悪役令嬢(概念)。これ、昭和のスーパー攻め様をさんざんネタにしてる令和漫画を読んで実際に昭和のスーパー攻め様が出てくるBL作品を読みたくなった人が探しても、昭和のスーパー攻め様はあんまり見つからない、というのに似た話だろうか。トゥシューズに画鋲入れるバレエ漫画はすぐ出せるだろうに。
続)古の腐女子同士でも「わかるわかるそれ昭和のスーパー攻め様あるあるやん! とひとしきり盛り上がってから『いや待て今みんなで幻視した虚像、まったくBLでない速水真澄(ないし正直一ミリも読んだことないハーレクインロマンス的ステレオタイプ)では……?』と我に返る」こと結構ある気がする。
続)「姫川亜弓は令嬢であり主人公の好敵手であり主役を食うほどの人気がある上にあんな髪型ではあるが、でも、悪役令嬢の系譜ではない」とかが、後世にうまく伝わってないんじゃないかと思うこと、あるよな……。
続)『あしながおじさん』で「学生寮で同室の貴族」ジュリアペンドルトンはそこまで悪役令嬢ぽくないが、それを下敷きにした『雲のように風のように』の「主人公と後宮で同室の貴族」世沙明は、原作はさておきアニメ版ではかなり悪役令嬢ぽさがある。「後宮」の仕組みが「乙女ゲー」っぽいからだろう。
続)同様に「速水真澄的こじらせ御曹司設定に、時のトレンディドラマに描かれた恋愛脳オラオラ男子の人格を上書きし、桜塚星史郎的肩幅を載せ、かつモチモチの木の構図で適当な受けを抱かせると、昭和のスーパー攻め様になる」といった「レシピを知っている」だけで、実物は見たことない気がしてきた。
続)どこにも居なかったはずはなくて、どこかには実在したはずだけど、一つ一つはあまりにも泡沫であるがゆえに、こうして「BLでない」有名作品の登場人物を例に挙げながら説明しないといけなくなるような。「南條晃司よりは器が大きいが影艶や夜叉王ほどの『理解のある彼くん』感はない」とかさ……。
続)「悪役令嬢」も、歴代の乙女ゲーからだけ食材集めてその味を再現するのは難しく(味を?再現?)、おそらくは少年漫画界隈発祥であろう「(相手役ヒロインが別にいる主人公に横恋慕する)ツンデレ令嬢」というスパイスは、味の決め手に必須だと思うんですよね。よく捏ねないと悪役令嬢にならない。
たしかに(私はまったく詳しくないのですが)少女小説にはありそうですね。我ら群盲、悪役令嬢を撫で「あなたがた如きにわたくしを理解できるとお思いですの!?」とブチ切れられる感……。
わざわざ速水真澄の話書いたのに途中で投げ出していたが元スレッドの本題と並行して考え続けると、悪役令嬢ってたぶん本来の概念的には姫川亜弓(主人公の好敵手)より鷹宮紫織(主人公の恋の障害)に近いよな。で、少女漫画ではない乙女ゲーに紫織さまが必要かっていうと、必須では全然無いよね……。
続)私は乙女ゲーにはマジでまったく詳しくないが「女がヒロインの障害にはならない」は理解できる。それとは別に少年漫画的ハーレム展開に登場する「攻略対象だが正ヒロインではない」ツンデレ財閥令嬢やトップをねらうお姉様などは幾つか例も思い浮かぶし、少女漫画との間で概念の輸出入もありそう。
続)で、その少年向け文脈ツンデレ令嬢って、大抵は物語終盤までに意地悪さが抜けて正カップルを応援する役回りになり、結局「デフォルトで異世界転生した悪役令嬢に近い」ですよね。言ってる意味伝わりますか……お邪魔虫で終わる「純・悪役令嬢」ってあんまり見ないよね? との結論に何度でも還る。
続)男爵令嬢と駆け落ち心中エンドを迎えるミュージカル『ルドルフ・ザ・ラスト・キス』におけるシュテファニーは「令嬢で、主人公の恋路を邪魔する、正ヒロインの宿敵」で見事な憎まれ役のソロ曲もあり、条件揃ってるんだけど、でも冷静に考えると「夫に不倫された正妻」だから、意味違うよな……。
続)悪役令嬢が輝くとしたらやはり「一人の男の寵愛を複数女性で競い合う」後宮モノにおけるタイムトライアル装置だと思うんですよね。うかうかしてるとステータス高子さまに先にゴールを奪われちゃうよと焦燥感を煽る。乙女ゲーは多くが「複数の男を順番にじっくり攻略していく」構造だから違うよな。
続)……待て、俺たちにはダルーサさんという素晴らしい純・悪役令嬢がいらっしゃるじゃないか! やはり人生に必要なものはすべて藤子・F・不二雄先生に教わったな……。まぁ彼女を乙女ゲーに組み込むのは難しかろうね。てか『チンプイ』むしろルルロフ殿下がエリさまを攻略する逆・乙女ゲーだしね。
続)あのまま連載が続けばダルーサさんが再登場してエリさまと一緒にルルロフ殿下を「幻滅させる」作戦を幾つも繰り出したのかなと想像するとそれは最高の百合なんですけど、でもダルーサは自分が王妃になりたいだけで、自分が候補から外れたらエリさまの「断る」作戦に加担する義理は全然ないのよな。
続)『チンプイ』の話を続けると、マール星から女が来るのは珍しくて、ワンダユウ以下「社会的地位のある年配の男」ばかりが来てエリさまに「結婚こそが『女の幸せ』だ、従わないとは何事か」と強い圧をかけてくるんだよね。それを地球の小学生女児が半ギレで「嫌です」とキッパリ断る。大傑作ですよ。
続)完全に自著宣伝ですが「80年代育ちの私にとってシンデレラといえばシャルルペローよりも #松任谷由実#チンプイ だった」という話は『 #我はおばさん 』にも書きました。6月4日刊です。発売日前に予約注文すると、いいことが起こります。あなたに。そして私にも。
books.shueisha.co.jp/items/contents…
だがしかし待ってほしい、神谷曜子を「悪役令嬢」の系譜に入れていいなら『すくらんぶるゲーム』の深町絢とか「悪役令嬢にしてヒロイン」となってしまわんか!? 「悪役」の定義も難しいな。私の勝手な分類ですが『白鳥の湖』のオディールのバリエーションみたいな敵対勢力女子はまた別にある感じ。
続)整理すると、「恵まれたお嬢様が心無く虐めてくることでヒロインの清貧な可憐さが際立つ」と「公平な競争の場に見えて『おまえはここに相応しくない』といった理由で丸腰の平民が予選落ち排除されそうになる」は微妙に違って、前者は少女漫画あるあるだけど、後者は何なら少年漫画あるあるっぽい。
続)加えて、オディールの系譜と書いたのは「魔王の娘」「親が悪役」みたいなやつ、『リボンの騎士』のヘケートが代表格ですかね。これを現代劇に降ろすと「ヤクザの娘」「親が反社」とかにもなるんだけど、大抵「親がヤクザの割にお嬢は常識人」「実家の稼業を恥じてる子」みたいになるのよな……。
続)「ラスボス級の悪徳金満令嬢かと思いきやいつの間にか真ヒロインぽくなって平民出の男主人公が玉の輿構図に載せられる」は完全に少年漫画あるあるだしね。起源は知らんが城戸沙織〜薙切えりな的な。どっちが良いとか悪いとかではなくて「悪役令嬢(概念)」が鍋料理なら食材の一つに過ぎない感じ。
続)喩えが昭和末期に偏ってて申し訳ないが、面堂終太郎と御坊茶魔あたりから金持ちが「笑ってもいい」ギャグ扱いもされるようになり、そちらを女にしたような好戦的キャラ(≠誰とも喧嘩しない深窓の令嬢)もいるけど、そういう露悪系の高飛車高子さまほど「女子供は殴らない」漢らしさもあるような。
続)となるとやっぱり「女主人公の身分違いの恋路を同性のライバルとして邪魔しながら邪悪な妨害工作を仕掛けてくる同級生の貴族令嬢」キャラというのは、ちょっと不可能図形みたいな捉え所の無さがある。そして、公爵令嬢は制服や掃除の時間があるような学校には通わんやろ、と振り出しに戻る……。

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30 Apr
我がことのようにつらい。(※我がことではありません)(※今のところまだ)(※幸いにして)
続)でも私も、身を切られるような思いで昨年、作詞家を一人アンフォローしましたよね……。
続)引き際は大事だと思いますね。自分が何か理不尽に害されたときパッと怒りを表明できるようにしておかないといけない、同様に、推しが推せなくなったときはその瞬間に「推せない!」と声に出して担降りしないと、愛を捧げたファンのほうが苦しむばかりだと思います。言うは易し行うは難しだが……。
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29 Apr
いや、昔からそのくらいは考えてた子供いたでしょう……私は『超電子バイオマン』でイエローフォーが死んだとき4歳でしたが「仕事中に死んで土葬する日に職場の同僚しか来ないの、親戚には連絡行ってないの?」と気になって親に話して「赤紙」と「遺骨収集」から始まる反戦教育になだれこんだよ……。
続)「戦隊ヒーローなんて聞こえはいいけど兵士は駒として前線で使い捨てにされるだけなんだからね、靖国の英霊なんて信じちゃダメよ、文系から最前線送りでおじいちゃんは内地の理系研究者だったから死なずに済んだんだから!」てのはさておき、「どんな仕事も給料が出るもの」と思って観てたがなぁ。
続)あと『パーマン』のバードマンが明らかに「仕事」としてやってる大人なのにいかにも業績悪そうで、かつパー子とパーやんは他に「本業」があるから無償社会奉仕を意に介さず、1号だけが「遊ぶ時間が削られる」と子供っぽく文句言ってる、あの構図あたりの刷り込みも大きい。藤子不二雄は偉大だな。
Read 32 tweets
29 Apr
内容と関係ないが、このtweetについて詩人が「自由律短歌」と評していた。しかしなぜ自由律短歌に見えるかというと「〜言ってきて気味が悪くて無視してしまった」が五七七だからだ。自由な表現はいつも制約の中からしか生まれない。Twitterもまた140字の定型の自由詩。スレッドは独り連歌。など思う。
続)みんなこれ適当に書いたと思うかもしれないけど、私は中学生くらいから「私にとって最も表現が続けやすい新しい詩歌のルール」をたった一人で研究開発することなどに熱中しており、20代でTwitterと出会い「表意140字」という枠組みを得て本気で「これだ!!」と思って続けてるので、割とマジです。
続)たった140字ごときでは議論もできなければ表現もできないと人は言うが、ショートショート小説書いてる人だっているのだから、散文やエッセイが書けないはずなかろう。むしろInstagramの「ビジュアル偏重SNSなのに文字数無制限」仕様のほうが物が書きづらい。だからあっちは英語で使うのだよ私は。
Read 5 tweets
28 Apr
いま何が問題になってるか全然わからない状態(と表明してるのは別にこれを読んだあなたに懇切丁寧な解説を求めてるわけでもないのでほっといてほしい)ですが、「そんな集まりが哲学対話の名を騙るべきではない!」と騒がれたら私はいつでも「思考の乱交パーティー」とか改名する準備ができているな。
続)浅学非才の身ゆえ寡聞にして乱交パーティーに参加経験が一度もなく、そちらの名を騙るのもまた怒られそうだよなとは思うのだが、「オーガナイザーが頑張って安心安全対等な場を作らないと成立不可能、いくらオープンでもオーガナイザーと思想的共鳴できる人しか参加できない」のは似てるはずよね。
続)「どんな初心者が来ても気持ちよく過ごせる乱交パーティーでないと……」と張り切るオーガナイザーの心意気は立派だが、「あなた今日はちょっとまだ乱交パーティーを心から楽しめる状況にはなさそうね、そういうときは退室していいのよ」という声掛けも大事だと思うんです。それは排他性ではない。
Read 4 tweets
28 Apr
一連読んで、みんなもういいかげん結婚における貞操義務とセックスにまつわる権利や責任は分けて考えようよ……となりました。ちなみにこれは法的根拠のある発言ではなく、実情に即して法のほうを変えてもいいんじゃないのという個人的見解です。そこも逆転して捉えられると困ってしまうけど。
続)ごくごく個人的に友情婚推進論者なので「結婚にいちいちセックスの話を絡めてくる奴ら、めんどくせーな」くらいに思ってるだけです。もちろん夫婦間に子供が生まれた場合の権利や責任は別問題だけど。
続)関連スレッドです。「友達同士で結婚してもいいよね」に対して「ええええ、でもでも、そんなの、セックスはどうするの〜!?」とまずそこ反論してくる人たち、いったん恋とセックスを婚姻から、そして人生から、剥がしてみる思考実験をおすすめする。
Read 6 tweets
28 Apr
ただの日記ですが、久しぶりにオンライン哲学対話に参加して楽しかった。主宰や参加者とは時差があって、向こうが夜でこっちが朝なので私だけやたらと元気。テーマは「『名前』とは?」。
続)そういえば「コロナ禍で初の緊急事態宣言、大型連休なのにどこにも出かけられない」状態で初めてオンライン哲学対話に参加してから、一年経つ。結局私はZoomでのオンライン哲学対話ばかりやってるんだな。最近はClubhouseなども活況のようですが、追いかけきれていない。
okadaic.net/archives/9364
続)今夜の主宰はその約一年前に知り合い、「それぞれのルール作ってやってみようぜ」と別の道を行った相手である。その人が「今一度、ルールのネジを締め直す時期だ」とまた新しい試みを始めた、実験に加われて面白かった。「門戸はあるが閉じてはいない」場が乱立し、好きに往き来する人たちがいる。
Read 5 tweets

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