「青天を衝け」の最新話にて、処刑されたことが証された小栗上野介こと小栗忠順。作中において「ネジ」を「これこそが西洋文明の根源だ」と最後まで持ち続けていたわけですが、「ネジなんて日本でも火縄銃の時に伝わってたじゃんw」と思う方もおられるでしょうが、「それだけ」ではないんですな。
小栗があのネジで驚いたのは、「製品の規格化」なんですよ。どのネジも全ての種類が、あらかじめ定められた規格に則って作られており、代替可能な『部品」として大量生産されている。これこそまさに近代工業文明の根源であり、アメリカの強さの秘訣でもあったのです。
「規格統一」に関して、こんな逸話があります。
まだ独立して間もない頃のアメリカが戦争をすることになりました。しかし、銃の数が足りない。
三ヶ月以内に3000丁用意しなければならない。
しかし、全銃職人を動員しても不可能。
そこで、ある「天才発明家」に「なんとかしてくれ」と以来します。
それから二ヶ月が経ちました。
発明家が再び現れ、「できましたよ」と言って、銃を二丁持ってきます。
「サンプルなのかな?」と思ったら、「いえ、二ヶ月かかってできたのは二丁です」と。
「てめぇ殺すぞ!」とブチ切れる政府の役人たちでしたが、「まぁ見てなさいな」と。
発明家は二丁の銃をその場でバラバラに分解し、その部品をごちゃまぜにして、また二丁を組み立てました。
「なにがしたいねん?」と現代の我々なら思うでしょうが、それを見た役人たちは信じられないものを見たように目を見開いた。
当時の銃は、ある程度のサイズはあったものの、部品一つ交換するにしても、それに合わせた加工や調整を行う必要があり、それらは職人の経験と技術が必要なものでした。当然、組み上げとなると、さらに手間ひまがかかります。
発明家は、「規格統一」を行うことで、「大量に生産された部品を説明書通りに組み上げれば誰でも作れる」ようにしたのです。二ヶ月の間に、彼は部品製造のための機械と、組み立ての手順を覚えた人材を用意しました。
「これで残りの2998丁は、一月もいらずに作れます」と。
「どの機械でも、規格さえ同じならどのネジでも使える」この当たり前に見えることが、「当たり前」でなかった時代、その価値を当時の日本人で素早く見抜いたのが、小栗の高い先見性とも言えたのです。
この時代、黒船来航以降、多くの人々が「西洋の文明」の凄さを痛感しました。しかし、それはあくまで表面だけ。黒船来航を前にしての対策で「船の底に穴を開けて沈めればいい」的なのが多く出てきたのがその証拠です。
黒船来航の最大の脅威は、「巨大な蒸気船を、軍艦として実用化できる、技術力と生産力と発想力と、運用できる経済力と政治力と思想」なのです。
単純な「すごい武器を持っている」ではないんですね。
ここらへんを同じように早い段階で見抜いていた人物が、みんな大好き坂本龍馬だったそうです。なんせ実家が商家ですから。お兄さん、けっこうやり手の商人で、商船も有していたので、「船を所有する」ことがどれだけ大変かを知っていたわけですな。
「海外から船を買うのではダメだ。それを操り、修理し、整備できる人材の育成と施設、さらには、自国で生産できる工業力を持たなければ、日本はいずれ食いつぶされる」を、早い段階で小栗は見通していたわけです。
とんでもない開明的な人物です。
そして横須賀のドックや造船所、製鉄所などが作られ、これらは後の明治どころか、現在に至るまで、日本の工業の土台となっています。
国家百年の計どころではないすごいことです。
小栗の処刑理由としては、隠遁先で農兵を訓練させ、新政府の反逆を企てていたから・・・だったそうですが、その証拠はなく、当人も主戦論者ではあったそうですが、慶喜が絶対恭順の姿勢をとった段階で「もう抵抗に意味はない」と悟っていたようです。
にもかかわらず、まともな裁判さえ行われずの、武士への処刑としては屈辱的な「斬首」だったのは、一つは旧幕臣への挑発、もしくは小栗自身が「優秀すぎて生かしていても危険だから」とされたからではないかと、思ったりします。
事実、小栗の提案した、新政府軍の迎撃計画は、新政府軍の実質的総司令であった大村益次郎が「これをやられていれば終わっていた」と肝を冷やしたほどです。
経済、軍事、産業、外交を高度なレベルで持った幕臣、死なせるにはあまりに惜しい人物と、未だ語られるわけです。
まぁそんな小栗忠順、その気になれば大河主人公も狙える逸材なのです。実際、長編ドラマの主人公にもなってます。
「またも辞めたか亭主殿」というタイトルで、小栗忠順役は、「青天」での井伊直弼役だった岸谷五朗さんw
「青天」の小栗は、切れ者としてのキャラに重点を置かれていおましたが(これも渋沢目線での描写と言えるので、当時の栄一からしたら、 ”なんかおっかないくらいすごい人”という印象だったとも言えます)こちらではどちらかといえば平岡様に近い、愛嬌のある人物です。
とはいえ、幕末期の幕臣の中で、「日本の未来」を真に考えることができていた貴重な人物なのは違いありません。「青天」にてイッセー尾形演じる後の三井財閥の創始者三村利左衛門は、元小栗家の中間であり、忠順の才覚を誰よりも知る人物でもありました。
彼は海外への亡命を勧め、資金援助すら申し出ましたが、小栗はそれを拒み、家族のことを託したそうです。後に利左エ門は、新政府の経済政策の拙さを、「小栗様とは比べ物にならん」と嘆いたそうです。
「青天」劇中で、通りすがりの栄一に思わず小栗の話をしたのも、それだけ深く慕っていた史実を反映してのものなのでしょう。

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26 Aug
「ケチくさいだけのオタクより、黙ってバカスカ買う転売屋に売ったほうがいい」みたいな頭が痛くなるツイートを目にしてしまったんですが、未だに「転売屋と代理店」の違いもわからないという残念さで、本当にそういうのはやめたほうがいい。
しかもそれがホビー誌にもコラム載せているライターだと知って・・・え、その認識で、物事を語っていたのかと、お金もらってたんですかって思ってしまった。
自分の飯の種を作ってくれている客層を「ケチくさい」「想像力がない」と罵倒できる神経は正直信じがたいな・・・
どっかのチシキジンな方たちは、そもそもがホビー界隈の仕組みも、転売屋がどういうものかもわかってない状態だったので、「ただのバカ」でしたが、こちらは「わかった上で言っている」わけで、悪質さがさらに上だ。
Read 4 tweets
26 Aug
「飽きなかった完全栄養食は玄米おにぎり」ってのは、正鵠を射たものでしてね。
日本の食文化って、「如何にして大量の米を飽きずに食らうか」に腐心してきた歴史でも在るんですよ。極論ですが。 >RT
まぁ皆様御存知の通り、昔・・・というかか近代まで、日本人の栄養の大部分は「米」、それも「玄米」に頼っていたところがあります。無論他にも食い物はありますが、やはりどうしてもいろいろと乏しかった。
海からちょいと離れれば得られる恵みは乏しく、宗教的理由もありますが畜産が盛んでなかったので動物性タンパク質も貧弱、面積の七割が山なので耕作地自体が少ない。玄米が最大にして最後の砦だったわけです。
Read 10 tweets
25 Aug
昨日の午後ローで「キス・オブ・ザ・ドラゴン」やってたのか。私アレ好きでねぇ。ジェット・リーを始めてみた映画でも在るから余計に・・・あ、違うわ、その前にリーサル・ウェポンだったが、あっちでは敵だったからなw
ジェット・リーって、ただでさえ小柄なアジア系の中で、身長168センチで、ベビーフェイスなので、この時すでに三十代後半なんだが、あえてそこを突っ込んで、「めちゃくちゃ強いのだが、女性の扱いは苦手」という温厚で堅物な刑事ってキャラなのな、そこがいい。
ヒロインのジェシカは、いわゆる「愚かな女」なのよ。田舎町で生まれて、派手な暮らしや都会に憧れ、気づいたら人生を転がり落ちて娼婦なってしまった元薬物中毒者。でも基本的に善性の人物。
「善人であるがゆえに食い物にされ続けた弱者」
それでも最後の一線は超えていない。
Read 6 tweets
24 Aug
まぁアレな話で、「とにかく一本書き上げる」をしてからでないと、実はスタートラインにも立ててないってのはあるもんでしてね。
これを見て思ったんですが、多分この捨てた人、「がんばて勉強した」んだろうなぁと。
今人気のあるタイトルを買い、ノウハウ本も買い、「さぁ始めるぞ!」ってなもんで。
でもそれは多分、「書いた後」の話なんだ。

togetter.com/li/1762647
昨今、下手な小説よりも、「キミも小説を書こう!」的なノウハウ本の方が売れるご時世なんですが、意外とね、ああいう本、書いている人が大半が「書いている人」なので「書いたことがない人」には、「いや、せやのうて・・・」になる場合が多いんですよ。
思った以上に「え、その段階!?」なんです。
Read 9 tweets
24 Aug
まぁパラリンピックが開催されたわけですが、だからというわけでもないが、こういったところを改めてきちんと考える契機にしないといけないと思うのですな。
そういや、他が空いているのに「車椅子スペースに駐車する人」って何考えてんのかなと思うんだが、一つは、比較的出入り口に近い場所にあるから(それも車椅子の人に配慮してなんだけどね)と、あともういっこは、「運転が下手くそだから」ってのもあるそうね。
たまにね、見たことありません? 「ヤンキー止め」って、二台分のスペースに横に止めるようなアレ。昔、深夜のコンビニでバイトしてた時、山ほど見ましてね。
「なんなんだろうねアレ」と思ってたんですが、馴染みのヤンキー兄ちゃんが、「あれ下手だからだよ」と。
Read 6 tweets
23 Aug
そういや、「連邦愚連隊」ってマンガで、市街地を暴走するゾックを地元の連邦軍の止めようとするも、あまりにも隙のない鉄壁さで手こずりまくるって回があって、なにげにゾックって優秀なのよね。
ゾックの凄いところ、
全周囲にカメラアイがあり死角が存在しない。
ゴック以上に分厚い装甲の鉄壁の防御。
ホバー走行なのでタンク系を凌駕する走破性。
全9門のビーム砲装備、対空防御もばっちり。
接敵しても可動範囲が異常にネイルでジム程度なら一撃で砕く。
もう歩く要塞。
ゾックの欠点。
「MGにならない」

Read 5 tweets

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