている。その痛みを、どうかわかってほしい。
この選択の衝撃を、痛みを、和らげられるような、そんな仕組みが作れるのだとしたら、それは素晴らしいことだと思う。しかしそのためにはまず、尊厳とは何か、生きる権利とは何か、選択する権利とは何か。これを、その選択を迫られている当事者を含め、社会全体が、真摯に、議論しなければならない。
これは軽々に、公党を預かる政治家が、現在の法律で犯罪とされている、嘱託殺人と言う、依頼を受けて行う殺人を行った、れっきとした犯罪事件を受けて、社会に向けて提言すべきことではない。いやしくも有権者の信託を受けた者が、軽々に発するべき事案ではない。それは政治家の傲慢である。
国政や都政、市政を預かる政治家として、まず発信すべきは、現行の法律上、確実に違法とされる行為を行った疑義のある事件が発生したのであれば、その捜査訴追の段階の如何によらず、まずはこれを断罪し非難することであろう。それが公人として、社会に重責を負う者として最低限求められる姿勢だろう。
さっきまで泣いていた私は、再び、この行き場のない怒りを吐き出した時の気持ち思い出して、再び、怒りに震えている。
許せない。このような人道に悖る事件を経て、軽々しく、「議論しましょう」などと、国会議員に対して呼びかける政治家が存在することが。
許せない。このような人道に悖る事件を経て、軽々しく、「議論しましょう」などと、国会議員に対して呼びかける政治家が存在することが。
この医師が、1年前に発信したように、私も安楽死や尊厳死の議論はされるべきだと思う。だがこの社会は、まだその段階に来ていないと、強くそう思う。それを公人たる政治家が、いたずらに加速しようと試みることには、激しい憤りを覚える。
私たち日本人は、いつかそういう話をしなくてはならなくなる。それは超少子化社会の今、すべき話なのかもしれない。だが私たちの社会は未だ、個の尊厳を尊重するということを、社会の規範とすることすらままならない現情にある。いつか議論する必要があるとしても、今の日本社会には荷が重すぎる。
尊厳死や安楽死は『個人の権利の尊重をとことん突き詰めた先にある、究極の自己決定の一つ』まさにそうだと思う。個の尊厳をその全体として尊重することを至上命題とできない社会には、過ぎた考え。分不相応な着想なのであると、そうした自制を以てこそ、議論を始められる。
議論をすることそのものは否定しない。けれども丁寧に議論していこう。丁寧な議論から始めよう。間違っても、一部の政治家に囃し立てられるように、急かされるように、今決めなければならないことのように思わされたまま、拙速な議論を行うことは慎もう。人の生き死にに、関わる事なのだから。
@threadreaderapp unroll my thoughts pls.
