Thread by @Yuki_Mats

↓の一連のツイートを読んで「ここまで脚本が違うだなんて」と驚かれた方に、もう一点だけ どうしても知っておいて頂きたい、日本の業界人が現状ではその「存在」にすら気付いていない、世界から完全に取り残されている「とある弱点」があります。それは「当事者による表象(ひょうしょう)」です(続

https://twitter.com/Yuki_Mats/status/1477601881967177728

↑を読まれた多くの方が「トージシャ？ヒョーショー？？」と思われたかと思います。・・・実はその時点で、本当はヒジョーにマズい状況なんです。これは何の話をしているのかというと、「マイノリティの俳優/制作人が、自身が属するマイノリティ属性の役を表現し、全世界に発信すること」を指します。

たとえばハリウッド映画で「日本人のキャラクター」が登場したら、当然、そのキャラクターを実際に日本人俳優に演じて欲しい、と思うハズです。でないとの映画の強力な影響力で、全世界に「間違った日本人像」がバラ撒かれる可能性があります。・・・実は、これこそが「当事者による表象」なんです。

もし「自分が属する属性」が映画やテレビで「偏見に満ちたな差別的な描かれ方」をされていて、しかもそれが全世界に拡散されたら、当然誰だって怒ります。例えば「日本人のキャラクター」がハリウッド映画で偏見に満ちた差別的な描かれ方をされていたら・・・絶対に抗議したくなるハズです。

「どうして実際に日本人俳優を使わないんだ！」「ふざけんなよ！」と、文句の一つでも言いたくなるハズです。・・・しかも、もしその映画のせいで日本人への偏見が広まり、全世界に住む日本人が差別的な扱い受けるようになってしまったら・・・？きっと、その作品が憎くて堪らなくなるハズです。

誰だって、自分が属する「社会的属性」の偏見を、「映画/TV」という「巨大メガホン」で全世界にバラ撒かれる苦痛には耐えられるワケがありません。・・・しかし近年、実際に日本人俳優を起用するケースが増え、その事を皆さんとても嬉しく思っているかと思います。・・・そして僕自身もその一人です。

このように、「当事者による表象」は、「そのキャラクターが属する属性」が「間違った描かれ方」で全世界にに拡散されるのを防ぐという、絶大な効果があります。・・・しかも、ちゃんと「当事者による表象」がされると、あなたの属性が「正しく」理解されるようになりますので、やっぱり嬉しいですね。

世界の映画/TV界は、この「当事者による表象」を怠ることで「差別」や「偏見」が起こり得る現実を認識し、それが起こらないよう可能な限りの「配慮」をしています。・・・そしてその一環が「日本人のキャラクターは日本人俳優に演じさせよう」であり、僕たちはその「配慮」の恩恵に預かっています。

そして、この差別が起こらないようにする「配慮」のことを、「ポリコレ」、つまり political correctness と呼んでいるのです。・・・つまり、実は僕たち日本人は、ハリウッドの「ポリコレ」のおかげで、ようやく悲願の「当事者による表象」を勝ち取った、「ポリコレに救われた側」の人間なのです。

しかし、ここで残念ながらお伝えしなければならないのが、この映画/TVのせいで「差別」や「偏見」が広まる事を防ぐ「当事者による表象」という「防止措置」が、ほぼまっっったく行われていない「とある業界」があります。・・・そうなんです、悲しいことに、それが「日本の映像業界」なんです。

現在日本では、この「当事者による表象」が、ほぼまっったく行われていません。本当にヤバいレベルで世界から完全に取り残されています。・・・試しに考えてみて下さい。「ゲイのキャラ(マイノリティ)を、ゲイの俳優(当事者)が、実際に演ずる(表象する)、映画/TVドラマの作品」・・・思いつきますか？

もしかしたら僕が不勉強なだけかもしれまんせが、僕は本気で、まっっったく思いつきません。・・・でも逆パターン、つまり「ゲイではない俳優(非当事者)が、面白おかしく(差別的に)、ゲイ役を演じて視聴率を稼ぐ(偏見の拡散)、映画/TVドラマの作品」は、死ぬほど思いつきます。あなたはどうでしょう？

同じように、これまで見た「レズビアンの役」、「トランスジェンダーの役」、「こびとの役」、「障がいを持った人の役」、「人種的ミックスの日本人役」を、それぞれ考えてみて下さい。ここまで広げれば、いくつかは思いつきますね。・・・でもその役は、もしかして「悲しい役」なのではありませんか？

・・・その「マイノリティのキャラクター」は、その作品の中で、自分の属性がゆえに世間から「差別的な扱い」を受け、痛み、死ぬほど苦しみ、それを見ている人が「酷い！あまりにかわいそうだ！」と、同情心を覚えるようなキャラクターなのではありませんか・・・？

そして、そのキャラクターは、死ぬほど苦しみもがいた後に、「親切な非マイノリティキャラに窮地を救われる」か、もしくは「その苦しみに耐えきれず命を絶つ」・・・という展開なのではありませんか？・・・もし仮にそうだったとして、それの一体何が問題なのでしょう？

実はこういう「悲しいマイノリティキャラ」は、自身が抱える「問題」を「人間的に成長すること」では解決できない、という特色があります。しかも、その問題解決には「マジョリティキャラの助け」必須という、非常に強い「マジョリティへの依存性」があります。単純に言うと、「劣った存在」なのです。

つまり、この「悲しいマイノリティキャラ」を世の中に出せば出すほど、悲哀の対象・・・つまり「マジョリティの助けが無いと存在できない、か弱い存在(劣った存在)」という認識が世の中に広まってしまうわけです。これは「その属性」に属する方たちに、実生活レベルでの悪影響を及ぼします。

いわゆる「マイノリティ」の方々は、ただ「フツー」に接して欲しいだけで、別に「可哀そうな人」だと憐んで欲しいわけではありません。しかし↑のように「悲しいマイノリティ」というイメージが映画/TVを通して広まってしまうと、まるで触れてはいけない「腫れ物」のように扱われることになります。

では、我々メディアの人間は、どうすれば「差別的な描き方」でも「悲しいマイノリティ」でもない、本当の「当事者による表象」を実現できるのでしょう？・・・実は、答えはめちゃくちゃ単純です。「フツー」の役を、「フツー」に、「マイノリティ当事者の役者」に演じてもらえば良いのです。それだけ。

マジョリティ側の人間が、想像で「これがマイノリティだ！」と押しつけるから「偏見にまみれたキャラ」になるのです。あなたが考える「フツー」の役を、マイノリティ/障がいをもった俳優さんに「　そのまま　」あげて下さい。「当事者による表象」は？・・・大丈夫。その役者さんがやってくれます。

だから実は「当事者による表象」って難しいことでは無いんです。ステレオタイプな描写になる心配があるのなら、歴史物を作る際に「時代考証」を入れたり、地方が舞台の作品で「方言指導」を入れるように、その「当事者のアドバイザー」を入れれば良いんです。そして当事者の俳優とも話し合う。終わり。

でも、そういう「フツー」の役ではなくて、作品のメッセージ自体が「マイノリティへの差別を止めよう」だった場合はどうすれば良いのでしょう？　どうすれば、その作品内で差別を受ける「マイノリティキャラ」を「悲しいマイノリティ」にしないで「感動的なドラマ」を成立させる事ができるのでしょう？

実はこれも、超単純です。そのキャラ自身に、ストーリーの展開を通して「人間的に成長」してもらい、最終的に「本人の力」で「困難」に打ち勝たせる・・・。つまり、いわゆる「フツーの成長物語」の展開です。そしてステレオタイプな描写を避けるため、当事者のアドバイザーと俳優を起用する。終わり。

色々書いて来ましたが、「当事者による表象」のやり方は明日からでも実践できるレベルで単純だったはずです。１. 「フツー」の役を変に「色付け」しないで「　そのまま　」マイノリティの俳優にあげる。２. 「当事者による表象」はその役者(当事者)に任せる。３. 描写が不安なら当事者に相談する。

「当事者による表象」、簡単ですよね？というか、実際、簡単なんです。・・・どれくらい簡単かというと、僕が「　個人　」で、パッとやれるレベルです。

去年の７月に、僕はこの「当事者による表象」を日本でやるのが「どれだけ簡単か」を証明するため、一度やってみています。

それが「モザイク・ストリート」です。この作品は約１０分間の「実験的映像」なのですが、その内容は至って「フツー」の探偵ドラマです。主人公は、トランスジェンダー女性の徳留貴徳(@Kotaane)、レズビアンの安藤真優美(@amiidemusic)、そしてミックスの日本人の御手洗若葉(@ema84761077)の３人です。

僕はただ「フツー」に脚本を書き、それぞれ役に「変な色付け」をしないで「　そのまま　」俳優に渡し、「当事者による表象」は俳優本人に任せる・・・。

つまり↑で僕自身が書いた内容をそのままやっただけなんです。そして実際やってみて、やはり特に難しくありませんでした。

この「モザイク・ストリート」については、こちらの記事を参照して頂ければと思います。今月中に完成予定です。
eiga-board.com/posts/11420?p=1

このように「当事者による表象」は、コンセプトさえ分かってしまえば個人レベルでも実現できる、ごく簡単な概念ですので、映像業界で働いている方はぜひ、明日からでもチャンンジしてみて頂ければと思います。

「当事者による表象」が行われた事例をご紹介します。

『片袖の魚』@katasodefish @Tsuyoshi_Shoji
>ひかり役のイシヅカユウさん(@ishizukayu)や千秋役を演じる広畑りかさん(@lica_yellowcab)は、トランスジェンダー当事者の俳優の公募とオーディションを経て選ばれた。
huffingtonpost.jp/entry/katasode…

『バージンロード』
監督：長谷川裕加 @yukayukaakb1
>監督の長谷川自身がレズビアンであり、当時者だからこそ見える、作れる映画があると思った

『フタリノセカイ』 @nicemoyashi
2022年1月14日より新宿シネマカリテで公開
qualite.musashino-k.jp/movies/13580/

>監督・脚本を務めたのは、自身もトランスジェンダーである飯塚花笑（いいづか かしょう）。

『37セカンズ』 @thehikarism
NETFLIXで配信中
主演：佳山明
instagram.com/mei_kayama/
>ヒロインは障害当事者：映画「37セカンズ」監督・主演女優インタビュー
cococolor.jp/37sec_2

『WHOLE／ホール』@WHOLE_Film21

nippon.com/ja/japan-topic…
>監督は、インド生まれのパキスタン人の父と日本人の母を持つ川添ビイラル。弟の川添ウスマンが脚本を書き、主人公の一人を演じている。

『Leo's Return』
監督: @anshul_san
主演: @Nozominskii @kaisasody
>日本映画に特に頻繁に出演しているわけではない日本に住んでいるハーフの演者をキャスティングしたという点で、彼らの演技でこの映画はより良い部分が出ている

『田中家』
監督: @MakiharaEri
聾の鳥プロダクション代表・映画作家。ろう者。
>東京都内の片隅に立つ一軒家。ろうの田中真衣とその姉、難聴を抱える美穂は、重度の高次機能脳障害を負った美穂の旦那、慶祐と共に生活をしていたが…。

『ジンジャーミルク』
監督: @imaimika12
NPO法人シュアール理事長/ろう者/ノンバイナリー
>育成×手話×芸術プロジェクトの一環で、初めてチャレンジする方、映画の技術を磨きたい方の、ろう者を中心に映画を制作しました。ろう者大学生役はろう者が演じました。

『報道バズ』@derrrrruq
Amazon Prime/Hulu/U-NEXTで配信中
プロデュース・脚本: 近藤司
>田村をゲイのキャラクターにするうえで、責任は感じました。自分の人生経験が反映されますから。自分の触れてほしくない部分や大切にしていた部分もすべて、反映できたな、と思います