Thread by @rootport

開戦直後、俺はこの戦争は一晩で終わると思った。翌朝、ウクライナの航空戦力が健在で、ロシアの空挺団を乗せた輸送機を撃墜したというニュースが飛び込んできた。そして3日目、メディアのコメンテーターたちと同じ感想を俺も抱いた。プーチンはこの戦争をどう終わらせるつもりなんだ？出口戦略は？

俺は軍事の専門家でもないし国際政治にも暗い。なので、俺の単なる感想だけど。

二晩経ってキーフ（キエフ）が陥落していない時点で、プーチンの計画は崩れたのだろうと思った。イギリスのMinistry of Defenceもロシアは初日の作戦を失敗したという分析結果を発表していたと思う。そこで不思議に感じた。プーチンは作戦に失敗したときの落としどころを考えているのだろうか？と。

今回の戦争はウクライナの人々はもちろん、何も知らずに前線に送られたロシアの若者たちも可哀想だと思う。輸送機を二機も撃墜？一体何百人が死んだんだ？暗い気持ちになっていたら、ロシア兵3500人が死んだというニュースが飛び込んできた。ロシア国内でも反戦運動が活発化していた。

ここまでやって「何の戦果も得られなかった」となればプーチンが失脚することは明白だ…と俺は思った。プーチンは引き下がらない、というか、引き下がれない状況になっていると感じた。追い詰められたら平然と戦術核くらい使うだろうし、西側は何らかの「戦果」を与えてあげないとダメだろうと思った。

たとえウクライナ征服という当初の目的を果たせなかったとしても、プーチンが「我々は戦争に勝利した」と国内向けに言えるような〝何か〟。初日の作戦が失敗した時点で、そういう〝何か〟を要求してくると思った。

作戦が成功したときのことしか考えていない…そんな愚かな男だとは思えなかったから。

ちなみに……現在では核兵器の使用＝即座に全面核戦争とはならないような核兵器の使い方が研究されているらしいですね。丸の内OLさんの論文が興味深いので、「核兵器」という言葉にゾクッとした人はぜひ一読を。

核・非核エスカレーション抑止概念
jiia.or.jp/pdf/research/R…

Q. 第三次世界大戦は始まると思いますか？

A. もう始まっている、と俺は感じています。ロシアに対する経済制裁はかなり苛烈で、プーチンのお仲間たちの目から見たら「世界中から我が祖国が攻撃されている!!」と映るはず。爆弾を落とすことだけが戦争ではありません。

ジョン・メイナード・ケインズが『平和の経済的帰結』で指摘したのと同じ不安を、今の俺は抱いている。WW1後、戦勝国は懲罰的な賠償をドイツに課した。ケインズはこの賠償が事実上支払い不可能なものであり、追い詰められたドイツ国民はより国粋主義的な行動をするかもしれないと指摘した。

1919年に書かれた『平和の経済的帰結』は、発表当時は世界中から激しく批判されたという。きっと世界中の人々が「悪いのはドイツだ！死ぬまで償え!!」と義憤に駆られていたのだ。この論文がナチスドイツの出現を予言したものだと見做されるようになったのは、ずっと後のことだ。

WW2敗戦後の日本が手厚い復興支援を受けて、民主主義的な国として再出発させてもらえた背景にも、WW1後の懲罰的な賠償でナチスを生んでしまった反省が（たぶん）あったのだろう。

俺たちが憎むべき相手は愚かな独裁者であって、ロシア人ではない。この戦争がどんな結末に終わるか分からないけれど、戦後、ウクライナだけでなくロシアに対しても経済支援は必要だと思う。プーチンの後釜に収まるのが、プーチンよりもマシなやつだとは限らない。もっとヤバいやつかもしれない。

Q. 独裁者を選んだその国の人にも責任があるのでは？

A.
①プーチンへの反対意見を述べたら毒殺されたり交通事故に遭うかもしれない国で？
②最前線で死んでいる若者たちはプーチンが選出されたときに選挙権がありましたか？
③第二のナチスを生む危険を犯してまで、責任を負わせる必要がありますか？

QT 「楽しいから軍備をする者はいない。怖いからするのだ」──ウィンストン・チャーチル

臆病な男ほど、舐められるのを怖がる。「自分には価値がある」と相手に思わせたくて、暴力を振るい、腕を振り上げて威嚇する。1人の老いた臆病者が、単なる戦争犯罪を超えた人類への罪を犯そうとしている。彼の肝っ玉があとわずかでも大きければ、この世界のシナリオは大きく変わったはずだ。

もしもプーチンが「おちんちんでピアノを弾く芸」を人前で披露できるほど肝が据わっていたら……というコメントを見掛けた。冗談ではなく、俺もそう思う。せめて全裸でギターを弾けるくらいの勇気が、あの老人に残っていれば良かったのに。

どれほど体を鍛えて、武器で身を固めて、男らしさを誇示しても、それはその人の勇敢さを意味しない。本当の勇気とは、おちんちんでピアノを弾くことである。

Q. 核兵器が使われる可能性はあると思いますか？

A. スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』では、ナガサキを最後に今まで核攻撃が行われなかったのは、単にそれが〝モラル〟や〝不文律〟〝暗黙の了解〟になっているだけではないか？と分析していました。

QT「歴史をふり返ってみれば、極度に破壊的な兵器が存在するだけで戦争を抑止できるという証拠はほとんどない。細菌兵器や(中略)その他の化学兵器が開発されたことが1939年の戦争勃発を抑止できなかったとすれば、いま、核兵器にそれができるといえる理由は容易に見当たらない」――ルアード

ピンカー『暴力の人類史』上p475

伊藤計劃先生のSF小説『虐殺器官』では、戦術核が使用されて〝モラル〟が崩壊。ヒロシマ・ナガサキが現在のような特別な地位を失う……というストーリーが書かれていました。ピンカーの考え方によく似た未来像の予想だと感じました。できるだけ遠い未来の話であって欲しいのですが。

ピンカー『暴力の人類史』では、戦争の規模と発生確率が〝べき分布〟になるという研究も興味深いです。歴史上、1～2人が死ぬ戦争（というかただのケンカ）は数えきれないほど発生している一方、何万人も死ぬ戦争は滅多に起きません。

QT「べき分布の数学的特性が、戦争の性質や戦争が起きるメカニズムを理解するために役立つかもしれない。…戦争のデータのべき分布には有限の平均値もない。つまり（※註：正規分布で表現できるような）『典型的な戦争』などというものは存在しない」――スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』上p388

QT「（※べき分布では）極値が出現する確率はきわめて低いが、天文学的な低さではない。…身長6メートルの人に出会う可能性は天文学的確率であり、ないと命を賭けて言ってもいい。けれど…20年間連続のベストセラーが出現する可能性は極めて小さくはあるが、…現実になると想像することは充分できる」

QT「1億人の犠牲者を出す戦争が起きる可能性は極めてまめだし、10億人となればさらに可能性は低い。しかしこの核兵器の時代には、身の毛もよだつような想像と、べき分布の数学は同じ結論を指している――その可能性は決して天文学的に低いわけではないのだ」――ピンカー『暴力の人類史』上p389

ピンカーが『暴力の人類史』で紹介している〝戦争の規模と頻度はべき分布になる〟というリチャードソンの発見は、暗い予言をもたらします。サピエンスが誕生して20万年以上が経ちますが、「70億人が犠牲になる戦争が20万年に一度起きる」という想像を、私たちは否定できません。

もちろん、70億人が死滅する戦争の確率を予測することはできません。サンプルが無いから（※あったら人類が絶滅しているから）です。できるだけ低い確率であって欲しいのですが。