地層処分の問題は、私が最初に話を聞いたのは、2007年くらいのこと。その段階で、ガラス固化が2千数百本、すでに出来ている。当時の原発54基がそのまま運転継続すると、最終的にはガラス固化体は4万本になる。当時、つまり今も、当時の2万5千本はまだ残っている。つまり約10%程度しか、処理してない。
2)地層処分がどういうものか、その段階ではよく知らなかった。それで、これは知らないといけないと思って、友人らを誘い、岐阜県瑞浪市にある深層地下実験施設を見学した。最初にレクチャーがあり、予備知識を得た後、地下まで見学にいくというコースだ。地下に行くと、水がざぁざぁ流れていた。
3)私は血の気が引いた。これはだめじゃん。こんなので、バリアが効くわけない。そう思って、1回目の見学は終わった。その数年後、今度は2011年の原発事故の後。友人たちが再度、見学したいというので、私も2回目の見学に行った。そして今度は本当によく理解できた。全く天地がひっくり返った。
4)つまり瑞浪(みずなみ)の地下実験施設で、地下水がざぁざぁ流れていたのは、意図的である。地下水に晒されて、どうなるかを研究するため。わざとそういう場所を選んでいる。そういう回答だった。な〜んだ。それでも大丈夫であることを研究するためだった。それなら当然、むしろ理想的ではないか。
5)もう一つの驚愕は、次の図を理解した瞬間だ。横軸が、処分してから何万年後。縦軸は、その時に与える環境放射線の線量率の増加。つまり最大の環境影響は日本の地下環境で、最悪で70万年後。その時でも自然環境の10万分の1しか増えない(つまりほぼ安全)と知った時。私は思わずな〜んだと呟いた。 Image
6)これを「安全」ということは出来ない。しかし誰も、測定さえ出来ない(今の技術では同位体分離測定で出来るかもしれない)線量率の増加を、どうやって気にすればいいのか。完全にはゼロではない。しかし環境放射線の10万分の1の影響増加をどう考えるか。しかも70万年後。北京原人が70万年前だ。
7)そうかと悟った私は、逆になぜ1回目に理解出来なかったのか。考えた。それはこうだ。専門家は全部の資料を説明しようとする。1回目の見学では、記憶では全部を紹介仕切れなかった。よく分かる。私もやりがちだ。しかし、この一枚さえ理解すればいいのに。専門家はそこをわかってない。だからだ。 Image
8)この段階で、私は全てを理解した気分になった。そうか、そういうことか。おそらく安全性は高そうだ。
だがこの頃、全国で起こっていたのは、こうだ。調査を受け入れると表明した町長が、選挙で落選。国は地域の立候補を待つ方針だったのに、唯一の立候補地域は、それで消えた。そんな状態だった。
9)十年以上待っても決まらなかった。国は方針を変えた。いわゆる科学的特性マップを作成、様々な必要条件を満たす地域を、条件分岐で選り分ける単純な方法。条件は公開。しかしその前に大事な段階。日本学術会議が地層処分をどうするか検討し、国民的合意形成を目標に暫定保管を再考すべしと報告。
10)資料で言うと、この日本学術会議の報告は、これ。「提言 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定保管」scj.go.jp/ja/info/kohyo/…
また、この報告をうけて、国が方針変更した新規方法が地層処分の科学的特性マップ。その資料サイト:
enecho.meti.go.jp/category/elect…
11)こうして同時並行的にNUMO(原子力発電環境整備機構)では、全国行脚のキャラバン方式で、説明会を繰り返し、繰り返し行うようになった。学術会議の報告が2015年4月。その後「2015年5月、従来の政策の見直しを経て、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する新たな基本方針が決定されました」
12)私としては、2回も深層地下実験施設に見学に行って、やっと理解したことだったし、その理解でいいと思っていた。しかしある時、ふと疑問に思った。あの計算が全てだとすると、それは正しいか。それが気になった。それは別の機会に説明を得られた。あの計算の前提はこうだった。つまり。
13)地層処分が十分に安全、環境汚染はゼロではないが影響は恐ろしく小さい、との計算の前提。まず、仮に火山の熱水が流れ込んで、全部のバリアが破れたとする。高レベル放射性廃棄物は、火山の溶岩に溶かし込んであるようなもの。岩にしなくても、もっと低い温度で溶けるガラスに溶かし込んである。
14)ガラス固化体というから、ガラスが割れたらだめじゃんと思う人は多い。しかしそれは違っていて、岩石の中に溶かし込んだイメージだ。驚くことに、岩も、ガラスも、ほ〜〜んの少しだが、水に溶ける。これが原因で、放射性物質が環境に広がる。これを計算するわけだ。どうやって計算するか。
15)最悪の場合の計算では、火山の熱水に晒されて、ガラス固化体の周囲のバリア(ステンレスと、分厚い鉄と、ベントナイト吸水性物質と、ドラム缶と外枠)が全部、破られたとしよう。そして熱水に直接、ガラスが晒された時に、一番、多く溶け出すと仮定。それと、地下水が海に押し出される移動速度。
16)もっと最悪も想定しうる。現状ではそう言う計算だと聞いた。ガラス固化体が破損した場合、表面積も増えて熱水への溶出速度も増えるが、それも計算したとか。元の報告書は1999年に出ている。これで工学評価はほぼ完成した模様。その結果、処分地の立候補を待つ方針でやって、だめだったわけだ。
17)この報告書には多くの想定が出ている。630ページ程度。初めて理解したことは、環境影響がピーク(最大値)を持つ理由だ。それは最悪の場合、次第に水に、ガラスが溶けるので、環境影響は増える一方。しかし、放射性物質の半減期で影響が減る。だからどこかでピークを持つ。それが70万年後だ。
18)放射性物質のガラスとしての水への溶出と、半減期の関係から、グラフは成分に分解できる。左図が既出の図で合計である。右図が、核種の成分に分解して書いた図である(共に縦軸は対数軸)。実際の報告書はもっと詳細であるが、これで十分である。セシウム135がピークを形成するようである。 ImageImage
19)こういう計算から、工学的には地層処分が最適であるというのが1999年段階での報告書の内容だ。それで、立候補する自治体を募集した。しかしゼロだった。そこに2011年の3.11もあり、2015年4月の学術会議の報告が出た。そして同年5月から政治的方針転換、科学的特性マップの公開となって今に至る。
20)高レベル放射性廃棄物。他の処分方法はないのか。実際に、検討もされたらしい。私も推したい1番の代替方法は、ロケットで打ち上げて、太陽に放り込む方法。当然、検討されたらしい。しかし打ち上げ失敗のリスクが無視できず、失敗した場合の悲惨を考えると、採用はされなかったと聞いている。
21)高レベル放射性廃棄物の、学術会議の提言。もう一つ重要なことは、まさに将来、もっと良い方法が発見、発明されるかもしれない。だから、ということで、暫定保管という考え方が打ち出されたことだ。これが現実的かどうかは、工学的な検討が必要だと思うが、例えば、埋め戻すことも想定する等。
22)高レベル放射性廃棄物の地層処分。諸外国の進め方についても、記憶している範囲で、書いておこうと思う。よく知られているのはフィンランドのオンカロ。ここは国民的合意形成も得られて、現在進行形の形だそうだ。映画にもなった。「10万年後の安全」私も見たが、ここにある管理は想定してない。
23)参考になるのがフランスだ。フランスは全電力の確か6割が原発の原発大国。1990年代にやはり科学者、技術者が地層処分が最適だと結論を出した。調査を始めた段階で、住民が反対、頓挫。そこで言論の国らしく方針転換。国民的合意形成に20年を掛けたということだ。(2015年頃に聞いた話では。)
24)このフランスの例は、日本で25年遅れて、追体験しているように、私には見える。(フランス1990年〜、日本2015年〜)。つまり、国民的合意形成に、フランスと同じだけ(20年)掛かったとしても、あと+15〜20年は必要。
それを目指して、と私は思うが現在、全国各地でNUMOによる説明会が進行中。
25)諸外国の例で、もう一つ興味深いのは、スェーデン。スェーデンは「将来世代にツケを残すな」を、逆にも解釈していて、将来世代に今の方法を押し付けるな、将来、より良い方法が見つかった時はやり直せる余地を残す側面にも留意しているとか。これらの事例は、日本にも影響を与えたと私は思う。
26)このスェーデンの考え方は、資料では見えにくいが、例えば。「長期間何も起こらないことを保証することはできないが、何かが起こった時には最新の科学に基づいて、最も安全と目される解決策を必ず実現することを保証すると説明(中略)長期的なリスクも踏まえた対策を講じることとしています 」
27)出典として。スェーデンの地層処分の「取り組み」を含む、ネット上の資料としては、例えば、これが良いかも。
国際シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分 ~世界の取り組みから学ぶ~」2016年3月28日(月)開催。
numo.or.jp/pr-info/pr/eve…
*)取り敢えず、以上です。
ミッションを背負ったNUMO(原子力発電環境整備機構)による「標準的」な資料の一つ。
2015年10月 高レベル放射性廃棄物の最終処分 国民対話月間 全国シンポジウム
「いま改めて考えよう地層処分」
~処分地の適性と段階的な選定の進め方~
numo.or.jp/chisou-sympo/2…
29)典型的な誤解を二つ紹介する。[1]高レベル放射性廃棄物の環境影響は非常に小さく、最大で70万年後に環境レベルの10万分の1程度の増加、誰も気づかない程度。と言うと「環境汚染はあるでしょう?」とおっしゃる。いやそれが環境汚染ですというと、そんな筈はないと。そんな筈はないという誤解。
30)誤解[2]:処分場を何十個も作らなければいけないという誤解。実際は1箇所。今ある分でガラス固化体2万5千本、将来も4万本以下。4万=200x200、2m間隔で並べても400m四方、陸上競技場の程度。1箇所に収まる。余裕+アクセス通路と周辺施設設備を入れても数平方kmの1箇所。numo.or.jp/chisou-sympo/2… Image
31)「解説」の最後に一つだけ言わせてもらいたい。それは説明の仕方。先日のNHKニュースで、今手を挙げている北海道寿都町の住民説明会の後、インタビユーで住民が怒って言う「いきなりこんな分厚いのを渡されて」。ここでも私が体験したのと同じ、専門家の「説明したがり問題」が、ないだろうか?
32)提案は、車座になって対話から始めることを勧めたい。専門家と住民の間には「情報の非対称性」がある、などと意味不明の説明をしてしまう問題の解決(苦笑)。この意味で、最初は何が分からないのか自分でも言葉にできない。そこからの対話。時間がかかるが、専門家はその意味も理解できる筈だ。
A1)資料出典
1)左図:赤坂秀成(日本原子力産業協会)講演資料
2)右図:石川博久(日本原子力学会、シニアネットワーク連絡会)講演資料
3)「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性〜地層処分研究開発第2次取りまとめ 総論レポート」1999/11/26 核燃料サイクル開発機構 ImageImage

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www3.nhk.or.jp/news/html/2020… Image
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toukei.metro.tokyo.lg.jp/tyukanj/2010/t… Image
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