Natureの姉妹誌、Scientific reportsに論文掲載。人工的に土壌を創る研究について。
土壌は私たちの足下に広がるごくありふれたものですが、人工的に製造する技術はこれまでありませんでした。土壌微生物を土壌以外のもの(媒体)に移植する技術がなかったためです。
nature.com/articles/s4159…
土壌微生物の中でも、厄介なのが硝化菌という微生物。土壌の中では、生物の死骸や排泄物などの有機物があっても平気なクセに、土壌から引き抜くと、有機物に触れただけで死ぬ(不活性化)する厄介な性質がありました。このため、土壌以外の場所で培養しようとしても硝化菌はアウト。
硝化菌が死んでしまうと、有機物の分解がうまく進まず、いわゆる「腐敗」に終わります。腐敗した有機物は植物に有害で、根が傷み、枯れてしまいます。自然土壌なら有機物が肥料になるのに、それ以外の場所では有機物が腐り、植物を育てられない。つまり、人工的に土壌は創れませんでした。
まず私は、水中に有機物を入れても硝化菌が死なずに済む条件を研究しました。すると、①硝化菌の他に普通の土壌微生物(従属栄養細菌)も一緒に加えてやる、②有機物は1リットルの水に1gより少なく加える、③二週間以上曝気する、という3条件を守れば、水中でも硝化菌が死なないことを発見しました。
この微生物の培養液を、自然土壌以外のもの、たとえば炭、軽石、砂、ガラス、バーミキュライトやパーライト、人工樹脂(ウレタンやナイロン)にかけ、微生物をくっつける(固定化)すると、自然土壌と同じように有機物を分解、無機養分を植物に与えるようになります。
土壌を人工的に製造できるようになったことで、いろんなことが可能になると思われます。これまで、土壌をフカフカにしようとする(物理性の改善)と、堆肥を入れて改善するのに何年もかかりました。今回の技術、土壌化なら、あらかじめ物理性のよいものに微生物をくっつければできあがり、となります。
ポリウレタンなどの人工樹脂を土壌化したら、超軽量の土壌を創れます。これまで屋上緑化は、土のような重いものを載せると天井が抜けてしまう恐れがあるので、利用できる場所は限られていましたが、超軽量土壌なら可能性が広がります。
ただ。土壌を人工的に創れるからといって、自然土壌を大事にしなくなるのなら、それは本末転倒。自然土壌には、地球に生命が生まれてから三十億年の時を経て住み着いた微生物がいます。これは貴重な資源。人工的な土壌ばかりもてはやす時代は来てほしくありません。
ただし。創製土壌は、科学の対象にしにくかった有機農業を、科学の土台に載せるのにとても便利なツールになると思います。自然土壌はあまりに雑多な鉱物と微生物が混ざり合っていて、まさにカオス。中で何が起きてるかわかりませんでした。しかし我々の技術なら、土壌をカスタマイズして製造可能。
土壌の「解体新書」をこれから機種できるのでは、と考えています。土壌の中で有機肥料はどうやって分解され、微生物たちはどう振る舞い、土壌鉱物はどう働くのか。それら複雑な動きを、一つ一つ解析的に研究するツール(道具)を、創製土壌の技術は提供することになります。
機種→記述

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Jan 18
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